リボーン複数主 | ナノ


▼ 標的23

帰りのHRも終わり、放課後を迎えた。帰り支度を済ませた由良は鞄の中に鎮座してあるそれを目に留めて、すぐに逸らし何事も無かったかのようにファスナーを閉める。
今日は2月14日。世間一般で言われるバレンタインデーだ。朝から学校中甘い香りとどこか浮き足立った雰囲気の生徒で溢れかえっていた。それは放課後になった今現在も留まることを知らず、同じクラスで女子生徒に人気のある獄寺と山本はチョコを受け取って欲しいという女子生徒達に囲まれている。
由良は今日、いつも通学に使うスクールバッグとは別に、バレンタイン用のチョコを入れるための紙袋を持ってきていた。朝は友人たちに配る為のチョコでいっぱいだったそれは、今は友人たちから貰ったチョコでいっぱいになっている。
紙袋を見て、もう一度スクールバッグを見る。この中に入っているのは、友人たちに配ったチョコとは少し違う、なるべく丁寧にラッピングしたものが入っていた。渡したい相手は、朝に遭遇したなまえやくるみ以外からは貰っておらず、山本や獄寺のように女子生徒に囲まれていることもない。何時でも渡すチャンスはあったのに、放課後になるまで渡せずにいたのは、由良にその勇気が無かったから。相手の性格から、チョコを受け取ることに断ることは無いが、本当に欲しいチョコは由良からのものではないことは今までの言動を見ていて知っている。

「………。」

ちら、と無言で相手の方を見れば、彼は期待と不安が入り混じった表情で意中の相手、笹川京子を見ており、由良の視線には気づいていないようだ。そうしているうちに、京子は友人らに別れの挨拶を済まし、教室を出てしまった。その様子を見るに、チョコを渡すことなく帰ったようで、少し安堵し、すぐに自分の嫌なところを見せつけられた気がして気持ちが沈む。
ファスナーを開けてもう一度チョコを見る。たぶん手元にあると今日1日ずっとこんな風に過ごしてしまう気がする。それならばいっそ、相手に渡してしまえばいいのではないだろうか。幸い料理には自信があるのだから、味は問題ないはずだし。

「よし…!」

気合を入れた由良はラッピングされたチョコを手に渡そうとした相手、ツナの所に向かった。京子に夢中のツナは近づく由良に気づいていない様子だが、ツナは声をかければ必ず反応してくれるので大丈夫。

「さ…」
「復活(リ・ボーン)!死ぬ気で京子のチョコの行方を知る!」

安心していたのも束の間、由良が声をかけようとした矢先にツナは人が変わったようにパンツ姿でどこかに走っていってしまった。ポツンと残された由良の耳に、同じようにツナの変わり様を見ていたクラスメイトの会話が入ってくる。

「積極的〜。あれダメツナだよね?」
「アイツたまに純愛の女神降臨するのよ…」
「沢田もすごいけど、沢田がこれだけ思ってるのに気づかない京子も京子よね…」

分かっていた事実が周りからの会話で鋭いナイフが由良の体に突き刺さるような感覚で伝わる。タイミングが悪かったの一言に尽きるが、せっかく振り絞った勇気も一気に萎み、渡せずに終わってしまったチョコは家族にでもあげようか、と諦めたように息をつく。どうして朝に渡さなかったのか、心の準備ができていなかったという言い訳をしていた今朝の自分を恨む。そんなことをしたところで時間が巻き戻るわけではないから意味の無いことだ。

「ちゃおっス。」
「リボーンくん……こんにちは。」

そんな由良のもとにツナをパンツ姿にした原因であるリボーンがやってきた。しかしそういった説明を受けていない由良は気づかずに、学校に入って大丈夫?と優しく問いかける。平気だと答えたリボーンは由良の手にあるチョコを目に留める。

「ツナにやるつもりだったのか?」
「………ああ、うん。でも、もう帰っちゃったみたいだから、やめておくよ。」
「追いかけねーのか?」
「………………あれだけ、一途なのを見せられたら、ねえ…」

