リボーン複数主 | ナノ


▼ 標的153

時は少し遡り、クロームの容態が急変したと報せを受けたヒバリが出て行った後、風紀財団地下アジトでは、戸惑い、困惑した様子のなまえがいた。
思い返すのは先程の自分の行動、そして感情。
自分は、何をした?何を感じた?
自問自答し、導き出した答えに気づき、酷い嫌悪感を覚え顔を手で覆う。

「何、考えてんだろ…」

ポツリと呟いても、受け止めるものも、気づくものも、誰もいない。
ここに、ヒバリがいたのなら、きっと何やってるの、と低く落ち着いた心地よい声でクスリと笑って、自分の頭を撫でるだろう。
たった1ヶ月程ではあるが、この時代のヒバリが自分に対してどのように接するのか、身をもって分かっていたなまえは、なんの疑問も抱かずに結論づけた。そしてそれが更に嫌悪感を増幅させ、項垂れ深い溜め息を吐く。

「ほんと、何考えてんだろ…」

思い返すのは、先程のヒバリの、まるで自分を咎めるような鋭い瞳、静かに、しかしはっきりと聞こえた怒るような声。それらをヒバリから受けたなまえは、急に冷水を浴びたように、すっと血の気が引いて全身が冷たくなる心地がした。
嫌われたかもしれない。嫌われたくない。
ふと、そう思ってしまった。そしてそれに気づいてしまい、なまえは戸惑い、困惑した。だからすぐに空気を和らげ、優しく接してくれたヒバリへの反応も薄くなった。
思い出し、ぶるりと震えた体を抑えるように自分を抱きしめる。

「気持ち悪い…!」

しかしそれでも嫌悪感は拭えず、苦々しく言葉を吐き捨てた。
自分が思い浮かべた言葉、感情は本来なら抱いてはいけないものだ。ヒバリの自分に向ける感情や思いは、ヒバリのもので、自分のものでは無い。
何を考えているのだろうか、自惚れるのも大概にしろ。心の内で自分を強く叱責する。
自分が思ってしまったことは、まるでヒバリが自分に対して好意的に思っていることが前提かのような考えだった。

「そんな事、ある訳ないのに…ある筈がないのに…!」

ヒバリは、興味の無いものに対しては、酷く無関心だ。興味の無いものには無いとハッキリ言うし、見向きもしない。加えて、彼は戦闘狂と思われるほど戦うことを好むが、強者への興味もその場限りで、己の気分によって相手をコロコロと変える程気分屋であり、一つの事に向ける興味は長続きしない。完全に自分のメリット、デメリットを考える効率的な人間だった。
なまえを側に置いているのも、ヒバリが自分に利用価値があると考えたからだと結論づけているなまえは、当然、ヒバリが自分に恋愛感情を抱いていることも、利益等関係無しに結婚をしたことも知らない。過去のヒバリはもちろんのこと、この時代のヒバリもこれまで一言も言わなかったからだ。ヒバリなりに、言わなかった理由もあるのだが、なまえが知る由もない。
だからこそ、なまえは必死に自分に言い聞かせるように違う、そんなはずない、と繰り返し呟いた。
そんな彼女の頭上に影がかかる。

「何してるの。」
「っ!ヒバリ、さ…」
「違う。」
「ぁ…恭弥、さん…」
「うん。」

咄嗟にかけられた声の主、ヒバリに驚いたなまえは思わず呼び方を誤ってしまったが、その時の否定の声と、咎めるような視線が先程の光景と繋がり、即座に呼び直した。途端、ふっと和らぐ空気と、優しい声色にホッと安堵していると、こちらを見下ろしていたはずのヒバリの瞳と目が合う。

「っ!」
「それで、何してたの。」
「あ、えと…」

驚き息を呑んだなまえに優しく、子供に向けるように問いかけたヒバリ。対するなまえはヒバリの優しい眦に混じり、こちらを溶かしてしまうのではないかと錯覚しそうなほどの何かを感じ、ぶわりと顔に熱が集まる。その向けられた瞳のむず痒さと、ヒバリに声をかけられるまで考えていた事への後ろめたさから言葉を濁しつつ、顔を逸らし、なんでもないと言い張った。
普段のヒバリであれば、なんでもないことはないだろうと、なまえが白状するまで問い詰めるが、この時は違った。

