リボーン複数主 | ナノ


▼ 標的33

静かな神社の境内にパンパン、と手を叩く音が響く。手を合わせて目を閉じているのはなまえだ。春休み後半から毎日時間は違えどこうしてお参りに来ている。

「よしっ。」

一礼終えてから足下に置いていたスクールバッグを手に持ち、転ばないよう気をつけながら石造りの階段を駆け降りる。
今日は始業式の日。なまえはいつもより家を出る時間を1時間早めて、学校とは反対方向にある並盛神社に行ってから由良との待ち合わせ場所に向かっていた。時計を確認すれば、普通に歩いても待ち合わせの時間には充分間に合う。早歩きか小走りで行こうとしていたなまえはホッと息を吐き、歩を緩めた。
ドキドキと早く鳴る心臓は階段を降りた時の反動か、それともこれから発表されることへの期待と緊張か、分からず何度も深呼吸を繰り返す。それでも気持ちが落ち着くことはなく、大丈夫大丈夫と声に出して自分を安心させる。

「なまえ。」
「由良!おはよ!」
「おはよ。」

そうしているうちに待ち合わせ場所に着いていたようで、先に待っていた由良から声をかけられる。時計を確認すると、いつもより少し早い時間。

「柄にもなく緊張しちゃってさ…」
「由良も?私も〜!」

照れたように頬を指で掻きながら話す由良に親近感を抱き、少し緊張が解れたなまえは安堵し、話し出す。

「とりあえず、やれることはやったよ。厄祓いも行ったし、ここ1週間毎日欠かさずお参りしたし!」
「私も厄祓いと、御守り買った。」

2人が話す内容はまるで受験を控える受験生のようだが、彼女たちは今日から2年生に進級するので受験は一切関係ない。では何故このような会話をしているのか。

「今年はクラス一緒になるといいよねー!」
「去年の二の舞は避けたいよね。」

そう。今日は始業式の日であり、2年生に進級した彼女たちの新しいクラスの発表の日でもある。
並中生はまずクラス発表の掲示板でクラスを確認し、そこから自分の教室に行き、始業式を迎えるのだ。
入学式の日、クラスが別々となり大変ショックを受けたなまえと由良はこの1年、媚を売るという名目で友達100人を目指したり、教師からの頼み事を率先して手伝っていた。そして最後の足掻きと言わんばかりに2人して春休み中神頼みのように厄祓いだったり、御守りだったりお参りをして同じクラスになれるよう彼女たちなりに努力した。
そして今日、その努力が報われるかもしれないので、2人とも緊張した面持ちで登校していた。

「大丈夫だよね?」
「たぶん、大丈夫。」
「一緒のクラスになったら一緒にご飯食べようね!」
「そうだね。」

なまえの問いかけや声掛けに硬い声で返す由良。そんな調子で歩いていると、ようやく学校の門が見えてきた。どちらともなく足を止める。

「…………いよいよだね。」
「うん。準備はいい?」
「大丈夫!」
「よし!」

いざ!と意気込んで2人はクラスが貼り出されている掲示板まで進んでいく。去年は場所が分からず色んなことで不安だったが、今年は場所も分かっているのでその足取りに迷いはなかった。

「見える?」
「なん、とかっ…?」

クラス発表を見ている他の生徒らに混ざって自分の名前、隣にいる友人の名前がどのクラスの所にあるかよく見て確認する。

「あ!由良の名前あった!」
「!ホントだ。えーっと…A組だ。」
「よし来た!A組ね!」

先に見つけたのは由良の名前で、A組の紙に書かれていた。と、いうことはつまり、A組になまえの名前が書かれていたら良いのでモレがないように目を凝らして確認する。

「……………………なくない?」
「いや!そんなはずはない!諦めないで大丈夫!」

もう一度!と確認するが、いくら見ようともなまえの名前が見当たらない。嘘だ、そんなはずない。でももしかしたらあるかも。そんな会話をしながら念の為B組、C組の紙も確認する。
B組。ない。
C組。

「あった…」
「……………えっ?」

発見した由良にそんなまさかー!と茶化そうと確認して、固まった。
本当にあった。みょうじなまえという名前が、C組の紙に。

「どうして…!!」
「落ち着いてなまえ!まだ私の名前しか確認してないんだから、もしかしたら川崎さんの名前とか、沢田の名前とかがあるかもしれない!」
「はっ!」

あんなに神頼みまでしたのにこの仕打ちは無いだろう!絶望で顔を手で覆うなまえに由良が励まし、希望を持てるような言葉を投げかける。
そうだ。原作ではツナたちはA組だけど、くるみはもしかしたら今年も一緒になってるかもしれない。そんな希望を持ち、もう一度C組の名簿を確認する。

