リボーン複数主 | ナノ


▼ 標的143

くるみを部屋に残し、リボーンに教わりながらこの時代の自分達が使っていたという部屋に向かう道すがら、由良はリボーンにこの時代の状況をより詳しく聞いていた。
黒曜からこのアジトに向かう最中、思わぬところからなまえの死を仄めかされ、くるみよりも幾分か受け止める余裕があったからか、リボーンと交わす会話もポツリポツリとゆっくりしたものだが、スムーズに進んでいた。

「由良。黒曜で戦った時のこと、今聞いてもいいか?」
「………いいよ。と言っても、どう話せばいいか…」
「それについては気にすんな。俺が質問するからお前はそれに答えてくれればいい。」
「分かった。」

頷いた由良に頷き返したリボーンはいくつか質問していく。
この時代に来る直前どうしていたのか、未来に飛ばされた直後はどのような状況だったのか、同じく飛ばされていたクロームとどう戦い、敵に勝利したのか。
リボーンの質問に対し、由良も答えられる範囲で答えていく。
投稿途中に飛ばされた事、この時代に飛ばされたクロームが前にいて、この時代の自分が必要な情報一つ共有しない状態で入れ替わってしまった事、死ぬ気の炎を灯し、戦った事。

「炎使えたのか。」
「くるみが、リング戦終わった後にディーノさんから色々と聞いてて、練習してたの。」
「なるほどな。」

話しているうちに、目的地に到着したらしい。ここだと短く言って止まったリボーンに合わせ、由良も止まる。
自動ドアで開いた先の、この時代の自分達が使っていたという部屋に入った。ぼんやりとしながら入り、室内をキョロキョロと見渡す。そんな彼女に、リボーンが背後から声をかける。振り返ると、部屋には入らず、こちらを黙って見上げているリボーンがいる。

「これ使え。」

そんなリボーンが差し出したのは、アイロンがけされた綺麗な白いハンカチ。よく見れば、リボーンの大きくつぶらな黒い瞳は、こちらを案じるような色を示している。

「この時代のお前には、断られちまったからな。俺の顔を立てるつもりで、使え。」

驚き、唖然としている由良に対し、ようやくニッと柔らかい笑みを浮かべ、軽い調子で言ってのけるリボーン。それに数拍遅れて、由良がハッと我に返る。そしてゆっくりとリボーンがいる入り口付近に向かい、しゃがみ込んだ。

「ありがとう、リボーンくん。」
「気にすんな。」

無理して笑顔を浮かべた由良にじゃあな、と言ってくるりと背を向けたリボーンはそのままどこかへ行ってしまった。それを見届ける事なく、自動ドアが閉まり、残されたのはリボーンと視線を合わせるようにしゃがんだ姿勢の由良。いつまでもそうしているわけにはいかないと、立ち上がってもう一度室内をぼんやりと見渡した。

「!」

そして見つけた、この時代の自分が置いていたある写真。
並盛中でもなく、高校のものでもない、スーツに似た服装に身を包んだ3人の少女が笑顔で写っている。その1人は、先ほどまで一緒にいたくるみに似ており、もう1人は鏡に映る自分とよく似ている。そして最後の1人は、自分にとって大切な友人、なまえに似ている。

「こんな写真も、撮ってたんだ…」

写真立てを手に、より近くで見えるよう写真を眺めてポツリと呟いた。
誰が最初に言い始めただろうか。自分はきっと言わないだろうし、なまえも写真は撮られるよりも撮る方が好きなはずだ。だとすると、くるみだろうか。

「想像できる…」

容易に想像できた光景を思い浮かべ、自然と笑みが零れる。

「ふっ…」

同時に、頬を伝うのは、堪え切ることができず、勝手にこぼれ落ちてしまった涙。分かってしまえば、それを抑えることはできなくて、由良は写真を手にしたまま崩れ落ちる。

「なまえっ…!」

無意識に嗚咽と共に零れたのは大切な友人の名前。自分が発した名前と、そしてその理由を理解してしまった由良は我慢など出来ずに、只管に友人の名前を声に出し続ける。

「ぅっ…ふ…っ………!」

暫くそうしていると、背中から熱いほどの温もりに押される。体勢を何とか保ちつつも驚き、振り返る。

「君…」

そこにいたのは、いつの間に出ていたのか、黒曜ランドでグロ・キシニアと戦ったオオカミがいた。
戦いで見せた荒々しい激しい怒りを秘めていた瞳は今、穏やかに凪いでいて、こちらを案じるような色を見せている。
あの時と同じだ。
黒曜での戦いで自分とクロームを助けてくれた礼を伝えた時と同じ、こちらを心配するような色を見せる瞳を静かに向けてくるオオカミに目を丸くする。あの時と比べ、座しているからかその目線は少し高いくらいで、よく見えた。
オオカミはぴとりと由良の背中に体を寄せたまま、顔だけを擦り寄せた。

「わっ…」

その行為を数度繰り返し、離れたオオカミは、元の位置に戻ると、顔を少し上げ、体を反らすような体勢になる。

「えっ、と…」

戸惑い声を零した由良だが、自分の願望と、ひょっとすると、という少しの期待を胸に、恐る恐る近づいた。
そして、行儀良く揃えられた前脚の間から覗くフサフサの白い毛の山に顔を埋め、少し体を前に押しつける。チクチクと毛先が当たり擽ったいと身動ぎする由良の頭に、オオカミが撫でるように顔を擦り寄せた。

「っ…」

そのオオカミの行動に気づいた由良の目から、再び涙が零れ落ちる。耐え切れず漏れた嗚咽も、零れる涙も、由良1人では、きっと隠す事は出来なかっただろう。だが今は、由良が隠したいと思っているもの全て、静かに主を慰めるためだけに出てきたオオカミが、自身の体毛と、由良の思考を汲み取って顔を擦り寄せる事で隠す事が出来た。

「ごめんっ、ね…せっかく、の…綺麗、な毛…汚しちゃってっ…」

オオカミの気遣いに答えるべく、しゃくり上げながらも伝えた由良。オオカミは気にするなとでも言うように、太く大きなふさふさのしっぽをパタンと地面に落として答えた。

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