リボーン複数主 | ナノ


▼ 標的141

友人の衝撃的な事実を知り、ショックを隠せない由良、くるみの様子を横目に、了平と今後について話し終えた草壁は喉元まで迫り上がった言葉をぐっと飲み込み、静かにボンゴレのアジトを後にした。

「ナマエ!ナマエ!」
「ふふっ…はぁい。」

重く硬い空気を背に、草壁が向かおうとしている先のヒバリのアジトでは、全く異なる穏やかな空気が流れていた。
ヒバリが黒曜との諍いの後、敵であった六道骸の仲間の1人、バーズの飼っていた黄色い小鳥、ヒバードとなまえが見つめ合いながら穏やかにも楽しく談笑しているというなんとも微笑ましい空間が出来上がっている。その1人と1羽の様子を間近で見ているヒバリの心も穏やかに凪いでいて、少し前になまえが用意してくれたお茶を啜りながら、小さく笑んでいる。そのヒバリの頭の動きに合わせて、ヒバリの頭の上にちょこんと乗っていたヒバードの目線の高さも変わる。
なまえはヒバリの頭から決して落ちることのないヒバードを見て、すごいバランス感覚だなぁと感心すると共に、可愛らしいつぶらで小さな瞳と目が合い、思わず笑みが零れた。少しでも気を抜くと、ヒバードの下にいる頭の持ち主、ヒバリと目が合ってしまうので、その点を注意しながら、ヒバードと触れ合いを楽しんでいたなまえの意図に気づかないはずもなく、ヒバリはそうだ、と呟いて徐にリングと雲の模様が彫られた小さな箱を取り出した。

「きょ、恭弥さん…?」

吃りながらも、しっかりと自身の名前を口にするなまえを酷く甘く、優しい穏やかな瞳で見つめたヒバリは見ていて、と言ってリングが壊れないように意識しながら調整して紫の炎を灯し、箱に嵌めた。ドシュッという音を立てて開いた箱から紫の炎の帯が地面に伸びる。着地した帯の先、少し膨らんでいる炎が消えると、そこにいたのはヒバードよりも少し大きく、しかしなまえの掌に収まる程度の小さな生き物。

「ハリ、ネズミ…?」
「折角なら、この子とも仲良くしてあげて。」

不思議そうに呟いたなまえに、出てきたばかりでこちらも不思議そうにここはどこかと言うようにキョロキョロと首を左右に動かすハリネズミの頭を撫でながらヒバリが言う。ハリネズミはヒバリにひどく懐いているのか、気持ちよさそうに目を細めて嬉しそうにクピィ!と一鳴きした。
ヒバリの意図はよく分からないながらも、前世の頃より推しと関係の深かったハリネズミは無条件で好きの部類に入っていたので、快く引き受けた。

「分かりました。よろしくね、ハリネズミさん。」
「ピッ!」
「えっ…」

しかしここである障害が出た。前世の記憶でシャイな性格だったはずだと考えたなまえが、なるべく驚かせないようにと笑いかけながら、ゆっくり指を差し出したのだが、ハリネズミにとってはそれすらも驚くことだったようで、悲鳴のような声を上げたと思えば飛び跳ね、ヒバリの陰に隠れるように移動してしまった。
軽くショックを受け、固まっているなまえに、ヒバリが呼びかける。すぐに我に返り見上げれば、ヒバリがニコリと微笑みかけた。

「手を出して。」
「は、はいっ…」

ヒバリに言われた通り、両手を差し出したなまえ。そんな彼女の差し出された己よりも一回りも二回りも小さな手の上に、震えている同じく小さなハリネズミを乗せる。ハリネズミはその小さな体に見合わず、震えがしっかりとなまえの手から全身に伝わり、その不安が伝播するように、なまえの心の内から小さな不安が湧き上がる。しかしヒバリは大丈夫と伝え、ハリネズミと、同じようになまえの頬も撫で、落ち着かせる。

「この子も、君の校歌をよく聞いていたんだ。」
「えっ…」

両者とも落ち着いた様子を確認したヒバリは、なまえにとって爆弾のような言葉を落とす。思わず、といったようにヒバリを見上げるも、彼はふざけている訳でも、冗談を言っているようにも見えなかった。
う、歌えと…!?
元より冗談を言うような人ではないのだが、この時代に来てから校歌を歌うなんて事はなく過ごしていた為、どうしても躊躇してしまう。羞恥と緊張で身を固くするなまえに対し、その考えが手に取るように分かっているヒバリは困っている表情のなまえを揶揄うように早くと急かす言葉をかける。ビクリと肩を跳ねさせたなまえは羞恥で赤くなった頬に気づかずに、目を伏せキョロキョロと彷徨わせて暫く、意を決したようにグッと唇を引き結んで、顔を上げ、大きく息を吸った。

「みーどーりーたなーびくーなーみーもーりーのー」

そして始まったなまえによる校歌歌唱は、最初の内は緊張で少し震えていた声も、次第に収まり、芯のある通った声に変わる。その声は、この時代のヒバリにとっては昔から聞いていたもので、ここ暫く聞いておらずずっと聞きたいと思っていたもの。
自身の記憶と違わぬその声に心が落ち着き、穏やかに凪いでいくような心地を覚えたのはヒバリだけではなかったようで、ヒバリの匣兵器でもある雲ハリネズミも最初は怯えていたが、なまえの校歌にすっかり聴き入っている様子でなまえの手の上で丸まり、リラックスしていた。ハリネズミの姿を認め、ヒバリも目を閉じ、なまえの歌声により集中するように体勢を崩した。

「なーみーもーりちゅうー」

最後のコーラスが終わり、歌が止む。途端静かになる空間に、戸惑ったようななまえの声がかかる。ヒバリは嘆息し、閉じていた目を開け、なまえに目を向ける。目が合ったなまえは息を呑み、顔を赤く染めあげ逸らすように目を伏せた。そんな彼女を愛おしく感じたヒバリだが、外の気配に気づいていたこともあり、そろそろお腹が空いてきたね、と伝え、席を外させた。

「その子は暫く頼んだよ。」
「は、はいっ…!すぐに作りますね…!!」

パタパタと厨房に向かうなまえ、運ばれるハリネズミと、それを小さな羽を羽ばたかせて追いかける黄色い小鳥を眺めながら、いいよ、と外の気配に向かって声をかけた。

「失礼します。」

すっと襖を開けて入ったのは、先程までボンゴレの方で情報共有をしていたはずの草壁で、部屋に入ると入口付近で座り、ボンゴレで何があったのかを報告するため、口を開いた。
その間、なまえはヒバリの要望により昼食の用意をしていた為、2人が何を話していたのかは聞こえずに、この時代に由良とくるみが飛ばされていたことも、由良が既に戦った後だということも、知らずに過ごしていた。

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