リボーン複数主 | ナノ


▼ 標的37

薙刀の稽古を終えた由良はそのままの足で並盛神社に訪れていた。両脇には弟と妹が浴衣を着てこれから何をするのか、何を食べるのか、どこに行くのかと嬉しそうに話している。相槌を打って聞いていれば、遠くから弟や妹の友人らしき子供たちが見え、ケガしないように周りの人にぶつからないように、と注意し、送り出した。

「帰ろうかな…」

呟いた由良は傍を通った同い年くらいの女の子たちが浴衣を着て楽しそうにしている姿を見て、自分の服に目を向けた。いつもと変わらない練習着用の服だ。
本当は、由良は京子やなまえから一緒に祭に行かないかと誘われていた。しかし、弟や妹の面倒を見ないといけないからと断った。面識があったなまえはそれでも、と誘ったが、その時既にくるみと行くことを聞いていたので、ごめんと言って誘いに乗ることはしなかった。
行きたいという気持ちはあったが、きっとツナも来ているのだろうと思うと、また京子と比べてしまって虚しくなってしまうと考え、行こうと思えなかったのだ。今日浴衣を着ていないのもどうせ比べてしまうのならという投げやりな気持ちからだった。

「ちゃおっス、由良。祭を楽しんでるか?」
「リボーンくん…こんばんは。甚平似合ってるね。」
「サンキュ。」

暗い気持ちになりかけていた由良に声をかけたのはリボーンで、いつもと違い、ボルサリーノを脱いで甚平を着ていた。そんな彼にそろそろ帰ろうとしていたところだと伝えると、ツナが屋台をやっているから手伝ってこいと言ってきた。
突然言われ、呆気に取られた由良が目をぱちくりと瞬かせていると、アイツらだけじゃ不安だからな、と思ってもいないだろうセリフをニヤリと笑って話したリボーン。普段なら、断っていただろうけど、やっぱり少しは祭を楽しみたい気持ちもあった由良は分かったと答えて、リボーンから教えられた屋台の場所まで歩いていった。


屋台に着いた由良はちょうど同じ頃に遊びに来ていた京子、ハルに出会し、内心少し複雑な気持ちでリボーンから言われたことを説明した。そこから2人と会話しつつツナを見れば、彼は案の定浴衣を着た京子に釘付けで、耐えられなくて視線を逸らした。
ふと、いつもならニコニコと屈託なく笑って楽しそうに話すはずのくるみの様子がおかしいことに気づく。よく見れば、虚勢を張っているように笑った顔はどこか引き攣っていて、声も震えている時があった。流れで山本を見ると、彼も彼で何かを考え込むように難しい顔をしていた。


京子たちと別れ、呼び込みをしてツナたちの手伝いをしていた由良はヒバリに連れられたなまえに声をかける。

「川崎さん、どう思う?」
「何かあったの?」
「や、様子変なだけ。気づいたっしょ?」
「頑張っていつも通り装ってるね。アレは。」

くるみの様子のおかしさに気づいていたなまえにあとよろしくと伝え、回収されたくるみにも手を振っておく。チラリと山本を見ると、ただ呆然と見ているだけで、戸惑っているような空気も感じられる。とはいえ山本は無自覚にも要領はいい方だ。人との接し方は持ち前のコミュニケーション能力で培われているだろうし、相談を聞くことが多いなまえがいるのだから特に何も言うまい。そう思って由良は屋台の仕事に戻った。

