リボーン複数主 | ナノ


▼ 標的163

まるでこちらを挑発するかのように、この時代では亡くなってしまったコロネロの話題を出し、様子を伺うジンジャー・ブレッド。対して動揺したツナ達が何をしたのかと声を荒げれば、相手は笑みをそのままに何か勘違いしているようだね、と呟いた。

「最強と謳われた7人の呪われた赤ん坊、アルコバレーノも非7³線(ノン・トゥリニセッテ)の放射される中じゃ、死にかけた虫みたいなもんだろ?そんな退屈なもんをわざわざ自分の手で殺すかよ。僕はただ、残酷で笑える殺し方を提案して、眺めてただけ。」
「えっ!」
「っ…」

何、コイツ…
それが当然とでも言うように、淡々と発せられるジンジャー・ブレッドのその残虐な言葉に、皆息を呑み、顔を青くした。由良も同様に顔を顰め、ジンジャー・ブレッドを睨みつけた。非7³線(ノン・トゥリニセッテ)がリボーンらアルコバレーノ達に害を与えることはこの時代であれば周知の事実だろうに、彼は助ける事もなく見ていただけだった。それがどれ程残酷か、相手も理解しているはずなのに平気で行っていることが信じられなかった。
ふと、自分よりもこの世界に詳しいくるみはどうなのかと隣に目を遣れば、青い顔をして小さく震えている。

「平気?」
「うん、ありがとう…」

咄嗟にその震えている手を握り、窺えば、青い顔はそのままに、弱々しく笑って返された。その姿に見ている方が苦しくなると、ぐっと顔を苦しそうに曇らせた由良は、しかし何も言う事なくジンジャー・ブレッドに目線を戻した。
全然、分かっていなかったんだなぁ…
自分の手を握り、震えていた自分を案じてくれた由良の気遣いに触れ、まだ小さな震えは残りながらも、落ち着いてきたくるみは、自分の甘さを痛感していた。
何も知らないに等しい由良とは違い、知識があるくるみは最初から自分が踏み込んでいる世界がどういうものなのか分かっていた。そのはずだった。
黒曜との戦いの時に、一端ではあるが、自分達に敵意を向ける殺し屋を相手にし、リング争奪戦では間近で人が死ぬ光景を目にした。どちらも最近の出来事で、記憶は新しいし、そうそう忘れられるものでもないのですぐに思い出せた。だからこそ、自分がいる世界の残酷さは知っているだけではなく理解していたと思っていた。しかしその考えは、ここに来て覆された。
ジンジャー・ブレッドの想像を超える残虐さに、自分が今まで恐ろしいと思っていた事はまだ浅く、本来は彼のようにもっと残酷で厳しい世界なのだと思い知らされた。ここに来て気づかされ、そしてその事実がとてつもなく大きな事に耐え切れず、由良がいなければきっと取り乱していただろう。自分の未熟さに歯痒い気持ちになりつつも、冷静になったくるみは静かにジンジャー・ブレッドを睨んだ。

「貴様ぁ!!」

ジンジャー・ブレッドの言葉に憤り、そのまま声を荒らげたのは話に出てきたコロネロに師事を受けていた了平だ。成長した今も感情的になると突っ走る性格は変わらないようで、この部屋に来る前にツナを治療した晴の炎をリングに灯し一歩前に出た。

「下がっていろ笹川。こいつは俺が倒す。」

しかし、了平よりも先に前に出ていたラルが了平を止め、名乗り出る。だがラルは既に非7³線(ノン・トゥリニセッテ)を浴び体が限界に近く、更に先程ジンジャー・ブレッドによる攻撃を受け負傷していた。そんな状態でまともに戦闘が出来るとは言い難い。そのため了平も無理だと声を上げるが、彼女は淡々と冷静さを失った了平は既に負けているのだと言外に伝え、引く気はなく、了平は悔しそうに歯噛みし、引き下がった。

「あの女大したもんだぜ…全く動じていない…」

コロネロの話題を出され、取り乱した了平と比べ、動じず冷静にしているラルの姿に獄寺は感嘆の声を零すが、ジンジャー・ブレッドには通用していないようで、彼女が身につけて隠れているゴーグルの下でジンジャー・ブレッドへ向ける怒気を孕んだ瞳が見えているように怒りを抑えるのに精一杯と見えると言ってのける。しかしその姿が逆にジンジャー・ブレッドの目に叶ったのか、上に報告する前にラルと一対一で勝負すると言い、ふわりと浮いたかと思うと指をパチンと鳴らした。

