リボーン複数主 | ナノ


▼ 標的35

何処からか篠笛の柔らかな音色と太鼓の軽やかな音が聞こえてくる。いつもは静かな夜の神社も今日は提灯の灯りで柔らかな夕陽の色に包まれ、多くの浴衣姿の人で賑わっていた。
ツナはランボ、イーピン、のお守りではあるが、並盛神社で行われている夏祭りに訪れていた。周りが家族で、友人で、恋人同士で楽しんでいる中、騒がしいチビッ子たちのお守りというのは悲しく気分も下がるが、いつも面倒を見ている母親の奈々が来られないので仕方がない。参道に並んでいる屋台に目移りする子供達に1人300円まで!と忠告するツナはすっかり彼らのお兄ちゃんだ。
と、くいくい、とズボンの裾を引っ張って何かを主張するイーピンに気づく。

「どうした?イーピン。」

聞いたツナに分かりやすく欲しいものが売られている屋台を指さしたイーピン。彼女が欲しがったのはチョコバナナで、1本400円するものだった。100円オーバーだが、アレコレ欲しいと言うランボとは違い、遠慮しがちなイーピンが望んだ物、そして祭り特有の雰囲気にツナの心の財布の紐も緩み、いっか!と屋台の方に向かい、くださいと声をかける。
あいよ!と返事があり、そこからフランス製だのベルギー製だののチョコを注文を受けてからつけるという気合いの入ったやり方、原産地にまで拘りを見せる姿勢にすごいなあと感嘆の声を上げていれば、チョコバナナを渡してきた人物に見覚えがあった。

「おらよ。」
「獄寺君と山本ー!!?」

驚くツナに、獄寺、山本も驚き、獄寺は先程までの厳つい顔をコロッと変えて笑顔でおどかしっこはなしですよ!と言ってくる。そんな彼らに何をしているのか聞くと、どうやらツナが巻き込まれたボンゴレ式七夕大会で山本の点数を下げようと獄寺が壊させた公民館の壁の修繕費を支払うため、町内会の屋台での販売権を勝ち取り、こうして出店しているらしい。リボーンから聞いたツナはへぇ、と関係ないように聞いていたが、リボーンによって請求書をツナ宛にされてしまったせいで、急遽チョコバナナの屋台をする事になってしまった。
とんだ災難だ、と自分の不運を呪うツナの耳にあれは!とざわつく屋台の人々の声が聞こえる。話を聞けば、ここら一帯を取り締まっている連中に一定の額のショバ代を払うのが伝統らしく、獄寺たちもそれに倣って払うつもりらしい。一体どんな偉い人が来るのか、少し緊張しながら待っていたツナたちに近づく人影があった。

「5万。」
「ヒバリさんー!?」

突然のヒバリの登場に驚くツナ、何しに来たとキレる獄寺。どうやらショバ代は風紀委員に払うようで、活動資金にするらしい。一体何に使うのかは怖くて聞けないが、払えなければ屋台を潰すと、ちょうど払おうとしなかった屋台を文字通り潰している風紀委員を見て、ツナたちは慌てて用意したお金を渡した。
と、そこで聞き覚えのある明るい声が聞こえてきた。

「恭弥くーん!!」
「……………くるみ。」
「川崎さん!?」

見ると何かを引っ張ってくる浴衣を着たくるみがカラコロと下駄を鳴らしながらやって来た。名前を呼ばれたヒバリはブスっとした顔で振り向き、ツナは急に現れたくるみに驚いた。

「見て見て!浴衣!」
「………………。」
「もう!何か言ってよ!言うことあるでしょ恭弥くん!」
「いつもと同じ。何が違うの。」

しつこいくるみに心底嫌そうな顔でバッサリ言い切ったヒバリにぷくりと片頬を膨らませたくるみがそうじゃないでしょ!と怒る。

「綺麗だねーとか、可愛いねーとか、そういうのないの!?」
「毎年同じやり取りしててなんでそんな事僕が言わないといけないの。」

意味が分からない、と言外に話すヒバリの顔は不機嫌そのもので、近くでやり取りを見ていたツナは青ざめている。しかし、幼なじみということで付き合いの長いくるみはそんなこと気にしないとでも言うように、じゃあ私じゃなければ言えるよね?と不敵に笑って自分の陰に隠すようにしていたもう1人を引っ張って自分の前に出した。

「!」
「ひっ、え……あ、こ、こん、ばんは…」

目を見張るヒバリの前には突然引っ張られてヒバリの前に出された浴衣姿のなまえだ。なまえを見た途端変わったヒバリの雰囲気に、悪戯が成功した子供のような心地でくるみがなまえの陰からひょこりと顔を出し話す。

「どーお?恭弥くん。初めてのなまえちゃんの浴衣姿。可愛いでしょー?」
「………………。」

くるみに1本取られたような心地がして酷く不快になったヒバリは不機嫌な顔のまま、目だけつつ、となまえの全身を上から下まで見る。見られているなまえは浴衣に合わせて持ってきていた巾着の持ち手をギュッと掴み俯いているが、真っ赤な顔は隠せておらず、耳や普段は見えない首元、鎖骨辺りまで赤く染っていた。
きっと瞳はまた泣きそうなほど潤んでいるのだろう。思ったヒバリは彼女の足元に目を留め、ついで彼女が持つ巾着を見た。

「それには何が入っているの。」
「えっ?ぁ…」

突然指さされて聞かれたなまえは一瞬反応が遅れたが、すぐに巾着のことだと理解し、入れた物を思い出しながら答えていく。
財布、ハンカチ、ティッシュ、少し化粧もして貰ったのでそれを直す為の化粧道具が入ったポーチ。あとは…と言葉を切るなまえに望んだ物が無かったのか、徐にヒバリが手を差し伸べた。

「見せて。」
「ぇっ?あ、はい…」
「なまえちゃん!?」

反射的に差し出されたヒバリの手に巾着を乗せたなまえに驚いたくるみは何してるの!?と怒る。いくらなんでも無防備すぎる。ヒバリが有り金全部盗んだらどうするつもりだと説教をするように言う姿は珍しい。そんなくるみにするわけないでしょ、と一言言って巾着の中身を確認したヒバリはすぐに確認したようで、なまえに巾着を返した。

「くるみ。みょうじなまえ借りるよ。」
「………………しょうがないなぁ、ここにいるからちゃんと連れてきてね?」
「行くよ、みょうじなまえ。」
「えっ?あ、はいっ…」

許可を出したくるみの言葉に被るようになまえに声をかけたヒバリはどこかに向かって歩き出す。それをカラコロと下駄を鳴らして追いかけるなまえは浴衣ということもあって歩きづらかったが、すぐにヒバリに追いついた。

「!委員長、どうされましたか?」
「救急箱持ってきて。」
「?はい。」

暫く歩いた先に、風紀と大きく書かれたテントが見え、入口にはリーゼント頭に葉っぱを加えた風紀副委員長の草壁哲矢が立っていた。ヒバリに気づいた草壁は声をかけるが、指示を受けてすぐにテントに入る。
困惑しているなまえはこっちとヒバリに声をかけられ、同じようにテントに入り、パイプ椅子が置かれてある場所まで連れられる。

「座って。」
「は、はい…」

言われるがままに恐る恐ると言った様子で座ったなまえ。ヒバリはそれを確認すると、彼女の足に目を向ける。
2人の様子を見ていた草壁は驚き、静かに目を見張る。というのも、ヒバリが座るよう指示を出したのはヒバリが座るために用意された椅子で、風紀委員は基本立つか祭りの見回りのために歩いている。疲れたとしても椅子に座ることは許されないという空気もあり、この広いテントで用意されたのはその一脚だけだった。自分のために用意された椅子を使うように言うのも、それを許す姿も見た事がなかったので草壁は酷く驚き、同時にヒバリにそうさせる彼女は何者なのか、と考えた。

