リボーン複数主 | ナノ


▼ 標的149

部屋を出て行ってしまった由良を追いかける事が出来ず、その場に立ち尽くしたくるみははぁ、と溜め息を吐いて項垂れた。足下にそのまま視線をやれば、つい先程まで自分の行く手を阻んでいた己の匣アニマルであるウサギが、ぴとりと足に体をくっつけてつぶらな瞳で自分を見上げている。
やり場のない苛立ちをぶつけるようにぷくりと頬を膨らませ、もちっとしたふわふわの体を持ち上げ目線を合わせる。じとりとした目で睨みつけるが、ウサギには効いておらず、きょとりと返されるだけだ。

「はぁ…」

その煮え切らないウサギの態度に、何を言っても無駄だと察したくるみは再度大きく溜め息を吐いてウサギを下ろした。
過ぎてしまった事は仕方がない。由良を追いかけないようにしたのは、何かウサギなりに理由があるのだろう。ならば、今は少しでも強くなる為に修業を再開するべきだ。そう考えたくるみはぺちんと両頬を叩き、よし!と気合いを入れ直す。

「由良ちゃんが戻ってくるまで、2人で頑張ろうね!ユキちゃん!」

ニコリと笑いかければウサギは耳をぴょこんと立て、背筋をピンと伸ばした。まるでくるみと同じように気合を入れてくれたかのような動きに嬉しくなり、笑みが零れる。
そんな気合いが十分入った状態で匣から出した武器を持ち直そうとして、手に力を込めた。

「あっ…」

しかし新しい銃はカシャンと音を立てくるみの手から滑り落ちる。危ないなぁ、と呟いて、拾いあげようとしゃがんで手を伸ばしたくるみだが、そこで漸く、自分の手が震えていることに気づいた。

「えっ、なんで…?」

戸惑いながら震えを止めようと手首を掴んで抑えるが、効果はない。それでも無理矢理銃を拾い上げ、なんとか構えるも、震えは止まらず照準が定まらない。

「ど、して…」

ショックを受け、声を零したくるみは力無く腕を下ろし、同時にカシャンと銃が再び落ちる。しかし今度は拾い上げることはせず、心配そうに見上げるウサギにも気づかないくるみはただ自分の震えるままの手を見つめるしかできなかった。

「くるみ。」
「っ!リボーンくん…!」

暫くそうしていると、いつの間にか部屋に入ってきたリボーンに声をかけられた。振り向けば、リボーンはどこか硬い表情でそこにいた。

「どうしたの?」
「クロームの容態が急変した。」
「!」
「今ヒバリと由良がなんとかしてるが、ひとまず修業は一旦やめにして、集まるぞ。」
「わ、分かった!」

短く聞かされた状況に驚いたくるみは困惑しながらも、慌ててウサギを抱き抱え、ついてこいと背を向けたリボーンを追いかける。床に落ちた銃は拾うことも匣にしまうこともせず、そのままにしたことは気づかなかった。


時は少し遡り、草壁がヒバリに5日後ミルフィオーレを襲撃する作戦が出されたと報告し終え暫くした後、風紀財団のアジト内にある食卓では、なまえが作った昼食が並んでいた。数時間前に朝食を食べたばかりで、さらに今日はツナの修業をしていなかったヒバリだが、彼はなまえが出した分は必ず残さず食べる。
空腹、睡眠、それらの欲に対し己の本能に忠実なヒバリだが、食に関しては幾分かコントロールできていた。理由は言わずもがななまえが関係しており、彼女の料理が出来上がる頃合いでヒバリの体は空腹を訴える。この時代に来て今でこそ料理に慣れ、同じ時間帯に料理を提供できるようになったなまえだが、始めたばかりの頃は時に時間がかかりすぎていたり、逆に早く出来すぎていたりした。しかしヒバリはそれにすら己の空腹を合わせ、ツナとの修業も調節していた。

「あ、あの。食べ切れなかったら言ってください。」
「問題ないよ。」

とは言え、やはり最近のように体を動かしていたわけではなかったからか、空腹は感じているがいつもの量を食べられるほどではなかった。しかしそれをなまえに言うことはせず、不安そうに見つめるなまえを安心させるようにいつも通りに食べ始めるヒバリ。そして、食べ進めていくうちに、ふと、あることに気づいた。

「量が減ってる。」
「!す、すみません!少なかったですか?」
「いいよ。」

ヒバリの言葉にすぐさま不安げな表情を浮かべて謝るなまえに、口角が上がることを抑えずに一言伝えれば、途端ホッと息を吐くなまえ。その様子と、彼女の配慮に嬉しさを隠すことなく笑んだヒバリは箸を進めていく。
なまえとて、ヒバリと共に過ごしていたのだから、以前よりもヒバリのことは理解していた。ツナと修業をする時と、今のように修業がなく食事を用意する時とで、配膳される食事の量が調節されていた。恐らく朝食と同じくらいの量で用意しているのだろう。確実に自分のことを把握し、理解しているなまえの変化に気づいたヒバリはどんどん自分の思惑通りになっていることに内心喜んだ。

「恭さん。」

しかし、その穏やかな時間もすぐに終わる。ヒバリは出ていったはずの草壁が戻り、そして自分となまえとの時間を邪魔されたことに対して苛立ちを隠さず黙したまま振り向く。
ヒバリの怒りを向けられた草壁はもちろん、急に雰囲気を剣呑なものに変えたヒバリに怯えたなまえはビクつき、息を呑んだ。気づいたヒバリは少し苛立ちを収め、草壁に無言の圧力をかけて続きを急かす。

「お食事中申し訳ございません。緊急事態です。クローム髑髏の容態が急変しました。」
「!」
「………………はぁ…」

冷や汗を流しながら、それでも簡潔に伝えた草壁の報告内容になまえが驚いたことを気配で感じながら、深く溜め息を吐いた。そのまま何か聞きたそうにしているなまえに気づいていないフリをして、箸を置いて立ち上がる。

「なまえ、少し出てくるから、少し待っていて。」
「あ、はい…」

ヒバリと同じように箸を置いたなまえは返事をし、一度は口を閉じた。しかし、クロームの容態が急変したという情報を聞き、どうしても気になってしまうのは抑えられない。更に言うならば、彼女はこの1ヶ月強、一度もヒバリに未来で何が起きているのかを尋ねたことがなかったが、ずっと聞くことを我慢していたのだ。だから意を決して顔を上げた。

「あのっ、恭弥さん!クロームちゃんは…!」
「なまえ。」
「っ!」

しかしそれも、ヒバリの言葉一つで最後まで言うことなく止められる。名前を呼ばれ、そしてまるで咎められるように視線を向けられ、今まで向けられたことのなかった鋭い視線に思わず固まり、俯いた。そんな彼女の仕草で泣いていると勘違いしたのか、ヒバリはすぐに纏う雰囲気を和らげ、俯くなまえの頬に手を添える。

「なまえ、気になるだろうけど、今はゆっくり説明している暇はない。だから、待っていて。」
「っ………はい…」

柔らかくなったヒバリの声や雰囲気に強張っていた体から少しずつ力が抜けていく。
頷いたなまえの頭をひと撫でしたヒバリは部屋を出て行った。その後ろ姿を見送るなまえは撫でられた頭に触れながら、この短時間でコロコロと変わっていた自分の感情の変化にただただ戸惑っていた。

prev / next

[ back to top ]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -