リボーン複数主 | ナノ


▼ 標的48

骸が自殺し、生きたまま捕獲できなかったツナたちはリボーンが呼んだという医療チームを待っていた。由良は骸の頸動脈に当てた手をそのままに、くしゃりと顔を歪め、俯いていた。
初めて見たのだ。人が死ぬ瞬間、そして人が死んだ状態を。目を閉じているのに、寝ているように見えて、脈は動いておらず、呼吸もしていない体は、死を物語っていた。
ショックを受け動けない由良に何も言えないツナたち。そんな彼らに後ろから声がかかる。

「ついに骸を倒したのね…」

呻き声を上げながら起き上がるのは、先程マインドコントロールされたフゥ太に怪我を負わされ気を失っていたビアンキだ。そばにいた獄寺、ツナが良かったと声をかける。

「ビアンキさん…!」

ビアンキの意識が戻ったことで由良も少し安心したのか、青い顔はまだ治まっていないがホッと安堵したような表情を浮かべ、フラフラとおぼつかない足取りでビアンキの元へ向かう。
怪我は酷かったけど、意識が戻って本当に良かった…!
まだ本調子ではないからか、獄寺に肩を貸してほしいと頼むビアンキに、思わず涙ぐむ由良。しかし、それもすぐに変わる。

「獄寺君!行っちゃダメだ!!」
「え?」
「ん?」
「沢田…?」

いきなり鋭い声を上げるツナに皆首を傾げる。言った当人のツナもあれ?と自分の行動を不思議がっていて、それが逆に何かあるのでは、と感じさせ、由良は警戒する。
それでも皆はそうではないようで、ビアンキはツナにも肩を貸してほしいと頼み、獄寺は了承したツナがする必要は無いと断り、ビアンキに近づいた。ほら、手と差し伸べた獄寺の手にビアンキは手を伸ばした。が、

「!」

ビアンキはフゥ太が持っていた三又の槍を手にしており、その切っ先を獄寺の頬に向けて突き刺すように伸ばしていた。幸い槍は獄寺の頬を掠めただけだったが一筋の切り傷ができていた。
驚くツナやリボーン、獄寺は何をするのかとビアンキに聞くが、ビアンキ自身も分かっていないようで私ったら、と驚いた様子だった。
もしかして、フゥ太のようにマインドコントロールをされているのでは?そう思った由良が行動するより早く、リボーンがビアンキにしっかりしろとぺりちと鼻を叩く。頭を抑えるビアンキはなんてことを、と呟き、

「したのかしら!」
「ああっ!」
「リボーンさん!」
「ビアンキさん…!」

持っていた三又の槍を突き刺すように勢いよく振り下ろしたが、リボーンはひらりと避け、こいつは厄介だな、と話す。
ツナ、獄寺も様子のおかしいビアンキにマインドコントロールかと疑問を口にするが、リボーンがすぐさま否定し、何かに憑かれているようだと付け足した。リボーンの言葉に信じられない由良たちだが、マインドコントロールとは違うビアンキの様子に事実だとリボーンは淡々と話す。しかしビアンキは私よ、と微笑みかけ、その表情はビアンキと同じものだが、どこか違い、ちぐはぐな感覚がした。それはツナが一番感じていたようで、訝しむように考え込んで、ポツリと呟いた。

「ろくどう…むくろ…?」

その名前にハッとする由良はビアンキを見て、目を見張る。
ツナが名前を呟いたからか、ビアンキが纏う雰囲気がガラリと変わり、ぞわりと背筋が粟立つようなおぞましいような空気になる。クフフ、とビアンキの声なのにあの特徴的な笑い声が聞こえ、顔を上げたビアンキは右目が骸と同じように紅く、六の文字が刻まれており、右側の額から頬にかけてヒビ割れたような筋がいくつも入っていた。

「また会えましたね。」
「出たー!!」
「祟りだー!!」
「そんなバカなことあるわけねーぞ。」
「ビビりすぎでしょ2人とも。」

ビアンキの言葉に顔を青くして驚くツナ、獄寺に冷静に指摘するリボーンと由良。だが、由良は先程骸の頸動脈に触れて脈がなかったことを確認していたし、リボーンも死んだと断言していた。ツナも遠目からだがやっぱり死んでる!と思わず確認した骸の体は倒れたままだ。

