リボーン複数主 | ナノ


▼ 標的124

アスファルトで舗装された道を音を立てずに走り、数十m先に動く人影、気配を感じて物陰に身を潜める。朝方で人通りの少ない住宅街は酷く静かで、1つの物音でも立てれば致命的になる。陰から顔を出して問題ないか確認し、静かに走り抜ける。
ほんっと、ブーツなんか履いてくるんじゃなかった…!
前世では履き慣れていたパンプスも、20年程履いていなければやはり合わなくなる。前世と比べてオフィスカジュアルのようなスタイルを気にする必要が無くなった事もあり、今世で履き慣れていたブーツを今日もうっかり履いてきてしまった由良は内心舌打ちをして、悪態をついた。

「くるみ、上手く誤魔化せてるといいんだけど…」

周りに誰もいないことを確認し、一呼吸置いた由良は身を潜めていた塀に背を預け宙を仰ぐ。
なんでもそつなくこなす友人ではあるが、偶にボロが出やすい。そんなくるみに自分は寝坊したと伝えてもらう予定だったが、果たして上手く切り抜けられているだろうか。
危惧した由良の不安は的中し、現在進行形でくるみは怪しまれていたが、由良は知らない事なので友人を信じることにし、先を急いだ。
向かうは数え切れない程通いつめていた場所。
より周りの気配に警戒しながら、静かに一歩踏み出した。


処変わって鬱蒼と繁る木々に囲われた廃墟のとある一角で、空腹を訴えるぐるる…という音が小さく響いた。
窓ガラスは割れ、ガラスの破片や瓦礫が散乱する中、軍服のような特徴のある制服に身を包んだ少女が膝を抱えて座っていた。
傍らには空になったペットボトルと麦チョコレートと書かれた袋があり、それ以外の食べ物や飲み物は見当たらない。しかし少女の表情は空腹だから、と言うよりも、それ以外の別の心細さのような、寂しさが窺える。

「骸様…」

呟いた声も弱々しく、消え入りそうなものだった。
少女は右手を挙げ、中指に嵌っている指輪と、指輪と指輪周辺の中指部分に広がる氷のような硬い宝石のような物を見遣り、自分がここに来るまでどこに居たのか思い返す。
いつもと同じように家に帰ろうと歩いていたら、背後からヒュルルル、と高い音が聞こえ、強い衝撃を感じたかと思えば知っているはずなのに違和感があるこの場所にいた。
何が、どうなってるの…?
この場所に本来いるはずの知人はおらず、時間だけが過ぎていく。

「由良…」

一層心細くなり、数日前から頻繁に会うようになった落ち着ける人の名を呟いた。その声も酷くか細く、弱々しいものだったが、自身の声で呼んだその名前で少ししかないその人物との思い出が浮かんでいき、少し心が軽くなった。
瞬間。

「!」

カタン、と遠くから物音がし、肩を跳ねさせた少女はしかし警戒し、硬い表情で音の出処を見る。誰もおらず、少女がいる場所と変わらない瓦礫が散乱した床ばかりが見えるが、陰に隠れて人が動く気配を感じ取る。
誰か、いる…
自分が望んだ人物ならば大歓迎だが、そうでなかった場合、この場所は一気に危険な場所に変わる。しかし少女はこの場所こそ自分が帰る家なのだ。その家を守る為に、少女は戦うことを決めるだろう。いつでも応戦できるよう持ってきていたカバンを抱いて、入口を睨みつける。

「クロームっ…!?」
「由良…!」

しかし、そんな少女の前に現れたのはたった今まで思い浮かべていた人物の姿。
己が知る彼女と見た目の相違はあれど、雰囲気や滲み出るこちらを心から案ずるような眼差しは変わらない。少女、クロームはすぐに警戒を解き、安心したように小さく笑んだ。

「よかった。無事だったんだね…」

無事クロームと合流でき、多少顔色の悪さが窺えるも無事な様子に安堵した由良も笑みで返す。
しかし敵が未だ蔓延る中、この場に留まることは出来ない。気を引き締め直す意味でも表情を固くする。

「由良、なんだか、いつもと違う…?」
「……………。うん…そう見えるよね…」

不思議そうに首を傾げるクロームの大きな瞳とかち合い、少し困ったように笑った由良はまたすぐに真剣な顔になり、クロームと呼んだ。

「よく聞いて。ここはクロームの知る時代じゃない。凡そ10年後の黒曜にいるの。」
「えっ…」
「私はクロームの知る私よりも10年長く生きてる。違うのは着てる物とか、あとは化粧とかのせいかも。」

おどけたように話す由良に対し、言葉を失い、上手く理解出来ていないのか大きく目を見開くクローム。
ぱかりと半開きになった小さな口ははく、と軽く動くだけで言葉を発することはなく、その表情に可愛らしさを感じた由良はそうじゃないと軽く首を振る。

「私はこの時代のクロームを迎えに来るよう骸に言われてて、漸くここに来れたの。本当はもっと早くに来る予定だったんだけど、過去の私と同じように体力無くてさ。回復に時間かかっちゃった…遅くなってごめんね、クローム。」
「そんなこと、ないっ…」

終始無言だったクロームだが、由良の謝罪に対しては途中裏返ってしまったが、必死に首を振って否定した。
由良はツナが殺された日から、骸に言われ、クロームを迎えに行くことをずっと考えていた。しかしその為には万が一ということも起こりうることは明らかで、その万が一に対応する為には己の体を癒す必要があった。過去の由良ならば、漸く習得し始めたレベルの骸やクローム、マーモンと渡り合うような幻術を使うことが出来るようになった彼女だが、その反動とも言える体調不良も未だ続いていた。
骸は始め、日本に着いた日にクロームを迎えに行くよう頼む予定だったが、実際由良の精神世界や状態を見て休息が必要と判断し、由良もそれが分かっていたため遅くなってしまったのだ。昨日獄寺に関する話を聞かずに退席したのは骸から微かにGOサインが伝わったのを感じ取ったからだ。
くるみとなまえにだけはこの事に関して話していたため、今はくるみに誤魔化してもらっているのだった。

「由良、ありがとう。すごく、嬉しい…」
「クローム………ならよかった。急いで移動しよう。ついてきて。」

頬を赤らめ、微笑んだクロームに癒され、和んだ由良は自然とクロームの頭を撫でていた。しかしすぐにハッとなり、キリ、と表情を真剣なものに戻し早口で言い、クロームも頷いた。
そうして2人が一歩踏み出した、その時だった。

「!?由良っ!」

クロームの目の前で突如煙が沸き立ち、ぼふんっという音が響いた。咄嗟に叫んだクロームだが、至近距離で煙を吸い込んでしまい、咳き込んだ。
次第に煙も晴れていく。

「けほっ、けほっ…!」
「クローム…?」
「!由良…」

咳き込んでいたクロームの耳に聞こえてきたのは先程まで聞いていた人物と同じ声で、涙でぼやける目を擦り逸らしていた顔を戻し声の主を見て驚いた。

「よかった…急に帰らなくなったって聞いたから心配してたんだ。」

そこにいたのは、頬に絆創膏を付け、顔だけでなく体中至る所が傷だらけで愛用の薙刀を手に持つ並盛中の制服を身に纏ったクロームのよく知る由良の姿だった。

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