リボーン複数主 | ナノ


▼ 標的171

ついひと月ほど前、自分達が受け継いだ守護者としての使命を全うする姿をまるで手本とでも言うように由良達に示した了平は、ミルフィオーレの味方をも喰らっていたバイシャナと、その匣兵器である嵐蛇に勝利した。了平の匣兵器であるカンガルー、漢我流は、了平が使う武器であるグローブだけでなく、了平が空中戦でも戦えるようにと考案したのだろう死ぬ気の炎をジェット機のように噴射する足に装着する機械を蓄え、晴の炎の特徴である”活性”を活かせるようにサポートするものだった。しかし、最初に登場した時やその後の戦いの中で漢我流自体の攻撃も凄まじく、どこか真っ直ぐさを感じさせるその攻撃は、了平と似ているようにも見えた。
バイシャナは蛇だけでなく、自身の首周りに首飾りのように身に付けていた匣兵器からも別の動物を出現させた。それはクワガタで、顎の部分に嵐の炎を纏っていた。匣兵器は全部で8つあったが、うち7つがクワガタだった。
自由に飛び回り小さいクワガタは了平の周りを飛び、軽く攻撃が入る程度にしかならず、一時不利に思われたが、了平はグローブに纏わせた晴の炎をクワガタに当て、クワガタの嵐の炎を暴走させることで攻略した。そこから空を飛び、自分よりも大きな体を持つ蛇に重い拳を打ちつけ、バイシャナは蛇の下敷きとなり敗れた。
その姿はまさに、彼がバイシャナに言った晴の守護者の使命”ファミリーを襲う逆境を自らの肉体で砕き、明るく照らす日輪”を体現していた。

「すごい…」
「勝っちゃった…」

その了平の姿を見ていた由良とくるみは思わず呟いた。それは小さいものではなく、隣にいたお互いに聞こえるものだったので、ふと耳に入った2人は目を合わせ、照れ隠しするように破顔した。
思えば、2人が了平の戦う姿を目にしたのはこれが初めてだった。リング争奪戦では雪のリングの関係で了平の戦いを見に行くことが憚られていた。最終戦では、了平が拳を振るった時がちょうど体育館の中にいて、気づいたら了平がいた状態だった。それらを踏まえて、初めて了平の戦いを目の当たりにした由良とくるみは想像以上の了平の戦いぶりに圧倒され、呟いた言葉以外口からは感嘆の息しか零れなかった。
そんな2人を置いて、獄寺と山本が了平に労いの言葉をかけていた。

「お疲れっス。」
「ったく、ヒヤヒヤさせやがって…」
「ははっ、すまんな。それより早くここを出るぞ。バイシャナが救援を要請していた。そう遅くないうちに増援が来るだろう。」

バイシャナは了平が蛇に拳を打ち込む寸前、通信を利用して救援を要請していた。了平に追い詰められて切羽詰まった状況で、逃げながらのその行動は当然了平にも聞こえていた。そしてそれは、了平だけでなく獄寺達も同じだった。
了平の言葉を受け、頷いた面々は先程の戦いの余韻もそこそこに展示室を後にした。

「こっちだ。」

先程まで戦っていた了平が先導し、皆渡された端末に入っている地図で現在地を確認しながら足を進める。了平の代わりにまだ意識が戻らず気絶したラルを背負い、殿を務めるのは山本で、その前をくるみ、由良、獄寺が並ぶ。
なるべく敵と鉢合わせないように、しかし早く目的地に到着するべく進む足はやや駆け足気味だ。現在通っている場所は配管を守る為か、足元に金網が敷かれており、足音を立てまいと神経を尖らせているが体重がかかることでガシャガシャと音が出てしまう。その音が更に焦りを助長させる。
しかしその心配とは裏腹に敵と遭遇することなく、走った為か当初の予定より早く目的地に辿り着きそうだと一息吐こうとしたところ

「!?」
「なんだ!?」
「きゃっ!」
「あぶなっ!」

足元がぐらついたかと思えば、地面が激しく揺れていた。突然起こった大きな地震に皆足を止め、揺れが収まるまで待つしかない。激しい震動でその場に立っているだけでも精一杯の状況下、先に進む為足を踏み出しかけていたくるみはバランスを崩し、よろめきかけたが近くにいた由良が腕を引っ張って引き止めた。

「あ、ありがとう、由良ちゃん。」
「どーいたしまして。」

由良を支えに体勢を戻したくるみは、この後起こる事を考え、揺れる視界の中で山本に目を向けていた。この地震が自然のものではなく故意に起こされたものだと確信があったからだ。
地震かと思われるこの揺れは、自然的なものではなく、今潜り込んでいるこの基地の指揮権を握っている自分達が倒すべき相手、入江正一が起こしたものだった。そもそも自然的な地震は縦揺れが短く、横揺れが長く続くものだが、現在の地震は縦揺れが続き、横揺れに変わってすらいない時点で、不自然なものだったのだが、くるみ以外は気づいていない様子だった。

「!!」
「なんと!」
「床が!」

揺れがまだ収まらない中、山本とくるみの間の床にヒビが入り、山本がいる床が沈んでいく。当然山本も沈んでいき、気づいた獄寺、了平が声を上げる。
普段の山本なら壁をよじ登って合流することはできたが、今はラルを背負い、そして激しい揺れの中でバランスを崩しやすい状態だ。いくら山本でもこの状況でくるみ達の元へ戻るのは難しい。
そう考えた獄寺が山本を引き上げる為に手を貸そうとするより早く、山本の近くにいたくるみが駆け出した。

「由良ちゃん、また後で会おうねっ!」
「!くるみ!?」
「武くんっ!」

小さくかけた言葉に反応した由良の呼び止める声を顧みることなく、山本の名前を叫んだくるみは揺れが酷い中、自分達のいる高くなっていく床と山本がいる低くなっていく床の隙間に体を滑り込ませ、飛び降りる勢いで山本の側に着地した。くるみの突然の行動に皆が驚く中、獄寺と由良が我に返り、2人を引き上げるため手を伸ばす。

「山本!」
「くるみ!」

しかしそれより早く2人の上から壁が降りてくる。このままでは、2人の腕が巻き込まれてしまうと、了平が2人を引っ張って遠ざけた。山本もくるみも分かっていたからか、隙間から見えた2人の表情は笑みを浮かべたものだった。

「うわっ!」
「つっ…!」

2人の表情に何もできない歯痒さから歯噛みしている内に、ガキィッと大きな音を立て、一際大きな振動を残し地震は収まり、目の前は完全な壁に変わってしまった。最後の振動でバランスを崩し、その場に倒れ込んでしまった3人は、目の前の壁を見て、引き離されてしまった仲間の身を案じた。

「くるみ…」

また後で会おうと言ったくるみの言葉を思い出し、しかし心配なのは変わらないのでその想いのまま名前を呟いた由良。
予期せぬ地震により、由良達は分断させられてしまった。

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