リボーン複数主 | ナノ


▼ 標的10

1ヶ月以上あった夏休みもあっという間に終わり、暦は9月に変わり、新学期に突入した。とは言っても、学校生活には特に変わりはなく、クラスの委員や係が変わったくらいで休み前とそう大差なかった。
そんな中、いつも一緒に帰っている由良が何故か今学期図書委員になってしまい、更に初っ端から当番を引き当ててしまった。先に帰っていてもいいと言う由良に終わる時間を聞けば、ちょうどくるみがいつも帰る時間と近かったのでくるみとも一緒に帰ろうと先に帰らずに待つことにした。どうせなら図書室で本を読むか勉強するかしようかなと、現在入学してから初めて図書室に向かっている。

「緑たなーびくー」

例に漏れず校歌を歌いながら廊下を歩く。入学して直ぐに校歌は授業で習っていたのだが、夏休みに入る前、遂に1度も自分の最推しに遭遇せず一学期が終わるので誰も聞いてないだろうと鼻歌から小さい声で歌うようになったのだ。歌いながらキョロキョロと教室や中庭の方を見渡し、こんな所があるんだ、と新たな発見をする。
暑いからか片側だけ開かれた窓からは未だ夏だと思わせるようにセミの鳴き声が聞こえ、上に広がる空は澄んだような青色をしていて、所々浮いている雲は真っ白で夏らしさが抜けない。

「ん?」

どこからか、セミではなく他の部活動の練習中の掛け声でもない変な音が聞こえた。アニメやドラマなどでよく聞く人を殴った時のような、そんな音だ。気の所為だろうと思えばそれで良かったのだがここは意外と不良も多い学校で、今自分がいる場所の近くで喧嘩なんてされた日には巻き込まれること不可避なので恐る恐る音の出処を探す。すると、それは窓の外、正確に言えばなまえがいる3階のもっと下、外の中庭で起こっていたようで、倒れている複数名の生徒の前にいるのはこの学校の旧制服である学ランに身を包み腕に風紀の腕章を着けた風紀委員がいた。

「喧嘩じゃないのか…」

ホッと一息ついて視線をそのまま上にやった時、固まった。

「ぁ…」

着ているのは他の生徒と同様の夏服。袖のところには赤い腕章が着けられており、窓枠に寄りかかるようにして立っていた。黒い髪の毛はなまえと同じはずなのに遠くからでもさらさらと滑らかな、それでも形は少し丸めでふわっとしたように見える。吊り上がった切れ長の瞳は下の伸びている生徒に向けられているが、その流し目の威力は凄まじく、遠目からでも射抜かれてしまう。そんな彼こそがなまえの最推しでありずっと会いたいと願っていた人物、並盛をこよなく愛し群れを嫌う風紀委員長、雲雀恭弥である。
どくんどくんと速くなる動悸、体温が足のつま先から頭のてっぺんまで一気に上がる感覚、心臓から発される熱がじわじわと顔に集中し、自然と息が詰まる。自分の身体の異変は分かるのに、脳の機能が停止しているかのように体は指1本動かすことも出来ず、ずっと開いている瞳の潤いを戻すための瞬きもすることが叶わない。
夢にまで見た光景だった。前世で見た時からずっと想像していた。実際にいたらどうなるんだろう、と。紙面や画面の中では佇まいが美しく綺麗で、歩く姿だけでなく首を少し動かすだけでも気品があって、話す表情は酷く妖艶で、そして闘う姿は荒々しくも静かに思えるような流麗さで、その存在自体がまるで1つの芸術のように感じられた。そんな人だった。この並盛という町に生まれてから自分が彼が愛した町に生まれたという事実が嬉しくて、時間軸も全く分からなかったのにもしかしたら会えるかもしれないと期待しつつ13年経ち、漸く姿を見ることが叶った。
遠くからでもその立ち居振る舞いは上品でいて、ただ自分と同じように下の様子を見ているだけなのにその姿だけでも色気があって近くにいたらきっと溶けていただろう。欠伸をしているだけなのにこんなにも胸が締め付けられる様な心地になるのは初めてだ。

「っ…」

ばちり、遠くにいたはずの彼と目が合った瞬間電撃が走ったかのような衝撃がなまえの全身を駆け巡った。意志の強い切れ長のアイスグレーの瞳がなまえを射抜いている。ビクリと肩を跳ねさせ、赤い顔を更に赤く染め上げたなまえは今まで動けなかったのが嘘のようにバッと顔を横に向け、そのまま体ごとくるりと動かし顔を上げることなくスタスタと歩き出した。
恐らく雲雀本人としては見られているから睨んでいるだけなのだが、なまえに恐怖を与えることはなく、目が合ったこと、見られたことだけが頭にあり、恥ずかしいという気持ちでいっぱいだった。まさか気づかれてしまうなんて、と後悔しつつ顔の熱が早く引くよう願いながら頬を挟むように手で押える。

「っ…!?」

ごんっと、漫画ではそんな効果音が付きそうな勢いで額が柱の角にぶつかった。状況が全くわかっておらず、それでも痛いことは痛いのでその場に蹲って今度は患部に手を当てた。触ったところ血は出ていないようなので暫くすれば痛みも引くだろう。

「えっ、みょうじ?」
「あっ…やっほー…」

そんな時、近くでクラスメイトの声がして、見ると休み前まで隣の席だった男の子が驚いた様子でどうした?と問いかけてきた。ちょっとぶつけちゃって、とへらりと笑って返せば気をつけろよな〜と苦笑で返された。彼は用があったらしくすぐにじゃあな!と言って玄関に向かっていった。ばいばいと手を振っていれば、少し傷みが引いてきた。よいしょと立ち上がってもう一度、今度は目だけで校舎の向こう側を見てみると、雲雀は既にこちらに背を向けて室内の方を向いていた。

「見られてない、よね…?」

カッコ悪ー!恥ずかしい…!
心の中で叫び、だいぶ赤みの引いた顔を今度はしっかりと上げて図書室に向かった。

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