リボーン複数主 | ナノ


▼ 標的134

由良とクロームが黒曜ランドでボンゴレリングの力を駆使し、ミルフィオーレのグロ・キシニアと戦っている頃と同時刻、黒曜ランドに向かうため、1人の男が並盛町の住宅街を急いでいた。肩に背負ったナップザックを背負い直したところで赤や青、緑といった色とりどりの炎を纏った鎌やナイフ、槍を持った黒スーツの男達が目の前に現れる。

「くらえ…!」
「甘い!」

多対一にもかかわらず、男は一度も彼らの攻撃にあたることなく、拳一つで相手を沈めていく。気づけばその場に立っているのは男のみとなり、その周りには幾人もの人が倒れていた。

「やはり多いな…」

ポツリと呟いた男が急がなければ、と再び足を踏み出した時だった。自身が背負うナップザックの中でカタリ、と音がした。
気になって中を見ようと開くと、詰め込んだ荷物の一番上に入れている小さな4つの正方形の箱のうちの一つが小さく動いている。

「!これは………む!?」

どういうことかと考えるより先に、その箱が勢いよく飛び出し、どこかへ向かって飛んでいった。その方向は自分が向かおうとしていた黒曜ランドの方向。それに気づいた男は急いでナップザックの口を縛り直し、駆け出した。


一方で、目の前にいきなり現れたいる筈のない骸、犬、千種の姿に驚いた由良はそのせいか、つい先程まで築いていた氷の壁を形成するための炎を消してしまっていた。それを後ろ目で見ていた骸がいち早く気づき、由良、と声を掛ける。

「炎が消えていますよ。気を緩めないでください。」
「っ………分かった…」

骸に指摘され、漸く気づいた由良は少し遅れて頷いたが、頭の中では誰のせいだと思ってるんだ、と文句が零れる。そんな彼女の考えも見透かすように、骸がクスリと小さく笑う。

「そう驚くことはありませんよ、由良。」
「えっ…?」
「これはただの幻覚ではなく、僕の能力(スキル)を核とし、ボンゴレリングにより究極にまで高められたクロームの幻術で肉付けした形ある実体。言わば、有幻覚。だから、君も落胆することはない、グロ・キシニア。」
「!」
「ヒッ…」

指摘され、ゆっくりと炎を灯し始めるものの、未だ理解できていない様子の由良をこれ以上混乱させないように説明した骸は、最後は匣兵器を傷つけられ静かに睨むグロ・キシニアに向けて言葉を掛けた。当然矛先を向けられたグロ・キシニアは苛立ち、こめかみをピクリと痙攣させた。しかしそれ以上に、彼を苛立たせる言葉が骸ではなく犬から放たれる。

「ホンモノらと思った方がいいぞ。分かったかメガネカッパ!そのもっさい組み合わせは柿ピー1人で充分らっての!」
「カッパ…!」

犬の言葉に青筋を立てたグロ・キシニアはその眼光を鋭くする。そんな彼を放り、骸側は千種が静かに腹を立て、骸は懐かしんでいるのか特徴的な笑い声を上げ、クロームが止めようと声をかけと、まるでコントのようなやりとりを繰り広げている。何をしているのか、と呆れた由良はそれを隠しもせずにアンタらねぇ、と呆れた声を掛ける。
そんな少年少女らの様子を見ていたグロ・キシニアは少し気持ちを落ち着かせたのか、表情を再び余裕のある笑みに変える。

「幻覚共が…今一度植え付けてやろう。お前を完膚無きまでに叩きのめした、グロ・キシニアの恐怖を!!」

グロ・キシニアの言葉に合わせて、切られたはずが再生したのか回復した足に雨属性の炎から派生した水を渦を巻いて纏わせた巨大イカが勢いよく幻覚を生み出しているクロームを攻撃する。ドォンという大きな音と共に外へ大量の水が溢れ出すが、あたる筈の攻撃は全て防がれ、クロームは無傷だった。

