リボーン複数主 | ナノ


▼ 標的133

ボンゴレリングの力を使ってより高度な幻術を行使したクロームに、動揺する事無く見破り、余裕を見せたグロ・キシニア。そのグロ・キシニアに、今度は由良がクロームの前に出て、同じようにボンゴレリングに炎を灯し、対峙する。

「水色の、炎だと…!?」
「綺麗…」

驚愕し、動揺するグロ・キシニア、ほう、と息を零し呟いたクロームの声に思わず笑みが深まる。その間も、由良の右手中指に嵌められているハーフボンゴレリングはグロ・キシニアが指摘したように氷のような淡い水色の炎が揺らめいていて、炎の周りを雪の結晶のようにキラキラとした粒子が舞っている。

「雪の守護者の使命は、『全てを覆い隠し守る、浄化の氷雪』。」
「!骸様…」

見入っていたクロームの肩に止まった、骸が憑依した白いフクロウが言葉を発する。気づいたクロームが見遣れば、彼もまた、由良が灯す炎と、それによって生み出された氷の世界に釘付けの様子だった。
まさか、ここまでとは…
思いも寄らぬ期待以上の結果に満足すると共に、こちらに背を向け、右手中指に灯した炎をそのままに薙刀を構える由良をじっと見つめる。

「この光景は、正しくその使命そのものを体現しているようだ。」

骸の言葉に、クロームはゆっくり室内を見渡す。コンクリートで出来ていた壁や床は全て凍りつき、室内の温度も下がることで相手の体力を奪っている。それだけでなく、由良が生み出したこの光景自体がいつも以上に彼女への頼もしさを感じ、不安だった心もゆっくり凪いでいく心地がした。

「はい…」

その心地のまま、吐息混じりに答えながらも、クロームはしっかり頷いた。

「さて、クローム。由良に任せている今のうちに、お前の幻術を強化します。」
「えっ…でも…」

骸の言葉に驚いたクロームはすぐに顔を曇らせる。由良のお陰で気持ちは落ち着いたものの、やはり不安は拭えない。ボンゴレリングの力で強化したよりリアリティの増した幻術でさえも、グロ・キシニアは見破り、惑わされる事はなかった。そんな相手に、幻術でどう対抗しようと言うのか。そんなクロームの不安や疑心を感じ取ったのか、骸が問いかける。

「お前の一番信じるものは何ですか?」
「!」
「幻術のリアリティとは、術士の持つリアリティ。一点の疑いも持たぬ真に信服している事象こそが最も強い幻覚となる。」
「一番、信じるもの…?」

自身の肩に止まり、視線は今も尚グロ・キシニアを食い止めている由良を見つめている。そんな骸の言葉を受けて暫し考え込んだクロームは、なにか思い当たるものが浮かんだのか、ハッとする。

「でも…」
「僕の僅かな力をお前の幻覚の触媒にするのです。成否は2人のイメージの同調にかかっている。」
「クローム!!」
「っ!」

骸と話し込んでいたクロームに鋭い声がかかる。と同時に、目の前に雨の炎を纏った太いイカの足が迫り、素早く間に滑り込んだ由良が薙刀を振り上げ、既のところで斬り捨てる。しかしその直後、彼女目掛けて別の足が伸び、強い力で防御するため構えた薙刀の柄ごと叩き飛ばされる。

「由良っ!」

ドォンッと大きな音を立ててクロームの後方の壁に飛ばされた由良に、クロームと骸が声を上げ、駆け寄る。

「ゲホッゴホッ…!」
「由良…」

コンクリートの壁に強く叩きつけられたにも関わらず、目立った外傷は無く、何度か咳き込む由良。そんな彼女の姿を認め、クロームはホッと息を吐いて呟いた。骸も一瞬驚いたように目を見張ったが、すぐに安堵の息を吐く。

「成程な。これが噂に聞く雪のリングの加護の力というやつか。」
「!!」

由良が炎の力で食い止めていたはずのグロ・キシニアがコツリ、と音を立てて近づく。グロ・キシニアの指摘通り、由良が軽傷で済んだのは雪のリングの加護が発動したからだ。それは由良も分かっているようで、咳き込みながらも聞こえたグロ・キシニアの言葉に悔しく思い、拳を握り締める。
グロ・キシニアに気づいたクロームは体を強ばらせるがそんな彼女に構わず、余裕な笑みを浮かべて口を開いた。

「雪属性の炎はどうやら凍らせる能力らしいな。だが、所詮はハーフ、半分の力。弱い、弱い、弱すぎるぞ!」
「うる、っさいっ…!!」

咳も落ち着き、ゆっくり起き上がった由良はグロ・キシニアの言葉に悔しがり、睨みつけるがただ鼻で笑って見下ろされた。その反応に更に悔しくなり、苛立った由良だが、いつの間にか肩に止まっていたムクロウに落ち着けと諭され、ゆっくり息を長く吐きながら立ち上がる。
ふらつきながらも立ち上がり、薙刀を構え直した由良を心配しながら、しかし同じように自身も三叉槍を構え直し、グロ・キシニアに向き合ったクローム。そんな2人にニィッと笑みを深くしたグロ・キシニアは再び足を一歩前に出す。

「心配するな、クローム髑髏、神崎由良。お前達はそのフクロウの前でかわいがってやる………そう、骸の前でな!!」

グロ・キシニアの最後の言葉に合わせ、彼の背後にいたイカがズオッと凄まじい勢いで全ての足を伸ばしてくる。対する由良、クロームは一瞬怯んだものの、どちらもリングに炎を灯し、一方は氷の壁を作り、一方はより高度な幻覚を生み出し、応戦した。

「ん!?」
「!」
「えっ…」

その中で、グロ・キシニアの驚いた声が聞こえ、気づいた由良も状況を理解し、思わず声を零した。その間にも、次々とイカの足が何かによって千切られ、クローム、由良への攻撃を防いでいた。

「あ…」

驚き、攻撃が止まったと同時に、クロームの呆けた声が響き、次いで聞こえたのはガルルッという獣の唸り声。自然とクロームの目に涙が浮かび、それは止まることなく何故か頷いた彼女の顔の動きに合わせ、頬を伝う。その手には先程持っていた筈の槍はなく、静かになったフクロウを抱いていた。何故、と思う間も無く、聞き覚えのある声が、由良の耳に届き、目の前にその正体が現れる。

「強力な、いい術です。これなら僕も遊べそうだ…」
「っ………う、そ…」

目の前に広がる驚くべき光景に理解が追いついていない由良の呟きは、自身が生み出した氷の壁に吸い込まれ、消えていく。しかしそれすらも気にならないほど、由良は目の前の光景が信じられず、驚きに目を見開いて、固まっていた。

「少々、懐かしいですがね…」
「骸…?」

由良の前に見えるのは、黒曜の制服に身を包んだ特徴的な髪型を持つ男を中心に、ニット帽を被った男、しゃがみ込んだ金髪の男の3人の背中だった。

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