「…………ない…」

最早泣きそうな声である。
C組にはツナたちの名前はもちろん、去年1番仲良くしていたと言っても過言ではないくるみの名前もなく、完全になまえは孤立した。

「なまえちゃん、由良ちゃん、おはよう!」

そんな2人に後ろから弾んだ声で挨拶をしてきたのは今まさに話題に出していたくるみだ。見れば嬉しいという気持ちが前面に出た満面の笑みで駆け寄ってきた。

「川崎さん。おはよう。珍しいね、今日は手伝いはいいの?」
「うん!」
「くるみちゃぁん…!」
「えっ?」

由良の疑問に元気よく答え、続けようとしたくるみは半泣きのなまえに抱きつかれてそれどころではなくなった。受け止めつつどうかしたのか由良に聞けば、なまえが2人とクラスが離れてしまったことを説明される。

「えっ!?」

由良の説明を聞いて慌ててクラス表を確認すれば、確かになまえの名前が書かれてあるC組には自身の名前も由良の名前もない。そんな…!とショックを受けるくるみに由良が川崎さんは何組だったの?と聞いてくる。するとくるみは気まずそうになまえ、由良を見てから小さくA組、と答えた。

「どうして…!!」

くるみから離れたなまえは今度こそわっと顔を手で覆い、叫んだ。厄祓いまでして、お参りまでしたのに、あんなに神頼みしたことは無いと言うくらいには必死に頼み込んだのに、どうしてこんな酷い仕打ちをするのか。

「よ!何してんだ?こんなところで。」
「や、山本くん!」
「はよ!川崎今年同じクラスだったよな?これから1年よろしくな!」
「う、うん!こちらこそ、よろしくね!」

悲しみに打ちひしがれてるなまえにどう声をかけようかと悩んでいたところ、後ろから明るい声が聞こえてきた。見れば山本と獄寺がおり、山本はくるみに声をかけていた。顔を赤らめて答えるくるみとそれを見る山本のいつもと違う眼差しに私らも一緒だけど、という言葉をぐっと飲み込んだ由良はくるみにしたようになまえのクラスについて説明する。

「そっか。みょうじは違うクラスになっちまったんだな…」
「けっ。日頃の行いの結果だろ。」
「獄寺くん?」
「日頃の、行い…」
「なまえ、気にしなくていいからね。」

残念そうに言う山本とどうでもいいとでも言うように吐き捨てる獄寺。くるみは獄寺の態度に青筋を立てるが意に介した様子はない。由良は気にしてしまったなまえを励ましているが、なまえは聞いていないようで考え込み、ハッと顔を上げた。

「ヒバリさんに、たくさん会ってしまったからでは…?」
「えっ?」
「ヒバリさんにたくさん会ってお話するという行為で運を全て使い果たしてしまったんだ…!」
「いやそれはおかしいでしょ。」

納得した様子のなまえに誰もついていけず、由良が声をかけるが聞く耳を持たず、私もうヒバリさんに会わない!と公言してしまう始末だ。聞いていたくるみはそれはきっと無理だと思うと心の中で返し、しかし今のなまえに言うのは酷だと考え由良と共に落ち着かせるよう声をかけた。

「内藤ロンシャンくん!無事2年へ進級おめでとう!!」
「まーね!ピースピース!!」

ふと、なまえを落ち着かせようと声をかけている由良の耳にテンションの高い声、やり取りが聞こえてきた。
振り返ると、進級したと言うだけなのに胴上げをしている集団を発見した。その集団の中、胴上げされている赤い髪の男子生徒は見覚えがあり、更には先程呼ばれていた名前も聞き覚えがあった。確か、なまえと同じクラスだった異様にテンションが高い生徒だった気がする。と、そこまで考えてハッ!とある考えに辿り着く。

「なまえ。アンタああいうタイプ苦手だったよね?」
「え?……………うん。」

突然由良に聞かれたなまえは胴上げ集団に目をやり、小さく頷いた。その様子を見て、先程自分の名前を確認する前に何故か花で囲まれていた名前を思い出し、やっぱりと確信する。

「たぶんアイツと離れる為に運を使い果たしたんだと思う。」
「えっ…」
「彼、A組だったから。」
「………………なるほど?」

なまえがパニック状態で良かった。心底思った由良は疑問に思っているであろうくるみが口を挟めないよう矢継ぎ早にヒバリとの遭遇などではなく内藤ロンシャンと離れる為にC組になったのだと説明しまくり、圧倒されたなまえは呆けた様子でそうだね、と同意した。よし!と片手でガッツポーズを作った由良はそのままなまえと教室に向かった。

「ま、待って!なまえちゃん!由良ちゃん!話したいことがあるの!」

由良となまえのやり取りに、というよりも由良の勢いに呆気に取られていたくるみは慌てて2人を追いかける。
残された獄寺、山本は後からクラスを見に来たツナと合流し、そこで内藤ロンシャンとも鉢合わせ、巻き込み巻き込まれることになるが、今は知る由もなかった。

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