くしゃりと顔を歪めてしまったことを隠すように俯いた。机に立っていたリボーンに目線を合わせるようにしゃがんでいたので顔が見られることはなかったが、鋭いリボーンのことだ、きっと気づいているだろう。

「遠慮ばかりしてるとマフィアの世界じゃすぐ死んじまうぞ。」
「あー…まあ、その時はその時でしょ。」

既に一度死んだ身である由良は、リボーンの脅しのような本気のようなよく分からない話にそう返す。聞いたリボーンは何かに感づいたのか顔を伏せる。

「とにかく、追いかけてやれ。ツナはガキだからな、お前が追いかけてまでチョコを持ってきてくれたと知れば大喜びするぞ。」
「えぇ…」
「渡さねーで後悔するより、渡して後悔した方がよっぽどいいだろ。」

似たような考えで行動を起こした由良には耳が痛い話である。歯切れ悪くそうだね、と同意し、ひとまずリボーンの言う通り、追いかけてみることにした。やっぱり、せっかく作ったのだから渡したいという気持ちが強いのだ。
そうと決まれば、いつも一緒に帰るなまえに帰れなくなったと伝えなければならない。きっとこちらと同じようにHRを終えている頃だろうから携帯も見れるだろう。急いでメールを作成し、送信する。ちょうど携帯を見ていたようで了解と返事が来たことに安堵する。

「よしっ…」

もう一度気合いを入れ直し、鞄と紙袋を手に持って教室を出た。

「あ。」
「あ。」

ちょうどその時、教室の前を通り過ぎようとしていたなまえとばったり出会した。今さっき帰れないとメールを送ったばかりだったので非常に気まずい。そしてそれは向こうも同じようで、目に見えて動揺しているのが分かり、す、すぐ帰るから!と口早に言って走るようにスタスタ進んでしまった。
相変わらず分かりやすい子だなあと少し拍子抜けしてしまった由良はなまえを追いかけ、追いついた。

「あんなメール送っといてアレだけど、途中まで一緒に帰ろ。今日寄る所あるから。」
「え、大丈夫なの?」
「うん。平気。」

こういうところなんだよなあ。
戸惑って進まないなまえを放って先に歩き始めれば焦ったように待ってよーとパタパタと追いかけてくる。横に並んだなまえを見て安心したように笑った。
ツナの家は2人が使う通学路の途中にある分岐点を曲がれば繋がるので、別々で帰る必要はなかった。それでも由良が一人で帰ることを望んだのはなまえにある。なまえは気を許した相手には非常に分かりやすい子で、嘘をついたり、取り繕ったりというのが苦手だった。それだけならよかったのだが、なまえは友人の機微に鋭い。由良も何度も悩みや不安、愚痴等を吐き出させてもらった。さっきの大丈夫も、別々で帰る意図をなんとなくでも察していたから出た言葉で、だから由良は今日一緒に帰ることを躊躇した。鋭いなまえに気づかれ、意図しなくとも促されてしまえば何もかも打ち明けてしまいそうだったから。いずれ言うつもりではあったが、まだ心の準備も何も出来ていない時に話すつもりはなかったので、距離を置く為に今日は帰りを別々にしようとしたのだ。それもバッタリ遭遇してしまったことで徒労に終わってしまったが。
なまえは確かに自身の不安や色々なことに気づいた。しかし、由良の今は話すつもりがないという心情まで察し、待つ姿勢になってくれた。それに有難く思い、その気遣いに甘えて話を振っていく。

「へぇー、沢田くん家行くんだ。チョコでも作るの?」
「なんで他所様の家に行ってまでチョコ作んの。別件に決まってんでしょ。」
「それもそっか。」

話題に尽きてきた頃、ポロッとツナの家に行くことを伝えてしまった。ヤバいと焦った由良だが、察しているのかいないのか、なまえは何しにいくの?ではなく別の案で問いかけてきた。誤魔化したつもりの案はさすがに無理があるが、その気遣いには感謝しかない。

