リボーン複数主 | ナノ


▼ 標的119

くるみと別れ、ビアンキが取りに来ようと思っていた物を探しについて行けば、それはこの時代の獄寺が残した物だったらしい。大きめのリュックサックに入った大量の匣。それらは全て大きな髑髏マークが入っており、獄寺の物だと直ぐに分かった。

「それが…」
「ええ。ハヤトが考案したSISTEMA C.A.Iよ。」

ここに来る前、それこそミルフィオーレのボンゴレ本部襲撃が起こる前、獄寺と偶々任務地が近く偶然会った時に得意気に話していたのを思い出す。あの時はまだ完成しておらず、予定まで大分先と言っていたが、それでもツナの、10代目のお役に立てる…!と喜んでいた。
とは言っても、由良は獄寺の話をほとんど聞き流していたので仕組みに関しては熱弁された気がするが覚えていない。興味のある素振りを見せつつ話を聞き流すスキルは前世から培われていたこともあり、獄寺に度々目をつけられ何かと話を聞いていたのが仇となったのだが、今更嘆いたところでどうしようもない。

「由良、先に嵐(ストーム)ルームに向かってくれる?私はハヤトと話してくるわ。」
「分かりました。頃合いを見て合流しても大丈夫ですか?」
「ええ。それからこれも持って行って。説明をする時にこれは要らないから。」
「はい。」

ビアンキの意図している事が分かり、リュックサックを受け取った由良は一つ頷いてビアンキと別れた。そのまま向かった先の嵐(ストーム)ルームで正常に作動するかどうか確認をしていく。
由良は獄寺とビアンキの関係について、詳細は一切聞いていない。獄寺からも、ビアンキからも、勿論原作を知っているから詳細を知っているなまえとくるみからも。ただしそれも、先程の2人の様子を思い出すとなんとなく察する事は出来た。
守護者の中で、微妙な立ち位置にいるのは霧の守護者の代理でもあるクロームだけでなく、クローム以外で骸と唯一接触できる由良も同じだった。その為いくらボスであるツナが良くとも、体面的な問題で由良には監視が必要だった。その矢面に立ったのが獄寺だ。(消去法とも言う)その為他の面々よりも獄寺と話す機会は多かったものの、デリケートな家族の問題について話すことは無かった。

「和解した感じに見えたけど…」

ぽそりと呟いて思い出すのはいつかの合同任務の日。久々に合流した獄寺の雰囲気が今までと違い、柔らかいものになっていることに気づいた。念の為何かあったのか聞いたが、なんでもないと言われてしまったのでそれ以上言及することは無かったのだが、その前にビアンキと任務だと聞いていたのできっと何かあったのだろうとアタリはつけていた。
その日以降、姉は普段どういう考えで行動するのかだの、こういう事があってウザったいだのと今まで頭ごなしに否定していたビアンキの行動に関する愚痴が、同じ姉という立場の由良の意見を聞いた上での弟としての立場で話すようになったのだから。獄寺の成長ぶりに感動した由良は一人震えていたが、獄寺の意見は自身の弟にも当て嵌ることも多く、最近はそういう話も増えていた。

「ま、あの獄寺の相手は同じ時代の私だろうけど。」

今回の由良はビアンキの補佐。2人が和解した後の獄寺をよく知る人間として、また姉として何か言うことも出来るだろうが、それはビアンキが望まない限りしない方がいいだろう。それに今の時代の獄寺と比べ、ここに来ている過去の獄寺は素直に話を聞くタイプでもないのだ。どちらにしろ聞く耳持たないだろう。

「私がここにいる間に解決すればいいけど、無理なら頑張れぇ、過去の私。」

最後にそう残し、由良は確認が終わった嵐(ストーム)ルームを後にした。


未来の自分にエールを送られているとも知らない由良は、荒い息を整え薙刀を支えに険しい坂道を登っていた。一つ動く度に大きくガサリ、と途中のコンビニで購入した物が入った袋が揺れる。

「はあっ…キツッ…」

言ったところで仕方ないが、口をついて出てしまった言葉を聞いたからか余計辛く感じた。思わず馬鹿野郎と心の中で自分に悪態をつく。
くるみのお陰でヒバリとの攻防から離脱できた由良は、ここ最近ヒバリと闘い合う中で、自分の幻覚の使い方を考えていた。リング争奪戦に向けての特訓の時からイメージしやすいからと使っていた氷の幻覚は最近漸く形に出来てきたが、ヒバリ相手でなくとも戦闘で通用しないのは明白だった。トレーニングや特訓などで使う場所が同じでも、実際戦う場所は地形も何も知らない場所なのだから、そこで対応出来なければ意味が無い。
と、そこまで考えたところで漸く目的地に到着する。

「本当に、出来るのかな…」

リング争奪戦の霧戦でクロームを助ける為に現れた骸が言っていた、自分には高度な幻術を使う素質があるという言葉。ヒバリと戦う羽目になった日から、幾度も心が折れそうになった時もその言葉のお陰でなんとか持ち直してきた。しかし今はそれが本当に正しいのか分からなくなってしまった。
あの時、雪戦で死ぬつもりだった由良を引き留めようとしたのは骸も同じだった。なまえの事ばかりで自分のことを考えていなかった由良に、自分は価値があるのだと認めさせる為にあんな言葉を使ったのではないか。どうしてもそんな考えが頭をチラついてしまう。

「クローム。いる?」

マイナスな思考で雁字搦めになってしまった由良がこのままではいけないと考えついたのは、同じく幻術を使い、更にリング争奪戦で相手と互角に渡り合えるほどの実力を発揮したクロームに聞いてみることだった。自分の能力について聞くのはまだ怖いが、せめてもう少し戦いの中でスムーズに幻術を使えるコツのようなものがあれば、それが自分でも出来そうなものならば試してみようというつもりだった。
黒曜センターの中に足を踏み入れ、なるべく大きな声で呼んでみるも、反応はない。時間を確認したが、いつもならいるはずの時間の為、取り込み中だったりするのかもと思い、いつもクロームと犬、千種のいる部屋に向かう。

「クローム、いる?」
「げっ…また来たのかよお前…」
「様子見に来ただけだから。」

開けっ放しというよりも壊れて蝶番から外れているドアを一応ノックしつつ、先程と同じように声をかけて部屋を覗けばいつもの様に(と言っても最初の頃よりかは幾分マイルドになった)城島犬が嫌そうな顔で反応する。それにいつもの様にすぐ帰るというニュアンスで伝えながら室内を見渡すが、クロームの姿は見当たらない。

「クロームは?」
「知らねー!」
「見てない。」
「マジか…」

由良の問いに対する2人の返答にどうしようかと頭を悩ませる。
犬の反応はいつも通りだが、千種は面倒だからという理由でこういう時はしっかりと答えてくれる。初めてクロームが別の部屋にいた時無言で返され、ずっとクロームを捜す為に敷地内をウロウロしていたせいともいうが、以降千種はクロームの所在に関する事だけなら自分が見た時どこに居たかを答えるのだが、見ていないということはまだ帰っていないのだろう。敷地内にいるなら捜せばいると返ってくるはずだから。

「じゃあ明日また来るわ。これいつもの、置いとくから好きに食べて。」
「ガムは!?」
「入ってるけど飲み込まないでよ。」

仕方ない、出直すかと内心嘆息し、持ってきていたコンビニの袋を置いて部屋を後にした。未だに彼らの好物が分からず、コンビニのおにぎりを買って渡すのだが、いつの日かガムが欲しいと言われたのでそれも買うようになったのだ。まさかそのガムを飲み込むとは思わなかったが。
少し思い出して、たぶん私の注意なんて聞いてないのだろうな、と先程の犬の様子も思い出し、乾いた笑いが漏れた。

「明日、頑張ろ。」

空が赤み始める帰り道、大きく伸びをして呟いた。
後日、クロームがこの日未来に飛ばされたことを知るとも思わずに。

prev / next

[ back to top ]



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -