リボーン複数主 | ナノ


▼ 標的44

くるみは焦っていた。というのも、朝幼なじみから寄り道せず帰るよう言われていたなまえが寄り道ばかりするのだ。
いつもはこんなことにならないのに。
普段のなまえは幼なじみの言いつけは絶対とでも言うように従うし、疑問に思うこともない。にもかかわらず、今日は迎えに行った時から様子がおかしかった。

「帰り道だし、笹川先輩のお見舞いに行こうよ。」

えっ、と戸惑うくるみをいつもとは逆になまえが引っ張った。待ってと声をかけるくるみの言葉は届いていないのか、なまえは帰り道だから大丈夫!とおかしな理屈で押し通し、2人はそのまま了平の見舞いに並盛中央病院に入っていた。
着いてしまって折角だからと風紀副委員長の草壁も入院していたことを思い出し、くるみは話を聞きに行こうと彼の病室を訪ね、なまえは了平の病室に向かった。
草壁から原作通りヒバリが黒曜ヘルシーランドに乗り込み、まだ戻っていないと知り、やはり原作通りに進んでいるのだと分かり、早く帰らないとと思い了平の病室に行けば、兄の見舞いに来ていた京子、その友人の花もおり、話が盛り上がっていた。
後からやってきたくるみに気づいたなまえにそろそろ帰ろうと声をかけるよりも先に、了平や京子、花から話を振られ、タイミングを逃してしまったことで病院を出たのは京子たちが出る少し前になってしまった。

「くるみちゃんになまえちゃんじゃないですか!今帰りですか?」
「ハルちゃん!」

病院を出てよし帰ろうとなったところで声をかけてきたのはハルで、なまえはまた談笑し始め、一緒に帰ろうと提案していた。ハルは疑問に思うことなく同意し、ハルを挟むように3人で帰ることとなった。

「ハルちゃん部活は?」
「今日はお休みなんです。今度テストがあって、今はテスト休みの期間なんです。」
「え!もうテストあるの?早いなぁ。」
「ハルちゃんは進学校の緑中だもんね!」

2人の会話に合わせるように話すくるみは警戒しながら歩いていた。ハルに出会してしまったことで、これから彼女を狙うであろう凶悪な殺し屋ツインズの片方がやって来るはずだ。
原作ではハルは下校中に勉強している所が映し出されていたが、その時既に背後に殺し屋がいた。つまり、彼女を狙うヤツがいつ、どのタイミングで現れるのか全くわからない状況なのだ。
いつも不良ばかり相手にしていたくるみだが、殺し屋はまだ相手にしたこともなく、会ったこともない。本物の裏稼業の人間を探すのもこれが初めてだ。原作ではハルや京子、花は殺し屋に気づくことなく終わっていた。つまり殺し屋は気配が無いか極力薄く、気づくのもきっと困難だろう。
だから神経を研ぎ澄ませて周りに目を配っていたところだった。

「!」

いた。
曲がり角の影からゆらりくねりと、まるでどこぞの漫画に出てくる巨大な人型の化け物の奇行種のような動きでこちらに近づいてくる黒曜の制服を着た細長い風貌の男。
気づかれないように目を見張ったくるみは2人に目を向けると、2人は気づいていないようで楽しそうに談笑している。
本来なら接近する前に倒してしまえばいいのだが、くるみの武器は拳銃でリボーンに改造を頼んだと言っても大きな音が鳴るし、まずもって急に後ろを振り返ったら2人も不思議に思って振り返るだろう。その時、もし仕留めきれなかった殺し屋がその毒牙を2人に、なまえに向けたら。

「っ……」

恐ろしいことを想像したくるみはなんとかして2人にバレないようにこの殺し屋を倒す方法を考えた。

「わっ!すごい使い込んでるね。付箋いっぱい貼ってる!」
「覚えないといけないことが多くて、気づいたらこんなに沢山あったんです。」
「ひぇ〜、大変だぁ………!」

殺し屋が徐にライターを取り出し、ボォッと最大火力の火を出したせいか、少し熱いと感じたなまえが後ろに目を向け、すぐに前に向き直した。が、その目にはしっかり殺し屋の姿が映されており、気づいたなまえは顔を青くし、唇を噛み締め、必死に表情を取り繕おうとしている。
が、震える体はどうしようもなく、突然ガバリとハルの腕を掴み、引っ張った。

「ハルちゃん!は、早く帰ろう!今物騒だし!」
「はひっ!?急にどうしたんですか?」

なまえのいきなりの行動に目を丸くするハル。なまえはそんなハルを気にすることなくくるみちゃんも!と青い顔で言ってきた。
その顔を見た時、くるみの中で何かがプツリと切れた。

「ギィイイッ!」

今まで考えていたことも全部吹き飛んで、くるみはなまえが引っ張ったことで空いたハルと殺し屋の僅かな隙間に素早く回し蹴りを決め、殺し屋を近くの塀に蹴り飛ばした。
ドゴォッと音を立てながら塀に飛ばされた殺し屋はつんざくような悲鳴をあげる。

「くるみちゃん…?」

何が起きたのか分からないといった表情のなまえが戸惑ったように声をかけてくる。それにニコリと微笑みで返す。

「2人とも、先に行ってて。ちょっと落し物しちゃったみたい。」

ただならぬ雰囲気で、それでも落ち着いた様子で話すくるみに殺し屋を見てしまったなまえは危ないからと一緒に探すよ!と言って、事情を知らないハルはにこやかに同意する。

「大丈夫!すぐに終わるだろうから、先に行ってて!」
「でもっ…」
「ハルさん!なまえさん!」
「!」

笑顔で押し通すくるみに渋るなまえの元に、10年バズーカによって10年後の世界から来たランボ、イーピンが駆けつける。2人はくるみの様子に何かを察したように表情を変え、目を合わせて頷き合う。

「2人をお願いね。」
「はい!」
「2人とも、ここはくるみさんに任せて安全な場所へ。」
「はひ!?」
「待って!くるみちゃんだけじゃっ…!」

くるみの言葉に頷いたランボ、イーピンはハルとなまえを誘導する。そんな2人の言葉を聞かずになまえがくるみの心配をする言葉を口にするが、イーピンが静かに「大丈夫」と答える。
その様子に驚き固まったなまえはその隙にハルと共にこの先の曲がり角の影に誘導された。
ハッとした時には遅く、くるみの姿は曲がり角の影に隠れて見えなくなっていた。


無事に安全な場所へ連れられるなまえたちの姿を見送ったくるみは懐にしまっていた銃を素早く取り出し、なまえたちが去っていった曲がり角を見ながら斜め下に発砲した。

「ギィイイッ!」

それは殺し屋の肩に命中したようで、痛みからかまたしても悲鳴をあげる。
振り返ったくるみは肩に提げていたスクールバッグを後ろに放り、拳銃を両手に持ち、倒れている殺し屋を見下ろした。
その瞳は見たこともないほど冷たいもので、普段の彼女からは想像もつかないものだった。そしてその表情はいつもニコニコと笑っている彼女とは程遠い、ごっそりと削ぎ落としたような無表情だった。
両手に持つ拳銃からはミシリミシリと軋む音が聞こえ、握力が強いのか手には筋がいくつも浮き出ていた。

「私のお友達を怖がらせて、タダで済むとでも思ってるの?」

その声は酷く冷たく、硬いものだった。

「ギィイイ!!」

倒れていた殺し屋は苛立ったような声を上げ、目にも止まらぬ速さでくるみに襲いかかる。が、くるみはそれよりも速く、相手が伸ばしてきた腕に立て続けに数発の弾丸を打ち込み、そのまま懐に突っ込み、至近距離で腹に1発撃ち込んだ。