「じゃあ私今日こっちだから。」
「うん。また明日ね〜。」
「なまえ。」

分かれ道でそれぞれの目的地に向かうべく分かれようとしたが、今しかないと呼び止める。

「ありがとね。」
「ううん。どういたしまして!頑張ってね。」
「うん。」

突然の由良からの感謝の言葉に狼狽えることなく返したなまえは1人、いつもの通学路を通って行った。
残された由良もツナの家に向かい、いつもなら15分くらいかかるところを10分程で着いてしまった。早く歩いていたせいか息が上がって心臓もバクバクと音を立てている。焦る気持ちを抑えるように息を深く吐きながらインターホンを鳴らす。

「あら!初めて見る子ね。ツナのお友達かしら?」
「あ、初めまして。私、息子さんと同じクラスの神崎由良と申します。」
「あらぁご丁寧にどうも。私はツナの母親です。」

よろしくねと朗らかに笑うツナの母に絆されるように気持ちも落ち着き、穏やかな顔でこちらこそと返せた。

「もしかして、由良ちゃんもビアンキちゃんにチョコ作りを教わりに来たのかしら?」
「チョコ作り?」
「ちょうどさっき始まったばかりだから今からなら間に合うわ。」

さぁさあがって!という勢いに押され、用件を伝える前に家にあがらせてもらい、そのまま台所だろう部屋に連れていかれた。

「あれ?由良ちゃん!」
「あ!由良ちゃん、お久しぶりです!」
「京子、ハル…」

台所にはエプロンを着た京子とハルがおり、奥にはビアンキが紫色の煙が発生している寸胴を掻き混ぜていた。毒薬か何か作ってるのだろうか。そう思った由良だったが口に出すことはせず、さっきそこで会ってつれてきたのと説明するツナの母に同意する。
どうやら京子とハルはバレンタインのチョコレートを今から作るようで、その先生としてお願いしたのがビアンキのようだった。彼女が混ぜている寸胴にはチョコレートが入っているらしい。絶対違うと思う。

「由良。折角来たんだから貴女も作っていったら?」
「で、でも…」
「いいですね!由良さんそうしましょうよ!」
「みんなで作った方が楽しいし、きっと美味しくなるよ!」

ビアンキの誘いに渋る由良だったが、京子、ハルに押され、最終的にじゃあと折れ、急遽沢田家の台所でチョコレート作りをすることになった。なまえの言ったことが当たった瞬間である。

「何を作るの?」
「チョコフォンデュです!」
「一種類だけじゃ飽きちゃうかもしれないから、色んなチョコレートを使おうと思って。」
「そうなんだ。」

2人から説明を受けた由良はそこで閃いた。自分が用意したチョコも使えばいいのではないだろうかと。幸い由良が用意したのはケーキやタルトのような材料に出来ないものではなく、トリュフだったので問題ないだろう。そうと決まれば、とあの、と声をかける。

「よかったら、これも使って?」
「え、これ…」
「由良ちゃんが作った物じゃ…」
「うん。本当は、あげたかった人がいたんだけど、その人、気になる人がいるみたいであげる勇気出なくて、結局渡せなかったんだ。ずっと持ってるのもアレだし、こうやって使ってくれたら嬉しいな。」
「でも…」
「いいの。使って?」

