リボーン複数主 | ナノ


▼ 標的39

夏休みも明け、休み明けのテストも全て返却された頃、まだ夏休み気分が抜けきっていないなまえは寝不足気味に大きな欠伸をひとつこぼしてゆったりと通学路を歩いていた。待ち合わせの時間まではまだ余裕があるが、待ち合わせている相手は時間前に来るしっかり者なので急がなければとは思うものの、残暑がまだ続きうだるような暑さの中を汗だくになりながら走ったりしたくはないという気持ちが勝る。

「あ!なまえちゃん!おはよう!」
「くるみちゃん。おはよう。」

まだ少し先にある待ち合わせ場所からパタパタと小走りでやって来たのはくるみだ。暑さや寝不足でだらけきっているなまえとは違ってパッチリ覚めている目に朝とは思えないほど明るく軽やかな声を発しているくるみはとても元気だ。凄いなあと思ったなまえは隣に並んだくるみと共に歩き出す。

ふわぁ、と欠伸をして涙が浮かぶ目を擦るなまえを横目で盗み見たくるみはホッと息をついた。
2年に進級すると同時にくるみは幼なじみの手伝いから解放され、念願の友人と登下校を叶えることに成功した。クラス発表で意気消沈していたなまえに実は、と切り出した時のなまえの態度の変わりようは今でも鮮明に思い出せる。可愛かったなぁと思い出すくるみはすぐに我に返り違う違う!と首をブンブン横に振ってキリッと真剣な表情に戻す。
昨日、ヒバリから身に覚えの無いイタズラで風紀委員が次々とやられているから気をつけろ(意訳)と連絡があった。そして今日は月曜日。
遂に始まったのだ、黒曜編が。
ヒバリが昨日連絡したのはくるみを心配したからではなく、隣にいるなまえを心配したからだとくるみは結論づけていた。なまえは何度もヒバリから助けられているし、この前の夏祭りの時はきっと風紀委員が拠点としているテントに連れていったのだろう。人通りの多い場所でヒバリが守るべき存在であるなまえと一緒に歩いていた。それだけで、なまえが狙われる可能性はぐんと高くなる。くるみは今回の犯人も、その目的も分かってはいたが、何も出来なかった。もしくるみが動いて、隣にいるなまえに何かあったらと思うと、怖くて何も出来なかった。だから本当は今こうして会って話しをするまで、くるみは気が気ではなかったのだ。

「ふゎあ〜…」
「なまえちゃん、欠伸たくさんしてるね。眠れなかったの?」
「うん、ちょっと…」

ゲームしてて。くるみの胸中など知らないなまえは普段通りの返答をして頬をかいた。しかし彼女は昨日、かろうじてログインはできるというくらいゲームすら手につかない状態だった。
なまえもしっかりと覚えていたのだ。黒曜編が始まる時期、その日付まで明確に。カレンダーで何度も確認して、自分たちというよりもツナの学年を確認して、遂に明日始まるのかもしれない。ドキドキと鳴る心臓はちっとも消えてくれない不安や恐怖からくるもので、お陰で中々寝付くことも、ゲームで気を紛らわすことも出来ず寝不足だ。
今日は9月9日、月曜日。黒曜編が始まり、終わる日だ。今朝、母親から週末に風紀委員が相次いで怪我を負い、大丈夫なのか問われた。たぶんと曖昧に答えつつ、なまえは日付と曜日から黒曜編の始まりを知り、少し緊張しながら登校していたが、いつも通りのように見えるくるみに少し安心していた。
と、前方に見知った人物達の背中が見えた。

「由良!」
「あ、ホントだ!沢田くーん!」
「なまえ。」
「川崎さん!」

いつも通りの2人、特に由良の姿に安心したなまえは駆け出し、彼女に抱きついた。夏休みが明けてから、由良はどうしてか薙刀の練習に精を出すようになり、登下校をズラすようにして、クラスの離れていたなまえは全く会えていなかったのだ。会えていなかった分を補うかのように強く抱き締めるなまえに、抱きとめていた由良は仕方ないなぁとでも言うように困ったように笑い、頭を撫でおはようと声をかける。