「ギィイイッ!」

悲鳴をあげながら片腕を払うようにくるみに当てに来るのを後ろに仰け反るようにして避け、すかさずパンパンッと数発撃ち込んだ。更に相手が体勢を整える前に起き上がり、そのままくるりと半回転して足を払う。
倒れる瞬間両足に数発撃ち込んだくるみはすっと立ち上がり、敵の足を片手で掴み、体を思いっきり塀に打ち付けた。

「ギ…ギィィ…」

バコォッと音を立てて崩壊した塀に打ち付けられた敵は血を吐き出し、気絶した。
それを見て確認したくるみは銃をしまい、スマートフォンを取り出し、耳に当てた。

「あ!リボーンくん今大丈夫?なんか裏稼業の人っぽい感じの人をやっつけちゃって、たぶん風紀委員じゃ難しいだろうから、対応お願いしたいんだけどいいかなっ?」

この場に似つかわしくないいつも通りのトーンで話すくるみはそれから一言二言話し、通話を終了した。
そしてくるみは不意に上を見上げ、近くの電線に止まっている黄色い小さな小鳥を見つけると、先程のように冷たい雰囲気の笑みを浮かべる。

「私のお友達を狙っておいて、タダで済むと思わないでね?」

ニコリと笑っているが、その瞳はちっとも笑っておらず、隠し切れない殺気が滲み出ていた。


こんなつもりじゃなかったのに…!!
ランボ、イーピンによって避難させられていたなまえは敵を倒すために残ったくるみの無事を祈りながら己の行動を後悔していた。
状況を分かっていないハルを不安にさせない為にも、平生を装うように振る舞うが、祈るように組んだ手は震えているし、顔は青く、酷い状態だ。
そもそも、なまえがヒバリの言いつけを破ってまで寄り道したのには訳があった。それは、京子、ハル、どちらかでもいいから守りたかったのだ。
2人を襲う敵は拷問に似たような行為、髪を燃やそうとしたり硫酸をかけようとしたり、といったことをしようとしてくる残忍さを持っていた。
余り関わらないようにしていたが、今朝了平の報せを聞いた時、なまえはツナと一緒にいたことで、原作にいてはならない存在が出てきてしまった。もし、もしも自分がいたことで、京子やハルの助けが間に合わず、何かあったら、そう思うといてもたってもいられず、せめて自分を犠牲にしてでも2人を守りたかった。
その結果、了平の見舞いと称して京子の様子を確認したし、偶遭遇できたハルを守るように一緒に帰ることを提案した。そして原作通り、あの恐ろしい殺し屋がやってきた。なまえはハルだけでなく、くるみも守りたかった。自分は確かに体力も運動能力もなく、喧嘩なんてしたことも無い人間だが、自分がハルやくるみの代わりに敵の攻撃を受ければ、くるみはハルを連れ出して逃げられる。そう考えていた。
だが、実際はどうだ。自分は恐怖で動転し、ハルを連れ出すことしか出来ず、くるみを残して安全な場所にいる始末。
こんなつもりで、行動したわけじゃなかったのに…!
自分に泣く資格などないのに、涙が溢れ出そうになった。

「なまえちゃん!」
「!っ……くるみちゃん!」
「みんな遅くなってごめんね。もう大丈夫だよ!」

少しして、くるみが戻ってきた。先程と全く変わらない様子に安堵したなまえは潤んだ瞳から涙をポロポロと流し、抱きついた。受け止めたくるみはニコリといつも通りの笑顔を浮かべて明るく言い、皆を安心させる。
なまえは嗚咽を漏らしながら怪我はないか、身体に異常はないか頻りに確認した。大丈夫とくるみが微笑み返せばよかったと安心したように泣き出し、くるみは落ち着かせるように背中を撫でた。

そんななまえのポケットからスマートフォンが着信を知らせるバイブが振動していることに気づき、バーズの鳥を通して様子を見ていた由良から怒鳴られるまであと数秒。

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