リボーン複数主 | ナノ


▼ 標的34

鮮やかなハッキリとした青い色の空に高くそびえ立つ白い入道雲が浮かんでいて、季節感を感じさせる。少し視線を下げれば、太陽光を反射してキラキラと光る水面、白く輝く砂浜。そしてそこにいる多くの家族連れやカップル、友人同士のグループ。

「海ーー!!」

ツナは友人と初めて来た海に感情が高まり、着いて早々叫んだ。感慨深そうにしているツナの後ろでは山本と獄寺がやっぱ海はいいやなー、じじいかてめーは、といつも通りのやり取りを繰り広げている。

進級して時間はあっという間に過ぎ、ツナたちは夏休みに突入した。去年と同じように補習三昧なツナと山本だったが、今年は京子の兄、了平からライフセイバーの手伝いをしているから遊びに来ないかと海水浴に誘われたのだ。
以前のツナであれば泳げないからと少し迷っていただろうが、想い人である京子の水着姿が見たいという下心と、プール開きの際に泳げなければ女子に混ざってバタ足練習と言われ、市民プールでクロールを猛特訓した為自信もつき、誘いに乗った。今は京子たちの着替えが済むのを待つ間、場所取りに繰り出していた。

「見ろよ、あの子たちチョーかわいくね?」
「雑誌モデル?」
「声掛けてみちゃう?」

そんなツナの耳に他の海水浴客の会話が聞こえ、彼らの視線の先を見て顔を赤くした。

「お待たせー!」
「着替えてきましたー!」

そこにいたのは水着に着替えた京子、ハルを先頭に京子に誘われて来たなまえ、くるみ、由良の姿があった。想い人の水着姿に見惚れたツナは超カワイイ!と心の中で叫び、ツナたちの連れだと分かると周りの男性客もつまらなそうに声をかけるのを諦めていた。

「暑い。溶ける。死ぬ…」
「人間そうそう溶けたり死なないから大丈夫。」
「なまえちゃん大丈夫?」
「無理…」

暑さにやられ、既にフラフラななまえを心配するくるみ、由良も京子たちと同じように注目を浴びており、京子たちと少し離れていたことで同じグループとは思われなかったようで他の男性客からの視線を集めていた。なまえは気づいていないが、くるみ、由良は男性客の視線にしっかり気づいており、何かあれば彼女を守ろうと少しなまえの方に寄る。

「川崎!」
「や、山本くんっ…!」
「大丈夫か?今あっちにパラソル立てたからさ。」
「う、うん!大丈夫だよ!ありがとう!」

が、それは杞憂に終わり、ツナ同様くるみの水着姿に見惚れていた山本が男性客らが声をかける前にくるみに声をかけたことで周りに牽制をかけた。
くるみだけに声をかけた山本にもしやと思ったなまえ、由良はアイコンタクトを取り合う。
これはもしやそういうことでは?焦るのは早いけどそういうことでしょうね。
頷き合った2人は行動に移った。

「山本くん、くるみちゃんの水着どう!?可愛いでしょ!」
「ん?」
「なまえちゃんっ!?」

先程まで暑さにやられていたとは思えない程軽やかな動きでくるみの腕に抱きつき、山本の前に出すように引っ張ったなまえの行動にくるみも山本も驚き、顔を赤くする。
あー、と視線を右に左に彷徨わせ言葉を選んだ山本は暫くして持っていた自分のパーカーをくるみにかけた。

「!あの、山本くん…?」
「いや、あの、似合ってるんだ!すげー似合ってる!けどさ、その…肌出しすぎじゃね?折角キレーな肌してんのに、日焼けしたら勿体無いっつーか…」
「っ!」
「だからこれ、着ててくんねーかな?」
「わ、かった…」

真っ赤な顔で小さく言うくるみに満足したように少し赤い顔で笑う山本。2人は先に合流していたなまえに声をかけられるまで暫くそのままだった。


なまえより先にツナたちの方に合流していた由良は持っていた自分となまえの荷物を置いて獄寺の方へ向かった。

「獄寺、手伝うよ。」
「おー。そっち持っとけ。」
「了解。」

パラソルの微調整をしていた獄寺の指示に従い、支える。
ふと、視線をツナの方に向けると、彼はブレることなく想い人である京子の水着姿に釘付けで、ポーっと見惚れている。そこにハルが乱入し、賑やかな様子だった。
眺めているだけの由良とツナの視線が交わることは、ない。分かっていたことだけれど、こういうところで痛感してしまう。悲しげに、しかし諦めも混じったように笑った由良はそのままなまえたちが来るまで獄寺の手伝いをして気を紛らわせた。


全員無事合流出来たところで頭上から声がかかる。椅子に座って海の安全を見守っている了平だ。ツナたちに歓迎の言葉をかけた了平は椅子からハシゴを使って降り、仲間を紹介すると言ってきた。

「と、その前に…夏バテ気味のパオパオ老師だ!」
「ぱ…」
「(ダレすぎー!!)」

先に紹介されたのはパオパオ老師と呼ばれた象の被り物をしてボクシンググローブをつけた赤ん坊、言わずもがなリボーンで、夏バテ気味を演じているのか一言発するだけでぐでっと椅子に座り込んでいる。初パオパオ老師に感動するなまえ、くるみは目を輝かせた。
了平はそれから、とキョロキョロと辺りを見渡し、誰かを探していた。

「困るんだよね、ゴミ捨てられっと。」
「俺らの仕事増えるっつーか?」
「ご、ごめんなさい…」

と、近くからポイ捨てをしてしまったのだろう小さな子供を脅すように胸倉を掴み上げて凄む3人のガラの悪い男達がいた。彼らは謝った子供に分かればいいと言って、何故かここ一帯の掃除を任せ、1人は空き缶をポイッと投げ捨て、1人は今の今まで噛んでいたガムを吐き捨てた。
その光景に見ていたこちらは不快に感じていたところ、なんとその男達が了平の先輩で、ライフセイバーをしているという。驚くツナたちに先輩らはうぃーっすと軽く挨拶をする。
元並中のボクシング部の先輩だと紹介する了平の近くに来た先輩らは、京子たちに目をつけた。

「お、もしかして了平の妹ってコレ?へぇー、結構好みかもしんない。」
「こ、こんにちは…」

あまり関わったことの無い部類の人物から声をかけられた京子は気圧されたように戸惑いながら挨拶をする。先輩らはそのまま強引に京子、ハル、なまえの肩に腕を回し、女の子は俺たちと遊ぶからとツナたちにライフセイバーの仕事を押し付けようとした。勿論それに黙っているツナたちではなく、獄寺、山本がきっぱりと断り、了平も仕事をさせるために誘った訳では無いと抗議した。

「分かんねーのか了平?俺たちはかわいい後輩にライフセイバーの素晴らしさを伝えたいんだ。」
「なるほど!」

ぽん、と手に拳を置いた了平にすかさずぽん、じゃねーよ!と獄寺が指摘する。金髪に染めた髪が伸びたことで頭上部分だけ黒くなってしまっている所謂プリン状態の先輩と、ドレッドヘアの先輩が了平やツナたちに説明するため京子、ハルから腕を離したことで開放された彼女らが兄たちを手伝うと話す。
ハルが名前を出したことでツナ、獄寺、山本の3人が先輩ら3人とスイム勝負をすると話が進む一方で、1人スキンヘッドの先輩はなまえに腕を回したままで、一向に離す気配もない。急に触られたことや、何をされるのか分からない恐怖で顔を青くするなまえに由良とくるみが動いた。

「きゃー!おっきなカメムシー!」
「おーっと足が滑ったぁー!」
「ぐっふ…!」
「(2人ともめちゃくちゃ棒読みだー!!)」

くるみが持っていた荷物が入ったバッグをスキンヘッドの先輩の顔に遠心力を使って当て、怯んだ隙に今度は由良が綺麗な回し蹴りを腹にお見舞した。腹を抑えて後退する先輩に白々しく謝る2人はなまえを連れて素早くツナたちの方に戻った。

