リボーン複数主 | ナノ


▼ 標的161

草木も眠る丑三つ時。
昨夜の喧騒はどこへやら、皆が寝静まる中つい先程まで獄寺の匣アニマルである瓜によって一悶着あったものの、喧嘩にまで発展することなく、嫌々ながらも送り届けたヒバリは自室に戻り、暗がりの中あどけない表情で眠るなまえを見てふっと顔を緩めた。
本来の作戦決行の時間まではまだ余裕はあるが、撒いた餌に引っかかることを考えて、そろそろ用意をしなくてはならないという頃合。着替えようかと後ろ髪引かれる思いで布団の傍でしゃがんでいた体勢から立ち上がろうとした所で、自分の寝間着である浴衣の裾をくい、と引く感覚。

「なまえ…?」

見れば、自分の裾を軽く、しかししっかりと掴んでいるなまえの手。よくよく見れば、ぼんやりとしているが、目は開いており、パチパチと瞬きを繰り返している。
それはやがてはっきりしたものになり、暗い中でも目が利くヒバリは段々と強ばっていくなまえの表情がよく見えた。

「す、すみま、せんっ!ね、ねぼけてて…!?」

がばりと起き上がり、慌てふためく様子のなまえに、ヒバリは静かに手を伸ばし、その頬に触れた。途端真っ赤になるなまえの顔。その変化に自然と口角が上がっていく。そのままするりとひと撫ですれば、小さく細い肩がピクリと跳ねた。その様子に、記憶の中の目の前にいる少女より成長した人を思い出し、目を細めた。
暗い中で、ヒバリの表情の変化はなまえには分からず、困惑する。そんな彼女に訳を話すよりも先に、別の言葉を発していた。

「そろそろ、行くよ。」
「あ………」

ヒバリのその言葉で、理解するのは充分だった。なまえは一言零すと、咄嗟に俯いた。脳裏に浮かぶのは、短くも内容が濃く密になっているこの時代のヒバリとの日々と、その中でも一際大きな存在感を見せる自分と同じ時代にいた並盛中の学ランを肩に掛けているヒバリの姿。
離れてしまう寂しさと、漸く会える期待への嬉しさが入り混じって、どこか罪悪感を覚えながら、なまえは顔を上げた。暗くなっているからきっと見えないだろうと考えた彼女は、自分の顔が複雑な感情で歪んでいることをヒバリに気づかれているとは知らずに、無理矢理口角を上げた。

「分かり、ました。いってらっしゃい。」

聞き分けの良い子のように言いたい言葉を押し込めて、笑って言ったなまえ。もう少し時間があれば、ゆっくり彼女の言葉を聞き出せただろうが、こうしている間にも敵がアジトに近づいているこの状況で、即戦力となるヒバリが出ないわけにもいかず、うんと頷いて手を離した。

「過去の僕なら、一番最初に作ったハンバーグが好きだよ。もちろん、僕もね。」
「えっ…」

同時に立ち上がり、なまえの気が少しでも紛れるように、ヒバリは一番のお気に入りであるなまえの作るハンバーグを話題に出す。突然話され驚いたなまえは目を丸くし、ヒバリを見上げた。

「またね。なまえ。」

暗い中でも、ヒバリが自分に微笑んでいるように見え、なまえは一瞬固まった。これまで過ごしてきて、ヒバリが思いの外笑う事を知っていたが、彼の笑みはなまえには刺激が強すぎてしまう。それはいつになっても変わらず、なまえが呆けている間にヒバリは部屋を出て行ってしまっていた。

「っ…いってらっしゃい。恭弥さん。」

気づけば1人残されていたなまえはもたついてしまう足を叱咤し、部屋の襖を開け、ヒバリが向かったであろう方へ向けて小さく呟いた。
それから数十分後、ボンゴレの倉庫予定地で大規模な爆発が起こり、その爆発を仕掛けた大勢のミルフィオーレファミリーの者達に対し、ヒバリはたった1人で迎え撃った。

「出撃って…予定より早くない!?」

ヒバリがミルフィオーレファミリーの連中を迎え撃っている頃、ツナ達はリボーンから作戦決行の時間だと知らされ、準備を万全にした状態でボンゴレのアジト内を走っていた。予定より早い時間に疑問を持ったツナに対し、ジャンニーニとリボーンがミルフィオーレから襲撃を受け、ヒバリが対応していると答えると、ツナはヒバリの応援に行かなければと焦る。

「ならん!!それではヒバリが体を張る意味がなくなる!!」
「え!?」

しかしそれを止めたのはこの時代の了平で、驚くツナにヒバリが1人で引き受けることで地上と敵アジトの戦力が手薄になると了平の言葉に続けて説明したリボーンはヒバリの行動に報いだければ殴り込みを成功させろとツナを鼓舞した。その言葉はツナだけでなく、獄寺や山本にも届き、ヒバリを心配しながらも、絶対に成功させなければと改めて思い直した。そんな硬い雰囲気の中に、明るい声と、静かに、しかし安心させるような声と言葉がかかる。

「というか、恭弥くんの応援に行ったら邪魔だって怒られそうだよね…」
「それな。ってかヒバリが負ける所とか想像つかないわ。しれっと勝ってそう。」
「ふふっそうだねっ!」
「お前ら緊張感持てよ!」

くるみと由良である。本来であれば待機する予定だった由良は、1度目が覚めたクロームに、自分の代わりに鍵となる白い大きな装置を見てきてほしいと頼まれ、急遽作戦に加わった。由良の参戦に驚いた一行だが、1人仲間が増えるだけで頼もしさも増し、受け入れた。そんな最中の予定より早い作戦決行、ヒバリの単独での迎え撃ちという状況だった。
こんな時に、いや、こんな時だからこそ、2人は軽口を交わしていた。そのやり取りに思わず獄寺が怒鳴るが、2人は聞こえていないフリをして聞き流す。そして前を走るツナや獄寺、山本を安心させるように声をかけた。

「ツナ達だって想像してみなよ。ヒバリが負けるとこ。私全然想像できないから。」
「襲撃と言っても、相手も私達が強くなってるとは思ってないだろうし、下っ端しかいないんじゃないかな?もしそうだったら、ますます恭弥くんが負けるとは思えないよね。」
「それは…」
「まあ…」
「確かに…」
「ほらね。」

2人の言葉にツナ達は一瞬ヒバリが負ける姿を想像し、しかしそれは靄がかかったように明確にイメージできず、同意した。そのやり取りでヒバリへの心配で揺らいでいた覚悟も再度引き締まったようで、ツナの心が少し軽くなった。そんなツナにジャンニーニから今ならFハッチを開口し敵アジトへ突っ切ることができると通信が入る。

「くるみと由良のお陰で不安も無くなっただろ、ツナ。もう大丈夫だな?」

分かっているかのようにリボーンが問うた。それにツナはうんと頷き、前を向いた。

「開けてくれ!ジャンニーニ!!」

ツナの言葉で、獄寺や山本、共に作戦に参加している了平、ラル、そしてくるみと由良も皆、目の前に広がる道へまっすぐ視線を向けて、一歩踏み出した。

prev / next

[ back to top ]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -