リボーン複数主 | ナノ


▼ 標的131

突如グロ・キシニアの使っていた匣兵器の雨フクロウ(グーフォ・ディ・ピオッジャ)が豹変し、青い雨の炎から藍色の霧の炎を纏ったことに、持ち主であるグロ・キシニアは驚いた。

「バカな!!炎の色が藍色(インディゴ)に!!」

信じられないとばかりに叫ぶグロ・キシニアに向かって真っ先に突っ込んでいったフクロウ。その鋭く尖った嘴が由良を掴んでいた手に刺さり、由良からグロ・キシニアの手が離れる。その拍子にクロームが弾かれたように表情を変え、由良の手を引いて階段を駆け上がった。

「クローム!?」
「由良、こっち…!」
「でもっ…!」

驚き、戸惑ったような声を上げる由良は心配そうに後ろを振り向こうとしている。その様子に相変わらずだと心の中で口角を上げ、バサバサと頻りに羽ばたかせながら足止めする。
当然自身の匣兵器が急に己に牙を剥いた状況に何が起こったのかと考えたグロ・キシニアだが、雨フクロウだったそれの右目が赤く変化し、「六」の文字が刻まれていることに気づき、騎馬鞭でバシッと叩きつける。

「眸に宿る六の文字!六道骸なのか!?」

信じられず声を荒げるグロ・キシニアに対し、フクロウから低い男の笑い声が零れる。

「君の状況把握の速さは一目置くに値しますよ。グロ・キシニア。」

続いて聞こえてきた言葉に、半信半疑だった六道骸の存在が明確となる。
過去に比べ、情報社会となった現在では、六道骸が憑依する能力を持っていることは一部の間では知られている事実だった。しかしその憑依は人間が対象であり、匣兵器に何のきっかけもなくできるとは到底考えつかないことだった。と、その時ある記憶が蘇り、ハッとする。

「!!もしや前回のあの戦闘で…」
「クフフフ。そうです。あなたの雨フクロウ(グーフォ・ディ・ピオッジャ)に少し細工をさせていただきましたよ。」

グロ・キシニアの考えを肯定した骸は先ほどの攻撃をものともせず、余裕を見せている。対するグロ・キシニアはあり得ないことが起こったことで動揺していた。

「匣に憑依するなど聞いたことがないぞ!」
「クフフフ…できてしまっては仕方ありませんね。それとも夢…ということにしましょうか?」
「くっ…おのれぇ…!」

先程までは由良とクロームを追い詰めていたグロ・キシニアだったが、骸にしてやられ、現状は骸が優位に立っている。しかしそれもすぐに変わる。グロ・キシニアの恐ろしく早い状況把握がグロ・キシニアの動揺を正常なものに戻したのだ。こめかみがひどく痙攣し、感情を露わにしていたはずが、一瞬にして落ち着きを取り戻したグロ・キシニアは再び口角を上げ、余裕な笑みを浮かべる。

「それほどあの娘らが、いや、神崎由良が大事か。」
「!」
「気づいていないとでも思っていたのか。前回の戦闘で、お前はクローム髑髏よりも神崎由良を気にしていた。あの女の顔に傷がついた時、お前が一瞬取り乱したのを私は見逃さなかったぞ。」
「………。」

グロ・キシニアの言葉に今度は骸が動揺する番だった。この時代の骸は確かに過去と比べると由良を気にすることがあった。しかしこと戦闘時においては骸は由良に対してもクロームと同様に戦士であることを求め、だからこそこれまでどんなに大きな怪我を負ったとしても、後から気にかけはすれど、戦闘中に取り乱すことなどなかった。だがそれは、骸の中の認識だけだった。実際のところ、グロ・キシニアの指摘通り、骸は先の戦闘で由良が顔に怪我を負った時集中力を欠いた。それに気づいたのが骸ではなく、グロ・キシニアだったというだけだ。

