リボーン複数主 | ナノ


▼ 標的136

凄まじい音を響かせ崩壊した黒曜ランドのコンクリートでできた一室。元々老朽化が進んでいた中で激しい戦闘によって更に崩れやすくなっていたこともあり、外から見て分かるように崩れ落ち、何か爆発したのか、モクモクと黒煙が立ち上る。
それを認めた男は一瞬足を止め、遅かったか、と呟いた。しかし次には一縷の望みをかけて再び足を踏み出した。

「ゲホッゴホッ!」
「ゴホッゴホッ…!」

一方、建物の崩壊に巻き込まれ、あわや瓦礫の下敷きになるかと思われていた由良とクロームだが、2人は崩壊した部屋から離れた部屋に移っており、なんとか無事だった。それは由良とクローム、2人の制服の襟が異様に首まで上がっている状態が物語っていた。襟を元の位置に戻し、咳も落ち着いた頃、由良は自身を見下ろす存在に気づいた。

「………………。」
「えっと…」

太い足で立ち、こちらを静かに見下ろすその存在は、人によっては恐ろしさを感じるような威圧感を感じさせたが、由良はそうは感じなかった。黙って見下ろすその瞳に、僅かにこちらを案じるようなものを感じたのだ。きっと、自分達を助けてくれたのはこのオオカミなのだろう。そう思った由良はうつ伏せの状態から起き上がり、座り込んで自分よりも少し高い位置にあるオオカミの目を見て、笑んだ。

「助けてくれて、ありがとね。」
「………。」
「わっ…」

由良の言葉を受け、まるで照れ隠しのようにオオカミは静かに歩み寄り、顔を由良の頬に擦り寄せ、背後に回り込み、太く大きな尻尾を撫でるように由良の頭に乗せたかと思えば彼女の近くにあった匣の中に戻っていった。パタンと閉じられた蓋、うんともすんとも言わない匣を呆然としながらも見つめていた由良だが、オオカミの行動を理解し、思い返すとクスリ、と笑いが溢れた。

「あのオオカミ、君とよく似ていますね。」
「!骸…!?」

そんな由良の肩にバサバサと羽音を立てて止まった白いフクロウから聞こえた声に驚いた。先程までクロームと共闘し、限界まで力を使っていたはずの骸の声だったからだ。限界ではなかったのか、と驚く由良の考えを見透かすように、ご心配なく、と返した骸は、フクロウを介して話すくらいなら問題ないと続けた。

「そっか…」
「もう少ししたら、僕が用意した迎えが来ます。それまでクロームを頼みましたよ。」
「クローム?……!クローム!」

骸の言葉に首を傾げた由良が視線をクロームがいた方へ向ければ、彼女は意識を失い、倒れ込んでいた。気づいた由良が駆け寄り、体を揺すって声をかけるが、反応はない。

「心配いりません。力を使い切って眠っているだけです。」
「それ、かなりヤバい状況なんじゃない?」
「充分に休息を取れば回復します。それに、敵が来るより迎えが来る方が早いでしょう。それより、君の方が怪我が酷い…」
「っ………」

クロームへの対応の冷たさに咎めるように言えば、返ってきたのはこちらを酷く心配しているような言葉と、切実さを感じさせる声。フクロウの姿であっても、その背後に先程の骸の姿が過り、その言葉と声に面食らった由良は驚きで目を見開き、次いで悔しげに唇を噛み、顔を顰めて視線を逸らした。咄嗟に庇ったからとはいえ、由良がこの戦いで受けた怪我、攻撃はクロームよりも多く、こうして会話をしている今も気を緩めればすぐに痛みで声を上げてしまいそうになる程だった。それは指摘した骸だけでなく、当然怪我を負った由良も分かっていたが、認められずに別に平気、とだけ答えて黙り込んだ。
自分は、成長しているものだと思っていたのに、先の戦いで、その考えは誤っていたのだと痛感した。ヒバリとの戦闘で分かっていたはずだったのに、しっかり理解できていなかった。いくら自分が成長したとしても、それは自分だけでなく、周りも同じなのだと。クロームがボンゴレリングの力を使って、骸と協力して生み出した更に高度な幻術を目の当たりにし、由良の中に悔しさが強く残る。

「っ!」
「そういえば、あのオオカミ、名前は決まっているんですか?」
「はっ…?名前?」

難しく考え込む由良の頬に、突如先程のオオカミとは違うもふもふとした感触と、柔らかく温かいものが押しつけられる。驚いて肩を跳ねさせる由良に構わず、その正体、骸が憑依したフクロウから突然由良が使役するオオカミの名前について尋ねられる。訳が分からずただ単語を聞き返すだけの由良に、フクロウはやれやれ、と言ったように嘆息する。その仕草にイラッとしたのは秘密だ。

「貴女の匣アニマルなのだから、名前くらいつけたらどうです。ちなみに僕はこのムクロウです。」
「その名前つけたのクロームじゃん。」
「僕がつけたんです。」
「はいはい…」

変に意地を張る骸の言葉に呆れ、脱力する由良に、骸は内心安堵する。このままもう少し話していたかったが、ここまで無茶をし過ぎたせいか、流石に体が限界を訴えているのを感じ、骸は由良、と呼びかける。

「貴女は充分強くなっていますよ。」
「っ!」
「これからも、修業は怠らないようにしてくださいね。」
「っ………言われなくても……!」

骸の言葉を受け、悔しさと、少しの嬉しさを感じ、しかし素直に言うのは憚られて照れ隠しに何かを言う前に、骸はフクロウから憑依を解き、どこかへ消えてしまった。残ったフクロウは、属性の変化と骸によって酷使されたためか、そのままクロームと同様に眠ってしまった。

「………ありがと……!」

眠ってしまったフクロウを抱いて、ポツリと呟いた由良の耳にコツコツというこちらに向かってくる足音が聞こえる。小さな音だが、それはだんだんこちらに近づいているのが分かる。
骸が言っていた「迎え」だろうか。しかし、それより先に新たな敵がやってきたかもしれない。先程のグロ・キシニアとの戦闘、そしてこの時代が想像以上に危険な状態だと聞いていたからか、警戒し、体を強張らせた由良だが、気を失い、意識のないクロームとフクロウを抱えて逃げる体力は残っておらず、死ぬ気の炎も気力が足りず灯すことができなかった。
固唾を飲んで部屋の入り口を凝視する由良の目に、黒のスーツ、山吹色のシャツ、包帯が巻かれた手、シルバーの髪の毛、健康的に焼けた小麦色の肌がだんだんと見えてくる。

「!笹川、先輩…?」
「!神崎!無事だったか…」

それは、酷く見知った存在で、自身の中学の一つ上の先輩で、友人の兄。そして、心強い仲間、ファミリーだった。

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