「クフフ、僕にはまだやるべきことがありましてね。地獄の底から舞い戻ってきましたよ。」

自信が骸だと見破られたせいか、ビアンキのフリをするのをやめた骸は怪しく微笑んで話した。
死んですぐにこんなことが可能なのか、と信じられない思いで睨む由良、絶句するツナに獄寺はここは任せてほしいと声をかけた。相手はビアンキの体で、その中身は手強い骸だからと心配するツナに自信満々で前に出た獄寺。

「臨・兵・闘・者!!」
「効くかそんなもん!」

だいぶ昔の陰陽師が使うような呪文を唱えだし、ビッビッと手をそれっぽく動かした獄寺に思わず由良がつっこんだ。ツナもそれは流石に、と思ったが、そんな信じられない2人の考えを否定するようにビアンキは苦しみ出した。

「き、効いてる…!」
「嘘ぉ…」

驚くツナたちに目もくれず、ビアンキは呻き声を上げて倒れた。
ビアンキはそのまま起き上がることなく、倒れた状態でいるが、これが骸の演技かもしれないと思うと迂闊に近づくことも出来なかった。リボーンも演技かどうか判断できないようで、ツナが恐る恐る声をかける。と、ツナの背後に獄寺が立ち、にこやかにやりましょーか?と問う。

「獄寺?」
「獄寺く………!骸!!」

獄寺の様子に違和感を感じた由良と違い、ツナはすぐに気づいたようでビアンキの時よりもはっきりと骸だと言い当てた。
骸はすかさず持っていた槍をツナに振り下ろすが、間一髪でツナが転がって避けた。

「沢田!」
「ひいいいい!獄寺君が!!」

悲鳴をあげるツナに駆け寄る由良は薙刀を構える。
骸は獄寺の声でまぐれではないようだ、と感心したように呟き、言った。

「初めてですよ、憑依した僕を一目で見抜いた人間は。つくづく君は面白い。」
「憑依…?」

ニヤリと怪しく笑って話す骸にどうなってるのかと問ただせば、リボーンが骸に確信を持ったように自殺と見せかけて撃ったのはあの憑依弾だな、と言い、不思議がる由良たちに説明した。
憑依弾とは死ぬ気弾のような特殊な弾丸の1つで、その名の通り他人の肉体に取り憑き自在に操る弾らしい。エストラーネオファミリーというマフィアが製造したらしいその弾は強い精神力と弾の相性が必要だが、それ以上に使用法があまりにも酷かったことから禁弾とされ、弾も製法も葬られたもののようだ。
憑依弾はマインドコントロールとは全く異なるものらしく、操るのではなく頭のてっぺんから足のつま先まで体全てを乗っ取るものだと骸も続けた。

「つまり…この体は僕のものだ。」
「!や、やめろ!」
「お前っ…!」

獄寺の首に爪で傷つける骸にツナ、由良は声を上げるだけで攻撃ができなかった。中身は骸といってもその体は獄寺のもので、安易に攻撃してしまえば獄寺の命が危ないからだ。
ランチアの一件もどうやらこの憑依弾によるもののようで、一通り話し終えた骸は静かに告げた。

「さあ、次は君に憑依する番ですよ、ボンゴレ10代目。」
「お、俺…!?」
「やっぱり、沢田を狙って…!」

狼狽えるツナ、警戒を強める由良に骸は冷静にこれは目的ではなく手段だと話す。

「若きマフィアのボスを手中に収めてから、僕の復讐は始まる。」
「復、讐…?」

どういうことかと聞く前に、リボーンが骸の持つ剣に注意しろと忠告する。どうやら憑依するにはその剣で傷をつけられなければならないようで、言い当てたリボーンに骸は焦ることなく獄寺からビアンキに憑依を変え、倒れていたヒバリで傷をつけた。
すぐに倒れたビアンキと入れ替わるようにしてヒバリの体は起き上がり、持っていたトンファーでツナを殴る。

「沢田!」

由良はツナの元へ駆け寄ろうとして、既のところで踏みとどまった。
何故なら彼女は、先程マインドコントロールされていたフゥ太を止めていた時に幾度もあの剣で傷をつけられていたのだ。今はまだ憑依されていないが、もしこれから憑依されたら、ツナの近くにいればすぐにツナを傷つけてしまう。そう考えると近づくことが出来ず、離れるように数歩後ろに下がった。
そうしているうちにヒバリの体は本来なら立ち上がることも困難なほどの状態だったようで、使い物にならないと判断した骸はすぐに憑依を解いた。倒れたヒバリに戸惑うツナに、リボーンが次は獄寺かビアンキにまた憑依するつもりだから気をつけろと警告する。

「あっ…!ぐっ…!」
「!神崎さん!」
「来ないで…!」
「!」

突然由良が頭を抑えて苦しみだし、蹲った。恐らく骸が憑依しようとしているのだろうと察した由良は苦しみながらもこちらに近づこうとしたツナに近づくなと叫ぶ。
由良の様子に気づいたツナは近づけず、心配そうな不安そうな顔で由良を見ていた。

「うっ…ぐっ…!!」

吐きそうな程の気持ち悪さと割れそうなくらいの頭痛は、その場でのたうちまわりたくなるようなものだったが、歯を食いしばってなんとか耐える。自分の中に異物が無理やりねじ込まれるような感覚、それは物理的なものではなく精神的なもので、なんとか押し返そうと脳が働いているのか頭から2つに引き裂かれそうな痛みが全身を駆け巡る。
嫌だ嫌だ乗っ取られたくない。沢田を傷つけたくない…!

「!」

必死に抵抗する由良の頭の中に、何かの映像が流れてきた。
白衣を着た多くの大人たち、泣き叫ぶ子供、飛び散る赤い鮮血。
これは何か、考えるよりも大人の手が子供に近づいた時に頭痛が酷くなり、それどころではなくなる。

「痛い、怖い、助けて…!」
「!」

どこからか小さく、しかしはっきりと聞こえた泣きそうな子供の声。同時に大人がある子供の目を麻酔なしで抉りだし、別の眼球を取り付けた。

「あっぐっ…!」

一際強い痛みが頭を襲い、目に涙も浮かんでくる。
これは、なんだ。
しかし突如プツリと映像は消え、頭痛や吐き気も引いていった。

「っ!はっ…はっ…!」
「神崎、さん…?」

先程まで力んでいたせいで息切れをしている由良だが、骸の気配を感じなかったツナが恐る恐る呼びかけた。かろうじて聞こえていたため片手を挙げて答えるが、疲労感がどっと押し寄せてきて声は出ない。

「まさか、憑依を拒むとは…」
「つくづく厄介な人だ…」
「!獄寺君と、ビアンキに同時に…!?」

先程まで1人ずつ憑依をしていたため、てっきり1人ずつでなければ出来ないと思われていたがそのアテは外れ、骸は獄寺、ビアンキに憑依し、立ち上がる。さらに入口の方から音がして見てみると、獄寺とヒバリによって倒されていたはずの柿本千種、城島犬が同じように骸に憑依された状態でやってきた。
4人同時への憑依はリボーンも聞いたことがないと言っていたが、骸はそれだけではないと言い、獄寺の技であるダイナマイトをツナに向かって投げた。悲鳴をあげるツナ、そして骸はツナだけでなくリボーンにも攻撃を向けてくる。
これこそ骸の持つスキルの一つである第二の道、餓鬼道の技を奪うスキルである。どうやら骸は乗っ取るだけでなく、前世で刻まれた能力もそのまま使えるらしい。

「クフフフ。」

怪しく笑った骸はまたスキルを発動させたようで、倒れたツナの地面から火柱が噴き出し、避けたツナの周りには幾つもの火柱が立ち上る。
悲鳴をあげるツナに、まだ回復しきれていない由良は歯噛みする。先程よりもはっきりとこれは幻覚だと認識できた由良だが、憑依をさせないように体力、気力を消耗していたようで、上手く力が入らず、立ち上がることが出来なかった。
せめて、火柱だけでも何とかしなければ…!

