リボーン複数主 | ナノ


▼ 標的53

あの事件から既に10日が経過した。未だに眠り続ける由良のもとには、今日もなまえが見舞いに行っていた。ヒバリが意識を戻した日に何かあったようで、少し元気になったようななまえに悲しいような、寂しいような心地を感じ、首を振る。
そんなことを考えるなんて、おかしいな。
考えをなくすように顔を上げ、目的地まで急いだ。

「失礼します!みんな大丈夫?」
「川崎さん!」
「よ!くるみ!」
「また来やがった…」

ガラリとドアを開ければ現在仲良く入院中のツナ、山本、獄寺が三者三様の言葉で出迎えた。由良の調子を考えるとなまえだけで見た方がいいだろうと判断し、くるみはなまえと別れてからよく3人の病室に見舞いに来ていた。獄寺の反応にまたそんなこと言って!とプリプリ怒るくるみに山本がまあまあと笑って声をかける。ツナは筋肉痛で全身が動かせないのでアワアワと慌てふためいていた。
しかし、そんな3人も、未だ目覚めない由良のことは気になっているようで、実はくるみが来るのを待っていた節もあった。それが分かっているからこそ、くるみも軽口を叩いているがそこまでヒートアップすることは無かった。

「由良ちゃん、相変わらずみたい。」
「そっか…」
「やっぱり、それくらいヤバかったんだ。骸の攻撃…」
「ったく、いつまで寝てんだか…」

聞いたツナたちは顔を曇らせる。釣られてくるみも顔を下げかけ、ハッと我に返り、でもね!と明るく声をかける。

「さっき院長先生に聞いたんだけど、怪我は順調に回復してるって!脳も異常は見られないって言ってたよ!だからもう少ししたら目が覚めるんじゃないかなっ?」

くるみの話を聞いたツナたちは少し顔を明るくしてよかった、と口々に話す。それをニコニコと笑顔で見ているくるみもそうだね!と同意する。
そんな彼女を見ていた山本は違和感を感じ、首を傾げる。くるみは変わらず笑顔のまま、ツナや獄寺の話に入っている。

「武くん?」
「ん?」

どうしたの?と問うてくるくるみになんでもないと返そうとして、やめた。代わりにあ〜と言葉にならない音を零しながら視線を宙にやって頭の中に浮かんできた言葉を繋げていく。やがて意を決したようにくるみと呼びかける。

「ちょっと付き合ってくんね?」
「へ?」

目をぱちくりと瞬かせて驚いた様子のくるみを連れて、ちょっと出てくるとツナたちに声をかけて山本は病室を出た。向かうのは病院の中庭で、最近見つけた穴場のベンチだ。少し前まで名前を呼ぶ時吃っていたはずのくるみはそんな様子を見せることなく、待って武くん!と後ろから声をかけてくる。
その変化を嬉しく感じると同時に少し寂しくも感じた山本は、くるみが追いつけるように歩くスピードを緩め、並んで歩けるように待った。追いついたくるみが不思議そうにどうしたのか聞いても山本ははぐらかすだけで答えない。

「あそこで座って話そうぜ。」
「う、うん…」

山本に促されてベンチの端に座る。少し空けて山本も座った。
歩いている時とは違い、座っている時の方が少し距離があるはずなのに、くるみは今の方が近いと感じ、顔を赤らめ俯いた。
山本は気づいておらず、動けるようになってからヒマな時にたまたま見つけたのだと話し出す。

「ごめんな。約束守れなくて。」
「えっ…?」
「ほら、また学校で会うってやつ。」
「あ……」

急な謝罪に驚いたが、山本の言葉に思い出したくるみはどう反応すればいいのか分からず、目を伏せる。
山本たちが怪我をして帰ってきた日、くるみは少し期待していた。自分やなまえ、由良といったイレギュラーな存在によって原作と多少のズレが出るのではないか。それは例えば大怪我を負うことになる予定の人物が軽傷で済んだり、無傷で済んだり、ということが起こるのではないかと自身の願望を込めて、山本に絶対明日も学校で会おうと言葉をかけたのだ。
実際は原作通りに山本は入院する程の大怪我を負うことになってしまったのだが。
くるみの自分勝手とも言える言葉を山本が気にかけていたことを知り、くるみの中で罪悪感が生まれる。せめてこれ以上気にかけないようにといつも通りに見えるように俯いていた顔を上げて、ニコリと笑う。