「!!」
「何これ!?」

途端ツナ達の足元から無数の晴の炎が紐状になって伸びていく。由良が驚く間も無くそれは天井まで広がり、更にその紐の合間に隙間なく蜘蛛の巣が張り巡らされた。良く見れば、中心には晴の炎を帯びた蜘蛛がいた。匣兵器かと驚くツナ達にジンジャー・ブレッドは少しでも動くと蜘蛛がジンジャー・ブレッドに知らせ、手を下すことになると説明する。完全にラルと分断されてしまい、ツナ達は蜘蛛の巣で視界が狭まる中、ラルとジンジャー・ブレッドの勝負を見届ける他なかった。

「大した自信だな。」

そんな中先に仕掛けたのはラルで、宙に浮いているジンジャー・ブレッドの背後に回り込み霧の炎をレーザーのように放射し、ジンジャー・ブレッドに防がれ反撃されるも自身の匣兵器でもあるムカデを盾に、そしてそのムカデを使ってジンジャー・ブレッドの手足を縛り上げ、簡単にジンジャー・ブレッドを追い詰めた。万力のムカデが締め上げる力に悲鳴をあげるジンジャー・ブレッドの姿に流石にやりすぎだとツナがラルを止めようと声を上げた時だった。

「!!」
「ラル・ミルチさん!」

突如、ラルの肩から血が噴き出し、思わず見ていたくるみが叫ぶ。しかしラルは応えることなく崩れ落ち、傷口を抑えた。その間ムカデに拘束されていたはずのジンジャー・ブレッドはどちらも偽物だったらしい手足を外し、座り込むラルを見下ろした。完全に形勢が逆転された。
ラルは劣勢になった状況下であっても冷静に事態を把握した。自分の傷口付近に無数の晴の炎を帯びた蜘蛛がおり、それを受けてこの部屋に入ってすぐに被弾したのは活性する前の晴の匣兵器だったと答えを導き出した。それに答えるのは仕掛けたジンジャー・ブレッドで、ラルの体内には超微粒の晴の匣兵器である蜘蛛の卵らしく、ジンジャー・ブレッドの合図で”活性”し成虫となって人の体を突き破るという。それはツナ達の前に壁のように張り巡らされた蜘蛛の巣も同じ原理らしいが、それよりも重要なことは、ラルの体にまだ数千の蜘蛛の卵が残っているということだった。もしそれらが一斉に活性したら、ラルの体はひとたまりもないだろう。

「ほーら♪」
「ぐはっ!」
「ああっ!」
「おのれ!」

まるで見せつけるように指を鳴らしたと同時にラルの背中から血が噴き出す。見ているだけの山本、了平が声を上げ、助けようと動いたが、下手に動けばラルの心臓を突き破るかもしれないと楽しそうに脅してくるジンジャー・ブレッドのせいで動けなくなってしまった。
ラルが倒れ、動けなくなってしまったのをいいことに、ジンジャー・ブレッドは饒舌にコロネロの最期を楽しそうに話した。彼は最期に、一緒に戦っていたアルコバレーノを庇って死んでしまったらしい。それは彼の人となりを知る人間からすれば、人を庇うという行動をするのは彼らしいと考えるには十分だった。現にラルは自身しか知り得ないアルコバレーノが生まれた運命の日のことを思い出し、肌身離さず持ち歩いていた濁っている灰色のおしゃぶりを見つめた。

「おせっかいの役立たずさ。君がその濁ったおしゃぶりを手放せないのも奴が助け損ねたからなんだろ?裏目裏目の男コロネロ♪」

そんなラルを見ていたからか、コロネロが最期に庇ったはずのバイパーは自ら命を絶ったと続け、コロネロをバカにしたようにジンジャー・ブレッドは話す。それは止まることなく、静かに聴いているラルを再び立ち上がらせるには十分だった。

「しかし悲惨な人生だったね、哀れなラル・ミルチ。それもこれもアルコバレーノ一のおせっかいバカのせいってわけだ。裏目のコロネロのね♪」
「撤回…しろ…」

ジンジャー・ブレッドの言葉にラルは力を振り絞り、ゆっくり起き上がり、そのまま力をおしゃぶりに込めるように力んだ。同時に彼女の顔の痣がビキビキと広がっていく。途端、彼女の手にしていたおしゃぶりが青く光り出した。それはまるで雨の炎のような色だった。

「コロネロへの侮辱を撤回するか、死を選べ。ジンジャー・ブレッド。」

戸惑うツナ達をよそに、ラルは力強い声でジンジャー・ブレッドに言うが、彼は聞く耳を持たず、ラルを殺そうとツナが止める間も無く指を鳴らした。パチン、という軽快な音に皆息を呑んだ。

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