諦めたように笑う由良に渋っていた京子、ハルも何かを察したのかじゃあ、とチョコに手を伸ばす。

「ダメよ。」
「っ!」
「ビアンキさん!」

ピシャリと鋭く放たれた声に肩を跳ねさせ声を発したビアンキを見る。未だ寸胴を掻き混ぜているが、こちらの話を聞いていたのかビアンキは言葉を続ける。

「恋に臆病になってしまう気持ちはわかるわ。私も何度も経験したもの。でも、逃げたらダメ。」
「………………。」

ビアンキの言葉に苦しげに顔を歪める由良。

「男は言わなきゃ分からないのよ、私達がどう思ってるのかなんて。相手に他に気になる人がいるからって伝えるのを辞める必要はないわ。むしろ伝えることで意識してもらえる可能性が増えるもの。だからそのチョコはちゃんと渡しなさい。」
「………………っ…」
「もし断られたら言いなさい。特別キツいのをお見舞してあげるわ。」
「ハルだって、文句言ってやりますよ!」
「私も!」
「ビアンキさん、京子、ハル………ありがとう。」

自分で鼓舞したり、リボーンに言われた時よりも、3人からの言葉の方が何倍も由良の心を軽くした。


それから4人はチョコフォンデュ作りを再開し、途中ポルターガイスト現象やビアンキが席を外すなどのアクシデントはありつつも無事に完成した。

「あれっ?神崎さん!?」
「沢田、お邪魔してます。急に押しかけてごめんね。」
「それは問題ないけど、なんで俺ん家に?」
「野暮用で。」
「(野暮用て何ー!?)」

ビアンキと作ったクラッカーを持って初めて入るツナの部屋に行けばツナに驚かれた。正直にチョコを渡しに来たと言えばよかったのに、緊張と、少し怖気づいて誤魔化した。

「わぁ!美味しそう!」
「…………沢田って兄弟多いね。」
「ああ!違う違う!その子は居候みたいなもので…」
「初めまして。僕はフゥ太っていうんだ。よろしくね。」
「フゥ太くんだね。私は由良だよ。よろしくね。」

ビアンキの毒々しい煙を放つクラッカーよりも綺麗な見た目の由良のクラッカーの方に喰いついた少年、フゥ太は人懐こそうな笑顔で由良を見上げた。可愛らしいなぁとほっこりしながら微笑めば、横からランボがランボさんも!とよじ登ってくる。

「ランボくん、危ないよ。」
「こらランボ!やめろって!」
「ランボさんも由良のクラッカー食べるもんね!」
「もー!!」

クラッカーが落ちないようにバランスを取りつつランボを器用にぶら下げた由良。ランボの我儘に呆れたように怒るツナは苦労しているようだ。
その後もランボが我儘を言ってツナを困らせたり、ビアンキ作のクラッカーで一悶着あったりと騒がしい時間が過ぎていった。


楽しい時間もあっという間に過ぎ、そろそろ帰る時間となった。
片付けも済ませた由良たちはそれぞれの家に帰るべく、ツナに見送られながら帰路に着いた。
京子、ハル、そしてビアンキにも頑張れとエールをもらった由良は2人より少し遅れてツナの家を後にしたが、数歩歩いたところでもう一度門の前にいたツナのところに戻った。

「沢田っ。」
「神崎さん、どうしたの?なんか忘れ物?」

不思議そうにするツナに緊張で息が荒くなるのをなんとか抑え、いつも通りを装って手にしていた物を差し出した。

「あげる。」
「えっ!俺に!?でもさっき京子ちゃんたちから…」
「私は約束してなくて、偶一緒に作ることになっただけだよ。本当は、沢田にこれを渡そうと思って来たの。」
「えっ…ええーっ!?」
「これが野暮用。渡せなかったから。」

少し赤くなった顔で叫ぶツナに、面白くなって笑う由良。気分は悪戯が成功した子供だ。

「あ、ありがとう。大切に食べるよ。」
「味見はしたから大丈夫だと思うけど、アレだったらフゥ太くんとかランボくんにあげてね。」
「ぜ、絶対俺が食べる!」
「……………そっか。ありがとう。それじゃあまた明日、学校で。」
「う、うん!また明日!」

ツナの言葉に嬉しくなり、緩んでしまいそうになる頬を必死に抑えていつもと変わらぬ様子を装った由良は今度こそ、だが先程よりも幾分も軽い足取りで帰路に着いた。

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