「それほど大事な娘を貴様の目の前で食すなど、最高のシチュエーションではないか。あの娘のうまさは増すばかりだな。」
「………。」

一瞬にして冷静さを取り戻し、さらにこちらの痛いところを的確に突いてくるグロ・キシニアに敵ながら感心し、そして内心歯噛みした骸はフクロウのつぶらな瞳を鋭くし、睨みつけた。
一方で、逃げる自分達の後ろで、骸と関連があるであろうフクロウがバサバサと頻りに羽ばたかせながらグロ・キシニアの足止めをしてくれていることに気が気でない由良は困惑していた。小さな体では足止めが容易ではないことはすぐに理解できる。だからこそ、由良は自分だけでも残った方がいいのではないか、骸との繋がりを少しでも残した方がいいのではないか、そう考え声を上げるが、届いていないのか返答がない。
それもそのはず。クロームの耳には由良の声ではなく、骸の声だけが聞こえていたのだ。彼女の耳には自分の息を切らす音と、骸のはっきりとした声が大きく響いて聞こえ、由良の声は遠くに聞こえていた。

「いいですかクローム。僕は訳あって大きな力を使えません。クロームと由良をグロ・キシニアから逃す事はできそうにない。」
「………。」

声は問題ないように思えるが、その内容は全く安心できるものではなく、ぐっと唇を噛んだクロームはそれでも頭の中に響く骸の言葉に集中する。

「お前が由良と協力してこの男を倒すのです。」
「………っ。」

有無を言わさないような骸の言葉に息を呑んだクロームに、骸から大丈夫です、と声がかかる。

「お前には、ボンゴレリングがある。そして、この時代の闘い方を辛うじて理解している由良もいる。お前は、一人ではないのですよ。」

骸の安心感を与えるような声色、言葉にクロームは自身の右手に目をやる。すると何かから守るように覆っていた氷が溶け、現れたボンゴレリングがきらりと光っていた。それを認めたクロームは、覚悟を決めた目で前を見据えた。

「はい………!」
「クローム…?」
「ギィッ」
「!!」

硬い声で、しかしはっきりと骸の言葉に答えたクロームを不思議に思った由良が不安げに声を掛けるが、その刹那、潰れたような声が聞こえ、地下格納庫の場所から白い何かが飛んでいき、壁に突っ込んだ。驚いた由良、クロームは振り向き、それが先程のフクロウだと分かると血相を変える。

「骸様!!」
「えっ…」
「やはりお前はしゃべるだけのぬいぐるみか。」
「っ!」

クロームが叫んでフクロウの元に向かうが、その際叫んだのは骸の名前。それに驚いた由良だが、次いで聞こえてきたグロ・キシニアの声に警戒し、クロームを庇うように薙刀を構え、睨みつける。
コツコツと靴音を立ててゆったりと階段を上がってきたグロ・キシニアは、そんな目など怖くもないとでも言いたげにヒッと笑う。

「人様の匣を使ってしゃしゃり出ようなどとちゃちだなぁ。そんな姑息な手で私に勝てると思っているのか?」
「く…今のは…」
「骸様っ!」
「はっ…?骸…?」

そんなグロ・キシニアの矛先は由良ではなくフクロウの方のようで、睨みあげる由良ではなく、その奥にいるクロームに隠れたフクロウに聞こえるように声を掛ける。その直後、フクロウから聞こえてきた聞き覚えのある声にようやく理解した由良が呆けた声を上げた時だった。地震のような地響きと、何かを引きずる音が響き渡る。

「な、何っ!?」
「何の音…?」
「教えてやろう。トップオブトップであるAランク以上の6弔花、その中でもホワイトスペル3名には、白蘭殿よりメイン匣とサブ匣を授けられているのだ。貴様のその体はサブの匣のそれだ。取るに足らない相手に使う通常兵器と言える。だが私の真の力はこのメイン匣…雨巨大イカ(クラーケン・ディ・ピオッジャ)にある!!」
「!!」

驚き、警戒する由良とクロームに説明しながら語気を強め、最後に叫んだグロ・キシニアの言葉に合わせるように、地下格納庫のフロアから、幾つものイカの脚がコンクリートを突き破って出現する。
そのあまりの巨大さに息を呑み、その破壊力に恐怖した由良、クロームは腰が抜けそうになるが、そこに骸の声がかかる。

「狼狽えてはいけません、由良、クローム。ボンゴレリングそのものの力を引き出し、戦うのです。」
「リングの、力…?」
「クローム、お前の覚悟がリングから炎を引き出し、幻覚を強めてくれるはずだ。」

骸の言葉に間を置いて頷いたクロームが、フクロウに憑依していた骸に合わせて屈んでいた体勢から立ち上がる。それを認めた骸はバサッと羽ばたき、由良の肩に止まる。

「!骸…?」
「由良。一度クロームに任せなさい。隙をついて、先程のようにリングの力を使ってください。」
「先程…?」
「ここに来る前、グロ・キシニアを足止めした時のことですよ。」
「!オッケー…!」

骸の言葉に最初は反論しようとした由良だが、その後に続いた内容を瞬時に理解し、頷いた。その顔には少し確信を持った笑みが浮かんでおり、こんな状況下でもあるのに、どうしてか安心し、自信が湧いてきていた。
そんな由良と入れ替わるように前に出たクロームはボンゴレリングに藍色の霧のような炎を灯し、そして三叉槍の柄を床に突いた。

「負けない…!」

直後、先程とは比べ物にならないほどの威力で無数の火柱が縦横無尽に床や天井、壁から噴き出し、グロ・キシニアとその匣兵器ごと攻撃する。

「すご…」
「すごい…!」

数や威力、共に何倍にも増しているクロームの幻覚に驚き、期待を込めて声を上げる2人だったが、それはすぐに裏切られる。

「確かに死ぬ気の炎の混合された火柱はリアリティが増したな。だが所詮はまやかし。笑わせる。」
「嘘…」
「きか…ない…」

威力は増しているが、それでもグロ・キシニアには通用しなかった。マグマを浴びている中、平然と立っている姿に、動揺し、再び不安がむくりと湧き上がる。2人の表情に気を良くしたグロ・キシニアは再び笑うが、そこに骸の声がかかる。

「クローム、下がりなさい。由良、任せましたよ。」
「えっ…」
「骸っ?」

不安になり、戸惑うクローム、由良に声をかけた骸は、そのまま、とりわけ由良に向けるように大丈夫、と続けた。

「貴女には、奴に対抗しうる力がある。それは僕が一番理解している。保証しますよ。」

その瞬間、由良の中にあった不安が霧散した。心なしか、フクロウの顔のはずなのに、骸の顔がチラついて、その余裕で自信に満ちた顔に、こんな状況にも関わらず、心がどこかむず痒く感じ、笑ってしまった。

「任しといて!」

再びクロームの前に出た由良は、クロームと同じように薙刀の柄を地面に強く突いた。カンっと高い音が響き渡ると同時に、先程のクロームが生み出した火柱が消え、代わりに冷たい風が吹き出す。それは次第に雪を伴い、吹雪に変わった。

「すごい…!」

気づけば室内は凍りつき、温度も下がっているように感じた。感嘆の声を上げるクロームの口から吐き出される吐息が白くなる。非常に強力な幻覚だった。この結果に骸は笑みを深くする。

「浅はかだな。」
「あ…」

だが、所詮は幻覚。クロームや骸の強力な幻覚も通用しなかったグロ・キシニアに効くはずもなく、終いには学習能力がないのかと馬鹿にしたように言葉を吐き捨てる。
それに絶望したのは誰だったか。小さな声が上がるのを由良の耳が拾い、ゆるりと口角が自然と上がっていく。

「?」

気づいたグロ・キシニアが疑問に感じるより早く、己の早い状況把握によって、その異変に気づき、表情を変える。
何故、幻覚のはずなのに、寒いと感じている…?

「漸く気づいた?」
「!」

そんなグロ・キシニアの考えを見透かしたように、強気な笑みを浮かべた由良が口を開く。

「アンタが考えてるとおり、これは幻覚じゃない。現実だよ。」
「なっ…!?まさか…!」
「そのまさか。」

驚き、声を上げたグロ・キシニアによく見えるように、右手を上げる。その中心、中指にはクロームと同じ名前のリングが半分の状態で嵌っていた。しかし、ただ嵌っているだけではなかった。

「死ぬ気の炎、だと…!?」
「私だって、守護者の端くれなんで。」

グロ・キシニアの言葉通り、そのリングには炎が灯っていた。

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