リボーン複数主 | ナノ


▼ 標的148

くるみを置いて部屋を出てしまった由良は、何度も戻ろうとするがオオカミがそれを邪魔し、いつの間にか自分の知らない場所を歩いていた。
元々アジトの構造を全て把握していなかった由良は、自分が今いる場所がどこなのか分からない不安と、自分を引っ張るオオカミに対して微かだが苛立つ。

「ちょっと!どこに連れていく気?迷っちゃったじゃん。」

由良の僅かに苛立った声を聞いたからか、オオカミは黙ったまま裾を噛んでいた口を離し、ちらりと不安げな顔で見上げてくる。その表情になんだか悪いことをしてしまった気持ちになった由良はうっと言葉を詰まらせる。その間にもオオカミはスタスタと進み、かと思えば途中でピタリと止まってこちらを窺うようにして振り返る。先程までの態度とあまりにも違うその姿にはぁ、とため息を吐いた由良。

「ついていけばいいんでしょ。」

由良の言葉に先程まで少し伏せられていた耳がピンと立ち、尻尾もゆらゆらと揺れて足取りも軽くなったオオカミ。その様子にオオカミというより犬みたいだ、と少しおかしくなってクスリと笑いが零れた。
暫く歩いていると、突き当たりに位置する部屋のドアが開き、中からハルとランボが駆け出してきた。

「っ…ハル?ランボくん?」
「あ…」

ぶつかるのではと思った由良がオオカミの前に出て受け止めようとしたが、それより先に声をかけたからか、ハルが気づいた。その際顔を上げたハルと、見えたランボの表情がひどく悲しいもので、由良は息を呑む。そうしているうちにハルはペコリと頭を下げ、由良が何か言うより早くどこかへ駆けて行った。

「待っ…!」

呼び止め追いかけようとした由良より早くオオカミが駆け出し、追いかけていく。それに続こうとした由良だが、一度立ち止まり、ちらりと振り返ったオオカミの、まるで任せておけと言うような目を見て、任せることにした。その意図を汲み取ったオオカミが駆けていくのを見送った由良が今しがたハルが出てきた部屋を見ると、やってしまった、という表情をし、中途半端に手を伸ばしたツナと目があった。

「ツナ?」
「あ………由良…」

声をかければバツが悪い顔をしてパッと顔を逸らされる。全てを見聞きしたわけではないが、先程のハル、ランボの様子と、ツナの表情、行動でなんとなく何があったのか察した由良はゆっくり足を進め、部屋に入る。
一歩一歩進む中で、ツナにどう声をかけようか考える。それから、自分だったらどうするかも考え、すぐに思いついた考えに内心苦笑する。
柄じゃないんだけどな。
そう思っているうちにツナの前に出た。

「ツナ、ちょっと目、閉じて。」
「えっ…」
「いいから閉じて。」
「わ、分かった…」

急になんだ?と訝しんだツナだが、責められると思っていたところで全く違うことを言われたことで素直に従った。無防備な様子のツナに一瞬心配になった由良だが、その考えを振り払い、手をツナの逆立ったススキ色の髪に伸ばし、殊更優しく手を頭に置いた。
驚きびくりと体を跳ねさせるツナにたぶん怒ると思うけど、と前置いて、自分の弟や妹に言うように、ゆっくり言葉を紡いでいく。

「大丈夫だよ、ツナ。」
「っ…」

ツナの頭を優しく撫でながら言えば、静かに息を呑む音が聞こえた。すぐに俯いて表情は見えなくなってしまったが、一瞬見えた顔は泣きそうにくしゃりと歪んでいた。しかしそれに気づかないフリをして、由良は続ける。

「ハルとランボくんは大丈夫。ちゃんと説明して、謝れば大丈夫だよ。」
「説明って…!」
「勿論全部話せって訳じゃない。」
「!」

由良の言葉に関係のないハル達を巻き込むことを良しとしないためか、顔を上げたツナは続けて言われた由良の言葉を聞き目を見開く。目が合った由良は困ったように微笑んだ。

「ツナ、自分が悪いって思ってるんでしょ?」

こくりと小さく頷いたツナに、だったら、と続ける。

「謝るだけでもいいから、落ち着いたら声をかければいいよ。」
「由良…」
「それと、ごめんね。」
「えっ…」

少し落ち着いたところで申し訳ないと思いながら伝えた謝罪に、ツナがきょとりと目を丸くする。

「何言ってるんだって思われるかもしれないんだけど、言っておきたくて…」

先程自分達の修業の様子を見に来たツナの様子と、うっすらとだが覚えている、了平からミルフィオーレ襲撃の作戦の決定権を託された時のツナの表情が思い浮かぶ。
自分達の修業の様子を見に来た時のツナは、どうすればいいのか分からない、そんな表情をしていたように思える。了平から作戦のことについて聞かされた時は不安でいっぱいな顔をしていた。
そんな彼にさらに負担をかけてしまうだろうからと、自己満足になってしまうけどと前置いて口を開く。

「私は、ツナとちゃんと関わったのは去年からで、山本や獄寺みたいに一緒にいる訳じゃなかったけど、それでも少しは、分かってるつもりだからさ…ツナは、たぶん、悩んでしまうんじゃないか、苦しんでしまうんじゃないかって思って…私そういう時、なまえに聞いてもらってるから、なんでもいいから吐き出せば、少しは楽になるかなって思ったんだ。」

まあ、なまえみたいに話しやすい雰囲気とかは無理だけど。
ツナの頭を撫でる手を離し、自分の頬を掻いて言った由良は手を下ろし、真っ直ぐツナを見据える。

「やっぱり、好き………………大事な友達が苦しんでるのは、見てらんないからさ。頼りないかもしれないけど、私、聞くだけならできるし、なんでも言ってよ。八つ当たりだって受け止めるし。」
「っ………」

由良の言葉にツナは息を呑み、再び俯いた。暫く黙っていたツナはポツリとなんで、と零す。

「なんで、俺なんだよ…」
「うん。」
「今日中に答えを出すなんて、無理に決まってるだろ…」
「うん。」
「山本も、獄寺君も修行うまくいってないみたいだし、ラルも…由良と、くるみちゃんも…」
「うん。」
「いろいろ考えなきゃいけないのに、全然纏まんなくて、そんな時に、ランボとハルに当たって…俺、もうどうすればいいのか、分かんないよ…!」
「ツナ…」

由良にとって、ツナは頼りになるボス、と言うよりも、自分の弟や妹のようなまだ右も左も分からない、分かり始めた子どものように考えていた。時折垣間見えるボスとしての資質、頼りになる姿は確かにボスらしいと思えるが、だからと言ってツナに全ての責任を押し付けるような現状はツナにとって重荷になっているのではないか。
そう思っている由良だが、これまで踏み込もうとはしなかった。前世では成人し、社会人として働いていたと言っても、今世は由良が経験したことのないものばかりで、由良も自分のことで精一杯だったからだ。それでも今回ツナに吐き出させたのは、死んでしまったと聞かされたなまえが自分にしてくれたことを思い出したからか、それともオオカミがここに連れてきたからか、分からないが、今回ばかりは聞かなければならないと思ったから聞き出したのだ。
言いたいことを全て吐き出したのか、少し息を荒くし、俯くツナに声をかけようとしたところで背後からプシューと言うドアが開く音が聞こえる。

「こんなところにいたのか。」
「リボーンくん…」
「リボーン…」

振り向けば、そこにいたのはどこか硬い表情をしたリボーンで、どうしたのかと聞く前に、ツナが不安を吐露する。

「リボーン、やっぱり俺には無理だよ!」
「へこたれてる暇はねーぞ。クロームの容態が急変した。」
「えっ!?」
「どういうこと!?」

しかしツナが不安を全て言う前に、リボーンから聞かされた事実にツナだけでなく由良も驚き、息を呑んだ。詳細を聞くと、突然容態が急変したとのことだが、内臓のいくつかが壊れだしており、相当深刻な状態だとリボーンからの説明に、2人ともまさか、とある一つの考えに至る。

「っ!」
「あ!由良!」
「ごめん先行く!」

ツナより早く動き出した由良は呼び止めるツナに振り向くことなく口早に言い、クロームがいる医務室へ駆け出した。

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