リボーン複数主 | ナノ


▼ 標的54

由良が最初目を覚ました時見えたのは、心配そうに顔を歪める家族の姿だった。目を覚ました由良に気づいた家族たちはわっ!と由良に抱きついた。驚いた由良は目を白黒させながら呟いた。

「何事?」

その呟きは彼女が意識を取り戻したことで歓喜に湧いた家族の声によってかき消された。


由良が意識を取り戻したことはたちまち友人らに伝わり、日々代わる代わる見舞い客が後を絶たなかった。目覚めてすぐ、状況が理解出来ていなかった由良は自分が2週間も眠り続けていたことを知り、驚き、ようやく理解した。その為心配して訪れる友人らに心配をかけてごめん、もう大丈夫だから、と声をかけることが最近ではよくある事だった。
特に多いのはなまえで、彼女は目が覚めるまで毎日見舞いに来ていたこともあって目が覚めたと知って病室に着いた途端わんわん泣いてよかったやら心配したんだからやら色々言われた。正直泣きすぎて何を言われてるのか分からなかったが。

「もう何ともないの?」
「経過は順調らしいよ。あとはもう少し様子みて退院だって。」
「そっか…」

安堵したようにホッと息をついたなまえに心配しすぎだって、と苦笑して、窓の外に目をやった。
なまえに答えたように、由良の怪我は順調に治っており、脳の方も問題ないが、念の為もう少し様子見の期間を設けてそれでも問題なければ無事退院できるとの事だった。骸との会話で少し楽になったからか、目が覚めてから世界の見え方がどこか変わったように見えて、そんなわけは無いと首を振った。
そんな由良の様子を不思議に思ったなまえがどうかしたのか聞く前に、ドアをノックする音が聞こえた。どうぞと答えた由良の声に、ガラリとドアが開く。

「!フゥ太くん…」
「由良姉…」

訪れたのは眉を八の字に下げて恐る恐る覗き込むフゥ太と、付き添いに来たのだろうツナだった。驚く由良に、いつもなら飛びつかんばかりの勢いで近づくフゥ太だったが、今は行くのを躊躇しているように見えた。見兼ねたなまえがどうしたのか尋ねると、ツナがフゥ太が見舞いに来たがったから連れてきたのだと答えた。勝手に答えたツナにフゥ太が文句を言う前に由良が声をかけ、近くに来るように優しく言う。
おずおずと近づいてくるフゥ太に気を利かせたなまえが静かに病室を出ようと動く。ツナも気づいて少し体をずらした。2人はそのままドアの向こうに姿を消し、室内にはモジモジと緊張した様子のフゥ太とそれを優しく見る由良だけが残った。

「フゥ太くん、もう体は大丈夫?」
「!う、うん。明日で退院できるんだ。」
「そっか。」

中々話そうとしないフゥ太に、気になっていたからか先に話しかけた由良はホッと安心して息を吐いた。目が覚めてから、骸との戦いの場にいたツナたちの状態が気がかりだったのだ。ツナは筋肉痛が酷いだけでそれ以外は回復したようで、既に退院しており、獄寺ももうすぐ退院できるとの事、ビアンキも怪我は酷かったが少なかったこともあり先日退院した。
しかしフゥ太だけわからなかった。無事だとは思うが、精神的負荷が強かったのでふとした時に大丈夫だったのかと考えることが多かった。しかし今こうして見るフゥ太の姿は思ったよりも元気そうに見え、よかったと安堵した。

「ごめんなさい!」

安心している由良に突然フゥ太が頭を下げて謝った。驚いて目を見開いている由良に、フゥ太は悲しげな顔をしながら話す。

「僕、由良姉のこといっぱい傷つけちゃったから、そのせいで、こんなに長く眠ることになっちゃって…だからっ…!」

言葉を続けようとしたフゥ太を、由良は優しく抱き締めた。驚いて言葉を失うフゥ太に、今度は由良が話し出す。

「フゥ太くんのせいじゃないんだよ。」
「でもっ…」
「フゥ太くん、あの時すごく辛そうだったでしょ?ずっとずっと苦しかったんだって、分かるから、フゥ太くんがやりたくてやった事じゃないってことも、ちゃんと伝わったよ。だから、フゥ太くんは謝らないで。」

少し抱き締める力を緩めて安心できるように微笑んで見せれば、フゥ太はポロポロと涙を流し、泣き出した。ごめんなさいと言うフゥ太に、しきりに悪くないと伝える由良は、悪いのは自分だと話し出す。

「あの時、フゥ太くんと一緒に帰っていればよかったのに、練習を優先してしまったから、フゥ太くんがこんなに苦しむことになってしまって、本当にごめんなさい。」
「由良姉は悪くないよ!」

由良の謝罪に即座に反応したフゥ太に優しく微笑み、それじゃあ2人ともおあいこってことにしようかと提案する。
意図に気づいたフゥ太はクスリと笑って、いいよと答えた。
ようやく前のように笑ってくれたフゥ太に由良は心から安堵した。


病室に戻るフゥ太を送り届けると言ったのはなまえだった。驚く3人を無視してなまえは由良にちゃんと話した方がいいよ、と耳打ちする。聞いた由良は先に我に返り、苦笑で返した。本当にこの子はなんでもお見通しなのだと改めて実感する。
えっ?えっ?とオロオロとするツナを放ってパタンと閉まるドア。由良はまだ戸惑っている様子のツナにとりあえず座ってとベッド近くの椅子を指差す。言われたツナはう、うん、と素直に従い、椅子に座った。

「沢田に聞きたいことあったんだけどさ。」
「聞きたいこと?」

ツナが落ち着いた頃を見計らって話し出すと、ツナはこてりと首を傾げた。それにうん、と返してずっと考えていたことを話す。

「あの時さ、沢田私の名前呼んでたでしょ。」

あの時とは、骸との最後の戦いで雰囲気が変わったツナが咄嗟に呼んだ時のことだ。二重人格かとも考えたが、以前退院してすぐに見舞いに来たツナから話を聞いた時に覚えていると判断したので、その線は薄いだろう。
すぐに思いつかなかったツナは少し考えて、そして思い出したようであれは!と慌て出す。

「無意識っていうか、なんていうか…!なんか、呼びやすかったって言うか…!そういうのであってあの、決して他意があったわけじゃ…!」

あまりの慌てようにふふっと吹き出した由良だが、内心は嬉しさと期待で心臓がとくとくと鼓動を早めていた。そんな由良に気づくはずもないツナに気にしてないよ、と声をかけると分かりやすくホッと息を吐いたツナに、緊張しつつも頭に思いついたことを言ってみる。

「別に名前でいいよ。呼びやすいならそれで呼んでも。」
「えっ…」
「友達だし。」

今が夕方でよかった。夕日で隠れているだろう自身の頬の赤みを自覚して、少し安堵した由良の言った言葉を理解したツナは嬉しそうに顔を綻ばせた。

「それじゃあ俺も!呼びやすい名前で呼んでよ!ツナでもなんでも!」
「分かった。じゃあツナって呼ぶね。」
「うん!由良!」

嬉しそうに笑うツナに、由良も微笑み返す。
先程よりも少しぎこちない心地を覚えながら、それでも少しでも縮んだ距離に嬉しさは隠しきれなかった。

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