「救急箱です。」
「そこに置いておいて。君は外にいて。」
「はい。」

草壁に指示を出したヒバリはテーブルに置かれた救急箱を開け、目当ての物を取り出した。そしてなまえの方を見て足浮かせて、と一言。言われたなまえは意味が分からず戸惑ったが、ヒバリの言葉に従い、地面についていた足を少し浮かせた。

「!あ、のっ…!?」

が、ヒバリが次の行動に出た瞬間驚き、固まった。
なんとヒバリはごく自然になまえの前で跪くように膝をつき、なまえが浮かせた左足首を掴み、下駄を丁寧に脱がし始めたのだ。
驚きもあるが、それより憧れの人に足を触られ、下駄を脱がされているという羞恥、膝をつかせてしまっているという罪悪感にも似た何かを感じ、慌ててやめさせようと手を伸ばす。

「動くな。」
「!ご、めんなさい…」

ピシャリとヒバリに言われてしまい、咄嗟に謝ったなまえは直視できない光景に羞恥で真っ赤になった顔を手で覆い、同じく羞恥で潤んでいた目を閉じた。すると、視覚が遮断されたことでより足の感覚に意識が行き、悲鳴を上げそうになる声を必死に抑えるように唇を噛み締め、早く終われ早く終われ!と心の中で唱えていた。

「もういいよ。」
「!はっ…はっ…はぃ…」

左足だけでなく、右足も同じようにされ、いつの間にか息を止めていたなまえは肩で息をしながら足を確認する。すると、足の甲、鼻緒が当たる部分に絆創膏が貼られていた。息を整えつつ不思議そうに見るなまえに、立ち上がって彼女を見下ろすヒバリは説明するように話す。

「慣れない下駄に、くるみはよく人を引っ張るからね。赤くなっていたから貼ったんだ。少しくらい持ち歩いておきなよ、君はよく転ぶんだから。」
「す、すみません…」

思わぬ気遣い、そして自分のドジっぷりを把握されていた恥ずかしさに縮こまったなまえは小さく謝罪する。そんな彼女に浴衣、とヒバリが声をかけ、気づいたなまえは反射で顔を上げる。赤く色づいた頬、潤んだ瞳、先程顔を覆ったせいで前髪が少し乱れたなまえを見て込み上げる何かをぐっと押し込めたヒバリはふい、と目を逸らして続けた。

「悪くないよ。だからこそ、乱れた姿は見たくないからね。」
「ぁ…」

くるみの時とは違い、直接的な言葉ではないにしろ褒められたなまえはヒバリから言われた言葉を噛み締める。そして、目を逸らして言ったヒバリのいつもと違う様子に逆に落ち着けたのか、穏やかな声でヒバリさん、と声をかける。
呼ばれたヒバリは逸らしていた目を戻し、なまえを見て驚き、目を見開いた。

「ありがとうございます。」

赤い頬と潤んだ瞳はそのままに、穏やかにそれでいて嬉しそうに目を細め、ゆるりと微笑むなまえの姿に無意識に息を呑んだ。
今までなまえの笑顔を見た事はあっても、全てくるみから一方的に送られる写真や見せられる動画などばかりで、こうして対面して笑った顔を見ることは無かった。第一彼女はいつも俯いたり目を閉じたりして、まともにヒバリと目を合わせたことも顔を見た事も少ししかない。
そんな彼女の笑顔を初めて真正面から見たヒバリはどくりと大きく脈打つ心臓を全身で感じ、なまえに悟られないようにふい、と目を逸らし、早く戻るよ、と声をかけて歩き出した。後ろからなまえがはいっ!と返事をして追いかけてくる音、気配を感じて、どこか心がじんわりと温かくなるような、そんな心地良さを感じていた。

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