リボーン複数主 | ナノ


▼ 標的36

ヒバリに連れていかれるなまえを見送ったくるみは満足気に笑っていて、近くでヒバリとくるみのやり取りを見ていたツナはやっぱり幼なじみすげー!とくるみに対して感じていた。と、くるみがくるりとツナたちの方を向く。

「ごめんね!騒がしくしちゃって。」
「いいよ!全然!」

困ったように笑うくるみはなまえと同じように少し化粧をしているせいか、いつもとどこか雰囲気が違い、京子に想いを寄せているツナでも可愛らしくもどこか大人びたくるみに顔を赤らめる。それを誤魔化すようにいつもあんな感じなの?と聞けば、くるみは遠い目をして頷いた。

「去年までね、お友達がいなかったから、見せる相手が恭弥くんしかいなくてね…でも恭弥くんいつもああやって全然褒めてくれないの!髪型変えてもメイクちょっと変えても全っ然気づかなくてね!」

酷いと思わない!?とプリプリ怒る姿はいつもと変わらない。そんなくるみに確かにヒバリさんの言うことにも一理あるかもしれない、と思ったツナに、同じように思った獄寺はそのままヒバリが言ったままじゃねーかとボソリと呟いた。勿論くるみがそれを聞き逃すはずもなく、あー!と怒ったような声を上げてズンズンと獄寺に近づいた。

「獄寺くんまでそういうこと言う!いつもと全然違うでしょ!ほら!こことか!こことか!」
「近ぇ!!」

獄寺によく見えるようにと勢いづけて近づいたからか、あと数センチでくっつきそうな距離まで来たくるみはそのまま変わった部分を指さしていく。くるみの勢いに押され、仰け反った獄寺は体勢が辛いこともあり青筋を立てて叫ぶが聞く耳を持たない様子でプンスコ怒るくるみに苛立って震えている。
2人の様子を青い顔でオロオロと見ていたツナは止めようと慌てて2人の間に入ろうとしたが、その前にずっと黙って見ていた山本が動いた。

「くるみ!」
「!……………へぇっ?」

少し強めに名前を呼んだ山本はくるみの手を引っ張って物理的に獄寺から引き離した。急に手を引っ張られて、一瞬遅れて名前を呼ばれたことに一気に赤面したくるみは声にならない声を出して山本を見て、別の意味で固まった。

「獄寺困ってるみたいだしさ、ちょっと落ち着こうぜ。俺ら屋台やっててあんま揉めてるの見せらんねーし。」
「あ、うん…ご、ごめんね、山本くん。あ、ご、獄寺くんも。」
「あぁ。」

言葉だけ聞けば、いつもと変わらない。だが、山本の声も、表情も、いつもの明るく朗らかな柔らかいものではなく、低く硬い、どこか冷たさを感じるものだった。
ただならぬ雰囲気に気圧されたくるみは顔の赤みも引いて、驚きと、いつもと違う山本に戸惑い、小さく謝罪し、流れで獄寺にも謝った。獄寺も憎まれ口を叩くことはなく、一言返すだけで終わり、ここだけ空気が凍りついているような雰囲気だった。

「チョコバナナくださーい!!」

そんな雰囲気を打ち消すような明るい声が聞こえてきた。見ると、そこにはくるみと同じように浴衣を着て屋台に来た京子、ハルがいた。
ツナと獄寺、山本が屋台をしていると知って京子がすごいとツナに話しかけており、そのタイミングで山本は無言でくるみの手を離し、屋台の方に戻っていった。

「っ……」
「くるみちゃんも浴衣着てきたんですね!」
「ぁ…う、うん!なまえちゃんも浴衣着たんだ!私のとお揃いなの!」
「とっても素敵です!」
「うん!可愛いね!」
「あ、ありがとう!嬉しい!」

山本を怒らせてしまったかもしれない。頭の中は先程の硬い声で話す山本の難しい表情でいっぱいだった。
それでも事情を知らない京子たちに心配させるわけにはいかない。くるみは必死にいつもの自分を取繕い京子たちと話していた。
それでも2人に見えないように巾着を握る手はカタカタと震えていて、笑顔を保っている表情筋を力むようにしていないと泣いてしまいそうだった。声が詰まりかけるのを深く息を吐く事で抑え、震えそうになる声は腹に力を込めていつも通りを装った。

「あ!由良ちゃん!」

くるみと話していたハルがこちらにやって来る由良に気づき、手を振った。ハルの声に気づいた由良はニコリと微笑んで緩く手を振って人の並をかき分けてやって来る。

「リボーンくんに言われて、沢田たちの手伝いに来たんだ。」
「え!?リボーンに?」

合流した由良の言葉に驚いたツナにうんと頷いた由良は先程リボーンに遭遇し、ツナたちが屋台をやっているから手伝ってほしいと言ってどこかに行ってしまったと説明する。ついでにツナが面倒を見ていたランボ、イーピンは京子たちに頼むようにとも。

