リボーン複数主 | ナノ


▼ 標的31

閑静な住宅街を軽やかな足取りで歩くのはくるみだ。昨日の天気予報で今日は晴れて桜も満開になるから見頃だろうと伝えられ、ちょうど休日ということもあって花見に行こうと思い立ったのだ。
毎年幼なじみが1人で花見を楽しむために絶好の場所を占拠していることは知っているので、そのおこぼれを貰おうと考え、それならば、幼なじみに懸想しているなまえも誘おうと昨夜電話で誘っておいた。
寝起きと比べて夜は普通に会話出来るので最初は遠慮されたが大丈夫!と押し切り、今は迎えに行くと伝えたなまえの家に向かっていた。

「なまえちゃん!おはよう!」
「くるみちゃん、おはよう。」

家の前で待っていたなまえと目的地に向かうため歩き始める。ふと、なまえが持つ紙袋の中身を聞いてみると、花見だからとおにぎりを作ってきたそうで、後で食べようとはにかみながら言われたので元気よく頷いた。
そんな2人が向かうは町で一番桜が植えられてある並盛中央公園。朝の早い時間帯であるが、こうでもしないと良い場所が取られてしまうかもしれないし、群れてると不機嫌になって善良な一般市民を噛み殺してしまうかもしれない幼なじみを止めなくてはならない。それに何より、

「(恭弥くん、サクラクラ病にかかってすぐ帰っちゃうんだよね。)」

チラリと隣を歩くなまえを見れば、慣れない早起きをしたせいか大きな欠伸をしていた。そんななまえと、日々なまえの可愛いところを伝えているおかげか少し彼女に興味を持っている様子の幼なじみが少しでもいい雰囲気になれば、と1人意気込んだ。


目的地である並盛中央公園は桜が満開になっており、どこもかしこも淡い桃色で埋め尽くされていた。
その景色に感嘆の声をあげるなまえと、キョロキョロと辺りを見渡すくるみ。確かいつもこの辺りに。呟きながら目を凝らしてみていれば、視界の端に黒い学ランが入った。

「!なまえちゃん、こっち!」
「あ、うん…っ。」

満開の桜に目を奪われているなまえの手を引っ張って先程学ランが見えた場所に向かえば、件の人物はそこにいた。

「恭弥くん!」
「………………くるみ…!」

呼びかければムッとした表情でくるみを見たヒバリは、彼女に手を引かれているなまえを見て目を見張る。
勝った。
その表情の変化と、見た途端一気に霧散した機嫌の悪さにニヤリと笑ったくるみはコソッとなまえに何かを耳打ちする。聞いたなまえは真っ赤になった顔で驚き、無理だよ!とブンブン首を横に振る。そんな彼女にいいから大丈夫!と言って背中を押すくるみ。

「っ!ぁ…」

押されたなまえはつんのめりながらもヒバリの前に出てしまい、見上げればこちらを見るヒバリと目が合い、顔を更に赤くし、目を潤ませる。そんななまえの様子に心地いいような、不快なような、よく分からない苦しさを感じたヒバリは、しかし彼女をどうこうしようという気にはならず、何か言うのを待っている。

「あのっ…い、一緒に、お花見、したいっ、ですっ…!」

手を胸の前で組み、目をギュッと瞑って懸命に伝える姿にくるみは可愛らしい!と目をキラキラさせて見ており、言われたヒバリは目を閉じたことにムッとしたものの、不思議と悪い気はしないと感じていて、好きにしたらと言い捨てどこかへ歩いていった。

「待って恭弥くん!なまえちゃんがね、おにぎむぐっ…」
「くるみちゃん待って待ってホントに待って!?」

そんなヒバリを呼び止めたくるみが何を言おうとしているのか察して、普段の運動音痴では考えられないほど俊敏な動きでくるみの口を抑えるなまえは必死な表情でブンブン首を横に振って叫んでいる。
くるみはジト目でなまえを見るが、そんなもの通用しないとばかりにお口チャック!と片手で摘むような仕草をして自分の口元をなぞる様に横に滑らせる。
そんな2人の様子を見ていたヒバリは、くるみの口を抑えている方の腕に提げている紙袋に目をやった。

「これ?」
「あっ!」
「ぷはっ…そう!それ!」

ヒバリが近づいたことで固まったなまえはあっさりと紙袋をヒバリに取られてしまい、さらにくるみを抑えていた手も離してしまった。なまえが止める間もなくなまえちゃんが作ったおにぎりだって!と嬉しそうに話すくるみにへぇ、と答えたヒバリは紙袋から2つ手に取った。

「これで貸し借りなしにしてあげる。」
「えっ…」
「ありがとう恭弥くん!」

一言告げて紙袋をくるみに渡したヒバリは今度こそどこかへ歩いていった。


ちょうどその頃、由良は早朝で人もまばらな商店街を歩いていた。並んで歩いているのはツナ、獄寺、山本の3人で、全員リボーンから花見の場所取りをしてこいと連絡を受けて並盛中央公園に向かっていた。
合流した時青い顔をしていたツナに話を聞いたところ、最初はビアンキが場所取りをしようとしていたが、場所取りでポイズンクッキングを使うつもりだということが判明し、慌てて止めたところじゃあツナが、ということになったらしい。更にいい場所でなければ殺すとまで脅されたとのことで、相変わらずだなあと思いつつ、いい場所見つけられたらいいね、と声をかけた。

暫く歩いていると遠目からでも桜が見え始め、そこから更に歩みを進めればすぐに目的地に到着した。並盛中央公園の桜は満開で、これならいい場所を見つけられたら絶景間違いなしである。

「おー!ラッキー!」
「一番乗りだ!」
「これで殺されなくて済む〜。」

山本、獄寺、ツナが言ったように、並盛中央公園には人がおらず、場所取りには絶好のチャンスだった。すぐにいい場所を取ってしまおうと由良が声をかけようとしたところ、背後からここは立ち入り禁止だと声がかかる。
振り返ればそこには学ランに身を包んだリーゼント頭の男がいて、ここ一帯の花見場所は占拠したから出て行けと言ってきた。
見るからの不良に怯えるツナ以外の3人は不満げに顔を歪め、私有地では無いのだから理不尽だと口々に言うと、不良は出て行かないとしばくと指をゴキゴキと鳴らし、凄んできた。が、それに怯む訳もなく、獄寺がすかさず腹に蹴りを入れ、のした。

「うわぁ…」
「んだよ。」
「いや、こっちから仕掛けたら正当防衛って言えないじゃん?」
「神崎さん何言ってんのー!?」

ドサリと倒れた不良を前に4人でわいわい話していた時だった。

「何やら騒がしいと思えば君たちか。」
「!ひ、ヒバリさん!!」

背後から静かな、それでいて芯のある声が聞こえ、そこにはヒバリが佇んでいた。
確認すれば、倒れている不良の腕に風紀の腕章がつけられており、風紀委員だと分かったツナが驚きの声を上げた。聞けば群れるのを嫌う彼らしく、群れる人間を見ずに桜を楽しみたいからと先程の風紀委員に追い払ってもらっていたらしい。しかし獄寺の蹴り一つで倒される彼はお気に召さなかったようで、ヒバリは弱虫は土にかえれとトンファーで殴り気絶させた。

「見ての通り、僕は人の上に立つことが苦手なようでね。屍の上に立ってる方が落ち着くよ。」

仲間を!とゾッとするツナたちにさも当然と言わんばかりに淡々と話すヒバリに背筋が凍るような心地がした。

「やっぱり沢田くんだ!」
「えっ…川崎さんにみょうじさん!?」
「なまえ?」
「!由良っ…!由良〜!」

トンファーを構えたヒバリがすぐにでも襲いかかるだろうピリついた空気に似つかわしくない明るく弾んだ声が聞こえたと思えば、ヒバリの後ろからくるみと慌ててついてくるなまえがやってきた。驚き声を上げるツナ、友人がいるとは思わず名前を呼んだ由良に気づいたなまえはパタパタと由良に駆け寄り抱きついた。半泣きの様子のなまえを受け止め、頭を撫でつつどうしたのか聞けば心の安寧を保っているとよく分からない返答をされた。今の今までヒバリと同じ空間を共にしていたので感動や羞恥やらで生きた心地がしなかったなまえは由良を見て安心したのだが、説明する余裕も今はなかった。

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