「へ、へへっ…強気な子も悪くは無いぜ…」

顔を引き攣らせた先輩はそう言い、気を取り直すように了平を審判に任命して突如としてスイム対決が始まった。


第1泳者は山本とドレッドヘアの先輩だ。

「山本くん!頑張ってね…!」
「おう!」

くるみの応援にニカッと笑って答え、ピストルの合図と同時に海に入り、泳いでいく。
野球部とは言え運動神経抜群の山本は水泳も上手く、ドレッドヘアの先輩をぐんぐん遠ざけていく。すごいすごい!と囃し立てるツナたち。そのまま余裕で帰ってくるかと思いきや、回ってくるはずのたんこぶ岩から戻ってきたのは先輩だけで、そのまま第2レースに突入してしまった。
第2泳者の獄寺も山本と同じように最初は先輩よりも速く泳いでいたが、戻ってくることはなく、先輩が帰ってきたことで先輩たちの勝利となってしまった。しかし山本が帰ってこなかった時点で何かをしたのかニヤついていた先輩が、自分は寛大だとでも言うようにツナが勝てば勝ちと言い、勝負の続行を提案した。罠だ、と怯えるツナは絶句した。
するとそこへ了平が待ったをかける。獄寺はまだしも第1泳者の山本が戻ってこないのはおかしすぎる。岩で何かあったに違いないと、心配だから岩に行くと言う了平に、ツナたちが大いに賛同した。

「私も行きます!山本くんたちが心配なので!」
「くるみちゃん…」

原作を知っていると言っても、やはり心配なものは心配だ。不安げな表情で名乗りを上げたくるみに、同じく不安そうになまえが声をかける。

「分かんねー奴だな了平!今奴らは岩の自然と語り合ってるんだから邪魔するな。」
「なるほど!」
「お兄ちゃん!」
「人疑わなさすぎでしょこの人。」

しかし、再びおかしな理由でぽん、と納得してしまった了平は先輩に洗脳でもされているのかというほどあっさり引き下がり、ツナの勝負を始めてしまった。
海で泳ぐのは初めてというツナだったがその心配は杞憂に終わり、山本や獄寺のように速くはないが着実に進めていた。応援していた京子たちからもすごい!との声が上がり、感動していたツナだったが、突如聞こえてきた声に一気に空気が変わった。

「誰かぁー!!ウチの子を助けてー!!」

砂浜から女性の悲痛に満ちた声が聞こえ、ツナたちが泳いでいるコースの少し外れたところで浮き輪で浮かんでいる女の子が流されているのが見えた。
幼い頃溺れたり流されたりしてライフセイバーのお世話になっていたツナはここはライフセイバーの出番だと先輩に一時休戦にしよう、あの子を助けようと言うが、先輩は断る。彼らはナンパ目的でライフセイバーになっただけで、自分の命を危険に晒してまで助けに行きたくないと言ったのだ。
幼い頃の経験上、流される恐怖を身をもって知っていたツナは死ぬ気弾を撃たれていない状態だが、女の子を助けようとコース変更した。

「助けに行く気だ!」
「ツナ君!」
「無茶です!」
「沢田!」

砂浜から様子を伺うことしか出来ない由良たちはツナの行動がどれだけ危険か理解しているので、皆青い顔で見守っている。しかしそんな周りの心配を他所に、ツナは無事女の子の所に到着し、もう大丈夫と声をかけていた。その様子にわっ!と歓声が上がったのもつかの間、ツナは気が緩んだのか体の力が抜けてしまい、海に沈んでいってしまった。

「そんなっ…」
「沢田!」

皆が緊張した面持ちでツナの無事、少女の無事を願う中、荒々しい姿となって持ち直したツナが少女を抱えて死ぬ気で泳ぎ出した。その額には死ぬ気の炎が灯っており、ツナの近くにいたリボーンが死ぬ気弾を撃ったことで再び持ち直せたようだった。
再びわっ!と歓声が上がる砂浜で、様子を見ていたライフセイバーの先輩らがそうはいくか、と妖しく笑う。どうやら山本、獄寺が戻らなかった岩陰には彼らのガラの悪い後輩たちが待機していたようで、誰かと連絡を取り合っているのか、ボコボコにしてやれと指示を出していた。

「後輩ってのはコイツらのことか?」
「!」
「何ぃー!?」

下品に笑う先輩達に声をかけたのは戻ってこなかった山本、獄寺で、2人の足下には後輩だろう日焼けした男達が全員ボコボコにされた状態で倒れていた。驚く先輩達に凄む獄寺、笑顔だか圧をかける山本が彼らをボコボコにする前に動いた影が2つあった。

「あーっと今度は手が滑ったぁー!」
「がっ…」
「きゃー!今度はサソリがー!!」
「ぐっ…」

卑怯な手を使う先輩方に苛立った由良とくるみだ。2人は分かりやすい棒読みのセリフで由良は顔面を殴り、くるみは腹を膝で蹴った。
呻き声を上げて気絶してしまった先輩らにやりすぎたか?と思ったが、スッキリしたので良しとしようと気にしないことにした。

そしてツナの方では、賞賛を浴びるツナに手柄を取られまいと勝負していた先輩が少女を連れていくと邪魔しようとして死ぬ気のツナに殴られていた。そのままツナは少女を砂浜まで連れていき、救助に成功した。

「助けてくれたのはもっと鬼みたいな顔したお兄ちゃんだった。」
「!」

しかし、ちょうど死ぬ気が解けたツナはいつもの顔立ちに戻ってしまい、少女は違う人だと勘違いして信じてもらえなかった。周りの海水浴客も違う子だと同意し、ツナはショックを受けていた。その様子を見ていた由良が少女に近づく。

「このお兄ちゃんね、困ってる人を助ける時以外、お顔が違うんだよ。」
「えっ?」
「神崎さん?」

少女と目線を合わせるようにしゃがんで話す由良はどういうこと?と目で訴えてくる少女に笑みを深くし、続けた。

「君を助けたのはこのお兄ちゃんなんだけど、あんなに怖い顔してたらみんな怖くなって近づかないでしょ?だから今みたいに優しい顔してるの。ほら、髪型は同じでしょ?」
「………………。」
「っ………。」

由良から説明を聞いた少女はツナの方をじぃっと見つめる。見られたツナは緊張した面持ちでごくりと唾を飲み込んだ。
少女はやがてパッと表情を明るくし、本当だ!と言ってからツナに近づいた。

「さっきは違う人って言ってごめんなさい。助けてくれてありがとう!」
「あ、ううん。全然…無事でよかった…」

突然のお礼にしどろもどろになりながら答えるツナにニコッと笑った少女は、何度も頭を下げる母親に手を引かれて去っていった。

「余計なお世話だった?」
「えっ?」

呆然とした様子で、でもしっかり手を振り返すツナに近づいた由良は聞いた。突然聞かれたツナは一瞬戸惑って、すぐに首を振る。

「神崎さんが言ってくれてよかったよ。まあ、やっぱりせっかく助けたんなら感謝されたいというか…そういうのはあったからさ。」

その言葉にホッと安堵した由良は続けられたでも、という言葉に顔を向ける。

「一番は、あの子が助かったことが嬉しかった、のかな。流されるのって本当怖くてさぁ〜。」
「!………そっか。」
「あ!皆のところ行かないと!待たせてるし!」
「だね!」

心の底から思っているであろうツナの言葉、そして穏やかな表情に目を見開き、息を詰まらせた由良は悟られないように振る舞うので精一杯だった。
ツナの表情を見て顔を少し赤らめたことに気づかない程には、余裕がなかった。
顔の赤みをなまえから指摘され、慌ててなんでもない!と答える由良をリボーンは複雑な眼差しで眺めていた。

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