「そうだったんだ。」
「でもそうしたらちょっと残念です。みんなで花火見ようって言ってたのに…」
「まあ、ここからでも見えるし、来年みんなで来ればいいんじゃない?」
「そうだね!今年だけじゃないんだし、来年はみんなで見ようね!」
「う、うん!」

残念そうにするハル、京子に由良が話せば京子がツナに向けて提案する。同じように残念がっていたツナは希望が見えたとばかりに表情を明るくして同意した。
それから獄寺からチョコバナナを受け取った2人はランボ、イーピンを探しに行ってしまった。そんな2人を名残惜しそうに見るツナに由良、くるみが話しかける。

「何しょげてんの、沢田。これから全部売り切れば、花火間に合うでしょ?」
「えっ?」
「なまえちゃん待つ間、ただ突っ立ってるわけにはいかないもん!私も呼び込みとか手伝うよ!」
「2人とも…!獄寺君、山本!頑張って早く終わらせよう!」
「10代目のお望みとあらば!」
「そーだな!」

2人から声をかけられたツナは気合を入れるように獄寺、山本に声をかけ、屋台の中に入っていく。
くるみは先程よりも明るく、少し柔らかくなった山本の声に不安げにちらりと視線を寄越したが、山本は背を向けていてどんな表情をしているのか分からなかった。それに泣きそうになって、ぐっと顔を歪めて堪えたくるみはパッと表情を戻して頑張ろうね!と由良に声をかけた。くるみの様子に何かあったな、と察した由良はしかし何も聞かずにそうだね、と頷いた。


暫く手伝っていたくるみのもとにヒバリに連れられたナマエが戻ってきた。由良がいることに不思議そうにしていたナマエに軽く説明した由良は彼女に何かを耳打ちする。そんな2人に気づかないくるみはなまえを連れてきたヒバリに近づいた。

「ちゃんとなまえちゃん連れてきてくれたんだ?」
「くるみ、あの子の足、赤くなってた。あまり引っ張るんじゃないよ。」
「む!分かってるよぅ…」

なまえの浴衣姿を見た反応を見たかったのに、お説教まがいのことを言われて唇を尖らせるくるみは、ヒバリとのやり取りを見ている山本に気づいていない。
ヒバリは用はないと言わんばかりに無言でどこかに立ち去り、由良と話し終わったなまえに声をかけられたくるみも祭りを見て回るべくツナたちと分かれた。

「それで、何かあったの?」
「えっ…」

暫くカラコロと下駄を鳴らす音しか聞こえなかった2人の間に、なまえの声が通る。見れば、なまえの表情は穏やかに微笑むばかりで、その瞳は心配そうな色を見せているが、だが決して無理に聞こうという意思はなく、大丈夫、ちゃんと聞くよ。そう言われているようで、安心したくるみの視界は徐々にぼやけ、喉から引き攣ったような声が出る。

「ど、しよ…なまえっちゃんっ…!わた、私っ…!山本っ、くんをっ…おっ、怒らせっ、ちゃったっ…!!」

嫌われたかもしれない!そう言ってひっく、ひっくとしゃくり上げるくるみを優しく擦りながら、なまえは何ヶ所かに設けられている休憩所に向けて誘導する。

「はい、これ飲んで。」
「あ、りがとう…」

休憩所に着いて近くの椅子に座ったくるみにいつの間に買ったのか飲み物を渡したなまえは静かに隣に座る。ぐすぐすと鼻を鳴らすくるみだが、先程よりも幾分落ち着いたようで、貰った飲み物を1口飲んでほう、と一息つく。

「何があったのか、聞いてもいい?」

なまえに言われ、こくりと頷いたくるみは自分が分かる範囲のことを説明した。
ツナにヒバリとのやり取りの事を聞かれて説明したこと。獄寺にヒバリと似たような事を言われて腹が立って言い合いになってしまったこと。ヒートアップしてしまって周りから見られるからと怒った様子の山本に注意されたこと。
全てを話したくるみは思い出したのか、また泣いてしまい、持ってきていたハンカチで目元を隠した。
くるみの話を聞いたなまえは彼女が落ち着くのを待ってから、一つ一つ確認するように聞いていく。

「沢田くんにはヒバリさんが浴衣を褒めてくれないって話したの?」
「うん。毎年見せる相手がいないからって言って…」
「獄寺くんとはどんな風に言い合ったの?」
「私がいつもと違うってことを教えたくて近づいたの。そうしたら、近いって…」
「山本くん、本当に怒ってた?怒ってるような顔してた?」
「声はいつもより硬かったよ。顔は、怒ってる、ていうか、難しい顔?してたと思う…」

くるみの答えを聞いたなまえは獄寺とどのくらい近かったのか聞くと、くるみがずいっと近づいてきた。それこそ、あと数センチで密着しそうな距離に思わず近っと声に出してしまうほど。

「さっきも、山本くんずっと後ろ向いてて、どんな顔してるか分かんなかったし…」
「………………。」

くるみから話を全て聞いたなまえは渋い顔をして頭を押さえた。
話を聞く限り山本は騒がしかったからではなく、ツナや獄寺、ヒバリと親しげに話す様子に嫉妬したから行動に出たのだろう。思えばヒバリと言い合う時も彼女は割と距離を詰めていたから、山本からすればその時から我慢していたのが獄寺とのやり取りで爆発したというのが恐らく真相なのだろう。
が、ここで問題がひとつ。

「(あの野球一筋人間にそれを自覚しているという認識はあるのか?ないよなぁ〜)」

海水浴での山本の言動を見て気づいたなまえと由良だが、山本は自覚なしの無意識で動くことが多く、それは今まででもちょくちょく見られていた。つまり今回の行動も無意識の可能性が高く、迂闊にこうだからと助言のようなことは言えないのだ。
あんの野球バカめ…!
脳内で能天気に笑っている山本に沸々と苛立ちと殺意が湧いたなまえは静かに深く息を吐くと、くるみに向き直った。

「私がとやかく言う筋合いはないとは思うんだけど、少なくとも山本くんはくるみちゃんを嫌ってるとかはないと思う。し、騒がしいからって怒るようには思えない。」
「でもっ!本当に…!」
「くるみちゃんの話を信じてないわけじゃないよ。でも、山本くんって騒がしいだけで怒るような人かな?獄寺くんってしょっちゅう色んな人と喧嘩したり言い合いになったりするけど、山本くんって笑って宥めてるイメージしかないっていうか…」
「そ、れは…」

思い当たる節があるくるみは反論できず口を噤む。そんなくるみを見たなまえは少し困ったように笑ってだから、と続ける。

「ちゃんと山本くんに話を聞いてみよう。それから、謝らないといけないところはちゃんと謝ればいいと思う。一方的に決めつけちゃうのは、山本くんも悲しいよ。」
「………………。」

諭すように言われたくるみはキュッと口を引き結んで考え込む。
やがて、顔を上げたくるみは覚悟を決めたように分かった、と静かに頷いた。


それならば善は急げと言わんばかりにもう一度ツナたちがやっている屋台に向かえば、ちらほらとしか来ていなかったはずのお客さんが大勢押し寄せ、ツナ、獄寺、山本、由良は全員対応に追われていた。
その様子を見ていたなまえ、くるみはすっかり忘れていた。そう言えば、10年後のイーピンがアドバイスをしてめちゃくちゃ繁盛するんだった。
完全に出遅れてしまった2人はひとまず山本に会うのは後にして、祭りを楽しもうという事になり、ほかの屋台を見て回ることにした。


お互いが行きたいところを一通り見て回った頃、ちょうど神輿の時間になったようで、屋台が並ぶ通りから人が神輿の方に向かって流れていく。
その頃にはすっかりいつもの調子を取り戻していたくるみはなまえを連れてボールの的当ての屋台で的当てをしていた。

「これで…どうだ!」
「すっごーい!くるみちゃん全部当たってる!」
「えへへっ。昔からこういうの得意なんだ!」

照れたように微笑むくるみはなまえに褒められたからか得意気な様子だ。

「なまえちゃんごめんねっ。もう1回やってもいいかな?これで最後にするから!」
「全然いいよ!気にしないでたくさんやって!」
「ありがとう!」

この勢いのまま景品全部貰うつもりで屋台のおじさんにお金を払おうと財布を取り出した時だった。

「くるみに、みょうじ?」
「!」
「や、山本くんじゃん!どしたの?こんな所で。」
「毎年ここの的当てやっててさ。これやんねーと祭り来た気がしないからちょっと抜けてきたんだ。」
「へぇー!」

くるみの背後から山本がやってきて、驚いた2人は肩を震わせ、先程のことがあるせいか、固まって話せないくるみに代わってなまえが話しかける。
相槌を打つなまえがチラ、とくるみを見ると、先程の山本を思い出しているのか唇を噛み締めて泣きそうな顔をしていた。
くるみちゃん、となまえが声をかけるより前にくるみがあ!と声を上げる。