「おはよう!リボーンくんもいたんだね!」
「ちゃおっス。」
「おはよう2人とも。」
「おはよぉ〜。」
「いやだらけすぎでしょアンタ。」

遅れてやってきたくるみがリボーンに気づき、ツナに挨拶されたなまえは緩みきった表情で返し、それをコツンと頭を小突いて由良が指摘する。それにも嬉しくなってえへへ、と返すなまえを初めて見るツナは戸惑う。
そのままリボーンを含めた5人で登校していると、校門前や近くの通学路に複数名の風紀委員がいるのが見えた。

「!風紀委員だ!!」
「あ、あっちにもいる。」
「みんなピリついてるね〜。」
「そりゃああんな事件が多発してるんだしな。」

リボーンの言葉になまえはグッと唇を噛み締め、持っていたスクールバッグの紐を握る手に力を込め、くるみは平常を装いつつ少し顔を強ばらせた。
そんな2人に気づかないツナはやっぱり不良同士の喧嘩なのかな、と呟く。それに間髪入れずに答えたのは第三者の違うよ、という声。振り返れば不機嫌そうに顰め面をしたヒバリがいた。

「ヒバリさん…!」
「恭弥くんおはよう!」

ようやく慣れたのか、それ以上に不安なのか、珍しく顔を赤くすることなく名前を呼んだなまえにチラリと視線を向けたヒバリは身に覚えのないイタズラだと言葉を続けた。

「もちろんふりかかる火の粉は元から絶つけどね。」
「っ!」
「っ………」

怒気を含んだ鋭い瞳をギラつかせながら話すヒバリに怯えたツナは怖がり、由良が大丈夫かと声をかける。そして、ヒバリの言葉に原作通り敵地に乗り込むのだと察したなまえはくしゃりと顔を歪め、俯いた。
と、どこからか並中の校歌が聞こえてきた。どこからかとツナ、由良がキョロキョロと探していると、なんと目の前の人物、ヒバリの携帯からで、ボタンを操作した携帯を耳に当てていることからどうやら着信音のようだ。驚くツナ、ここまで徹底している姿に感心する由良を余所に用件を聞いたヒバリは少し携帯を耳から離し、言った。

「笹川了平、やられたよ。」
「!」

ヒバリの言葉に全員緊張が走る。ツナはヒバリから了平のいる病院はどこか聞くと、そのまま走って向かっていった。それをリボーンが追いかける。
由良、くるみは傍にいたなまえを守るようにそっと近寄った。

「くるみ。」
「!大丈夫。任せて!」

ヒバリから名前を呼ばれ、その表情から察したくるみは強く頷いた。不思議そうにするなまえと由良だったがすぐにヒバリからなまえの名を呼ばれる。

「今日は寄り道せずに真っ直ぐ家に帰るんだよ。いいね。」
「……………はい…?」

突然言われたまるで学校の先生や親から言われそうな言葉に一瞬理解が遅れ、呆けてからひとまず返事をしたなまえはあれ?と首を傾げる。
彼女の隣で聞いていた由良、くるみはまるで心配しているかのようなヒバリの言葉に目を丸くし、由良は信じられないものを見るような目でヒバリを凝視し、くるみはニヤニヤと顔を緩めてヒバリを見た。その視線に鬱陶しいとでも言いたげに顔を歪めたヒバリは黙ってどこかへ行ってしまった。

「ヒバリさん、私の事小学生だと思ってるの?」
「なんでそうなる。」
「なまえちゃん…」

ヒバリが自分のことを心配しているなどとは考えられないなまえの言葉に由良は呆れ、くるみは苦笑した。

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