リボーン複数主 | ナノ


▼ 標的115

嗅ぎ慣れた草木の匂いで目が覚める。開けた目に入ってきたのは高く澄んだ青い空と、風に乗って流れていく白い雲。長く伸びたそれは何という名前だっただろうか、果たして名前があっただろうか、心が落ち着いてきたからか、そんなことを考える。

「由良。」
「骸…」

一向に起き上がらない由良の顔に影がかかり、それからすぐに骸の顔が上下逆さまに映る。こちらを覗き込むようにかがんでいるようで、昔よりも長くなった髪が重力によって由良の頬にかかる。
ぼんやりと骸の顔を見つめていれば、どこか安堵したような顔で小さく息を吐いた。そしてするりと右の頬に手が添えられる。素肌ではなく、あまり馴染みのない皮の手袋の感触に思わず目を細める。

「目が覚めていたなら起きてください。心臓が止まるかと思いました。」
「そんなひ弱な体じゃないでしょアンタ。久々の自然を体で感じてただけ。」
「そうですか…」

納得したのかしていないのか、答えた骸にこんな所にいていいのと聞けば、目を丸くしてぱちくりと瞬きをして返される。こうして偶に垣間見える骸の素の表情は可愛らしいと感じ、自然と心が凪いでいく。骸は数舜遅れて気づいたようで、由良の頬から手を放し、バツが悪そうな顔をして視線をそらした。その動きに合わせてようやく起き上がり、向かい合う。

「で、いいの?こんな所にいて。」
「ご心配なく、抜かりはありませんよ。それより、僕のことよりも、貴女は自分のことを気にした方がいい。」
「私?」

突然自分に矛先が向いたことで驚いた由良は素っ頓狂な声を上げる。対し骸は至極真剣な表情で頷いた。

「ここ数日、体を酷使しすぎたんじゃないですか。」
「………………。」

骸の指摘に思い当たる節があるからか、黙り込んでしまう。ツナの訃報を聞き、そこから日本のアジトに行くまで、敵の目を欺くために由良は一睡もせずに神経を張り詰めながら終始幻術を使い、共に行動していたビアンキ、フゥ太を守っていた。しかしそれは漸く回復した体に相当な負担となっており、由良自身それに気づいていた。くるみと再会する前、ヒバリと話していた時も、幻覚を使いすぎて脳がうまく働かず、だから言葉が出てこなかったのも一つの理由だった。
しかし今は休んでいる暇はない。骸がここにいるということは、クロームの居場所を教えてくれる筈だからだ。そう期待を込めてみたが、帰ってきたのは真剣な、そしてこちらを心配しているような目。思わず息を呑んで、口をつぐんだ。

「クロームのことは、貴女の体調がよくなってから、また頼むことにします。いずれにせよ、貴女の力が不安定な状態で敵が蔓延る場所に行かせれば返って敵に餌をやるようなものだ。」
「………はぁ…」

骸の言っていることが正しいだけに何も言い返せない自分が憎らしくなる。反論を全てのみこみ、代わりに溜め息を一つ吐くだけに留めた由良は渋々頷いた。それを認めた骸はふてくされたように視線をそらした由良に小さく笑って、そろそろ行きますと声をかける。骸の言葉にパッと顔を上げた由良の顔に、こみ上げてくるものを押し留めた骸はそのまままた会いましょうと早口に言って、消えていった。
残された由良は暫し骸がいた空間を見つめていたが、そっと目を伏せた。そうしている間に自身の意識も浮上する。

「あ!由良姉、やっと起きた…!」
「フゥ太くん…」

目を開け、すぐに入ってきたのはこちらを覗き込むひどく安堵した様子のフゥ太の顔、そして同じような顔で少し離れたところでビアンキが立っていた。どうしたのかと聞けば、何と自分は5日間も眠っていたという。驚きとそして自分がしっかりしなければいけなかったのに逆に足手まといになってしまった申し訳なさを感じ、2人に頭を下げれば慌てて否定の言葉がかかる。

「むしろ僕らの方が謝るべきだよ。いくらツナ兄のことがあったとはいえ、由良姉がこんなになるまで気づけなかったんだから。」
「そうよ。私たちが安全にここまで来れたのは由良のおかげなのよ。謝る必要はないわ。」
「2人とも…ありがとう。」

フゥ太とビアンキの心からの言葉に由良も少し安心したように顔を緩ませていると、プシューと音を立てて誰かが入ってきた。

「お、ようやく目が覚めたのか、由良。」
「リボーンくん。」
「リボーン!!」

見れば少し前に見たのとは違い、以前までよく見ていた黒のスーツ、黒のボルサリーノを被ったリボーンがいた。由良と同時、もしくは由良よりも早く反応を見せたビアンキがすぐさま駆け寄り、抱き上げてベッド脇に戻ってくる。

「ごめんね、まさか5日も寝ちゃうなんて思わなかった…」
「気にすんな。獄寺と山本もまだ動けねーし、くるみも寝たままだしな。」
「!そ、っか…」

慰めるためか、リボーンの言葉に反応した由良は複雑な心地でぎこちなく答えた。獄寺は分からないが山本は外傷が酷かったのでそうだろうとは思っていたが、くるみが寝たままというのが引っ掛かった。恐らく自分と似たような状態だろうが、心配になる。
そんな由良の胸中を知ってか知らずか、リボーンがここに訪れた目的を話す。というのも、以前話せなかった自身を含めたツナ達に今何が起こっているのかを説明するために来たらしい。確かに本人達から聞いていなかったと思った由良は起き上がり、特に異論もなくリボーンからの説明を静かに聞いていく。
2日間にわたる短くもとてつもなく濃い出来事を経験し、過去に戻るためこの時代の戦い方をまたさらに短い期間で習得しなければならない。そのためにもツナ達過去から来たメンバーの体が回復したらすぐに修業を開始するらしい。

「由良にもツナ達の修業を手伝ってもらうつもりだ。」
「勿論、出来る範囲でやれるだけのことはやるよ。私だって、白蘭を倒したい。」

それはなまえの仇討ちか、ツナの復讐か、本人にも分からないことだが、その意志が強い瞳だけは嘘偽りなかった。それを見たリボーンはふっと笑ってじゃあ今は寝とけと残すとビアンキ、フゥ太を連れて部屋を出た。残された由良は言われた通りベッドに横になり、目を閉じた。

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