リボーン複数主 | ナノ


▼ 標的120

リボーンがトイレに行くと言って出ていってから暫く、巻き藁を運んでおくよう言われたくるみと山本は既に全て運び終えてしまい、リボーンが戻るまで道場のような造りの部屋の壁側、入り口が見える位置で並んで座り黙って待っていた。しかしいつまで経っても戻る気配がなく、以前の医務室での会話もあって少し気まずさを感じていた2人はどちらともなくお互いに視線を送った。

「あ…」
「あ…」

バチリ!と音が出るほどタイミングよく視線がぶつかり合い、更に気まずさが増す。先にそろりと視線を逸らしたのはくるみで、彼女の反応を受けた山本は少しショックを受けポリ、と自身の頬を指でいた。そして勇気を振り絞るようにあの!と声をかける。

「小僧もしかしたら迷ってるかもしれないんで、ちょっと探して」
「それはたぶん必要ないよ。」
「え…」

山本の言葉を遮るように言ったくるみは確信したような顔をしており、それを見た山本は戸惑った。それにくるみは安心させるようにふっと微笑んでごめんねと謝り、少し話をしようか、と静かに言った。山本は浮かしかけた腰を再び戻し、視線で促した。

「私が死ぬ気の炎を使ったら、体にその炎の特性が反映されるっていうのは前に説明したよね?でもね、その反動は嵐と雨だけなの。」
「え…」
「この前は雪もかな、みたいなこと言ったんだけど、実を言うと、ボンゴレリングを壊す前にリングに炎を灯したことがあるんだよね。」
「!その時は…」
「何ともなかった。雪の炎の特性がどういうものか、いまいち分かってない部分も多いんだけど、体中傷だらけになったり、怠くなったりっていうのはなかったよ。だから、雪の炎だけは平気みたい。」

くるみの説明に戸惑いと驚き、安堵のようなものが入り混じった表情で聞いていた山本に、くるみは安心させるように微笑んで山本の右手、中指に嵌められているボンゴレリングを見る。そして自分が持ち主であるはずなのに片手で数える程度しか正規の形を見たことのない己のリングを思い浮かべながら、続けた。

「リング争奪戦が終わってから、ディーノさんからちょっと聞いたことがあって、リングに炎を灯して戦うっていうの、実はその時から出来てたの。」
「えっ…」
「びっくりするよね、こんな事いきなり言われたら…まあ時系列っていうか、時期としてはおかしくないから私たちが情報を聞くのが遅かったっていうだけなんだけど…」

自分の非を認めるようになるのは今も少し抵抗はあるからか、苦笑しながら戸惑っている山本にだからね、と続ける。

「獄寺くんが、過去の武くんたちが呼ばれたのは私達が壊してしまったボンゴレリングが理由って言ってたでしょ?それなら、きっと過去の私達もこの時代に飛ばされると思う。でも、雪の炎なら何ともなかったから、心配しないで。」

今度は穏やかに、何も問題ないと言葉だけでなく雰囲気までもそう言うかのように微笑んで話したくるみを黙って聞いていた山本はすぐに何か言うことはできなかった。しかしそれは一瞬で、山本はするりと、まるでそれが当たり前のように口を開いた。

「無理だな!」
「……………えっ?」

今度はくるみが戸惑う番だった。驚いて目を丸くするくるみの視線の先にいた山本はからりと笑っていて、それは時代が変わろうともよく見ていた彼の持ち前の笑顔と同じだった。

「くるみはさ、俺が心配してるのは死ぬ気の炎を使って倒れたりするからだって思ってるんだろ?」
「えっ…うん…違うの?」

くるみの戸惑いながらの問いに頷いた山本はやっぱりな、と笑みを浮かべてぼんやり納得する。

「ちょっと違うな。確かに死ぬ気の炎を使ったらくるみが傷つくって聞いてビックリしたし、使わないで済むならその方がいいなって思った。けど、小僧もそうだけど、ヒバリもさ、ツナに言ってただろ。この時代のツナには及ばないって。それってつまり俺にも当てはまる訳だから、きっとどれだけ強くなったところで、くるみも一緒に戦うのは避けられないって思ってる。だから使うのは仕方ない事だとは思う。けど、心配しないのはできない。」

少し困ったように笑って答えた山本だが、最後の言葉だけは少し真剣美を帯びた声で伝えた。それでもまだ理解できないというような様子のくるみはポツリと疑問の声をこぼす。

「どうして…」
「俺が知ってるくるみはさ、あんまり怒ったりしなくて、戦うのも本当は好きじゃない、そういう子だと思ってる。でもそれ以上に、仲間が傷つけられたらめちゃくちゃ怒るし、それがみょうじに関係することだったらたぶん怪我をしていようと無茶をする。」
「っ…」

山本に指摘されたことはひどく的確だった。だからこそ、くるみは何も返せず、息を呑んだ。まさか、既に気づいていたとは思わなかった。
山本はそんなくるみの考えが何故か手に取るように分かっていた。出会ってから約10年経っていたとしても、根本的な部分は変わらない。それはこの時代に来てから無意識にも目で追っていたくるみを見続けていた山本だから分かることで、だからこそ確信していた。

「いくら問題なかったとは言っても、今回みたいな戦いで使ってた訳じゃないんだろ?もしかしたら、長時間使い続けたり、大量に炎を消費したらまた倒れたりするかもしれない。それだけじゃない。くるみがそれだけ怒るってことは、同じくらい傷ついてるってことだ。悲しんでるってことだ。好きな子が悲しむかもしれない、傷つくかもしれないのに、心配するなってのは無理な話だって。」

最後はいつものようににかりと笑って言った山本が思い出すのは、黒曜に殴り込みに行った先で見た画面越しの想い人が大切な友人を傷つけられて怒る姿。大切な友人の為に自らの命を惜しげも無く差し出そうとする姿。
本人は否定するが、くるみはとても優しい子だ。会った事すらなかった山本が自殺未遂を起こし、それを冗談ではなく本当に悩んでいたのだと考え寄り添おうとしたり、初めて出来た友人だからとなまえを気にかけ、さり気なくフォローする。きっと彼女にとってそれは当たり前の事で、無意識に近い行動なのだろうが、山本はそれに救われ、同時に分かった時から酷く心配するようになった。彼女にとって当たり前で、無意識に近いものと言うことは、つまりその行動で自分の体がどうなろうと構わないし、自分の心がどれだけ傷つこうが問題ない、それどころか気づいていない可能性すらあるのだ。友人や大切な人が傷ついて怒るという事は、それだけくるみが嫌だと思い、傷ついているということ。でもきっと、彼女はそれに気づいていないのだろう。目の前にいるくるみも、山本が思い浮かべているいつものくるみも。
これで少しは気づいてくれるといいんだけどな…少しの期待を込めてくるみを伺い見た山本はギョッとした。
当の本人であるくるみが静かにポロリポロリと涙を流していたのだから。

「わ、悪い!俺なんか変な事言っちまったか!?泣かせるつもりは…!」
『心配するなってのは無理だな!俺くるみが好きだし、好きな子には笑っててほしーし!』

ワタワタと焦って両手をぎこちなく動かし弁明する山本の声に重なるように、少し成長した彼の声と言葉が思い起こされる。その時も、確かどうしてか分からないけど泣いてしまって、狼狽えさせてしまったっけ…思い出していたくるみはふふっと小さく笑い、涙を拭った。

「大丈夫だよ!ちょっと思い出しただけだから。教えてくれてありがとう。」
「あ、いや…」
「そのお礼と言ってはなんだけど、過去の私で悩む武くんに、未来のお姉さんからアドバイスしてあげるね!」

未だ心配するように見てくる山本を置いて、先程までの空気を吹き飛ばすようににこりと笑って明るい声で提案する。その変わり様に驚き、目を丸くした山本だが、くるみのアドバイスという言葉が気になり、いやでも彼女は今大変なんだと思い直す前に先に話し始めてしまった。

「昔から、私はとっても臆病なの。怖くて怖くて堪らないの。今はね、吐き出せる友達も、大切な人もいるからなんとかなってるけど、昔は吐き出す事も怖かったの。相手がどう思うだろうって、そればっかり。だからね、昔の私に大丈夫って言えば、ちょっとは騙されてくれるよ。」
「騙すって…」
「自分に向けてだからいーの!それに、武には昔からいっぱい迷惑かけちゃってるもん。ちょっとくらい我儘言ったって大丈夫だよ!」

呆気に取られ、しかしくるみから発せられた少し物騒な言葉に流石にそれは、と言いかけた山本だがくるみの穏やかでいて少し申し訳なさが滲み出る表情を見て「そっか…」と返す他なかった。最初は少し詰まっていた自分の名前を読んでいた彼女が、いつの間にかするりと呼ぶようになってから、唐突に呼ばれた自身の名前はきっとこの時代の自分の事なのだろう。
きっとこの時代の自分は彼女に見合うよう努力し続け、そうして彼女の信頼を勝ち得た。その証拠と言うように、彼女の表情には少しの期待や喜色が浮かんでいて、きっと自分が知る今のくるみでは見られないものだ。それに少しの悔しさと、でもこの時代の自分やくるみが教えてくれた可能性を感じ、気を引き締め直す。
それを示すように山本はニッと口角を上げた。

「でも全然迷惑じゃないし、なんならちょっとラッキーって感じだからもっと我儘言ってくれていいと思うぜ!」

その山本の言葉を聞いたくるみは嬉しそうに笑ってそっか!と返した。

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