リボーン複数主 | ナノ


▼ 標的154

クロームの容態が落ち着き、現在はスヤスヤと寝息を立てている様子を確認し、由良は漸く安堵し、一息ついた。握った手はそのままに、ベッド脇の丸椅子に腰掛けた由良は再度クロームを見つめる。
顔色はまだ良くは無いけれど、呼吸は安定しているし、吐き出した血は先程拭き取ったから問題は無さそう。
冷静に確認し、問題が無いと判断したところで、つい、とクロームの鞄が置いてあった場所に目を向ける。
黒いスクールバッグの周りに無惨にも飛び散っているのは、粉々に壊れた三叉槍の槍の部分。破片はクロームのベッドを綺麗に片付ける時に粗方回収し、今は鞄の横のハンカチにまとめてある。

「骸、何してんだろ…」

クロームの容態が急変した原因でもある、骸の生死如何。それを把握する為、あの槍は目安にもなるのだ。形を保っていればひとまず骸は無事、つまりクロームも問題無く生きていられる。それが壊れる、ということは、2パターン考えられる。
クローム単体の外的要因か、骸とクローム、双方の外的要因か。
以前ヴァリアーとの戦いでマーモンが槍を壊した時、骸は復讐者の水牢にいたし、力も余裕があったから実体化し、クロームの内蔵も補う事が出来た。これはクローム単体の外的要因と言えるだろう。
しかし今回に関しては、クローム単体ではない。クロームがいた医務室はビアンキが様子を見ていたし、自分もいる。何よりここはボンゴレの地下アジト。クロームの事情を知っている人間しかいないのだ。そんな中で、クロームの生命線とも言える三叉槍を壊す人間など居はしない。つまり、骸の身に何かあったと考える方が現実的なのだ。
どんな事があったとしても、平気な顔してピンピンしていそうな生にしつこい人間だとは思っていたが、その予想は外れたようだ。

「全然笑えない…」

いつも骸に向けて言うようなひねくれた言葉を思い浮かべたものの、気分は優れない。結局のところ、骸はクロームの内蔵を補う力を残す事も出来ないほどの痛手を負った事は確かなのだ。原作の展開を知っているなまえやくるみなら、骸がどうなったのかは分かるだろうが、未来編の全ての展開を教えて貰っていない由良には分からなかった。
薄らと覚えている自分の過去の記憶には、骸の存在は思い出せない。戦うツナの姿、何かを話す様子は思い出せるが、それだけで、骸の姿は最近の、黒曜で出会った後の夢でよく会う姿しか思いつかなかった。

「由良ちゃん。」
「くるみ。」

考え込んでいた時、医務室のドアが開き、くるみが入室してきた。どうしたのか聞けば、今後の作戦決行に関して伝えに来たと言う。それにああ、そう言えばそうだったと、今朝から沢山の事が起こりすぎて頭からすっぽり抜け落ちていたことに漸く気づいた。
言葉にせずとも由良の反応で察したくるみは苦笑をこぼし、隣の丸椅子に腰掛ける。そして穏やかな表情で眠るクロームを見て、よくなったんだね、とホッと息を吐いた。

「作戦ね、決行するって。」
「うん。私は…」
「由良ちゃんはクロームちゃんの事があるから、お留守番だって。」
「そっか…」

そのやり取りが終わると、室内に沈黙が広がる。
どちらも視線はクロームの方に向いており、互いにどのような表情をしているのかは窺い知れないが、由良の手に少し力が加わった様子から彼女の心情を察し、くるみは目を伏せた。
そんなくるみが沈んだような空気は由良も感じており、視線はクロームの方へ向けたままくるみと呼びかけた。

「骸は、生きてるよね。」
「………無事だよ。だって…」

由良の質問に答えたくるみだが、続きは出てこなかった。その先は、万が一にも聞かれてはならないものだったから。しかし由良はしっかり把握していて、ふ、と小さく息を吐いた。

「なら、いいや。クロームのこと看ながら、出来ることしてる。」
「………そっか。」
「くるみ、手伝えなくてごめん。」
「えっ…?」
「えっ」

違うの?
由良の問いに静かに息を呑む。由良とてくるみの全てを知っているわけではないが、だからと言って彼女がただ今後について伝える為だけにここに来た訳では無いだろうということは予想がついた。
この時代に飛ばされるまで、ヒバリとの一方的な手合わせではあったものの、お互いの苦手を克服しようと頑張ろうと話し合っていたこともあり、クロームの事がなければ続けるつもりだった。それに、くるみの新しい武器は今までと勝手が違い、扱いに難儀していた様子だったので、溜め込んで悩んでしまうくるみの性格を考えると自分が傍で手伝った方がいいだろうと考えていた。
それらを鑑みて言ったのだが、どうやらくるみは隠していたつもりだったらしい。目を丸くする彼女の様子に、内心苦笑する。

「よく、分かったね…」
「ここ暫くずっと一緒にいたでしょ。なまえ程じゃないけど、どう思ってるのかくらい分かるよ。前みたいになんでもできる子っていう風に思ったりしない。」
「……………ありがとう…」

まだどこかぼんやりとした様子ではあるが、ふわりと笑んで呟いたくるみに、うんと頷いた由良。そんな由良に、今度はくるみが声を掛ける。

「由良ちゃんも、無理しないでね。」
「………くるみ…」

先程のくるみと同じように、驚き目を丸くする由良に、くるみはクスリと笑みを零す。
由良が話していたように、リング戦が終わってから、2人は一緒に行動することが増えた。それはただ行動するだけでなく、一緒に過ごすことで、お互いがどう考えているのか、どう思っているのかも含めて、これまでの自分の想像や推測ではなく、実際の思いを言葉で伝え、聞くことでより理解を深めていた。この時代に来るまでのヒバリとの手合わせだけでなく、お互いの課題を明確にして共有することで、互いの焦りや不安も一緒に吐露していた。そう言った経緯があったからこそ、くるみも由良も、お互い余裕があると考えていたが、実際は余裕などなく、どちらも必死だったということが分かった。
そのため、由良がなんとなくくるみの焦りや考えがわかったように、くるみも由良のもどかしさや不安も分かったのだ。

「私も、由良ちゃんがいつもたくさん考えてるんだってことくらい、分かってるもん。なまえちゃんに比べたらまだまだだけど…」
「そっか…」

由良と同じような言葉を伝えれば、ふっと息を吐いて気が抜けたような声が返ってくる。
それから少し沈黙の時間が流れるが、2人の間には穏やかな雰囲気が流れ、どちらも視線を交えることはないが、その表情は落ち着いている。
2人とも、なまえの死を聞いて間も無い内に作戦決行と知り、不安や焦りばかりが先行し、落ち着いて考えることができなかった。このまま修業を続けていれば、お互い作戦決行前に壊れてしまっていただろう。それを本能的に恐れ、くるみは話しに来たのだが、どうやら功を奏したらしい。
冷静になれたことで、新しい自分の武器をどう扱えばいいのか、武器を使ってどう戦えばいいのか悩んでいたくるみは何かを掴めたような気がして、よし、と立ち上がる。

「そろそろ行くね!お邪魔しました!」
「いってら。」

短くも暖かい言葉を背に受けながら、くるみは医務室を後にした。

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