リボーン複数主 | ナノ


▼ 標的125

入れ替わる数分前。
由良はいつものように家を出て通学路を歩いていた。連日のヒバリとの強制的な殴り合いのせいで、全身ボロボロの状態だが、スピードは違えど、確実に強くなっている自分に手応えを感じていた。

黒曜でクロームに会えず、数日が過ぎた。その間くるみに相談し、未来に飛ばされたのでは、という結論に至った。
ツナが飛ばされた後はツナ視点で話が進むため、どうしても他の人がどのような状況か、というのは分かりにくいのだ。現にヒバリは行方不明者が続出している状況を知ってはいたが、未来に飛ばされるまで何をしていたのかは描かれておらず、まさかあのように苛立ち、こちらに喧嘩をふっかけるとは思わなかった。とはくるみの考えだ。

「まあ、ヒバリの場合はなまえのせいでもあるだろうけど…」

呟いて、乾いた笑いを零す。
本人に自覚があるのかないのか分からないが、ヒバリがなまえを気にしている理由なぞとうに見当がついていた。先日のリング争奪戦の時でもヒバリはなまえを険しい表情で見ていたが、その眼差しは怒りと言うよりも心配の方が目に見えており、今回もなまえの身を案じているから苛立っているのだろう。ヒバリならば、知らない方がいいだろう方面にコネクションを持っているだろうし、今の自分たちよりもかなりの情報を得られるはずなのに手がかりなしとなれば苛立つのも無理はない。
だからと言って八つ当たりで喧嘩を吹っ掛けられるのもお断りしたいが、そのお陰で強くなっているのだからこれまた難儀なものだ、とため息を零す。

「なまえとクローム、大丈夫かな…」

くるみから、クロームが未来に飛ばされたのなら、と言うことで少し詳しい内容を聞いた。
飛ばされた先ではずっと黒曜ランドに身を置き、仲間よりも先に敵とかち合い、戦闘までするらしい。その後の経緯の詳細は不明だが、未来の了平がツナ達の元へ運ぶとの事だった。クロームならば、突然の戦闘に対応はできるだろうが、それでも心配だ。彼女は数日間、飲まず食わずでも我慢してしまうと本人から言われていたこともあり、戦闘面よりもそちらの方が心配になってしまう。
そんな由良の頭の中にチラつくのは、ヒバリが苛立っている原因でもある、クロームよりも更に前に行方知れずとなったなまえの姿。脳内のなまえは根拠のない自信で大丈夫!と強気に笑っているが、何も知らないこちらの身にもなってほしいと、想像上の彼女に対して少しイラッとする。想像だけで終わればいいのだが、なまえの場合現実でも言っていそうで、本当に気がかりだ。
更になまえは、クロームと違って本当に行方が分からない。未来に飛ばされた、という由良、くるみの見立ても、結局のところ憶測でしかなく、現場を見ていないから確信が持てないのだ。未来に飛ばされたとしても、飛ばされた先が何処なのかも見当がつかない。10年後、ということは彼女は24か23歳になっているはずで、特殊な大学や院に通っていない限り仕事をしているはずだから、家にいない可能性もあるし、一人暮らしをしている可能性だってある。普段の彼女の行動パターンは分かりやすいが、成人を過ぎれば行動範囲は広くなる。前世の記憶があり、唯一社会人を経験した由良はそれがよく分かっているからこそ、ふとした時に考えてしまう大切な友人の身を案じて不安になってしまう。

「由良ちゃん!」
「!くるみ…」
「おはよう!」

そんな由良に声をかけたのはくるみで、いつの間にか待ち合わせ場所に着いていたらしい由良の元へパタパタと駆け寄ってくる。元気よく笑顔で挨拶をした彼女だが、その顔や体は由良同様絆創膏が貼っていたり包帯が巻かれたり、傷だらけで、疲れからか、はたまた別の理由か、いつもの覇気は感じられない。
気づいているが、指摘したところで誤魔化すだろうし、十中八九、自分と同じことを考えていたからだろうと予想出来たためあえて何も聞かず、おはようとだけ返す。そのまま歩き始めた2人の間に会話はなく、少し前まではなまえ交えて3人で他愛のない話をしていたのにな、と寂しく思ってしまう。

「由良ちゃん危ない!」
「っ!くるみ!」

しかしそれもつかの間の出来事で、急に強い衝撃を横から感じだと思えば、目の前が煙で埋め尽くされる。直前聞こえたぼふんっという爆発音に、もしかして、と当たりをつけて、くるみが由良を守るために突き飛ばされて少し宙に浮いた状態から体勢を立て直す。
軸足に力を込め、なんとかバランスを取って浮いた片足も地面に戻せば、ちょうど煙も晴れた頃だった。

「!くるみ…!」

残った煙を掻き分け、自分を守ってくれたくるみの姿を探し、名前を叫ぶも返答はない。そしてつい先程まで自分の隣にいたはずのくるみの姿も見当たらない。

「嘘でしょ…!」

呟いた言葉は無意識に出てしまっていたものだった。しかし、直後に感じた先程とは比べ物にならない衝撃に身を固くする。
視界が再び煙で埋め尽くされるが、今度はその煙を軽く吸い込んでしまい、噎せる。

「ゲホッ、ゴホッ…!」
「けほっ、けほっ…」

次に聞こえたのは自分の咳き込む声とは違う、小さくも聞き覚えのある声。同じように咳き込んでいるが、少し前まで思い浮かべていた子のもの。
呼吸を整え、煙を掻き分け、その姿を認める。

「クローム…?」
「!由良…」

呼びかければ返ってきたのは己の名前。
驚いた表情ではあったが、自分が知っている姿と変わらない様子に安堵し、頬が緩んだ。

「よかった…急に帰らなくなったって聞いて、心配してたんだ…」

何を言えばいいのか分からず口をついて出たのはその言葉。
しかし頭の中は、ついに自分も未来に飛ばされてしまったんだという事実に混乱状態だった。

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