リボーン複数主 | ナノ


▼ 標的52

自身が一週間も眠りこけていることを知らない由良は、己を心配する家族や友人のことなど露知らず、自身が創り出した精神世界でのんびりとしていた。

「次は貴女の番ですよ。」
「え、待って待ってもう思いつかないんだけど。パスとかは?」
「なしに決まってるでしょう。僕はまだ沢山あるので。」
「なんでよ…」

由良の精神世界から何故か出ていかない骸と話をすると決めてから、ずっと行われているやり取り。何を話そうとなった時、骸から互いに1つずつ質問し合ってはどうかと提案があり、それに乗っかった。
始めのうちはお互い知らないことも多いからポンポンとリズム良く質問して答えて、としていったが、平和な世界で暮らしていた由良と違い、地雷が多い骸への質問は意外に少なく、既に質問を出し尽くしてしまった由良はなんとか絞り出して質問する、という状況に変わっていった。今もようやく出せた「ゲームはするか」という質問に骸はすると答え、すぐに「好きな食べ物は」と聞いてくる。悲しいことに骸からの質問はまだ聞かれておらず、さらにすぐに答えられるものばかりなので今もポロッと答えてしまって頭を抱えた。
そんな由良を愉快そうに笑って見つめる骸はなんとか捻り出された質問に答え、目を細めた。途端纏う空気がガラリと変わる。

「貴女は、転生してますね?」
「っ!」

骸の確信めいた言い方に、大きく目を見開いて終わった由良は、黙り込んだ。そんな彼女にゆったりと、骸は答えてくださいと急かしてくる。

「なんっで…」
「質問しているのは、僕ですよ。」
「っ………」

咄嗟に出た言葉も、骸の有無を言わせない威圧感の前では詰まって出てこない。
しばらく視線をウロウロとさせた由良は、静かに頷き、してると小さく答えた。聞いた骸は微笑んで、では質問をどうぞと促す。

「なんで、そう思ったの…?」
「僕が特殊だから、と言いたいところですが、見たからです。君に憑依する時に、君のもう1つの記憶を。」
「覗き見とかやめてください。」
「不可抗力です。見たくて見た訳じゃありません。」

骸の答えにぎゅっと膝を抱えている腕を掴む力を強める。唇をぐっと噛んで俯く表情は悔しげで、由良自身思ってもみなかったところで自分が転生した人間であるとバレると予想していなかったこともあって取り繕うことも出来なかった。
今まで隠してきたものが暴かれるというのは、決して気分のいいものでは無い。言い表せない不快感が由良を襲う。

「貴女も見たんでしょう?僕の記憶を。」

パッと顔を上げて骸を見る。骸はまたもや複雑な感情をごちゃ混ぜにしたような難しい顔でこちらを真っ直ぐ見ていた。そのまま覗き見とは感心しませんね、と言ってくるのでこっちも不可抗力だわと返しておく。
しばしお互いの間で無言が続き、そして由良がはぁ、と脱力したように息を吐いてゴロンと寝そべった。

「隠すのは無駄だって分かったから言うけど、私前世の記憶あってさぁ。」
「おや、話す気になりましたか。」

どこか楽しげに聞いてくる骸に黙って聞いとけと言葉を返し続ける。

「前はふっつーに生きててふっつーに大学出てブラックともホワイトとも言えない会社に就職したわけ。で、毎日毎日仕事だらけでさ、いっつも疲れてたんだよね。」

そう言って、思い出すように目を閉じる。

「友達も普通にいたよ?でもさ、社会人になる前と社会人になってからって全然違っててさ、最初は頻繁に会って会社の上司の愚痴とか残業がどうとかよく飲んで話してて、楽しかったんだぁ。」

でも、と目を開け、ただ空を見上げた。

「それが段々減っていって、仕事で来れないとか、会社の飲み会が入って、とかもあったけど、まあ一番は家庭持ったからなんだよね、みんな。周りはどんどん結婚していって、私は彼氏も出来ずに仕事仕事で、やりたいこととか、夢とか希望みたいな、そんなのちっとも思いつかなくて、これからもこんな感じで生きていくんだろうなぁって思ったらあっさり死んで。」

少し自嘲を含めたように笑い、息を吐く。

「生まれ変わったら何か変わるかもって思ったこともあったけど、結局変わらなかった。社会人として生きていた記憶を持ってたから今の私と同年代の子たちなんて子どもみたいにしか見えなくて接し方も分かんないし、お陰で落ち着いてるとかクールなんて思われちゃうし。中学になった今も相変わらず夢とか希望なんてないし。」

だからなのかな。言って、起き上がる。

「今を一生懸命生きてる沢田とか、なんでも一生懸命に頑張れるなまえとか、眩しくて、守りたい、守らなきゃ、って思うんだよね。」

それに、と言葉を区切って力なく笑う。

「なんであれ、自分の夢を、野望を叶えようとするアンタを羨ましいとも思うし、すごいなって思った。私だったら絶対諦めてただろうから。」

ごめん変な話した。そう言って笑って見せる由良の顔が諦めたような、困ったようなものに見えて、骸は内側からぐっと込み上げてくる感覚を感じ、それを押し留めるように堪えて僕は、と口にした。

「僕は、行動を起こさなければならないと思って動いていました。最初はただ生きる為に必死で、ようやく余裕を持てた時に、この世界を変えなければ僕らの現状も変わらない。そう思ったから行動しました。」

言って思い出すのは幼い時分のこと。外に出れば銃を向けられ、内にいればいつ死ぬとも分からぬ過酷な状況。目を閉じればそれは鮮明に思い出せるものだった。

「全て終わったらどうしようなんて、考えたこともなかったんですが、今は少し、想像できるような気がしています。」

言って、由良の方を見る。

「そういう心持ちでいいんじゃないですか?」

聞いた由良は大きく目を見開いた。
骸の目が、余りにも穏やかなものだったから。

「今は目の前のことに向き合って、そこから余裕を持った時に自分の夢ややりたいことなど見つけたらいいと思いますよ。」

貴女は気を張りすぎている。
どこか骸らしくない気もしたが、今までずっと話していた由良は今の骸も骸だとすんなり受け入れられた。何故か悲しげで、どこか心配そうにしている色を見せる骸の瞳に、フッと方の力が抜けた気がした。

「そっか…ありがと。」
「どういたしまして。」

言葉を返した骸はまたおかしな笑い方をする少し硬いものに雰囲気を戻したが、なんだかそれが照れ隠しのように見えた由良は穏やかな気分でねぇ、と気になっていたことを尋ねてみた。ちょうど自分の質問の番だったから。

「あの時の言葉は、昔の言葉?それとも今も思ってること?」

あの時、とは、骸が由良に憑依しようとして見てしまった幼い骸の「助けて」という言葉。理解している骸は一瞬呆けてからクフフ、と笑みを深める。

「そうだと言って、慰めてくれるんですか?」
「まあ多少は?話聞いてくれたし。」

挑戦的な雰囲気で言われ、同じような調子で返す。聞いた骸はおや、と呟いて、続けた。

「またの機会までとっておくことにしましょう。」

少し嬉しさを滲ませたその声色に驚いたのは骸自身だった。何故、と1人目を瞬かせている骸に気づかない由良は怖いんだけど、と軽口を叩く。

「あ。」
「っ…あぁ…」

まるで朝日が昇った時のように白んでいく世界にようやく由良が目を覚ますことを知らせてくる。
もう目を覚ますのか。
そう思って、由良はぱちくり、と目を瞬かせる。「もう」なんて、まさか自分が思うとは思わなかった。もしかして自分は思っているよりもあの時間が楽しかったのかもしれない。
考えた時、ふと由良の頭を1つの疑問がよぎる。骸からこの世界について聞いた時、骸と巡り会うのはこれきりだと言われた。それならば、最後に聞いてしまおうか。

「楽しかった?」

聞かれた骸は驚き、目を見張る。やがてクフフ、とまた笑って口を開いた。

「もちろん、楽しかったですよ。貴女は?」

返された由良はニッと笑って答えた。

「私も!すっごい楽しかった!ありがとね、骸!」
「!」

まるで無邪気な子供のように笑って見せる由良に驚いた骸が何か言うよりも早く、由良の意識が完全に目覚め、そこには骸だけが残された。

「言い逃げとは、いい度胸ですね…」

楽しげに、しかしどこか寂しそうに呟いた骸は、またふらりと散歩を再開した。

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