「そろそろ花火の場所取りしないと!恭弥くんがいい所知ってるから聞きに行こ!」
「くるみ。」
「っ………」
「話が、あるんだ。ちょっと待っててくんね?」

わざと明るく振舞って立ち去ろうとするくるみに静かに言う山本は、やはりいつもと雰囲気が違っていて、くるみは先程のことを思い出し、怖くなって俯いた。そんなくるみに優しく声をかけるなまえに、彼女と話したことを思い出す。そうだ、決めつけちゃ、ダメ。
顔を上げたくるみの表情を見たなまえは向こうで待ってるね、と少し離れたところにあるベンチに向かった。


なまえを見送ったくるみは静かに山本の方に近づいた。しかしいつもよりも距離を空けた所で立ち止まり、俯いた。
その様子を見た山本は何を思ったのか、なんか欲しいのあるか?と聞いてくる。思いもよらぬ問いかけにくるみは咄嗟に顔を上げ、目を見開いた。

いつもの山本だ。
明るくて、優しい、太陽のような、でも彼の属性である雨のような、そんな彼らしい表情の山本がそこにいて、安心した。
安心すると、途端に涙腺が緩み、くるみはボロボロと泣き出した。

「ごめっ、ごめん、なさいっ…!わたっ…私っ、き、きらっ、われた、かもっ、て、思ってっ…!さっき、お、怒らせっ…ちゃったからっ…!!」

慌てて駆け寄る山本に気づいていながら、止められない涙を必死に拭うくるみ。
そんなくるみの言葉を聞いた山本は目を見張り、悲しげに目を伏せ、くるみの頬に手を伸ばした。驚き固まるくるみの目からこぼれ落ちる涙を掬うようにそのまま親指で目尻を拭う。

「ごめんな。」

苦しげな表情で言う山本に精一杯首を横に振るくるみに、ぐっと唇を噛み締め、くるみのせいじゃないんだ、と話す。

「あの時、俺、自分でもよく分かってなくて、ただくるみがヒバリとかと話してるの見てると、すっげー嫌な気持ちがぐわーって来て、腹の奥がぐるぐるして、それで、気づいたら、あんなこと…本当にごめん。でも、俺がくるみを嫌いになるなんて絶対ないから。これだけは絶対、変わることは無いから。だから、そんな風に思うのは、もうやめてくんねーかな。」
「………うん!」

困ったように笑って頼んできた山本に、コクコクと何度も頷いた。山本の心からの言葉に自然と涙も止まっていたようで、山本の手も離れていった。
それに少しの寂しさを覚えたくるみは、先程の山本が言った嫌いになることは絶対にないという言葉を思い出す。じんわりと温かくなる心を感じ、嬉しくなって1人微笑んだ。
くるみの嬉しそうな表情に見惚れていた山本はハッと我に返り、誤魔化すようにくるみに欲しい物はないかともう一度問う。

「仲直りの証!」
「!ふふっ………それじゃあ、あれ、お願いしてもいいかな?」
「あれな。OK!」

ニカッと笑う山本に釣られて微笑んだくるみは屋台に来た時から狙っていた景品を指さした。それを確認した山本は屋台の店主に声をかけると彼女を泣かせるなと茶化され、慌てて誤魔化した。
ボールを渡された山本は腕を慣らすように回しながらくるみ、と声をかける。
くるみが目を向けると、山本は腕を下ろし、片目を瞑り、景品の場所を確認しながら口を開いた。

「ずっと思ってたんだけどさ、名前で呼んでもいいか?って、もう呼んでんだけどさ。せっかく仲良くなれたんだし、苗字呼びだと他人行儀な気がしてさ。」
「も、もちろん!」

た、けしくん…。
小さく答えたくるみの声は届いていたようで、バッと山本が勢いよくくるみの方を向けば、彼女は赤い顔を隠すようにそっぽを向いてしまい、どんな表情をしているのかは分からなかった。しかし、その耳も、浴衣でいつもより見える範囲が広くなったうなじから鎖骨までの肌が赤く色づいているのを見て、山本は嬉しさと、照れ臭さ、そして満足感を感じて同じように赤くなった頬をポリ、と掻いた。
そして、少し視線をさまよわせてからあ!と声を上げる。

「それと、浴衣!」
「………?」
「すっげー似合ってる。可愛いし、一番綺麗だ!」
「っ!…………あ、りがとう…」

赤くなりながらも満面の笑みではっきりと言う山本に、チラリと見ていたくるみは直視出来なくなり、俯き、小声でお礼を伝えた。
山本は誤魔化すようにボールを振りかぶり、ボールは吸い込まれるように狙った景品の的に当たった。

「…………。」

そんな山本の隣で俯いていたくるみはキュッと、胸の前に持ってきていた手を握る。
もしかして、と思うことは何度もあった。
それを見ない振りをして、憧れだからとずっと目を逸らしていた。
でも、もう誤魔化しは効かない。

「私は…」

山本くんが好きなんだ。
自覚したくるみが顔を上げた先では、山本がボールを振りかぶっている姿があった。

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