リボーン複数主 | ナノ


▼ 標的138

10年後の了平が連れてきたクローム、由良の怪我の手当てをしてから情報共有をしようと話がまとまり、ビアンキと共に医務室に向かっていった由良の背中を心配して見つめるくるみ。やがて扉が閉まり、その姿が見えなくなると、次いで目を向けたのは自身の制服。特に皺がついている腰あたりの部分。
何か、あったのかな…
まだ長く付き合っている訳ではないが、なまえが抱きついた時の反応と、先程自分が抱きついた時の反応が違いすぎることに、嫌な胸騒ぎがして、苦しくなる。何かあったのかと聞くのが手っ取り早いが、それで余計に苦しめてしまうのではないかと思うと、何も聞けなかった先程の自分。

「っ………」

意気地無し。
静かに唇を噛み、心の内で自分に悪態をついたくるみは俯いて、念願の兄と再会を果たした京子がハルと共に別室に移動し、自分達もミーティングルームからゲストルームへ移動するまで、一言も発することはなく黙り込んだでいた。そんな彼女に対し、何もうまい言葉が思いつかず、ただ見ていることしかできなかった山本の視線に、ついぞ気づくことはなかった。


クロームを抱えたビアンキに続いて医務室に入った由良は、何かを耐えるように拳を握りしめ、俯いていた。クロームをベッドに寝かせ、由良の手当をしようと振り向いたビアンキはそれに気づき、どうしたのかと思案し、ある考えに辿り着く。まさか、と思い、由良に聞こうとするより早く、由良からビアンキさんと静かに名前を呼ばれる。

「未来の、この時代の私は、何を、していたんですか…?」

怪我を負っていて辛い状況にもかかわらず、手当を受けるよりもこの時代の自分のことを聞いた由良に、自分が思い至った考えに間違いはなかったのだと悟り、目を伏せる。そして答えを求め、黙っている由良に聞いたのね、と一言告げた。しかし由良にはその言葉だけで充分だった。
一瞬だけ顔を上げ、くしゃりと歪められた表情をすぐにまた俯かせ、両の拳に更に力を込める。
下を向いて震え続ける由良に、気持ちが痛い程理解出来たビアンキは近づき、そっと抱き寄せた。驚き肩を震わせた由良だが、ビアンキを払い除ける事はせずに、そのまま唇を噛み、必死に零れそうになる涙を堪えた。
そんな由良の姿にビアンキは苦しくなり、声を掛ける。

「我慢せずに、泣きなさい。」
「っ…!」

ビアンキの言葉に由良は首を横に振るだけで、素直に従おうとしない。ビアンキは悲しげに目を伏せ、ゆっくりと頭を撫でた。
無言でされるがままでいる由良の俯いた顔から、抑えきれなかった涙がポタリポタリと、不規則に床やビアンキの服に落ちていた。

「すみ、ません…」
「いいのよ。気にしないで。」

暫くして、漸く気持ちが落ち着いたのか、鼻声で謝りながら離れる由良。その目元や鼻は泣いたせいか赤くなっており、一目で泣いたことが分かるレベルだったが、ビアンキは言及しなかった。由良が言葉を発するまで、頑なに泣くのを我慢しようとしていたからだ。だからビアンキは手当しましょうと軽く声をかけ、由良を近くの椅子に座らせた。

「お待たせ。」

由良の手当てを済ませ、目元や鼻の赤みが引いた頃、漸くビアンキと由良が待機していたツナ達に合流した。ちょうど了平と再会を果たした京子達を昼食作りに向かわせたタイミングだったようで、了平が「では話そう」と話し始める。
了平は、10年後のツナから別の案件でヴァリアーに使者として出向いていたようだった。ボンゴレ狩りはその最中で始まったらしく、了平はヴァリアーから情報を共有しながらイタリアで過ごしていた。ある情報筋からツナ達が過去からやってきた、ということも知らされており、それはヴァリアーや了平だけでなく、残存しているボンゴレや同盟ファミリーにも共有されているらしい。
同盟ファミリー、という言葉で思い浮かぶのはツナの兄貴分でもあるディーノの事。

「同盟ファミリーって、ディーノさんのキャバッローネも!?」
「ああ。あそこも健在だ。」
「よかった!!」

だから、分かっていたんだ。
ディーノの無事を聞き、ホッとしているツナを眺めながら、ここに来るまでの了平の様子を思い出していた由良はぼんやりと心の内で呟いた。その隣で心配そうに見つめるくるみだが、声をかけることができずに了平の話が更に続く。
どうやらイタリアにいるファミリー首脳陣の作戦会議が開かれたようで、日本に過去のツナ達がいると仮定し、指示を出してきた。

「5日後に、ミルフィオーレ日本支部の主要施設を破壊すること。」

了平の言葉に皆息を呑み、リボーンは急だな、と静かに呟いた。それに頷いた了平は、自分達も足並みを揃えてこの作戦に参加する必要があると続ける。その言葉を受け、この時代に来たばかりの由良、くるみは各々心の内に一抹の不安を覚え、目を伏せる。特に由良は先の戦いでグロ・キシニアに言われたある言葉を気にし、ぐっと目元に力を込めた。
その間にも、ツナ達の間で話はどんどん進んでいく。
突然の殴り込み指示に戸惑うツナに、了平やラルがこの機を逃すと次にいつ有効な手立てを打てるか分からない、や、敵にいつこのアジトが見つかるか分からない、と説得する。

「でも、なんか…こんなマフィアの戦争みたいなのに参加するって、俺たちの目的と違うっていうか…」

それでも尚尻込みするツナに、自分達の目的はミルフィオーレにいる入江正一を倒すことであり、そのための条件もクリアしているとラル、リボーンから言われ、漸く守護者集めが達成できていることに気づいたツナ。確かに守護者が全員揃った今ならば、入江正一を討つためにも絶好の機会とも言えるだろう。守護者が揃ったことで少し話が盛り上がる中、了平がツナに声をかける。

「確かにこの作戦は、ボンゴレの存亡をかけた重要な戦いだ。だが、決行するかどうかは、お前が決めろ。」
「なぁ!?俺がー!?」

驚くツナに、了平は静かに、真剣な表情で続ける。現在のボンゴレ上層部は混乱し、10年前のツナ達を信用しきっているわけでもない。更にヴァリアーもあくまでボンゴレ9代目の部隊という姿勢のため、ツナの一存で作戦全てが中止になるようなことはないだろう、と。

「だが、このアジトのことはここの主であるボンゴレ10代目が決めるべきだと、極限に俺が言っておいた!!」

了平の言葉に、行動に、頼もしさを感じたツナ。そして成長した姿にでかくなったな、とリボーンがニッと笑う。

「期限は本日中だ。」

急なことに驚くツナに頼んだぞ、と声をかける了平を見ながら、明確な目的に向けての日取りが決まっていく周りの一方で、取り残されたような心地を覚えたくるみ、由良はただ黙って見ていることしかできなかった。

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