リボーン複数主 | ナノ


▼ 標的9

7月。比較的涼しいと言われる朝の時間帯。いつも通りの時間に登校する由良の額には汗が滲み出ており、濡れた前髪が貼り付いていた。彼女の隣ではなまえがこめかみから流れる汗を手の甲で拭っている。

「あっつい…」
「あつ…」

ほとんど同時に口にした言葉は体感温度を更に上げる要因にしかならず、余計暑く感じてしまう。近くの木からはじーわじーわと蝉の音が聞こえ、夏らしいと言えばそうだが、今は煩わしくて仕方がない。
涼しいはずの朝なのに、じりじりと照りつける太陽は存在を主張しすぎて熱を集めやすい頭頂部をこれでもかと言わんばかりに攻撃してくる。たまに吹く風は涼しく心地いいものではなく、太陽の熱気に当てられたせいか生温く、まるでドライヤーの微風を全身に当てているかのような気分になりかなり不快に感じる。
夏休みまであと数日、だがその数日が長く遠く感じる。こうして暑い中登校するのもあと数日、寧ろ今すぐ夏休みになって冷房の効いた部屋に帰りたい気持ちでいっぱいだ。

「あれ?沢田?」
「あ、ホントだ。ってか一緒にいる子鎧みたいなの着てない?見てるだけで暑そう。」

暑さのせいで全く会話もなかったが、ふと由良が遠くにいたツナの存在に気づいた。なまえも同じ方向を見ればなんと傍に熱を集めやすい、そうでなくても素材的に絶対暑そうな戦国武将がよく着ているような鎧を身に纏った女の子がいた。なんか見たことあるなあ、という由良に対し、流れ等をまだ記憶できていたなまえはハルちゃんだ!とすぐに気づいたが、暑さのせいで感動も半減している。恐るべし夏の気温。見ているうちに、何故か女の子が持っていたアイスホッケーのラケットを振り回し始めた。

「え、ちょっと…」
「ヤバいヤバいヤバい止めないと…!」

慌てて避けるツナだが、ダメツナと言われるほど運動神経があまりよろしくないのでいつ当たってもおかしくない状況だ。流石に傍観していられなくなった2人が焦って駆け寄るよりも先に獄寺が反対方向からやって来て何かを投げた。それは彼の武器であるダイナマイトで、2人が何かを確認するより早くドカン!と大きな音を立てて爆発し、女の子はそのまま川に落下した。しかも不運なことに、女の子が身につけている鎧が重すぎるせいか、上手く泳げず溺れてしまった。

「え、えええええ!?」
「た、助けなきゃ…!」
「でもどうやって!?」
「ひとまず急いで向かう!」
「お、オーケー!?」

次から次に処理できない出来事が起こり、2人の脳のキャパシティはとっくに超えていた。それでも何とか女の子を助けなければ、という事だけはハッキリしていたのでひとまず走って近くまで向かうことにした。

「死ぬ気でハルを救う!!」

走り始めた頃、橋の方から大きな声が聞こえちら、と視線を投げればなんとまたしてもパンツ一丁のツナが飛び降り、溺れたハルを救いあげてしまった。そのまま2人が向かおうとしていた川岸に上がったので、とりあえず向かう。というか、たった数百メートルのこの距離でも運動が苦手ななまえは周りを見る余裕が無くなるほど全力疾走しなければ由良に追いつけないのだ。今も既に由良とは距離があるしゼェハァと苦しそうだ。そんな彼女を思うと止まれとは言えない。今彼女はツナの元へ行くので精一杯なのだ。
ひっさびさにあの子の体力のなさを思い知ったわ。
一瞬遠い目になりかけ、近くまで目視できる距離にいるツナたちに声をかける。

「沢田!」
「あ!神崎さん!」
「大丈夫?」
「う、うん。なんとか…」

タオルで全身の水気を取っているツナは朝から疲れた様子で答える。気疲れだろう。巻き込んだ張本人となった女の子は反省しているようで、体育座りをして顔を膝に当てていた。

「プ…」

と思ったら突然吹き出し、先程のツナの真似をしだした。この子反省してないな。注意しようと近づけば、どこからそんなスピードが出せるのか、ツナの方に移動していた。
いや速いな。

「ハルはツナさんに惚れたもようです。」

うっとりとした表情でツナを見つつ、言った言葉にツナは叫び、いつの間にか追いかけっこが始まっていた。その光景を見つつ、きゅ、と拳を握り顔は平静を保てるように口角や目に力を入れて耐える。胸から喉にかけてせり上がってくる何かを抑えつけるように唾を飲み込んだ。

「さっわだ、くっ…!」
「えっ?………ってみょうじさん!?」

と、そこへ既に満身創痍ななまえが息を切らせながらやってきた。もう事態は解決したので落ち着いてから来ればいいものを、身体が限界だからか周りが全く見えておらず、フラフラした状態のまま土手を降りようとしていた。

「だいっ、じょっ……あっ!」
「わー!!」

案の定足がもつれバランスを崩し、そのまま地面に落下しそうになる。

「まったくもう…」

ひとつ呟いて手を伸ばせば、それより先に彼女を受け止めた腕が見えた。
ごつい腕輪やら指輪やらをジャラジャラと着けた日焼けという言葉を知らないような白い腕。見れば、獄寺が落ちそうになっていたなまえの肩を抱いていた。

「あ、あ、りが…ゲホッ…」
「テメェ10代目に当たりそうになったじゃねぇか!気をつけろ!」
「えっ…ゲホッ、ごめ、なさっ…ゲホッゴホッ…」

全力疾走のせいで噎せまくってもはや謝罪どころではない。獄寺から素早くなまえを預かり背中をさする。座り込んだなまえは未だゲホゴホと咳き込んでおり、苦しそうだ。この夏休み、強制的に体力作りをさせようか。頭の中でなまえの為の夏休みのスケジュールが組み立てられていく。
あまりにも酷いのでツナが心配そうにやってくるし、その後を追いかけていた女の子も不思議そうにやってきた。獄寺はツナが来たことでご無事ですか!?と叫ぶ。

「さわだく、だい、じょ、ぶっ…」
「え!?う、うん、大丈夫だったよ。」

寧ろ君の方が大丈夫かと言わんばかりの顔をしつつ、近くに来たツナに気づいたなまえの問いかけに答えた。
その後漸くなまえも落ち着いてハルや獄寺と自己紹介し合うのだが、すぐに遅刻しそうな時間だと気づきまた咳き込むまで全力疾走することとなった。

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