「そう。」
「っ…ぁ…」
「食事が途中だったね。早く食べよう。」

特段追求することもなくすぐに引いたヒバリに、身構えていたなまえは言葉にならない声を零す。しかしヒバリはすっくと立ち上がり、なまえに見向きもせずに食卓に向かう。
その仕草はまるで、自分に飽きたと、愛想をつかされたようなものに感じ、心細くなったなまえは咄嗟に手を伸ばしかけ、引っ込めた。一瞬の出来事だったからか、振り向かないヒバリは気づかず、スタスタと進んでいく。勝手に心細く、寂しさを感じてしまった自分にさらに嫌悪感が増し、一度唇を噛み締めたなまえは立ち上がると同時にその感情を振り払い、はい、と答えてついていった。


食事を終え、食器を片付けたなまえはスーツのままで食後のお茶を飲んでいるヒバリの前に再度腰掛けた。食器を片付ける際、終わったら話があるから戻るよう言われたからだ。
腰掛けたことを確認したヒバリは湯呑みを置き、口を開いた。

「なまえに、これから計画していることも含めて全て伝える。」
「えっ…」

静かに言い放つヒバリに驚くなまえ。しかしヒバリは気にしていないようで、まずクローム髑髏は無事だとここに戻ってくるまでに何をしていたのか説明する。置いていかれ、話の理解に追いつかないと思われたなまえだったが、この時代に来た時と異なり、今度はしっかり聞いていたようで、頷き、ヒバリの説明を復唱し、理解しながら聞いていた。

「5日後、僕は入れ替わる。」
「………。」

次いで説明されたのは5日後のミルフィオーレ日本支部襲撃の計画。その襲撃の中で、ヒバリは過去の自分と入れ替わることを告げたが、なまえは静かに目を見張るだけで、落ち着いていた。
知っていたから当然か。と考えたヒバリは、入れ替わって日本支部のボスとなっているはずの入江正一と合流し、ツナ達に何故入れ替わりをしたのか、や、この時代のツナが考案したボンゴレ匣を渡す事も説明した。そしてなまえは、その内容もしっかりと聞き、理解した。
ひどく落ち着いた様子のなまえに違和感を覚えるも、残された僅かな時間で彼女にどうしたいか伝えるべく、ヒバリはゆるく笑んだ。

「残り5日、なまえと過ごせる時間は、更に短くなる。だから、今日から一緒に過ごす時間を増やそうと思う。」
「一緒に、過ごす時間、ですか…?」
「うん。」

今度は理解が追いつかず、目を丸くし驚くなまえ。何を言っているのだろう、と内心首を傾げている彼女の考えが手に取るように分かるヒバリはそんな彼女を可愛らしいと思いながら頷いた。

「食後はこうして話す時間を設けよう、2人で過ごす時はもっと近くで話したいな。」

ヒバリの希望に、なまえは反応できずに目をパチクリと丸くするだけで、一言も発さない。ヒバリは急かすことはせず、静かに待っていた。
それは、本当に必要なことなのだろうか…
一瞬頭をよぎったのはそんな疑問。しかし、ここで聞いたとて、ヒバリは必要と答えるしかしないだろう。何故必要なのか、何故なまえなのか、その理由は黙したままで。
それはちょっと、嫌だな…

「嫌なの?」
「っ!い、いえ!わ、わかりました!」

まるでこちらの考えを見透かしたかのようなヒバリの問いにびくりと肩を跳ねさせ、慌てて否定したなまえは先程まで考えていた自分の言葉も消し去るように首を勢いよく左右に振った。
また、何考えてたんだろう、私…
まるで自分が自分ではないような心地がして、それに気持ち悪さすら覚える。しかしそれを見せないように、ぎこちなく笑んで縮こまる。

「それじゃあ、僕はまた向こうに用があるから、行くね。」
「あ、はいっ!行ってらっしゃい!」
「うん。」

なまえの言葉に満足したらしいヒバリは席を立ち、なまえの頭を一撫でしてからボンゴレのアジトに向かった。
そんなヒバリの背中を見送ったなまえは、消え去ったはずの考えや、自分への嫌悪感、不快感がぐるぐる混じり合ったような複雑な思いをなんとか押し留め、飲み込んだ。

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