リボーン複数主 | ナノ


▼ 標的130

クロームを追いかけた先に辿り着いたのは、シェルターのようになっている床下の格納庫だった。コンクリートで出来た階段を少し降り、音が響かないよう努めて天井に位置する扉を閉めた。

「はあっ、はあっ…」
「ハァ…ハァ…」

通常なら例えあれ程の波に飲まれ、巻き込まれたとしても体力がそこまで消耗する事は無いし、もしそうであっても気力で何とか保てるはずだった。しかし今は、肩で息をし、気を緩めると意識がすぐに飛んでいきそうになる。
由良もクロームも、階段に座り込んで息を整えることに必死だった。
体力がすり減らされている状態で、考えてしまうのはあのグロ・キシニアという男に勝てるかどうかということ。高度な幻術を行使したクロームの技を意図も容易く見破り、さらに奴の言い分が正しければこの時代のクロームから実体化した骸にも勝ったという事は、やはり相当な手練れという事だろう。捕らえられていたとしてもその実力が劣る事なく発揮できる骸なら、未来のこの時代の骸はさらに強くなっているはずだ。そんな骸に勝ったと言うグロ・キシニアに、今の成長途中で一緒に戦っているクロームの足元にも及ばない自分が敵うのかどうか、先程の以前くるみから聞いていた炎の力とこの追い詰められている状況も相まって不安がつきまとう。

「ぐすっ…」
「クローム?」

そんな折、クロームから鼻を啜る音が聞こえた。
天井を見ていた由良は下の方にいるクロームに目を向ける。普段は見慣れない特徴的な髪型になっている紫髪のつむじを見下ろし、声をかけるが反応がない。
不審に思った由良がもう一度声をかけるより早く、頭上からガンッという大きな音が響き、暗かった視界も明るいものに変わる。

「ここでいいのか?」
「!!」

息を呑み、見上げた先にいたのはこちらを見下ろすグロ・キシニアの姿。
地下という隠れるのには最適だが、見つかれば逃げ場がない場所にいたために、現在絶体絶命の状況に陥っている。
そんな由良の心情など知らないグロ・キシニアは余裕の笑みを浮かべ、1人語り始める。どうやらこの時代の自分とクロームはこの男と戦い、逃げるために5階から飛び降りたらしい。その説明の際「よほど私が嫌いらしい!!」と叫ぶように言ったグロ・キシニアに同意しながら、内心未来の自分の思い切りの良さにドン引いた由良。

「骸様!どこ!?」
「クローム…!?」

そんな2人を置いて、クロームが突如叫びながら格納庫内に向かって駆けだした。驚いた由良はクロームの方を見て、彼女が放った言葉をどういう事かと考える。が、それより先に、地上から見下ろすグロ・キシニアを警戒し、クロームを守るように薙刀を構え、睨みつけた。

「いい声だ!それに…」
「!ぐっ…」
「お前の目はいつの時代も変わらないな。そそるぞ…!」

一瞬だった。
フッと笑って声高に言ったかと思えば目の前に迫ったグロ・キシニアに強い力で顎を掴まれた。至近距離で見下ろされ、その冷たい瞳の中にぞわりと背筋が粟立つような熱を孕んでいる眼に捕われ、内から恐怖心が湧き上がってくる。それを必死に抑え、キッと睨みつけた由良にニィッと笑みを深めたグロ・キシニアはそのままクロームに目を向ける。

「だが骸は来ないぞ!来れればとっくにクローム髑髏の体に実体化している!」

再度声を上げたグロ・キシニアの放った言葉を聞き、由良は唇を噛んだ。
腹立たしいが、この男の言う通りだ。クロームが危険に陥った時、骸はいつも、クロームに実体化して助けていた。
と、そこまで考えてはた、と気づく。

「骸様…」

いや、骸はそんなに優しい人間じゃなかったな。
クロームの消え入るような、懇願するような呟きをBGMに、そんな言葉を思い浮かべて顔から表情が消え、スンっと真顔になる。
思えば、クロームのピンチというのは今のような状況ではなく内蔵が無くなり、血を吐いた時だけだった。確かに現在もピンチではあるが、クロームの内蔵は健在で、クロームもまだ動けている。
そこまで考えて、またあれ?と内心首を傾げる。
もし、もし骸が敗れたというのなら、クロームはそもそも数日間こんなところで過ごせず、生きていられなかったはずだ。恐らく飛ばされた時点で過去の骸ではなく、この時代の骸の力が作用しているはずだから。だとすれば、今尚動いているクロームは、この時代の骸の力によって生きていることになるはずだ。
加えて、このクロームの言動。実体化を望むというよりも、別で骸がどこかに居るように探し、声を掛けていた。そう言えば、リング戦でクロームは骸と信号か何かでやり取りしていたような気がする。もし、それがこの時代でも可能なら、先程彼女は骸の声を聞いたということになるのではないか?
と、ここまで考えた由良の目に、信じ難いものが映る。

「えっ…」
「ムク、ロウ…?」
「どーした?恐怖で呂律が回らないか?」

呆然とする2人に、その原因が何か気づいていないグロ・キシニアは問いかけても反応を示さない様子を見て訝しむ。そして、2人の視線の先にある物に気づきほくそ笑んだ。
彼女らの視線の先にいるのは己の匣兵器である雨フクロウ(グーフォ・ディ・ピオッジャ)。自身も誇る匣兵器に興味を持ったのだと考えたグロ・キシニアは自身も同じようにフクロウがいる方へ目を向け、驚き見開いた。

「なにぃ!?」

驚いた声を上げたグロ・キシニアの声が気にならないほど、由良もクロームも折れかけていた心に希望の光が灯る。先程まで纏っていたはずの水のように滑らかな青い炎から一転し、今は霞みがかったような藍色の炎に変わり、小さくつぶらな右目はいつの間にか赤く変化し、その瞳には漢数字の「六」の字が刻まれていた。

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