リボーン複数主 | ナノ


▼ 標的15

どうしよう。
立ち尽くすなまえの頭の中はその言葉だけがぐるぐる駆け巡っていた。手にしている紙を引っくり返したり、色んな角度から見てみても、そこに書かれてある文字は変わらない。

「いや、でももしかしたら私の目がおかしいからそう読めるのであって、もしかしたら違う物かもしれない。」

現実を見たくないあまりおかしな事を口走り、よし!と意気込んだなまえはそのまま自分のクラスの応援席に向かった。最初は早歩きだったそれは段々小走りになっていき、最後は走って自クラスの応援席、もっと言えば、最前列に行って応援していたくるみの下へ向かっていた。息を切らしながら立つなまえを不思議に思いつつ、もしかして自分が持っている物がお題として書かれていたのかもとゴソゴソとポケットやカバンを漁ってみた。そんな時、くるみちゃんと声をかけられ、手を止めてなまえにどうしたのか問いかける。

「これ、どう読める?」
「これ?」

手渡されたのはなまえが持っていた紙。余程難しいお題だったのか、そこそこ成績が良いなまえでも読めない漢字が使われていたのか、受け取った紙を読み上げた。

「!?トンファー、としか、読めないんだけど…」
「だよね…敢えて聞くけど丁度よくスペア的なものを持ってたりは…」
「しない、かなぁ…」

だよねぇ。震えた声で絶望感を全面に出すなまえ。どうしようと言葉にしないものの彼女の顔がそれを物語っており、周りで聞き耳を立てていたクラスメイトや他学年で同じ組の生徒らはそんな彼女を気の毒そうに見ていた。

「応接室、いるかなぁ?」
「たぶんいると思うから、一緒に行こうか?」
「ううん。大丈夫。ダメだったら係の人に言ってみる。」
「分かった。」

気をつけてね、というくるみの言葉に弱々しく手を振って小走りで校舎に走っていくなまえ。その背中を心配そうに見送ったくるみは応援席から抜け出し、幼なじみから強制的に覚えさせられた体育委員の委員長を探すことにした。

「はぁっ…はぁっ…」

走って休んでと繰り返したせいか、身体がついてきてくれず、応接室に続く廊下に着いた頃なまえの体はすっかり疲労困憊していて乱れた呼吸を必死に整えながら壁に手をついてゆっくり歩いていた。
ドクドクと心臓が早く脈打つ音を耳の内側から感じ、まるで全身が脈打っているような感覚になるのは過度な運動のせいだけではない。これから自分が向かわなければならない部屋の主を思い返す度に、心臓がどくりと大きな音を立て、身体が沸騰したように熱くなっていくのだ。握りしめた手の中に入っている小さな紙切れに書かれたトンファーという文字を見た時から、あの日偶然にも遠目から姿を目に焼き付け、一瞬でも目が合ってしまった時のことを思い出しては顔に熱が集まり、それを霧散させるかのように首を振るというのをずっと繰り返している。

「はっ…」

着いてしまった。
無意識に止めていた息を吐き出して目線を上に上げれば綺麗な文字で書かれた応接室という文字。ドアについているガラスは室内を見ることが出来るが、光が反射しているせいでよく見ることが出来ない。というかもしかしたら会いたいけど会いたくない人がいるかもしれないという緊張で必死に目を向けることを拒否していた。
ノックしようと手を伸ばすがその度に鼓動が早くなり、顔に熱が集まって胸の前まで戻しすぅーはぁーと深呼吸をして落ち着かせる、という行為を何度も繰り返す。その中でふと思う。自分は一般人だ。気配を消すなんて芸当出来るはずもない。この部屋の前に来て暫く経つが一向に中から何かが動く音がしない。と、いうことは、部屋は無人なのではないか。もしかしたら漫画でよく描写されていた屋上の方にいるのでは、と。

「よし。」

そう結論づけて、帰ろうとした時だった。

「ねぇ。さっきから部屋の前で何してるの。」

ガラリと目の前のドアが開き、部屋の主であるヒバリがなまえの借り物のお題になったトンファーをチラつかせながらこちらを見下ろしていた。

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