リボーン複数主 | ナノ


▼ 標的135

突如何処かから飛んできた自分の匣に、骸の言葉を半信半疑になりながらも聞き入れ、開匣した由良の前に現れたのは自身と同じ色の炎を手足や耳に纏わせて自身の敵であるグロ・キシニアに牙を向ける獣の姿。その姿は背丈は骸の腰まであり、四足歩行であっても、相当な大きさだった。

「犬…?」
「恐らく、オオカミかと。」
「えっ…」

呟き、首を傾げた由良に訂正の言葉を掛けたのは骸で、それを聞いて驚いた由良は今一度獣の姿を凝視する。こちらに背を向けている獣は、長毛なのか、ふさふさとした毛並みを持ち、その毛色は灰色から白へと変わっている。一見すると大型犬のシベリアンハスキーを思わせる色合いだったが、言われてみれば確かに、人懐こい犬よりも凶暴さを感じるような気もする。

「ちょうどいい、彼の力も借りましょう。」
「っ!骸…?」

じっと観察していた由良の肩を自然と抱き寄せ、骸が小声で話しかけてきた。突然肩を抱かれ、更に耳元で話され動揺する由良に気づいていながらも、骸はグロ・キシニアに目を向け、そのまま聴いてくださいと続ける。

「攻撃力を集中させ、一気に叩きます。」
「!了解!」
「OKびょん。」
「はい…」
「行くよ。」
「オンッ。」

骸の言葉に、由良だけでなく全員が頷いた。そしてすぐさま短く答えた千種、先ほど出現したばかりのオオカミが先陣を切るように飛び出した。そのまま千種の武器であるヨーヨーが投げられ、グロ・キシニアに向かう。しかしそれは再び回復したらしい雨の炎を纏ったイカの足に防がれ、次いで大きく飛び掛かってきたオオカミも同じように足で防いだ。

「やはり容易いな、六道骸。」

余裕綽々の様子で笑みを浮かべるグロ・キシニア。対して、骸も怯むことなく犬や千種、オオカミ、そして遅れて攻撃を仕掛ける由良がイカの足を分散している間にグロ・キシニアに突っ込んでいき、間合いを詰める。いつの間にか修羅道で強化した身体能力を使い、グロ・キシニアとやり合う骸に、グロ・キシニアは動揺することなく応戦する。

「そーだった。この格闘能力も自慢の一つだったな。だが貴様が5人できばったところで、雨巨大イカ(クラーケン・ディ・ピオッジャ)の足は10本だ。」

お釣りが来ると続けて言ったグロ・キシニアの背後からイカの足が追撃し、骸、クロームの元に勢いよく向かう。骸はおっと、と声を零しながらも、ひょいっと後ろに避けるが、クロームは反応が遅れる。

「行ったよクローム!」
「!!」
「クロームっ…ぐっ…」

千種の声に反応を返す間も無く、目の前に迫るイカの足。固まったクロームの前に由良が向かおうとするが、グロ・キシニアにやられた足がずきりと痛み、出遅れる。

「あっ…!」

避けなければ、と思ったクロームが動くより先に、ぐんっと後ろに引っ張られ、ドサリと地面に倒れ込む。イカの足はその勢いが強すぎたのか、そのままコンクリートの壁に突っ込んだ。

「クローム。」
「大丈夫、です…!あの、ありがと…」

骸の呼びかけに答えたクロームは自分を引っ張った存在、オオカミに向かって礼を述べる。オオカミはフンと鼻を鳴らすだけで、すぐにグロ・キシニアの背後で蠢くイカの足に向かって走っていく。

「クローム!大丈夫?」
「う、うん…」

そんなオオカミをぼんやりと見つめていたクロームの元に、そのオオカミの主である由良が駆け寄る。心配し、他に構うことなくこちらに駆け寄ってきた由良と、先程特に大した反応を見せずにこちらに背を向けたオオカミの姿を見比べ、同じような安心感や頼もしさを感じ、少し心に余裕が生まれた。

「由良!!」
「っ任せて!」

そんな中、骸の鋭い声が聞こえ、次いで由良が答え、動く気配を感じる。ハッと我に返り、動いた由良の方を見遣り、目を見開く。

「由良!!」
「っ…クローム、平気…?」

先程と同じようにこちらに向かってきたイカの足を防ぐため、薙刀と炎で応戦した由良だったが、完全に防ぎきれなかったようで、彼女の左側、腹部部分の制服が破れ、左脇腹が出血していた。心配し、声を掛けるクロームを安心させるように笑って問いかける由良だが、その息は荒い。

「そそるぞ…全て剥いてやる!!」
「させるわけがないでしょう…!」

由良の姿に興奮したのか、声高に叫んだグロ・キシニアに苛立ったように返した骸。その後ろ、背中や後頭部がサラサラと霧状にぼやけ始める。それは骸だけでなく、犬や千種も同様だった。限界が近づいている証拠だった。

「!!みんな!!」

動揺するクロームに、限界が近いことを察した骸が殊更冷静に、正直に限界だと言葉を零す。それに更に動揺するクロームだが、骸は笑い、クロームに問いかける。グロ・キシニアにとって、自分達は何なのか、と。
その問いに何かに気づいたように霧の炎が灯るリングを見るクロームに、千種が決めるよと声を掛ける。

「うん。」
「いってらっさーい。」
「由良もいいですね?」
「っ…いつでも!」

それぞれが声を掛け合い、同時に走り出す。先に千種が駆け出し、空中で幻覚で分裂し、同タイミングでヨーヨーを投げる。しかし見分けがつくグロ・キシニアに錯乱させる作戦は通用せず、実体はこっちだと防がれてしまう。が、その予想は外れ、幻覚だと思われていたはずの千種がいた方向から針が飛んでグロ・キシニアの顔に当たる。以前、黒曜での戦いでツナも引っかかったやり方だった。それを有幻覚の骸が説明しながらグロ・キシニアに向かうが、グロ・キシニアの攻撃を受ける前に幻覚へと変わる。が、グロ・キシニアの顔に今度は本物の石が当たり、左目が負傷する。

「こっちも忘れないでよ!」
「ガァウッ!」

状況を把握するため思案するグロ・キシニアにわざわざ声をかける由良が、オオカミと共に突っ込んでいく。当然イカの足で防ぐグロ・キシニアだが、その威力は動揺からか最初の頃よりも弱くなっており、瞬時に凍らされ、オオカミに噛み千切られる。その隙に幻覚と有幻覚が混ざった幾人もの千種が一気に攻撃を仕掛ける。
これまで幻覚でも有幻覚でも見破り、対応していたグロ・キシニアだが、2度もその判断で怪我を負い、自分の判断に確証が持てなくなっていた。そのため幻覚のはずだと判断した千種の攻撃も有幻覚かもしれないと考え、咄嗟に防御するも幻覚のためすり抜けた。
あれ程余裕の素振りを見せていたグロ・キシニアに、幻覚と有幻覚を巧みに操り、一気に形勢を逆転させた骸。何か含みのある言葉を吐きながら、グロ・キシニアに迫った骸は持っていた三叉槍でグロ・キシニアを攻撃し、グロ・キシニアが倒されたことで巨大イカも崩れ落ち、ドォンッと大きな音を立てて由良達がいた一室が崩れた。

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