「もー、見てらんないな。」

屋台で呼び込みやチョコバナナの販売をして暫く、どこからか、聞いた事のない女の子の声が聞こえてきた。見ると、同い年くらいの浴衣を着た女の子がこちらにやって来た。

「大人イーピン!!」
「えっ?大人、イーピン?」
「あ!由良さん!この前はおさがりの服をたくさんありがとうございました!」
「うん?え、えぇと…?」

ツナの呼び方に違和感を感じた由良は首を傾げてやって来た女の子を見ていれば、ばちりと目が合い、何故か親しげに話しかけられた。しかもその内容が自分の服を与えていたというのだから相当親しい仲なのだろう。それもそのはず、彼女はイーピンの10年後の姿なので、10年前から優しくしてくれる由良に懐いていたことから彼女にとって由良はお姉ちゃんのような存在なのだ。が、10年バズーカについて何も説明を受けていない由良は彼女がイーピンだとは分からず混乱していた。
そんな由良を放って、10年後のイーピンはツナたちに今の屋台で改善した方がいい所を一つ一つ指摘していく。さすがラーメン屋でアルバイトをしているイーピンだ、ツナたちよりも販売方法を熟知している。感心したツナたちは早速イーピンのアドバイスに従って販売の仕方を変えてみた。すると先程まで呼び込みをしなければならない程だったのが嘘のように次々と客が訪れ、その流れは途切れることなく続いていた。
途中なまえがくるみを連れて来たような気もしたが、忙しくてそれ所ではなく、確認できなかった。

「バナナ、あと一箱で完売っす!」
「おお〜!!」
「やったね沢田。」

ようやく客も引いて落ち着いた頃には目標売り上げバナナ500本まで残り僅かとなり、これなら余裕で花火に間に合う!とツナが嬉しそうに話す。そんなツナたちに山本が声をかけた。

「ちょっと抜けてもいいか?毎年屋台のボールの的当てしてたんだけど、それやんねーと祭り来た気がしなくてさ。」
「(この人もきっと屋台泣かせだー!!)」

リボーンが己の射的の腕で屋台のオヤジさんを泣かせていた光景を見ていたツナは心の中で思った。そんなツナの代わりに由良が行ってきなよ、と声をかける。

「今お客さん少ないし。みんな神輿見に行ってるだろうから的当てもすぐ出来るんじゃない?」
「サンキュ!景品持ってくっから!」
「あ、うん!」

由良の言葉にかぶせるように言った山本は急いで屋台の方に向かっていった。もしかして、くるみを探しに行ったのかもしれない。そう思った由良はふぅ、と短く息を吐いた。
それから獄寺もトイレへ、リボーンも踊ってくると言って屋台にはツナと由良だけが残った。

「ふー!でもやったぞー!みんなと一緒だけど浴衣姿の京子ちゃんとこれで花火が見れるー!!」
「よかったね。」

慣れないことをして疲れたのか、椅子に座って大きく伸びをしながら嬉しそうに言うツナに由良は複雑な気持ちを抱えながら声をかける。そんな由良に照れたように同意したツナはそう言えば、と由良に向き直る。

「神崎さんは浴衣着ないの?似合いそうなのに。」
「………私は、薙刀の稽古が終わってからすぐに来たからね。第一、弟たちの見送りもあったから、準備してる時間なかったんだよ。」
「へぇー。神崎さん兄弟いるんだ?」
「うん。小学生の弟と妹がね、双子なんだ。」
「へぇー!」

興味深そうに話を聞いてくるツナに、内心ドキドキしていた。
何気ない言葉でも、由良にとってそれは甘美な物にも、鋭利な刃物のような鋭く苦い物にもなる。きっとツナはそんなつもりなんて微塵もないのに、言われた言葉に気にしてくれたんだ、と嬉しくなって、期待してしまう。そんなハズないのに。
これ以上気にしてしまわないように頭の中では色んな事を考えて、ツナの言葉を忘れようとしていた。

「!?」
「はぁ!?」

ツナと由良しかいなくなった屋台で、客も来る様子がない。加えて慣れない接客、販売業務に無意識に気を張っていたようで、完全に油断していた2人は傍に置いていた売り上げ金の入った箱を盗まれてしまった。
持っていったのは小学生くらいの男の子で、帽子をかぶっているため顔は分からない。
突然のことに驚いた2人はハッと我に返り、慌てて少年を追いかけた。

「あ!」
「アンタたちは…!」

少年は石造りの階段を駆け上がり、境内の方に向かっていく。それを追いかけていたツナと由良も同じように駆け上がり、境内に着いたところで少年が売り上げ金の入った箱を兄ちゃんと呼んだ男に渡しているのを目にした。
その男、そしてその両隣にいる男たちの日に焼けた柄の悪そうな風貌に見覚えがあり、声を上げた。

「ライフセイバーの先輩ー!?」

呼ばれた先輩の1人が元気そうだな、ツナさんよぉと答える。どうやら、ひったくりは彼らが主犯のようで、ライフセイバーの副業として毎年やっているらしい。

「沢田、獄寺呼んできて。出来れば山本も。」
「わ、分かった!」

少年を追いかける際咄嗟に持ってきていた薙刀を構えた由良はツナに声をかけ、先輩たちを睨む。自分の弟を犯罪に加担させるとはどういうことか。同じ弟をもつ者として沸々と怒りが湧き上がってくる。
しかしそんなやる気の由良を嘲笑うように、獄寺たちを呼びに行こうとしたツナの前に海水浴の時とは比べ物にならないほど多くの後輩が立ち塞がる。不良たちに囲まれてしまった由良とツナ。ツナは情けない声を上げてもうダメだとギュッと目を瞑る。

「うわ!!」

鈍器で殴ったような音と悲鳴が聞こえたと思い、その方向を見たツナと由良は目を見張った。

「嬉しくて身震いするよ。うまそうな群れを見つけたと思ったら追跡中のひったくり集団を大量捕獲。」

そこにいたのは風紀の腕章をつけ、トンファーを振るうヒバリで、周りにいる不良たちは風紀委員だ!とザワついている。そんな不良たちの間を颯爽と歩くヒバリにもしかして、助けに来てくれたのでは?と期待したツナはじーんと感動に心を震わせていた。

「集金の手間が省けるよ。君たちがひったくってくれた金は全部風紀がいただく。」
「やってる事変わんないじゃん。」
「(またあの人自分のことばっかりー!!)」

横暴すぎるヒバリの発言に一気に感動が冷めたツナと由良は敵が増えたような気がした。
ヒバリの登場に恐れ逃げ帰るかと思った先輩はちょうどいいと不敵に笑い、先程よりも倍の数の柄の悪い後輩を呼び寄せ、あっという間に3人を取り囲んでしまった。これは流石にヒバリでも不味いのでは、そう正直に思ったことを言ってしまったツナはどこからかリボーンに死ぬ気弾を撃たれ、パンツ姿の死ぬ気モードに入った。

「オラァ!!来やがれ!!」
「沢田、無駄に煽んないで。」
「余計だな。」

死ぬ気になったツナの気合いの入った声に落ち着いた由良は薙刀を構え直す。ヒバリも余裕そうにトンファーを構え、その様子を見ていた先輩が一気に仕掛けろ!と声を上げたと同時に階段付近で大きな爆発が起こる。

「10代目!!」
「助っ人とーじょー!」
「あ、恭弥くんもいる!」

どこからか情報を聞きつけてやって来た獄寺、山本、くるみが合流した。

「ヒバリと初の共同戦線だな。」
「冗談じゃない。ひったくった金は僕が貰う。」
「なぁ?」
「やらん!」
「当然っす!」
「こんなんで大丈夫なの?川崎さん。」
「大丈夫だよ!恭弥くん!アイツらなまえちゃんナンパしてた!」
「へぇ…」

くるみの言葉に怒気を強めるヒバリに気圧されぬようにツナたちも動く。
柄の悪い連中と言ってもこちらとてマフィアのボス、幹部候補ばかりの精鋭メンバーである。数では圧倒的に不利だが、各々の高いポテンシャルによって中学生か!?と言わせる程の強さを見せ、先輩たちに勝利した。


無事先輩たちに勝利したツナたちは一息付く間もなく、自分たちの売り上げ金に手を出そうとしたヒバリから必死に守った。勿論それは無傷では済むはずもなく、全員ヒバリに殴られてボロボロだ。
随分時間がかかってしまい、これでは花火に間に合わないだろうと諦めていると、遠くからおーい!と京子、ハル、なまえがランボ、イーピンをつれてやって来た。
聞けば、リボーンから花火の隠れスポットと教えてもらって来たらツナたちが見えたらしい。

「わぁ…!」
「キレイ!」

そんな話をしている最中に、ドン!と大きな音を立てて花火が上がる。

色とりどりに夜空を彩る花火に皆目を奪われている中、山本はチラリとくるみに目を向ける。少し前で打ち上がる花火をキラキラと目を輝かせながら見るくるみの表情はいつもよりも眩しく見えて、山本は目を細めた。

ツナたちが花火を見ている場所から少し離れた木の陰で、ヒバリは花火に夢中になっているなまえを見ていた。その表情は先程テントで見たものとは違い、非常に無邪気な子どものようなもので、自分に向けられたことの無い表情に小さな苛立ちを感じ、静かにその場を去った。

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