「ううん!気にしないで!私が変なこと言っちゃっただけだから!武くん全然悪くないもん!」

だが山本の顔は苦しげに歪められ、俺さ、と言葉を続けた。

「あの時くるみがみょうじたち守ろうと戦ってるの見てたんだ。」
「えっ!?」

あの時、とは骸が寄越した刺客の1人、バーズによって本来なら京子とハルを襲おうとした殺し屋をなまえを守るためにくるみが1人で倒したことだ。あの時はなまえを守ることに必死だったし、大切ななまえを傷つけようとしたバーズを許せなくてあんな行動をしたが、そういえばみんな見てたんだった…!と今思い出していた。バーズの鳥を通して見られていると冷静になって考えれば分かる事だが、やはり意中の相手に野蛮な姿を見られたことは恥ずかしいものがあり、火照る顔を抑えつつ恥ずかしいな!と誤魔化すくるみ。

「あの時、くるみの動き見ててすげぇなって思ってたんだ。無駄な動きなんて一切なくて、確実に相手の弱点だけ狙って動くくるみがすごいと思ったし、俺なんてまだまだだなって思ったんだ。」

入院するような怪我しちまうしな!ニカッと笑って言った山本に、くるみは驚きと動揺でかける言葉が見つからなかった。

「あの時さ、くるみが頑張れたのは、みょうじがいたからだろ?」
「………………うん。」

山本の確信を持った問いに静かに頷いた。山本の目に疑念が一切見られなかったからだ。
くるみにとって、一番大切な友だち。なまえの為なら、くるみはなんでも出来る気がしていた。

「じゃあ今どっか元気ないのも、みょうじが関係してんのか?」
「……………!」

ヒュっと、小さく息を呑んだ。山本の目は先程と同じように疑念は一切なく、確信を持っているような目だった。
今日までくるみは皆が入院しているからと、どこかぎこちない空気を醸し出しながら、それでもいつも通りに近い自分を見せてきた。少し元気が無い雰囲気も、友人たちがこんな状況なのだから、という理由があるから大丈夫だろうと思っていた。
しかし山本は見抜いた。自分の様子がおかしい理由が、皆が怪我を負っているからではなく、なまえを気にかけているからだと。

「くるみには今までいっぱい助けてもらったからさ、俺もなんか力になりたいんだ。だからさ、話してくんねぇかな?」
「………………。」

山本の言葉に嬉しさが込み上がってくる。同時に実は、という言葉が口から零れかけて、寸でのところで唇を噛んで押し留める。そして流れるように口角を上げ、ニコリと微笑んだ。見ていた山本は目を見開く。

「武くんありがとう!でも大丈夫!大したことじゃないから武くんが気にする程じゃないよ!ごめんね!気にしてくれたのに!」

少し眉尻を下げて言うくるみに、今度は山本が言葉を失う番だった。くるみは立ち上がり、そろそろ行くね!と言って病院内に戻って行った。


山本から逃げるように離れたくるみは笑みを貼り付けたまま廊下を早歩きで歩いていた。このままではなまえを迎えに行けない。一度どこかに隠れて落ち着かせなければ…!そう思ったくるみの前方から、見知った人物がやってくる。

「お、くるみちゃんじゃねぇか。」
「あ、た、武くんのお父さん。こんにちは!」

入院している息子の見舞いにやってきたらしい山本の父親である。挨拶を返した山本の父は息子は一緒じゃないのか、と聞いてきた。どうやら先に病室に行った時に、ツナからくるみを連れてどこかに行ったと聞いていたらしい。
経緯を省いて自分だけ先に出てきたと伝え、まだいると思うからと今まで自分がいた場所を教えたくるみはそれじゃあと別れようとした。