「って…えっ?」
「!これは…」

幻覚だと気づかないツナは急に周りの温度が下がったことに驚いた。見れば、火柱が凍りついて、辺りも薄い氷の膜が張っている。
突然変化した周りの様子にツナは戸惑い、幻覚を操っていた骸は目を見張り、少し苛立ちを滲ませながら由良に目を向けた。釣られてツナが見れば、ゼェゼェと息を切らしながら骸を睨みつける由良の姿があった。

「沢、田…これ、幻覚…」
「!神崎さんっ…!」

青白い顔でなんとかツナに伝える由良に、心配になって駆け寄ろうとするツナを獄寺のダイナマイトが襲う。
パニックになって困惑するツナにリボーンが自分でなんとかするしかないと声をかけるが、その範疇を超えているとすかさず答えるツナ。それでもリボーンは自分の生徒なのだから出来るはずだと断言する。

「さぁ、そろそろ終わりにしましょう。」
「死ぬ気の炎…!」

既に満身創痍となってよろめき転んでしまったツナに、柿本千種に憑依した骸が修羅道で身体能力を上げて槍を手に向かっていく。が、途中でドサリと倒れてしまった。
疑問に思うツナたちに城島犬に憑依した骸がなんてことないようにこれはよくあることだと話す。骸が憑依する身体は骸が乗っ取ったと言っても回復する訳ではなく、怪我で動かない体を無理やり動かしている状態なのだ。ヒバリに憑依しなかったのは動かせる状態ですらなかったからで、柿本千種の体は倒れはしたがまだ動かせるようだ。しかし、口からは大量の血が吐き出され、怪我からの出血も酷い。思わず起き上がったら怪我が…!と声に出したツナに、骸は痛みを感じないから問題ないと答えた。

「何言ってんだ!仲間の体だろ!?」
「違いますよ、憑依したらそれは僕の体だ。壊れようと息絶えようと、僕の勝手だ。」

ツナの非難するような声に涼し気な顔で当然とでも言うように話す骸。
よく見れば、ビアンキや獄寺の体も無理に動かして傷口が開いたのか血が流れ出ていた。それを目にしたツナは悲痛な声で叫ぶ。

「頼むやめてくれ!!このままじゃ死んじゃうよ!!」

ツナの思いは骸に響かなかったようで、逆にツナの仲間思いの性格を利用し、獄寺、ビアンキがこれ以上傷つかないように自分に乗っ取られろと脅しにかかる。
ツナは迷い、リボーンに助けを求めるが、掟があるため戦えないと冷たく返され、情けない声を出して再度助けてくれと叫ぶツナ。そんなツナの顎を蹴りあげたリボーンは胸倉を掴み、諭すようにツナの気持ちを問うた。骸は知ったような口振りで逃げたい、仲間のために逃げられないのどちらかだろうと話すが、ツナが口にした言葉は違っていた。

「骸に、勝ちたい…」
「沢田…」

静かに呟くツナの雰囲気が変わったことに、思わず名前を呼ぶ由良。しかしツナは集中しているのか答えることなく、コイツにだけは、勝ちたいんだ!と強く叫んだ。

と、その時、今までリボーンの後ろで丸くなっていたレオンが無数の太い糸を飛ばしながら光り出し、宙に浮いた。リボーンが言うにはそれは羽化の状態のようで、口をモゴモゴと動かしている。
ツナの為の武器を吐き出そうとしているようだが、骸に裂かれてしまう。

「!沢田!上!」
「えっ…?ああっ!あれは!」

しかしツナの武器は無事に吐き出されたようで、ツナの頭上にフワリと舞っている。
ゆっくり重力によって落ちてきたそれは毛糸の手袋で、手の血行よくしてどうするんだ!とツナは叫ぶが、その中にリボーンも見たことの無い弾が入っていた。ぶっつけで試すしかないというリボーンに、撃たせないと骸がツナに獄寺の体でダイナマイトを飛ばす。

「沢田!」

ドガガガン!と立て続けに起きた爆発に、由良はフラつきながらも立ち上がり、駆け寄る。
煙が晴れたそこにはツナが気を失った状態で倒れていた。ピクリとも動かない様子に弾も当たっていなかったようで、柿本千種に憑依した骸がツナに近づく。それをふらつき、身体にうまく力が入らない状態の由良がなんとか薙刀を構えて守るように間に入る。

「やめた方がいい。ふらついていますよ。」
「お陰、様で、体調最悪だよ…っ」

無表情で言う骸を睨みつける由良に、骸も顔を顰めた。

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