リボーン複数主 | ナノ


▼ 標的164

パチン、とジンジャー・ブレッドがラルの体内に仕込んだ晴の蜘蛛の卵を活性させようと指を鳴らし、ツナ達が息を呑むも、ラルの体はこれまでと違い血が噴き出すことはなかった。

「確かに俺はなりそこないだ。」

驚きながら歓喜に湧くツナ達とは対照的に、ジンジャー・ブレッドは何故彼女が無事でいられるのか分からず、指を何度も鳴らすが、何も起こらない。再度形成が逆転した。
状況が飲み込めないジンジャー・ブレッドを尻目に、ラルは静かに話し出す。

「不完全な呪いに蝕まれた俺の体は歪な体質変異を起こし、体内をめぐる波動までもが霧と雲の属性に変わってしまったんだ。」

言葉を区切ったラルは、だが、このおしゃぶりは変わらないと手にしているおしゃぶりに視線を落とす。そのおしゃぶりは先程まで灰色だったが、いつの間にか青色に変わっていた。

「本来コロネロではなく俺が受け取るはずだったこの青いおしゃぶりは、俺の命と引き換えに炎を放つ。」

淡々と話すラルだが、その内容はこの世界を漸く理解し、受け入れ始めたばかりのくるみには酷なもので、彼女の覚悟の大きさを実感し、グッと唇を噛んだ。

「属性は、雨。」

ラルが言葉を放つと同時に、ボウッと彼女の体を雨の青い炎が包み込む。その光景を見ていた了平が、先程彼女の体に仕込まれていたはずの蜘蛛が活性しなかった理由に辿り着く。彼女のおしゃぶりの力で、晴の”活性”の力を雨の”鎮静”で相殺したのだという。その了平の話にジンジャー・ブレッドもなるほどと納得し、余裕を取り戻した。

「で、でも!匣兵器じゃなくラル自身が炎を纏うなんて…」
「俺も初めて見るぞ…肉体から炎など…」

しかしツナ達の関心はラルの炎の出し方、そしてその炎が匣兵器ではなくラルの体を纏っていることにあった。戸惑うツナ達にラルはアルコバレーノの肉体構造がツナ達とは異なると言い放つ。どう言うことかと理解できずにいるツナ達を置いて、ラルは静かに続けた。

「その肉体に背負わされた宿命、苦しみと絶望は誰にもわかりはしない。俺があのままアルコバレーノになっていたら、魂を病みバイパーの最期と同じ道を選んでいただろう…」

アルコバレーノの宿命って、何…?
ツナ達と同じように初めて聞いた由良は、見た目は可愛らしい姿のリボーンやリング争奪戦で戦ったマーモン、少ししか関わっていなかったが、今この時までずっと話題に上がっていたコロネロの姿を思い出しながら、ラルの話す宿命とはなんなのかと考えていた。詳細は分からずとも、ラルの話し振りから、その宿命は非常に重いもののように感じる。唯一知っているだろうくるみの様子を伺いたいが、その前に聞こえてきたラルのコロネロがいたから俺は生きたんだ、と言う切実な声に目を離せなかった。

「あいつのおかげで生きてこれた。」

言い切ったラルはおしゃぶりを首に下げ、君はここで死ぬと見下ろすジンジャー・ブレッドを見上げ、死ぬのはお前だ!と叫び炎を大きくしジンジャー・ブレッド目掛けて飛んだ。そして繰り広げられる空中戦は最初はジンジャー・ブレッドが優勢かと思われたが、ラルが自身の匣兵器のムカデを駆使し、覆した。

「最後のチャンスだ。撤回するか死かを、選べ。」

自分の体とムカデを使って拘束し、残りのムカデを待機させたラルは問うたが、帰ってきたのはこちらを揶揄うような言葉。それを受け、ラルは躊躇なくジンジャー・ブレッドの体をムカデに貫かせた。ムカデに串刺しにされたジンジャー・ブレッドは、このまま死んでしまうだろう。誰もがそう思っていた。

「伏せろ!!」
「!?」

しかしそれはすぐに誤っていたのだと思い知らされた。
ラルの鋭い声と共に、ジンジャー・ブレッドが大きな音を立てて爆発する。勢いよく爆風が吹いてくる中なんとか持ち堪えたツナ達は、ジンジャー・ブレッドを拘束し、爆発の時も密着していたラルの身を案じた。煙が晴れ、すぐにラルが落ちたとされる場所へ駆け寄ると、彼女はムカデを盾にしていたようで、なんとか爆発に巻き込まれるのを防いでいた。

「無事でよかったっ…」
「だね…」

ラルが生きていたことに涙ぐみながら喜ぶくるみに同意する由良だが、アルコバレーノの謎が何か、という疑問が残り、モヤモヤとしこりがあるような感覚を覚える。それは由良だけではなかったようで、今まで対峙していたジンジャー・ブレッドが人形であり、倒せなかったことを知ったツナ達の中で、話が一段落したからか、獄寺もそろそろ教えてくれてもいいんじゃねえか、とラルを問い詰めていた。

「断る。」

しかし返ってきたのは短い拒絶の言葉。間髪入れずに返されたことにより獄寺は苛立った。

「てめっ、いつまでも1人で背負い込んでんじゃねーよ!なんで話せねーんだよ!!」

言葉は乱暴でも、内容はラルを案じるもので、興味本位で聴いたわけではないことくらいすぐにわかった。しかしだからなのか、ラルは頑なに話そうとしなかった。その態度に獄寺が突っかかろうとするより早く、ラルが言葉を続けた。

「どうしても知りたければ、山本に聞けばいい。」
「なっ、野球バカが…?」
「え!?山本知ってんの!?」

ラルの言葉に反応したのは獄寺だけではなく、傍で聞いていたツナも驚き、山本に問い掛ける。突然名前を出された山本は2人の反応を受けたからか、それともアルコバレーノの謎を知っているからなのか、彼にしては珍しくまあな、と歯切れ悪く答えていた。その様子に獄寺はさらに問い詰めようと口を開くが、それより早く、室内が赤く光り、合わせて大きな警報音が鳴り響く。
遂に敵に見つかってしまった。

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