「くるみちゃん。」

優しくも芯のある声が呼び止める。

「何があったか知らねぇが、親の贔屓目なしにアイツは頼りになる奴だと思ってる。だから少しくらいアイツを頼ってやってくんねぇか?」
「…………………!」

まるで聞いていかのような言葉に目を見開いた。そんなくるみの反応を見た山本の父はニカリと息子と似た雰囲気の笑顔を見せ、言った。

「これからも武をよろしくな。くるみちゃん。」
「は、はい!」

くるみの返事を聞いてそのまま山本のもとへ向かっていく後ろ姿を見て、複雑な感情を抱いたまま目を伏せた。

「そんな人間になれるわけないのに…」

ポツリと呟いた言葉は誰にも聞かれることなくその場に消えていった。


くるみの姿が完全に見えなくなっても山本はそこから立ち上がることも、無意識に伸ばした手を戻すことも出来なかった。
今まで、くるみが全てを許してくれるような空気を纏って接してくれるおかげで、ずっと楽にいられた。悩んでも苦しんでもいいのだという言葉に救われて、だからこそ自分も何か力になりたいとずっと願っていた。
初めて会った時からずっと見ていたくるみは、とても友達思いで、感情豊かに表情をコロコロと変える子で、気づけば何をするにも彼女を目で追っていたし、彼女のことを考えていた。くるみが笑っていれば自分も嬉しいし、それが自分の言葉だったり行動だったりがきっかけだと余計嬉しかった。少し赤くなった頬と目尻で笑う姿は可愛らしくて、ずっと見ていたいと思うくらいだったが、自分以外の人には見せてほしくないという我儘な自分が出てきて戸惑った。

「おう!武。」
「親父…」

今までの自分とくるみの事を思い返しているところに、父親が声をかけてきた。手には見舞いの品だろう紙袋を持っている父は、先程くるみに会ったと言ってくる。それにそっか、と返して目を逸らした。
息子の様子に気づいた父はどうした、と隣に座って聞いてくる。暫し無言の後、山本は静かに間違えちまった、と苦笑した。

「もう少しいい感じで聞けばよかったなぁー…」

空を仰いで独り言のように話す山本に父は軽くバカヤロウと返す。

「人生そうそう上手くいかねぇもんだ。ましてや好きな女の子にはカッコつけるなんざ到底出来るもんじゃねぇよ。」
「好きな、女の子…?」
「おうよ。くるみちゃん、いい子じゃねーか。」

若い頃の母ちゃんそっくりだ、と嘘か本当か分からないことを話す父には目もくれず、山本は放心していた。それに気づいた父はまさか、と聞いてくる。

「気づいてなかったのか?お前…」
「………………。」

無言で答える息子の姿に少し呆れ、しかし息子らしいと嘆息する。これはくるみちゃんは苦労するだろうな、と既に彼女の気持ちに気づいていた山本の父は内心苦笑した。
そんな父親に気づかない山本は考える。
思い起こされるのはくるみがナマエを守ろうとして戦ったあの姿。いつもと雰囲気の違う彼女に自分はどう思ったのか。
すごいと思った。それは本当だ。でも正直なところ、一番は綺麗だと思ったんだ。無駄のない動き、抑えることの無い殺気を出しつつも流れるように相手を仕留めていく姿。そんな彼女に目を奪われた。
そして後からやってくる、自分はこのままではいけないという、焦りにも似た感情。このままの自分は弱すぎる。彼女と対等にいられない。彼女を守るなんて、出来やしない。
思って、気づいた。
そうか、自分は、くるみを−−

「守りたかったんだ…」

くるみの言葉に救われた自分は、同じように彼女を救いたかった。助けたかった。いやそれ以上に、彼女を苦しめる何もかもから、守ってあげたかった。だからこそ、彼女から頼られたいし、話を聞いてやりたかった。
今は、その役目は彼女の中では俺はいないけれど…
ストレートな彼女を好きだと言う言葉に、しっくりきて、胸の内を爽快感が駆け抜ける。

そうか、自分は、くるみが好きなんだ。
理解したことですっきりとした頭。山本は隣にいる父にありがとな!とニカリと伝え、同じように笑った父もおうよ!と答えた。

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