「コングチャンネル!!」
「凍らせやすくしてくれてありがとね!!」

一方ではコングチャンネルで体をゴリラのように巨大化させた犬が3本の足を受け止め、一方では雪の炎を纏わせた薙刀を振るった事で属性の特徴である凍結の効果が発動し、足に纏っていた水を凍らせて固まらせた由良が皮肉混じりに笑んでいた。当然幻覚と踏んで防がれるとは思っていなかったグロ・キシニアは驚き、動揺した。しかし、有幻覚の犬の頬に雨の炎が擦り、ダメージを加えていたのを確認し、またしてもすぐに状況を把握した。

「そーうか。何故かは分からんが、確かにその有限核とやらは実在していると認めた方がいいらしい。だがリアルすぎる故に、実物以上の力を持ち合わせていないという致命的な弱点を抱えているようだな。」
「!!」

見破られ、驚くクロームに当たりだ、と思い至ったグロ・キシニアはそのまま5人のクソガキを潰すと考えた方が手っ取り早いと続けた。しかし言い当てたグロ・キシニアに対し、驚くクロームとは反対に、骸は至って冷静にまただ、と呟く。

「君の常識に縛られない対応能力には驚くばかりですよ、グロ・キシニア。」
「はなから常識など持ち合わせていないのだ。エロとグロにおいて快感を妨げるゴミにしかならんからな。」
「クハハハハ!君は案外術士向きかもしれませんね。」
「いや気持ち悪いだけでしょ…」

グロ・キシニアの言葉に声高に笑った骸に対し、思わずといった様子で顔を顰めて声をかけた由良はひとつ溜め息をつく。このままこの状況を続けるのはこちらの体力も持たない。それは骸もクロームも理解しているはずだ。そろそろ終わらせるだろうと考え、ぐっと薙刀を握り直した時だった。

「っ!」
「由良!」

由良の元に背後からものすごいスピードで何かが飛んできた。思わず薙刀で防いだが、それは存外硬く、衝撃を和らげただけとなったようで、コトリと音を立てて地面に落下した。突然の事に全員が警戒する中、由良が恐る恐る地面に落ちた何かを覗き込み、目を見開いた。

「!何、これ…」
「これは…」
「匣だと…!?」
「ボックス…?」

同じように確認した骸が警戒する由良より先に把握し、それを拾い上げる。そうする事でグロ・キシニアにも見え、それが何か分かり声を上げた。その言葉によく分かっていない由良、クロームは首を傾げる。
何度か耳にするその言葉だが、それがどういうものなのか、何故ここにあるのか、分からない事だらけで困惑する由良に、骸は拾った匣をどうぞと自然に手渡してきた。当然、突然の事に驚いた由良はすぐに反応できず、えっちょっと!と声を上げながらも慌てて受け取った。
自分の掌の上に乗る、小さな薄い水色の正方形の箱をまだ警戒しながら見つめる。その箱には側面に雪の結晶の模様が掘られ、上面の中央には小さな穴が空いていた。よく見れば、その箱の色は今も灯し続けている由良の炎の色と同じような気がする。

「これは君の匣です。そのリングの炎をこの穴に入れてみてください。」
「えっ、これ私の!?なんで骸そんなこと知ってんの!?」
「いいから。今は時間がない。」
「っ………分かった…!」

事情を知っているように話す骸の強い促しに、言いたいことはたくさんあるものの、確かに今は戦闘中だったということを思い出し、渋々頷いた。そして骸の言葉に従い、リングに灯した炎をそのまま箱の穴に入れ込むようにリングを穴に嵌めた。カチリ、と小さな音が立ち、次いでまるで吸い取られるような感覚があったのち、自然とリングを箱から離した。すると、パカリとその穴を境目にするように蓋が開き、勢いよく炎を纏った何かが飛び出す。

「っ!えっ…」
「匣兵器か…!!」
「これは…」
「っ…」
「グルルル…ヴゥーッ…!」

驚き声を上げる由良、警戒するグロ・キシニア。思わずといった様子で零した骸、静かに驚くクロームの視線の先にいたのは、由良がリングに灯している雪の炎を手足や耳に纏わせ、敵であるグロ・キシニアに向けて唸り声を上げ前傾姿勢で睨みつける大きな獣だった。

prev / next

[ back to top ]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -