リボーン複数主 | ナノ


▼ 標的22

由良とくるみがツナたちとボンゴレ式ファミリー対抗正月合戦に参加していた頃、なまえは1人商店街を歩いていた。三が日が過ぎたものの未だお正月気分が抜けきっていない雰囲気の店舗や道行く人の晴れやかな表情に比べ、なまえのそれは非常に不機嫌そうなもので、地面を睨みつけながらスタスタと早歩きで進んでいる。

「別にリビングにいる訳じゃないんだから家にいたって良くない?部屋にいるだけだったのに…」

ブツブツと呟くのは今自分が外に出る羽目になった原因である母親に対する文句だ。文句を言っているうちに思い出したのか眉間に更に皺が寄り、目つきも鋭くなる。

なまえがこうして外に出たのは数十分前。冬休みに入り自室に籠ってばかりいたなまえは今日も同じように過ごそうとしていた。年始早々の家族や親戚の集まりには参加したし、友人たちにも新年の挨拶メールは送ってあるので問題ないだろうと判断したからだ。しかしそうは思わなかったのが彼女の母親で、長期休みだからとずっと引きこもる娘にいい加減外に出ろと叱り、半ば締め出すようになまえを家から出したのだ。ご丁寧にいつも彼女が着ている外出用のコートと財布、携帯を持たせて。せめて初詣くらい行けという言葉を最後になまえが家に入れないように鍵をかけたことで、強制的に外に出ることになったなまえは渋々神社まで歩き出し現在に至る。

「寒っ…」

コート以外の防寒具が無いため、チャックを上まで上げて出来た首元の隙間に顔を埋める。はぁ、と吐く息は白く、外が寒いということを嫌でも教えてくる。それすらも腹立たしく感じるなまえは消えていく白い息を睨み、すぐに地面に目を向けてまた歩き出した。

「っ!?す、みませんっ…」

前を見ずに歩いていたせいで前にいた人とぶつかってしまった。もう最悪。心の中で独りごちつつも咄嗟に謝り、避けようと顔を上げた瞬間固まった。

「君か。」
「ヒ、バリ、さん…」

寒さをものともしないとでも言うようにいつものワイシャツに学ランを羽織ったスタイルのヒバリがそこにいて、すぐになまえの顔に熱が集まっていく。もしかして、自分がぶつかったのはヒバリだったのでは?と気づいたなまえは勢いよく頭を下げた。

「ぶつかってごめんなさい!」
「次は気をつけなよ。」
「はいっ、すみませんっ…!」

自分の前方不注意のせいだったのに、ヒバリは一言注意するだけでなまえをどうこうする気はないようだ。推しの気分を害する訳にはいかない…!と謝罪した流れで失礼するつもりだった。

「待ちなよ。」
「っ!」

くるりと振り返って進もうとしたなまえの手首をヒバリが掴んだことでナマエは動けなくなってしまった。
推しが、私に、触っている…!!
対面して話すのでさえままならないのに、こうして触れられている状況はなまえのキャパシティを優に超えており、頭の中は混乱を極めている。

「何か言うことないの?」
「え…?」

そんな矢先にかけられた言葉を理解する余裕などある訳もなく、なまえの脳内は軽くパニックを起こしていた。
言うことって!?いつも健やかに存在してくださってありがとうございますとか!?気持ち悪すぎない!?更に引かれる気しかしないわ!

「年明けたけど。」
「えっ?そ、うですね…?」
「………………。」
「っ!?」

なまえの返答が気に入らなかったようで、無言で手首を握る手に力を込められた。驚いて咄嗟に抜こうともがくが許さないと言わんばかりに更に力を込められる。推しに触られているという事実でアドレナリンが活発に発生しているのか痛いという訳では無いが、逃げられなくなったなまえは涙目になりながらもう一度ヒバリの言葉の意味を考える。
年明けたけど?年明けたけど!?え、明けた、けど何!?言うことなくない!?え、明けましたね?文脈おかしい……はっ!
もしかして、とひらめいた可能性。いやでも違うかもしれない絶対違うと思う。そう考えるも、しかし今の彼女にはこれしか思いつかなかった。

「あ、明けまして、おめでとう、ございます?」
「うん、おめでとう。」
「っ…!」

返してくれた…!
どうやらなまえが考えついた可能性は間違いではなかったようで、少し雰囲気も柔らかくなった気がする。嬉しくなったなまえはにやけて緩んでしまう口元を唇を噛むことで押さえ、俯き顔を隠した。

「どこに行くの?」
「えっ、あ…えと、神社、に。初詣に、行こうと、思って…」
「三が日過ぎたけど。」
「ひ、人少なくなって、いいかなあって…」

決して母親に叱られて締め出されたから等ではないと口を滑らせることがないよう細心の注意を払って伝える。母親に叱られたからなんて理由はカッコ悪すぎる。
と、なまえが考えていると、それまで絶対放さなかった手首の拘束が解かれ、ヒバリはスタスタとどこかへ歩き出す。手首が解放されたことへの安堵やどうしたのだろうかという疑問、諸々戸惑ったが、挨拶はしっかりしなければと口を開いた。

「何してるの、早く。」
「へっ?あっ、はいっ…!」

しかし先にヒバリから急かすように言われてしまったことで開いた口からは間抜けな言葉しか出てこず、言い様からしてついてこいという意味だろうと分かったなまえはパタパタと慌ててヒバリを追いかけた。それを見たヒバリは再びスタスタと歩き出した。その歩調は先程よりも少しゆっくりめで、なまえはすぐに追いつくことが出来たが、そこまで気づく余裕はなかった。

「神社…?」
「行くよ。」
「あっ、はいっ…!」

ヒバリの目的地はどうやらなまえが行く予定だった並盛神社だったようで、目の前には大きな鳥居と、その先には拝殿に続く石造りの階段がある。なまえが何かを言う前にヒバリは進んでしまうので慌ててついて行き、気づけばお賽銭の前にいた。
ヒバリが懐から五円玉を取り出し、賽銭箱に向かって投げるのをボケっと見ていれば、また早くと急かされて財布から五円玉を探して、見当たらなかったので十円玉を投げ入れた。直後ガラガラと鈴が鳴り、チラリとヒバリを見ると礼をしており、慌ててなまえも二礼する。パンパン、と手を叩き、目を閉じて願い事を思い浮かべる。が、隣にいる推しの存在が大きすぎてすぐに思いつかず、長引いてしまった。ようやく目を開け、ペコりと一礼しヒバリを見ると、既に隣は誰もおらず、慌てて振り返れば参道の脇の方を歩いていた。

「ひ、ヒバリ、さんっ…」

緊張して大きな声では呼べなかったが、三が日を過ぎ、閑散としていた神社ではしっかりヒバリの耳に届いたようで、ピタリと止まり振り返ってくれた。
待ってくれたことも、一緒にお参りしてくれたことも衝撃的ではあったものの、嬉しかったのは事実。お礼を言おうと小走りで駆け寄り、あの、と声をかけた。

「何を願ったの。」
「えっ…あ、えと、ヒバリさんが、健やかに、幸せで過ごせますように…?」
「………………。」
「か、勝手に、すみません…」

なまえの呼び掛けはスルーされ願い事の内容を聞かれたので取り繕うことも出来ずに正直に話せば少しムッとした表情を返された。咄嗟に謝るが、ヒバリは無言で歩き出す。もう一度謝るべきだろうか、でもこれ以上期限を損ねるわけには、と逡巡するなまえはそんなヒバリの後ろ姿を見ているだけしかできなかった。
すると、突如ヒバリが振り返る。

「帰るんじゃないの。」
「えっ、あっ、はいっ…!すみませんっ、失礼しますっ…!」

慌てて頭を下げて帰ろうとしたが、一気に空気が冷たくなる。やっぱりさっき自分なんかがヒバリさんのことをお願いしたからだ…!考えたなまえはこれは噛み殺される案件だ、と来るだろう痛みと衝撃に耐えられるように目をギュッと瞑った。
しかし、いくら待てどもトンファーを出すような音も聞こえなければ何かに殴られるようなこともなかった。

「何してるの、君の家こっちでしょ。」
「えっ?あの…と、トンファーで、殴ったり、しないんですか?」
「…………早くしなよ。」
「あ、はいっ…!」

呆れたように言われ、恥ずかしくなったなまえは赤くなった顔を隠すように俯き、ヒバリの後に続いた。無言で歩くヒバリに何か言うべきだろうか、でも一体何を言えばいいのだろうと悶々しながらついて行くと、いつの間にか自宅に着いていた。

「あの、あ、ありがとうございました!」
「いいから早く入りなよ。風邪引くよ。」
「あ、はいっ!」

結果として送ってくれたので、門の前で頭を下げながらお礼を述べれば、どうやらなまえが家に入るまで見届けるつもりらしい。腕を組み、門柱にもたれかかっていた。
名残惜しかったが、そういえばとヒバリが風邪をこじらせて入院までしたことを思い出し、すぐに家に入り、ドタバタと音を立てながら自室のある2階に駆け上がる。途中リビングからうるさい!と怒られた声が聞こえた気もしないが、それどころではないので気にしない方向で。
自室に着いてコートも脱がずに玄関側の窓を開け、道路の方を確認する。急いで部屋に戻ったからそんなに時間は経っていないはずなのに、既にヒバリはどこにもおらず、ただ閑散とした住宅街しか確認できなかった。

「夢、かあ…」

はぁ、と脱力したなまえはそのままベッドに倒れ込んだ。一体いつから眠ってしまっていたのだろうか。最近こういうの多いなぁ。
このまま寝てしまおうかと目を閉じかけた矢先、なまえの母親がお説教をしに来たのでそれどころではなくなった。

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