リボーン複数主 | ナノ


▼ 標的128

突然現れた見知らぬ男。警戒し、己の武器をそれぞれ構える由良とクロームは険しい表情で睨み付ける。

「誰。」
「グロ・キシニアだ。」
「!」

硬い声で聞いた由良に答えた男、グロ・キシニアの言葉と共に男の傍に浮いていた青いオーラのようなものを纏った梟が消える。それに驚き、しかし更に警戒し、クロームの前に出て睨み付ける由良。その間にもグロ・キシニアは話を進めていく。

「しかし10年前がこうもガキとは…熟したクロームや由良の方が趣味だが…」
「っ…」

ぞわり、と背筋が粟立つのを感じる。一瞬ぶるりと震えた由良が名前を呼ぶ許可を与えたつもりはないと声を発する前に、横を風がよぎる。

「どれ…」
「!!あっ…」
「クローム!」

気づけば、グロ・キシニアがクロームの腕を掴み上げ、淡々とした声でクロームの中指に嵌められているリングとそのリングを覆う氷のようなものを見て、これのせいでレーダーに反応がないのか、とぼやいている。その間にも、クロームの掴まれた腕からはギリギリと軋む音が聞こえており、クロームも苦痛に耐えるような表情を浮かべている。

「痛いっ…!」
「離れろ変態ロリコン野郎!!」

クロームが悲鳴を上げ、腕を目一杯引くと同時に由良が薙刀を大きく振り下ろす。
しかしその前に、グロ・キシニアはパッと手を離し、後退した。クロームとグロ・キシニアの間に由良の薙刀が空振りし、キンッと甲高い音を立てて刃が床に当たる。

「痛い、か…男に触られて嬉しいようだな。頬の赤みが隠しきれていないぞ。」
「?」
「気持っち悪…!」

下卑た笑みを浮かべ、クロームに向けて言ったグロ・キシニアの言葉に、ぞわりと背筋が粟立つ。クロームは言葉の意味を理解できておらず、不思議そうな顔をしているが、由良はぶるりと震える肩を抱いて思わずといったように言葉を吐き捨てた。
この男は敵ではなくてもよろしくない部類の人間だ…!
判断した由良が動く前に、クロームが言葉を発した。

「生まれつき。」
「ヒッ」
「よく言ったクローム。」

ごく自然と言葉を発したクロームに対し、グロ・キシニアのこめかみがピクリと動き、微かに表情が動いた。由良は心の内では盛大に拍手喝采スタンディングオベーションをかましながら、非常に晴れやかな表情でクロームを讃える。クロームも意味は分かっていないが少し嬉しそうに頷いた。
その後すぐにグロ・キシニアをキッと睨みつける。

「出てって。ここは私達の場所…ここには、骸様と犬と千種が帰ってきて、由良が来てくれる場所なの!」
「クローム…」

より強く、自身の武器でもある三叉槍の柄を握り締め、キュッと唇を引き結んでグロ・キシニアと対峙するクローム。彼女の言葉の中に、自分の名前があったことに驚いた由良は一瞬呆けて、しかしすぐに同じように薙刀を構え直した。
対するグロ・キシニアは一瞬乱れた表情を戻し、薄ら笑いを浮かべている。まるでバカにしているかのような表情に静かに苛立ちを覚えた。

「いいぞ。やはりお前達は上等だ。」
「?」

その表情のまま発した言葉の意味が分からず、2人とも疑問符を浮かべる。しかしグロ・キシニアはそんな2人に目もくれず、話し続ける。

「一途な想いをぶち壊してトラウマを植え付けるのは心躍るぞ…」
「………?」
「さっきから何言ってんの?」
「いいか少女クローム。神崎由良。」

クロームは警戒しながらも意味が分からず首を傾げ、由良は苛立ちを交えて声を上げる。そんな由良の声に被せるようにグロ・キシニアが名前を呼んだ。

「六道骸は、私に敗れた。」
「!?」

グロ・キシニアが告げた信じられない言葉に、息を呑み、大きく目見開いた2人。
あの骸が、負けた?
現実味のない言葉に頭の中でうまく整理できない。

「ウソ!」
「!クローム!」

困惑する由良を置いて、隣にいたはずのクロームが声を荒らげ、走り出す。慌てて止めようと声を掛けるより早く、クロームはグロ・キシニアへ槍を横薙ぎに払い、攻撃を仕掛けたが、いとも簡単に屈まれて避けられてしまう。
その一瞬のグロ・キシニアの動きに、相手の強さが自分達よりも上だと悟った由良は、こんがらがってうまくまとまらない頭で、それでもクロームを呼び戻そうと叫ぶ。

「クローム!一旦退いて!ソイツから離れて!」
「さあ、もっとその鈴の音のような声を…奏ろ!」
「ああっ!」
「クローム!」

しかしクロームが動くよりも早く、グロ・キシニアの手にしていた騎馬鞭がバシリとクロームに強く叩きつけられる。その力は強く、クロームは叩かれると同時に少し後方にいた由良の元まで飛ばされてしまった。
由良は駆け寄り、クロームの容態をざっと目視で確認し、守るように前に出る。
睨みつける由良に対し、グロ・キシニアは先程と変わらず薄笑いを浮かべ、余裕そうだ。

「クローム、立てる?」
「うん…!」

由良の呼び掛けにグッと、槍の柄を支えに立ち上がったクローム。その姿を後ろ目で認め、内心安堵しながら、グロ・キシニアを睨むことはやめない。

「骸が、アンタなんかに負けるはずがない…!」
「骸様は、負けない…!」

先程の動きで相当な手練だということは分かったが、それでも骸の方が強いと豪語する2人に対し、グロ・キシニアはフッと笑うだけだった。

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