リボーン複数主 | ナノ


▼ 標的14

遂に体育祭が始まった。スタートの合図を出すピストルの子気味いい音が一定の間隔で鳴り、競技に参加する生徒らをクラスメイトや保護者がガンバレー等の声援を送っている。かくいうなまえも競技に参加する代表生徒らを応援するために手を叩いたり声を張ったりしていた。区切りのいいところでちらりと隣のA組の応援席を覗き見るが、応援で列を乱している生徒たちでごった返しており、目的の人物は見えない。

「なまえちゃん?」
「あっ、ごめん。何?」
「ううん。どうしたのかなって思って。」

隣にいるくるみが聞くも、なんでもないと返してまた運動場に目を向ける。このやり取りは体育祭が始まってから既に5回は行われていた。原因は分かっており、体育祭始まる直前様子のおかしかった由良のことだ。
廊下でばったり遭遇した由良はいつもなら絶対にしないだろう抱きつくという行為を突然なまえにしてきたのだが、その身体は少し震えていて、何かあったに違いないと確信するには容易かった。しかしだからといって、彼女が素直に言う性格でもないことは理解していたので、何も言うことなく集合をかける放送が鳴ると同時にパッと放し、じゃあと分かれたのだ。そんな彼女の様子に気にならないはずがなく、なまえはくるみが気づいただけで5回以上は何度も由良の姿を探していた。くるみは事情こそ知らないものの、なまえがここまで気にするのは由良に関することだけだと分かっていたので、なんでもないと返されると少し寂しく感じてしまった。

「あ、すごい。山本くん1位だよ。」
「あ、うん。ホントだ。」

以前ならば話題が出ただけでも顔を真っ赤にしてアタフタしていたくるみだったが、今は誤魔化すようにわざと話題を変えたのではと思ってしまい、手放しに喜べなかった。そんなくるみの様子にクラスが違うから喜べないのだと勘違いしたなまえは即座に謝り、少し気まずい空気が漂った。

「そろそろ行くね。」
「うん。頑張ってね!」

次の競技のアナウンスが入り、参加するなまえは集合場所に向かう。くるみの激励にありがとうと返して応援席を出てからA組の場所を見れば、気になっていた友人である由良がいつもの落ち着きを取り戻した様子でツナと話していた。その姿を見てようやく胸を撫で下ろし、今度は晴れやかな気持ちで集合場所に足を進めた。

「お、みょうじ次の競技出るのか?」
「うん。体力無いけどこれなら何とかなるかなって。」
「ははっ!そっか、頑張れよ。」
「ありがとう。」

途中すれ違った山本とそんな会話を交わして、1位おめでとうと言うのも忘れずに伝えればおう!といつもの爽やかな笑顔が返ってくる。
集合場所に着いたなまえは担当の体育委員の指示に従って整列する。体力の無いなまえが消去法で参加することを決めた競技は借り物競争だ。50m走ですら全力で走って咳き込むほど体力も運動能力もないが、借り物競争ならばお題によって1位になることも出来るし、ビリになったとて、お題が入手困難な物なら文句も言われない。非常に安牌な競技だった。

『それでは、借り物競争、スタートです!』

競技開始のアナウンスがかかり、ピストルの音が鳴り響いた。先頭にいた生徒たちは各レーンに置かれている台の箱からお題が書かれた紙を引き、物を探してゴールするという単純なものだった。また、借り物を探す際はレーンを出ても問題無しとなっている為、借り物を持ってきた時再び台のある位置からスタートすれば良いのだ。現に、先頭で紙を引いた生徒たちは既にレーン上にはおらず、応援席、保護者席と散り散りに借り物を探している。勿論これは早く借りられた者が有利になりやすいので、物が見つかり持ってこられた者から順にレーンに戻りゴールしていた。
なまえは有難いことに最終レーンの走者を引き当て、借り物のお題は選べないが、毎年何時間も探さないと借りられない物は出さないと聞くし、所詮中学生が考えるお題である。これは楽勝かもしれないと1人安堵した。

ここで、1つ大事な事をお伝えしておこう。ある者はこうした油断をフラグ建設と呼び、大抵のフラグは余程のことが無い限り折られず回収される。また、彼女の運は良くも悪くもであり、今日の朝は占いなんぞ見てこなかったので運勢は知らないが、一般的によくある光景として、良いことが何度か立て続けに起これば、悪い事も同じように起こるのである。
もうお分かりだろう。彼女はこの借り物競争というやりたい競技をジャンケンで勝つことで勝ち取り、最終走者という順番をくじ引きで神引きすることで勝ち取った。更に前の走者が次々と簡単なお題で上位に入っていることで立派なフラグを建設してしまった。そんな彼女が引くお題がどんなものか、現在引いた直後の彼女の言葉で察していただければと思う。

「嘘でしょ…」

完全に思考を停止した彼女は現実逃避の為に暫く立ち尽くした。

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