リボーン複数主 | ナノ


▼ 標的17

体育祭から暫くして、今度は並中の文化祭がやってきた。文化祭では各クラスがそれぞれ軽食の販売やちょっとしたアトラクション等を教室や特別室を使って展開する。
入学したての1年生は原則としてそういった手の込んだ物は出来ず、自クラスで持ち寄ったものをフリーマーケットのような物にするか、体育館のステージで1時間程の劇をするかのどちらかを選ぶ。今年はどのクラスも劇を選び、3クラスそれぞれ朝、昼、夕方と発表する時間は少し空いているが、タイミングが悪ければ他クラスの友人と文化祭を回ることが出来ず、残念なことになまえと由良がそれに当たってしまった。来年回ろうと約束し、なまえは自クラスの発表を終えたのでくるみと共に校内を回っていた。

「待って待ってホントに待って。」
「もう、なまえちゃんさっきからそればっかりだよ。早くしないとすぐ入れなくなっちゃう。」

そんな2人は今とある教室の前でちょっとした押し問答を繰り広げていた。
入りたがるくるみと何とか引き止めるなまえ。そんなやり取りをする2人の前の教室では、上級生によるお化け屋敷が行われていた。
文化祭が始まってすぐ、パンフレットに書かれてあったお化け屋敷という文字を見た瞬間、くるみはキラキラ目を輝かせながら行きたい!となまえに進言していた。毎年行われるお化け屋敷は年々怖さが増し、一部のマニアからは中学生のクオリティとは思えないほど本格的だと噂されていた。ホラー系統が大好きなくるみは早速行こうと自由時間になった途端なまえを引っ張って目的の教室に向かった。着いた頃はちょうど誰も並んでおらず、すぐ入れるほど空いていたのでそれじゃあ早速と入ろうとしたところでなまえが待ったをかけた。そこから現在まで、2人の押し問答は続いていた。

「なまえちゃんどこでもいいって言ってたじゃない。」
「どこでもいいとは言ったけど、せめて心の準備をしてから行かせてホントにマジで…!」

火事場の馬鹿力とでもいうのか、普段のなまえからは信じられない程の力でくるみを引っ張って抵抗している。少し涙目になって震えている姿から、お化け屋敷が怖いのだと分かるが、今のくるみは早く入りたいという気持ちが強いので負けじと進もうする。

「何してるの。」
「あ、恭弥くん。」
「ひ、ヒバリさん…!」

そんな2人に声をかけたのはなまえの最推しでありくるみの幼なじみでもある雲雀恭弥だ。見回りの途中?と気軽に声をかけるくるみの横で、姿を認めた時から真っ赤になった顔でバグバクとうるさく鳴る心臓を服の上から押さえて必死に気持ちを鎮めようと深呼吸するなまえ。ちらりとそんななまえに目を向けたヒバリはくるみと一言二言会話する。2人の様子に何か気づいたくるみはそうだ!とぱちんと手を叩いた。

「なまえちゃん恭弥くんと一緒に入ればいいよ!恭弥くんと一緒なら怖くないだろうし!」
「えっ!?」

どうしてそうなった?
くるみの思考回路がまるで理解できず、酷く困惑するなまえ。

「お願い恭弥くん。なまえちゃんお化け屋敷怖いみたいで、恭弥くんと一緒なら大丈夫だと思うんだ!」
「へぇ…」
「っ…」

お願いだから断ってくれと祈りつつ2人のやり取りを見ていればヒバリと目が合いすぐさま逸らす。一瞬見えた表情は良いものを見たとでも言いたげなもので、1人どういうこと!?とグルグル考える。

「いいよ。興味があったからね。」
「やったねなまえちゃん!」
「ぅえ?」

なまえの願い虚しく何故か群れを嫌うはずのヒバリは共にお化け屋敷に入ることを快諾した。話についていけないなまえはくるみから声をかけられてもまともな返事もできなかった。

「じゃあいってらっしゃーい!」
「えっ?ちょ、っと待って…!」

くるみに背中を押される形で受付でお金を払い、ヒバリと共に教室の中に入れられてしまった。引き留めようとするも聞こえていないのか無情にもドアが閉められてしまい、室内が一気に暗くなる。途端恐怖心が湧き上がり、既に泣きそうだ。

「ぁ…」

そんななまえの様子に気づいていないヒバリは何も言わずにスタスタと歩き始める。気づいたなまえは慌てて追いかけるが、恐怖で身体が固くなり、なかなか距離が縮まらない。

「あああああ!!」
「ひっ…やぁあああああ!!」

いきなり脅かし役の生徒が扮したミイラのようなものが現れ、すぐ側にいたなまえは悲鳴を上げ、しゃがみ込んだ。しかしミイラはなまえの側から離れず、彼女の周りをうろついている。そのせいで彼女はしゃがみ込んだまま身動きが取れなくなってしまった。

「ぎゃっ!」
「!」

突然ミイラが短い悲鳴と共にどこかへ飛んで行った。ミイラが飛んだ方向と反対の方を見れば、トンファーを手にしたヒバリがいる。

「何してるの、早く立ちなよ。」

ポロリ。恐怖と、ヒバリがいる安心感で涙が零れた。一瞬目を見張るヒバリが何か言うよりも早く立ち上がり、ごめんなさいと謝った。それから口元を両手で覆って、ゆっくり歩き始めた。

「っ!!」
「邪魔。」

その後もあちらこちらに施された脅かす為の仕掛けや脅かし役の生徒らが出てきたりしたが、悉くヒバリが殴ったり破壊したため案外早く出ることが出来た。恐怖で震えるなまえは終始出そうになる悲鳴を必死に口元の両手に力を込めることで抑え、しかし溢れる涙は止められず、出た頃には顔は涙でグシャグシャだった。

「おかえり〜。どうだった?」
「くるみちゃぁん…!」

明るい廊下に漸く出られた2人は期待に満ちた表情のくるみに出迎えられた。安心したなまえは思わず泣きながらくるみに抱きつき、怖かったと震えている。そんななまえを可愛いなあと思いながら頭を撫でつつヒバリに目をやれば、大したことないとでも言うようにふん、と鼻を鳴らすだけだった。

「じゃあ私も行ってくるから恭弥くんなまえちゃんのことお願いね!」
「えっ…」

べりっと引っ付いていたなまえを剥がしたくるみは笑顔で言うと、光の速さで教室に入っていった。あまりの速さに涙も引っ込んだなまえは何故か帰ることなく隣にいるヒバリに気づき、またもや顔を赤くし俯いた。

「あ、の…ヒバリ、さん…」

暫くそうしていた頃、意を決したように口を開いたのは俯いていたなまえだった。声をかけられたヒバリは目だけで隣のなまえを見やるが、相変わらず俯いたままで赤く染った頬や耳しか見えない。

「あの、さっきは、助けてくれて、ありがとう、ございました。」

さっき、とはお化け屋敷でヒバリが殆どの仕掛けや脅かし役の生徒らを殴ったり壊したりしたことである。生徒のこれまでの努力を考えれば褒められたことではないが、あの時のなまえからすればヒバリのその行為のおかげで救われたと言っても過言ではない。本人にそのつもりはなくとも、せめてお礼は伝えなければと何故か一緒に待ってくれているうちに言っておきたかった。

「あと…う、うるさくして、ごめん、なさい…なるべく、声、出ないように、手で抑えてたんですけど…」

その言葉でようやく彼女が口元を手で覆っていた理由がわかった。
ヒバリは彼女のその行動を見た時恐怖のあまり吐き気でも催したのかと思っていた。しかしそれは、なまえが最初に悲鳴を上げた時、彼女の冷静な部分がうるさいと感じこれではヒバリの迷惑になると気遣って行動したものだったのだ。実際のところヒバリは特に気にする事は無かったが、それはなまえの与り知らぬところである。
ヒバリの中で何かよく分からないものがこみ上がり、こちらに一切顔を向けないなまえに何か言おうとして口を開いた。

「ただいま!」
「くるみちゃん!」

その時、くるみが行きと全く同じ笑顔で戻ってきた。なまえはパッと表情を明るくさせ、タタタッとくるみに駆け寄る。そのまま談笑する2人は本当に仲のいい様子だった。
いつもなら気にしないことなのに、この時は何故か面白くないと感じたヒバリは何も言わずにその場を去った。

「あれ…」

なまえが気づいた時、既にヒバリはいなくなっていた。

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