リボーン複数主 | ナノ


▼ 標的123

深い眠りの底からゆっくりと意識が浮かんでいく。
まだ残る眠気で微睡む中、微かに聞こえるしゅるりしゅるりという衣擦れの音と、閉じた瞼の裏にも差し込んでくる柔らかな光の眩しさに漸く頭が覚醒し始め、一度瞼をギュッと力を込めて閉じ、ゆっくりと開く。

「起きたの。」

微かな息遣いの変化に気づいたらしい。黒の着流しを身に纏ったヒバリが静かに振り返り、柔らかく笑んで寝ぼけ眼を緩慢な動作で擦るなまえのいる布団に近づく。そのまま起き上がりかけているなまえの髪を梳くように撫で、最後にするりと頬に手を滑らせ、なまえが擦っていた目を労わるように親指で撫でる。

「まだ寝てていいのに。」
「………………っ……起き、ます…」

ヒバリの行動に漸く気づいたなまえは眠気も吹き飛び、顔を赤く染め上げ、寝起きも相俟って小さく掠れた声で答える。その反応にクスリと笑ったヒバリは、手を離さず擽るように頬を撫で、おはようと柔らかく言う。

「っ……お、はよう、ございます…」

恥ずかしさと少しの擽ったさと、その他の色々な感情がない混ぜになって、息を呑んだなまえだが、目を逸らすことも、ヒバリの手をどけることも出来ず、掠れた声で挨拶を返すだけで精一杯だった。

「朝食出来てるから、食べようか。」
「あ………はい……」

ヒバリの言葉に何かに気づいたようにハッとした表情をしたなまえは、くしゃりと悲しげに顔を歪め、目を伏せ小さく答えた。
また、起きられなかった…
なまえの頭の中に浮かんだ言葉は、ここ数日何度も考えていたものだった。
未来に飛ばされ、ヒバリに渡された自分が書いたであろうノートを見ながら昼食、夕食を用意し、ちょうど出来上がった頃ヒバリがやってきて共に食べる。という生活が幾日か続き、なまえも調理に慣れた頃、未来では自分が使っていた端末が一切使えない事が判明し、強制的に規則正しい生活を送っていたなまえは朝食も作りたいと申し出た。だがそれは間髪入れずにヒバリに却下され、ならばと目覚ましのアラームをセットし早く起きようと意気込んでいたものの、いつも気づけばアラームは止まっており、ヒバリに起こされてしまうという流れが最早ルーティン化しつつあった。
ネットは繋がらずとも、端末のアラーム機能は使え、充電も問題ないはずなのに、毎朝確認するとセットが解除されている。初めは自分が解除したのかと思ったが、薄々そうでは無いとは思っている。なまえに確信はないが、アラームを解除しているのはヒバリだろう。いくら言っても別室をよしとされず、泣く泣く同室になったヒバリは、思い返せば木の葉の落ちる音ですら起きてしまう程耳が良い。恐らくなまえが起きるよりも早くアラームに気づき解除しているのだろう。もしかしたらそれよりも前に解除しているのかもしれない。床に就く時は離れた場所にいるはずなのに、毎度朝起きるとヒバリの布団にいるという推しの前でだけ寝相がすこぶる悪い自分の行動で一度起きてしまっているかもしれないのだから。

「あの、ひば…きょ、恭弥、さん。」
「何?」

名前を呼ぶのもまだ慣れず、しかし最初の頃よりも躊躇いは小さくなりすぐに呼び方を変えて声をかければ、返ってくるのは普段のヒバリからは想像もつかないような甘く柔らかい声。とろりとこちらまで甘く溶かしてしまうように細められた瞳。
10年前の射貫かれるような鋭さのあったそれとは異なる今のヒバリのそのまなざしには未だ慣れないなまえは息を呑み、とくんとくんと朝から早くなる心臓と早くなりかける呼吸を抑えるように深呼吸をし、直視できなくなり目を逸らすついでに両頬に手を当て顔ごと斜めに下げる。しかし呼びかけたのは自分なのだからとなんとか己を叱咤し、震えそうになる口を開いた。

「あの、すみません。毎度お布団に侵入してしまっていて…あの、やっぱり別の部屋に…」
「別に気にしてないからこのままでいいよ。」

食い気味に言われてしまい、更にこの話は終わりと言わんばかりに行くよと声をかけられた。それだけでなく、なまえが食い下がれないようにわざわざエスコートをするように腰に手を添えて歩き出され、なまえは朝から軽くパニックに陥り、ヒバリの甘い瞳に見られてから真っ赤だった顔をさらに赤くし、密着してしまう部分から必死に意識を逸らすことに注力した。

「君は、このままでいいんだよ。」

可愛らしい反応を示すなまえの一挙手一投足を慎重さのお陰で上から見下ろすヒバリは、自分のことでいっぱいいっぱいのなまえが聞こえていないのをいいことに、ぽつりと呟いた。
なまえが毎度セットしたアラームを解除するのも、眠りについたなまえをわざわざ自分の布団に運んで抱き枕よろしく抱きしめて眠るのも、過去のなまえは知らなくていいことだと判断し、ヒバリは伝えていない。残り短い共に過ごす時間の中でも伝えるつもりはなかった。
ほんの2週間前は振り回されていた彼女を自分が振り回している事実に、ヒバリのうちからむくむくと愛おしさともっとなまえを困らせて自分のことで頭がいっぱいになればいいのにという独占欲が沸き上がってくる。しかし、そう言うときほどタイミングが悪く、朝食が用意された食卓に到着してしまい、少し緩んだヒバリの腕からするりとなまえが離れていった。


同時刻、ボンゴレ側のアジトでは昨夜獄寺とビアンキの関係性、獄寺の実母について事情を知ったツナ、山本を筆頭に気分転換と称して山本直伝の手巻き寿司を作るということで、皆ダイニングに集合していた。最後に集合した獄寺は話を聞いたときは断ろうとしていたが、ツナや皆の説得で参加する流れとなった。

「あれ?そういえば由良は?」
「あ、ホントだ。」
「確かに由良ちゃんいませんね…」

獄寺と同じタイミングで集合したくるみはどきりとして一瞬息を呑み、早く脈打つ心臓に併せて変になりそうな呼吸を整えつつ、引きつりそうになる顔を抑え込んで由良ちゃんなら!と笑顔で切り出す。

「今日はもう少し寝てから来るって言ってたよ。」
「えっ!由良が?」
「具合でも悪いんでしょうか…」
「心配だね。」

くるみから事情を聴いたツナ、ハル、京子が驚き、次いで心配そうに顔を見合わせる。対して大丈夫だよ!と明るく声をかけたのはくるみで、内心焦りながら続ける。

「由良ちゃん偶に少し長く眠っちゃう時があってね、それがたまたま今日だったってだけだから、少ししたらここに来ると思うよ!」
「くるみ?」
「そっか!」
「それなら安心です!」

くるみの些細な様子の変化を感じ取った山本は首をかしげる。当然、山本の呟きに気づいたのは京子やハル、ランボ、イーピン以外の全員だ。皆の視線がくるみに向けられるが、本人は京子、ハルと話していて気づいていない。いや、気づいていながら、気づいていないフリをしている。明らかに何かを隠している。
しかしそれはくるみがうまくかわし、何かまでは皆突き止められなかった。


prev / next

[ back to top ]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -