リボーン複数主 | ナノ


▼ 標的155

医務室を後にしたくるみは己の悩みを解決できるかもしれないと、まずはヒバリから受け取っていた、未来の自分が託したという手紙を読んでみることにした。自分が使う部屋へ行き、糊付けされていない封筒から折り畳まれている便箋を取り出し、書かれている内容に目を通す。

「いいこと全然書いてくれてない…」

まあ、期待していなかったけどさ。
心の中で不満をこぼしながら、読み終えたくるみは不機嫌な顔のまま手紙をしまった。
手紙の内容は自分が期待していたようなものではなく、新しい武器はXANXASが使っていたものからインスパイアされたものを取り入れているだとか、死ぬ気弾の作り方、自分が使える死ぬ気の炎の属性や使った際の体への反動がどういうものなのか、ということだった。死ぬ気弾の作り方や新しい銃はXANXASが使用していたものを参考にしていると書いているのだから、そのまま使い方だったり、自分はどのように使えるようにしたのかも書いてくれればいいものを、と未来の自分を恨めしく思ったくるみだが、封筒や匣の中を隅々まで探してもそれ以上の情報は手に入りそうになかった。

「どうしよう…」

またもや手詰まりか、と項垂れたが、すぐに顔を上げ、ぶんぶんと首を横に振る。こんなところで止まっていることはできない。時間は有限、こうしている間にも、刻一刻と作戦決行の時間は近づいているのだから。パン、と両頬を叩いたくるみは無造作に手紙をポケットに突っ込んで、自室を飛び出し、パッと頭に思い浮かんだ人物がいるだろう場所へと向かった。


一方で、くるみが去った後、医務室に残された由良は顔色がよくなり落ち着いたクロームの容体をもう一度確認した後、自分の右手中指に嵌められている雪のリングに目を落とした。
クロームが嵌めているものとは違い、雪の結晶の模様が半分に分かれたリングは、くるみも反対側の半分になったリングを持っているから。しかしそれでもあのグロ・キシニアと戦うことはできたし、匣を開けることもできた。
しかしそれでも由良の表情は晴れず、硬いまま、静かにリングに炎を灯した。

「………はぁ…」

ゆらりとゆらめく薄い水色の炎。グロ・キシニアが初めて目にしたからと驚いていた雪の炎。見る者はきっと純度が高いその炎に驚いたことだろう。
しかしそれでも、由良の悩みは消えない。

「小さい…」

呟いた言葉は炎に向けた言葉だった。
この時代に飛ばされる前、ヒバリが炎を使い出してさらに強くなった頃から、くるみもおそらく感じていた。そしてそれは、奇しくも仲間内ではなく、敵から教えられてしまったこと。
今出している炎は先程クロームが己の内臓を生み出した時の炎を比べて随分と小さく、弱々しく感じるものだった。いくらクロームを助けるため幻覚を使い、本調子ではなかったとしても、クロームが生み出した炎よりも遥かに小さいものだった。
くるみにはできることをすると伝えた手前、クロームの傍でも幻覚の維持や戦闘能力の強化は続けていくつもりではあったが、なんとなくではあるが、このまま続けていたとしても、リングに灯せる炎はこのまま増やすことは難しいだろうということは確信していた。そしてその原因もはっきりしていた。
雪のリングがハーフ、半分の状態だからだ。それは敵であるグロ・キシニアも指摘していた。半分だから威力が弱いのだと。
きっと、それを補うためのオオカミと匣の中にある薙刀だったのだろう。しかし、それも今後どれだけ通用するのか分からない。

「………がんばろ…」

懸念はなくならず、由良に不安な思いを呼び起こさせるが、それでも由良はそんな考えを追い払うように頭を振り、呟いた。本当はくるみと協力してリングを一つにした状態で修業することが一番いいはずなのだが、それはリングが許してくれない。炎の特訓を始めた頃を思い出し、リングへの苛立ちをぶつけるように、リングに炎を灯すことに集中した。

「できることするって、約束したんだから…!」

その瞳には、強い意志、覚悟が宿っていた。


所変わってボンゴレ地下アジトのトレーニングルームの一室では、由良と同じように、炎の威力が弱いことを指摘され、ショックを受けるくるみがいた。そんな彼女の前にいるのは、先程まで体調を崩して倒れていたはずのラル・ミルチ。
くるみがまず最初にとった行動は、自分宛の手紙を渡してきたヒバリに未来の自分が何か手がかりになるようなことを言っていなかったか問うことだった。そのためにも、くるみはヒバリがいるだろうツナのトレーニングルームに向かった。
しかしそこで繰り広げられていたのは激しい殴り合いを続けるツナとヒバリの姿。トンファーを使い、容赦なく殴りかかるヒバリに対抗するべく、ツナも炎を使って宙に飛んで回避したり、グローブに炎を灯して受け止めたり、時には反撃したりと格段に強くなっていた。
少し見ない間に凄まじい成長を見せていたツナに驚いたくるみだが、これではヒバリに話しかけたり聞いたりできるような雰囲気ではないと肩を落とした。

「何をしている。」
「っ!あ、えっと…ラル・ミルチさん!」

そんなくるみに声をかけたのは、辛いはずの体に鞭打ってツナの修業を見ていたラル・ミルチ。ビクッと肩を跳ねさせ驚いたくるみを気にすることなく、修業はどうしたと問うてくる。そんな彼女にどう答えたものか、と一瞬考えたが、正直に新しい武器の使い道に悩んでいるため事情を知っていそうなヒバリを訪ねた旨を伝えた。聞いたラルは当然甘えるなと厳しい言葉を浴びせるが、しかしその後、急に雪の炎を灯して見せろと言ってきたのだ。
疑問に思うも、くるみはもしかしたら何か助言がもらえるかもしれないとリングに炎を灯した。そしてその炎を見て一瞬目を見張ったラル・ミルチはすぐに苦い顔をして零した。威力が弱い、と。

「恐らくリングがハーフ状態だからだろう。沢田たちの炎よりも格段に小さいし、威力は半分以下だ。今のままでは、到底戦力にならん。このまま続けたとて、炎の威力が変わることはないだろうな。」
「っ……」

はっきりと、戦力外と告げられ、言葉を返せずショックを受けるくるみは俯いた。
しかし、ショックを受け、気持ちが沈んでいるからといって、このまま何もしないつもりはない。くるみはすぐに顔を上げ、ラル・ミルチの顔をしっかり見据えた。

「それでも、できることをしていくって、決めたんです。なまえちゃんが死ぬことになった原因の、敵をやっつけるって、決めたんです…!」
「………。」

真っ直ぐ見据えるくるみの目には、しっかりと覚悟の炎が宿っていた。その瞳を向けられ、そしてくるみが戦う理由となった大切な友人の死に対する敵への強い思いに、ラル・ミルチは思わず黙り込む。
本来なら、戦力外とも言えるくるみを加えたとて、意味は無い。しかし、彼女の気持ちは痛い程分かるのだ。気持ちも、そういった気持ちを抱いた人間がどう動くのかも。
だったら少しでも、自分が正しい道へと導く方が、それはゆくゆくはこちらの有利になるかもしれない。そう考えていたラル・ミルチは、気づけば口を開いていた。

「匣の武器を見せてみろ。」
「えっ…?」
「使い方くらいなら教えてやる。」
「!はい!」

スパルタではあるが、雨のアルコバレーノであるコロネロを鍛え上げたラル・ミルチ。指導者としてリボーンにも一目置かれている彼女に指導してもいいと思われた、と考えたくるみは嬉しそうに笑顔を浮かべて頷いた。

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