リボーン複数主 | ナノ


▼ 標的19

日曜朝10時。学校がないので昨夜は深夜2時頃までゲームをしていたなまえは爆睡していた。片手には充電ケーブルに繋がれたスマートフォンがあり、画面にゲームのバトルシーンの途中場面が映し出されていることから、ゲームをプレイしている最中にいつの間にか眠ってしまったようだ。

「っ!」

突然震え出したスマートフォンに目を覚ました。
折角の休み、まだ全然寝られたのに…強制的に起こされたことで不機嫌そうに画面を見やる。そこにはくるみちゃんという文字と着信を知らせる電話のマーク。

「………………はい。」
「あ、なまえちゃんおはよう!急に電話しちゃってごめんね!」
「くるみちゃん?」

直ぐに寝られるように横になったまま寝起き特有のキツく感じる声で出れば、しっかり起きてしゃんとしてるであろうくるみの声が聞こえてきた。どうやらきょうやくんとやらが入院したようで一緒にお見舞いに行かないかということだった。くるみの声を聞きながら眠気が再び襲ってきたなまえは脳が正しく機能しておらず、きょうやくんと言われてもピンと来なかった。

「わたし、きょうやくんてひとしらないからめーわくじゃない?」
「なまえちゃん寝ぼけてるとすっごいんだね。大丈夫!恭弥くんと少なくとも2回は会ってるから全然迷惑なんかじゃないよ!今からお家に迎えに行くから準備して待っててね!」
「ん〜…」

欠伸しながら伝えれば早口に言われて最終的にブツリと切られてしまった。通話終了ボタンを押して無音になるスマートフォンをぼんやりと見て、重くなって落ちてくる瞼を抗うことなく閉じてもう一度寝た。

「なまえちゃん起きて起きて!早くしないと面会時間終わっちゃう!」
「んぅ〜…」

ゆさゆさと体を揺さぶられている気がして、さらに母親ほどではないが大きめな声で起こされる。枕に顔を埋めて音や光を遮断しようとしたが、それなりに力を入れてかぶっていた筈の布団を剥ぎ取られ起きて!と強く言われてしまい、仕方なしにノロノロと起き上がった。

「くるみちゃん?」
「おはようなまえちゃん。さ!準備して行こっか!」

両手を上げて大きく伸びをしてようやく目が覚めたなまえは何故か部屋にいるくるみを不思議に思うが、有無を言わさず準備を促すくるみに何も言うことが出来ずにひとまず顔を洗おうと洗面所に向かった。

「ヒ、バリさんが、入院?」
「風邪こじらせたんだって。たぶん本人じゃなくて風紀委員の方が手配したんだと思うけど。」

支度を終えたなまえはくるみに連れられ並盛中央病院に向かっていた。そこで再びくるみから説明を受けたが、何故自分を見舞いに行くよう誘ったのかは教えてくれなかった。そういえばそんな話もあったな。代わりに前世で読んだ漫画の話を思い出した。確かその話で木の葉の落ちる音でも目が覚めるという新たな発見があったのだ。

「恭弥くんの病室は教えてもらったからこっちだよ。」
「う、うん。」

病院に着き、受付でお見舞いの旨を伝えてから既に聞いていたらしい病室へ向かう。いいのかなぁと思う間もなく病室に着いてしまった2人はくるみが躊躇なくドアをノックし、そのままガラリと開けた。

「恭弥くんお見舞いに来たよー!」
「あ、川崎さんにみょうじさん!」
「沢田くん?」

病室に入ったくるみに続き恐る恐る入れば何故かヒバリと同室になっているツナがいた。足に包帯を巻いて、その近くには松葉杖があることからツナも入院していたことを思い出し、そこから病室を転々と移されヒバリと相部屋になった経緯も思い出した。確かヒバリが寝ている間音を立てずに過ごし、起こしてしまえば噛み殺されるというゲームをしていたのだっけ、と記憶を辿り、今のツナの様子は足以外の顔や腕などを負傷しているので既にゲームオーバーとなった後のようだ。

「さ、沢田くん大丈夫!?」
「みょうじさん…」
「は、早く手当てを…!ナースコール!」
「わぁあ!みょうじさんちょっと落ち着いて!」

前世でも今世でも初めて見る所謂ボコボコにされた状態というのは漫画で描写されるよりも実際に見ると非常に痛々しそうで、なまえの心は耐えきれなかった。軽くパニックを起こしたなまえはツナに事情を聞くことなくツナの傍でオロオロと挙動不審になっていた。
そんな彼女を何とかしなければと動いたのはくるみで、涙目になって慌てているなまえを落ち着かせるように肩に手を置いた。

「大丈夫だよなまえちゃん。沢田くんは私が先生のところに連れていくからなまえちゃんはここで休んでて。」
「で、でもっ…」

いいからいいからと戸惑うなまえを安心させるように微笑んだくるみはツナと、ついでに床に重なって倒れていたヒバリの相部屋だった患者達を連れて病室を出た。パタンと閉められたドアを名残惜しそうに見るなまえ。脳内ではやっぱり一緒に行った方が良かったんじゃ、でももしかしたら邪魔になっちゃうかもしれないといった結論の出ない考えが行ったり来たりしている。

「みょうじなまえ。」
「っ!はっ………」

はい、と返事をしようとしたなまえはピシリと固まった。後ろから、心地いい低い声が、みょうじなまえと言った気がする。はて、みょうじなまえとはなんだったか。
みょうじなまえみょうじなまえみょうじ…

「なまえ!?」

バッと振り返れば怪訝そうにこちらを見るヒバリがいる。いやそんなことはどうでもよくはないけととりあえずいい。今まで機能を停止していた脳が瞬時に処理をし、状況を理解した途端顔に熱が集まってきた。瞳はいつもの比ではないほど潤み、今にも泣きそうな程だ。言いようの無い感情が体の内側から湧き上がり、喉からせり上がってくるのを慌てて手で押さえ込む。
な、名前呼ばれた…!!
憧れの人からの名前呼び、さらに言えばフルネームで呼ぶ彼の呼び方が実はなまえはすごく好きで呼び捨てよりもそちらの方が良いと思うほどだったので突然のファンサに発狂しそうだった。

「………座れば。」
「っ!ぁ…」

なまえの挙動不審な様はこれまでに幾度も目にしてきたので今のもそうだろうと結論づけたヒバリは特に何か言うことなくスルーした。しかし彼が言った内容もなまえにとっては衝撃的で、ヒバリが座るよう促したのは彼のいるベッドのすぐ脇にあるパイプ椅子。もしヒバリがベッドに腰掛けでもしたら膝と膝がぶつかってしまいそうな程の距離だ。

「早く。」
「っ!し、つれ、しま、す…!」

椅子を引いてそのまま座れば、と閃いたところで静かに急かされ、焦ったなまえは素早く着席した。焦ったせいで位置は変わらない為、距離が近い。更にてっきり寝るのかと思っていたヒバリはなまえを観察するように凝視しており、見られているなまえは居心地悪そうに顔を俯かせた。
ふと、そんななまえの目に膝に置いた物が入り、当初の目的を思い出す。

「あ、の…これ、よかったら…お見舞い、です…」
「……………ああ。」
「あ…い、いらなかったら、全然…!あの、持って帰る、ので…!」

差し出した見舞いの品に対する反応にいらなかったんだと考えたなまえは早口にまくしたてる。

「そこに置いておいて。」
「はっ、ぃ…」

指示された棚に見舞い品を置いて、また座るよう言われたので椅子に着席した。
そして再び訪れる沈黙の時間。ヒバリは寝転がってはいるものの寝る様子はなく、なまえを凝視することをやめなかった。
見られていると感じているなまえは決して顔を上げず(というか上げたら恐らく高確率で目が合って死ぬ)、玉のような汗を浮かべていた。しかし、しばらくしてこの沈黙に耐えきれなくなったのか、意を決したようにあの!と声を上げた。

「と、突然、お見舞い、来ちゃって、すみません。」

段々小さくなっていく声と共に顔も更に下がっていく。しかし冷静に考えてみれば、くるみに連れてこられたとしてもたった2度しか会ったことのない他人のような人間に見舞いに来られて喜ばれる気はしない。ましてやヒバリはとても気難しく、幼なじみのくるみやよく仕事を振っている風紀副委員長に対しても機嫌が悪ければ対応は困難を極めるというレベルなのだ。会ったと言えるかどうかも分からない程のなまえが来て、機嫌がいいということは無いだろう。

「今から寝るから、物音立てないでね。」
「えっ…」

帰ろうかな、としゅんと沈んでいれば急に寝るという宣言をされ、戸惑うなまえを他所に既に寝息まで立ててしまった。年季の入ったパイプ椅子に座っているナマエは、立とうものならきっと盛大にギッシギッシ音を立ててしまうだろう。
か、帰るタイミングなくした…!
音を立てるなと言われたので下手に動くことも出来ないナマエは心の中で頭を抱える。早く帰るべきだったと後悔しても遅い。ちらりと目線を上げればスヤスヤ眠るヒバリの姿。

「…………………!」

う、美しい…!
感動の悲鳴を手で抑え、至近距離で見ることが出来るご尊顔を心のメモリーに事細かに刻んでいく。嬉しすぎて涙が出そうだが必死にこらえ、ぼやけてくる視界を瞬きで何度もクリアにする。
睫毛長い肌白い髪サラッサラ鼻の形可愛い口閉じてるすごい発見だ…!
声に出せない分心の声を必死に脳内で叫ぶ。美しすぎていつでも見ていられる。そう思ったが、しかし彼は気配等諸々に酷く敏感な人なのでこれ以上見ていたら起こしてしまうだろう。1人結論づけたなまえは音を立てないようにカバンにしまってあったスマートフォンを取り出し、マナーモードの消音になっていることを何度も確認してから昨日できなかったからゲームを始め、それは迎えに来たくるみが呼びかけるまで続いた。

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