リボーン複数主 | ナノ


▼ 標的20

並盛中央病院にて、由良はパタパタと案内された病室に向かって急いでいた。病院では走ることが出来ないので、早歩きで、それでもなるべく速く。由良がここまで急いでいるのは、少し前まで遡る。

「ちゃおっス。」
「………………確か、沢田と一緒にいる…」
「リボーンだ。よろしくな、由良。」
「よ、よろしく…?」

以前学校で会話したことのある赤ん坊、リボーンが突然やって来た。以前も思ったが、赤ん坊なのに足取りはしっかりとしており、本当に赤ん坊なのか疑う由良だったが、不躾に聞くのもよくないだろうと寸での所で出かかっていた問いかけの言葉を飲み込み、代わりに何か用かというありきたりな事を尋ねた。

「お前、ツナをよく気にしてるだろ。」

疑問ではなく断定した物言いに一瞬言葉を詰まらせた由良は、しかし悟られないようにどうして?と聞く。すると見れば分かると迷う素振りなく答えられ、そんなに分かりやすかっただろうか、と少しへこんだ。

「そんなツナだがな、さっき色々あって怪我して入院したんだ。」
「…………………は!?」

なんて事ないように言われた内容が衝撃的すぎて理解が遅れる。伝えに来たリボーンを見ればその表情は一切変わらずニッと笑っているだけだった。

「沢田は大丈夫なの?」
「ああ、足を骨折したくらいで他はピンピンしてるぞ。」
「あ、そう…」

意識はあるようでひとまず安心した。足を骨折というのも充分心配はするが、リボーンの言うことを信じるならば他はピンピンしているそうなのでホッと息をついた。

「時間あんなら見舞いに行ってやれ。」
「行っても大丈夫なの?」
「ああ。ツナも大喜びするだろうしな。」
「………………じゃあ、行こうかな。」

絶対京子ちゃんの方が喜ぶに決まってる。心の中で反論し睨んだが、表情には出さずに暇だからという体で見舞いに行くことにした。
そういえば、入院したとしか聞いておらず、どこの病院かは言ってなかったな、と思い、病院の場所を聞いた時、それは起こった。

「んじゃ、交換条件だ。病院の場所教えるからお前、ツナのファミリーに入れ。」
「は?」
「あん時はアホ牛のせいで有耶無耶になっちまったからな。」

意味が分からず思考が停止した。呆けた声が漏れ出たが、目の前の赤ん坊は先程と変わらぬ表情で黒くて大きなくりくりした瞳を由良に向けている。
なんとか硬直を解いた由良は動かず、しかし脳内で必死に記憶を手繰り寄せる。思い出せ、この物語は一体どういうものであったのか。たしか、たしか、沢田綱吉が主人公の、バトルアニメ。じゃあ、なんのために戦うのか?どうして彼らは戦っているのか?

どれだけ問いかけてもやっていれば見るというスタイルだった由良は肝心なところが分かっていない。もしかしたら見ていたかもしれないが、セリフを全て覚えているほど器用でもないのでお手上げだ。そういえば、前にも同じように言われ、くるみがごっこ遊びだどうのと言っていたような気がする。
本当なら、得体の知れないものは断るべきだ。誘いに乗るべきではない。それは分かっている。でも、それでも、由良はツナが心配で仕方がなかった。

「……分かった。なるから教えて。」
「そーこなくっちゃな。」

由良の答えに満足したように笑んだリボーンはひょいと由良よりも高い塀に飛び乗り、由良を見下ろしながら並盛中央病院だと言った。ありがとうと由良が言うより先に、すぐにリボーンがあ、と声を上げる。

「言い忘れてたけどな、あと1時間で面会時間終了だ。」
「それ早く言って…!」

そんな事があったため、由良は病院までの道を全速力で駆け、受付を済ませてから早歩きで進んでいた。リボーンが肩に乗っていたらきっと飛ばされてしまうだろうという速さで走ったにもかかわらず、由良が急ぐ原因となった元凶は由良の歩く速さなど気にもせず併走していた。

「沢田っ…!」
「えっ?神崎さん!?」
「なっ…なんでお前がここに…!」

ノックして返事も聞かずに病室のドアを壊さんばかりに開いた由良はその勢いのままベッドにいるツナの元に駆け寄る。無視かよ!という声が聞こえた気もしないがきっと空耳だろう。驚いた様子のツナがどうしてここに?と尋ねれば見舞いだと答えた。

「足骨折しただけって聞いてたんだけど、どうしても心配だったから見舞いに来た。」
「あ、ありがとう…」
「花とか、何もなくてごめん。教えられたの、面会時間の1時間前だったから…」
「ええ!?全然いいよ!気持ちだけでも嬉しいよ。」

オロオロと焦って答えるツナの姿に思ったよりも元気そうでよかったと安堵した由良はそれ以上言及することなく、代わりに聞いていた状態と違うツナの怪我についてそういえばと聞いた。聞かれたツナは気まずそうにあー、と声を出してから項垂れた。

「実はさっきまで、ヒバリさんと一緒の部屋にいたんだけど…」
「ヒバリさんが?入院してたの?」
「風邪こじらせたんだって。それで、相部屋になった人はヒバリさんが寝てる間音を立てたら噛み殺されるっていうメチャクチャなゲームしててさ、頑張って静かにしてたんだけど、ランボとイーピンが来て、結局騒がれて噛み殺されて、こんな感じに…」
「…………………それは、大変だったね…」
「うん、ありがとう…」

イーピンて誰だろうという疑問は口にせず、労りの言葉をかけておく。ホッとした様子のツナに特に大きな、それこそ命に関わるような怪我がなさそうで安心した由良は奥に目を向けて、ギョッとする。

「え、獄寺?なんでいんの?」
「今更ー!?」
「お前が来た時からいたわ!!」
「え、ごめん気づかなかった。」

ツナと同じくベッドに寝ていた獄寺は本気で言っている由良にビキビキと額に青筋を立てこのアマ…と苛立っている。獄寺の様子に怯えるツナに対し、当人の由良はツナしか見えていなかったので再度ごめんと謝った。

「あ、そろそろ時間だから行くね。お大事に。」
「あ、うん。ありがとう神崎さん。」
「獄寺も、お大事にね。」
「けっ!」
「ご、獄寺君…!」

日も暮れかかってきて、面会時間も終わりに迫っていたので今度はちゃんと花とか持ってくるねと言って病室を出た。獄寺の反応は気にかかるが、彼は元からあんな感じなのですぐに頭を振って気にすることをやめる。
歩きながら、リボーンに言われたことを思い出す。

ーーーツナは世界最強のイタリアンマフィア、ボンゴレファミリーの10代目なんだ。
ーーーえっ?神崎さん!?

「沢田が、マフィア、ねぇ…」

リボーンのあの只ならぬ雰囲気にはごっこ遊びの延長で言っているようには思えず、本気だと分かった。それでも、先程病室で見たツナの様子はいつもと変わらないもので、マフィアとは全く関係のない人間のように思える。
夢だと思うのは簡単だが、夢と判断するにはリボーンが引っかかる。

「ま、入るって言ったのは私だし、なんとかなるでしょ。」

心に引っかかるナニカを無視して由良は吹っ切れたように呟いて大きく伸びをした。


彼女はまだ知らなかったのだ。
この日、軽率に入ると言ってしまったことで、彼女自身に大きな決断をしなければならない状況に直面するということも、長く苦しむことになるということも。

prev / next

[ back to top ]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -