リボーン複数主 | ナノ


▼ 標的114

なまえが未来に飛ばされて数日、確証が持てず、しかし恐らくそうだろうと半信半疑でそれでも何かあったらとくるみと共になまえを捜しつつ、死ぬ気の炎を使用した特訓、更には自身の幻術、身体能力の向上に努めていた由良は現在、空が高く、絶好の行楽日和とでも言えるような快晴の秋空の下、並盛中学校の屋上で息を切らし額から流れる汗を手の甲で拭っていた。肩で息をするほど激しく動いていたせいか、疲れはあちこちに表れていた。汗が止まらない体、筋肉がうまく機能しないのか半開きになった口から漏れ出る浅い呼吸、そして先ほどから思うように自身の獲物である薙刀をうまく握れない震えた手。しかしそれでも由良は負けを認めず、前を睨み付ける。
視線の先にいるのは自身よりも対等に相手と渡り合えるだろうくるみと、そんな彼女に手心も何も加えず全力で自身の獲物であるトンファーを振るうヒバリ。そんなヒバリが息を必死に整えながら攻防を見ていた由良に視線をやり、くるみの腹に蹴りを入れた瞬間目の前に飛んでくる。

「っ…!」
「由良ちゃんっ!」

キィンッと高い音が鳴り、ヒバリが振りかぶったトンファーを刃の部分で弾くが、一撃が重く体勢が崩れる。咄嗟にくるみが叫ぶように呼ぶが、構っている暇も余裕もないのでそのままなんとか薙刀を払うように動かし、ヒバリからの追撃を防ぐ。
以前より強くなったと言えど、リング戦で同じように鍛え、強くなったヒバリの相手はやはり厳しいものがあったが、先ほどの由良のように息を整えたくるみが2人の間に入り、手にしていた拳銃でヒバリのトンファーを弾き、先ほどの仕返しとばかりにヒバリの腹を思い切り蹴った。しかしそれは直撃には至らず、浅く入ったもののヒバリは避ける為か後ろに飛んだことでヒバリと2人の間に距離が開く。

「由良ちゃん大丈夫っ?」
「平気っ…!」

その隙にくるみが目線だけ後方にやって由良に声をかけ、答えた由良は膝をついた状態から立ち上がり、手の甲で拭った汗を払う。くるみは激しく動いただけではない、冷や汗に似た汗を流し、顔を強張らせてヒバリを見据える。ヒバリはたとえ自身より弱くとも、2人同時に相手をしていたとは思えないほど無傷で息も切れていない様子でくるみと由良を鋭い眼光で睨む。いつもなら戦えることに歓喜を覚えるはずなのに、怒気しか感じられないヒバリにくるみも由良も困惑するが、これが初めてでもないのでどう切り抜けようか思案する。
そもそも、ヒバリがこうして不機嫌になった状態で無差別とも言える殴り込みに来たのはつい数日前、ちょうどなまえが行方不明になった翌日からだった。
未来編が始まってから続けていた昼休みで集まるというのも朝の時点でなまえがいない為すでに意味を成していなかったが、慣れなのか屋上で昼食を済ませ暗い雰囲気の2人のもとに突如としてヒバリが訪れ、理由も何もなくいきなり殴りかかってきたのだ。携帯が可能な拳銃を持つくるみと比べ、薙刀を教室に置いていた由良は何度か避けたものの、成す術なくヒバリの攻撃をもろに受けてしまい、気絶してしまった。ヒバリは翌日も翌々日も不機嫌なのは変わらず、由良とくるみの昼食の時間に乱入してはそのまま殴り合いに発展し、仕方がないので2人も応戦していた。お陰様でというべきか、今日までで少しだが太刀打ちできるようになってきた。何とも皮肉なことである。
何故ヒバリがここまで苛立っているのか、今まで言葉にしてこなかったが、2人ともなんとなく気づいていた。その考えが正しいとでもいうように、今まで黙っていたヒバリが初めてねぇ、と口を開いた。

「みょうじなまえはどこにいるの。」

やっぱり…。
ヒバリの疑問符がついていないが、気にしているだろう疑問の言葉に内心溜め息をついたのは果たしてどちらだろうか。若干呆れた目でヒバリを見た由良は、しかしすぐに警戒し、ヒバリの動きを注視しながら知らないと答える。隣にいるくるみも同じように頷けば途端増す殺気。ビリビリと刺すような空気に気圧されながらもぐっと薙刀を握る手に力を込める。くるみも同様に拳銃を構え直してヒバリを見据えたと同時にヒバリが体勢を低くして突っ込んでくる。
すかさず反応したのは前に出たくるみで、振り上げられたトンファーにぶつけるように拳銃を振り下ろす。由良は2人が衝突する前に右に駆け、2人から少し距離を取った。
そして再び殴り合いを始めた2人から視線を外さないよう気をつけつつ、必死に頭の中で自身が望む世界を詳細まで創り上げる。そのまま今度は頭の中のものが現実に流れ出すようなイメージで、今自分が見ている景色とその中に自分が創り上げた世界を重ねていく。
カメラのピントを合わせるようにカチリと嵌った瞬間、自身が吐き出した息が白く冷たい物へと変わり、少し離れたところで戦っていた2人の足元も凍り付いているのが見えた。

「!」
「やった…!由良ちゃん!」

驚き目を見張るヒバリに対し、嬉しそうに声を上げたくるみは動きを止めたヒバリを見逃さず、ヒバリの顎目掛けて蹴り上げる。しかし流石と言うべきか、ヒバリは素早く反応し、直撃を避け後ろに飛んでくるみから由良へと照準を変えるかのように睨み付けた。
由良はうまくいった安堵と今までの疲労、そして広範囲に現実と相違ない幻術を生み出したことによる頭痛から重く息をついたが、幻覚が壊れないよう気を保ちつつヒバリを睨み返した。

「前までの私と同じだと思ったら大間違いだから…!」
「へぇ…」

これまでムッとした表情をしていたヒバリが初めて由良に対して獲物を狩るような目で口角を上げた。それにゾッと背筋が凍る感覚がした由良はしかし更にヒバリの動きを止めるように幻術を繰り出そうと目を逸らさず、むしろより注視するように集中する。今度はヒバリの足自体が凍り付く様をより鮮明に頭の中でイメージする。勿論ヒバリが黙って突っ立っているはずもなく、自身の脅威になりえると判断したのか今度は由良に向かって突っ込んでくる。間一髪で由良は薙刀の柄でヒバリから繰り出されるトンファーを弾き、その勢いのまま後ろに飛んで避け、同時に先ほどと同じように現実と頭の中のイメージが重なるように考える。

「!」
「よっし…!」
「やった!」

すぐさまヒバリの足は床から爪先へパキパキと凍っていき、遂には膝ほどまで凍り付いて床と一体化した。
拘束され、驚いた様子のヒバリに思わず体の不調も忘れて小さくガッツポーズをして喜ぶ由良に同じように喜んで声を上げたくるみが駆け寄ってくる。まだ未熟ではあるものの、炎の特訓と同時に進めていた戦闘時に幻覚と組み合わせて戦うというこれまでの課題を漸く達成できる第一歩を踏み出せたのである。

「ふぅん…」
「なっ…!」
「嘘…!?」

しかし、現実とはそううまくいかないものである。
一言零したヒバリは驚く由良、くるみを他所にトンファーの先の部分から伸ばした鎖を遠心力で回し、自身の足を拘束するために凍らせている氷を砕いていく。
何という男だ。絶句した2人だが、しかし2人が驚いたのはそのことだけではない。いや、寧ろこちらの方が本命だった
ヒバリはその鎖の氷を砕く部分に紫の炎を纏わせていた。間違いでなければそれはヒバリが持つ属性、雲の死ぬ気の炎と同じものである。よく見れば、ヒバリの右手、中指に嵌められているボンゴレリングから凄まじい勢いで雲の炎が溢れている。

「覚悟はいいかい。」

驚き、呆気に取られている2人の前に拘束が解かれ自由になったヒバリがトンファーを構え直す。
対する2人はヤバい!と身の危険を感じ、しかし逃げる術もないため泣く泣く己の武器を構える。

「っ…」

ヒバリが難なく氷を砕いたからか、それともこれまでの戦いからか、体の倦怠感がひどくなった由良は小さく息を吐き、震える手に必死に力を込めて薙刀を握る。氷の世界は未だ残っており、先ほど自分が吐いた息も白かったので、まだ解けることはないだろうが、案の定体が追い付いていない為気を抜けば倒れそうになるのをぐっと堪える。
由良の状態を隣で見ていたくるみは顔を強張らせながらこの状況を打破する方法を考える。ここ数日、ヒバリが戦いを切り上げるのはまちまちで、自身が飽きた時や校内、町内で何か起きたと風紀副委員長の草壁が報告しに来た時もあれば、由良がやられ、そんな彼女を抱えて逃げ切った時、そして2人ともヒバリにやられた時と非常にばらばらだった。しかし今の由良の様子を見るに、どちらもやられるのは得策ではない。となれば可能性は今までのものよりも大分低いが、ヒバリに勝つかどうにかして2人とも逃げ切るしか方法がない。
そこまで考えたくるみはヒバリを警戒しつつ、自身の指に嵌めているボンゴレリングを見る。今までの戦いでなにも反応を示さなかったそれは、恐らくくるみの覚悟が足りていないから。しかし今、ヒバリが無意識であっても炎を使っているとなれば、此方も炎を使わなければならないだろう。それでも自分のリングは相手の持つリングと比べて半分の為太刀打ちできるかは分からないが、やらないよりマシだろう。

「くるみ。」
「!由良ちゃん…」

同じことを考えたのか、由良に名前を呼ばれ、一瞬目を合わせ頷き合う。そして同じタイミングでヒバリに向かって突っ込んでいく。ヒバリは不敵に笑んで鎖をしまい、雲の炎を纏わせたトンファーを振り下ろすために体をひねる。
そのトンファーを防ぐためか、それともヒバリに一撃を食らわせる為か、真意は分からないが、それでも由良は薙刀を、くるみは拳銃を構え、その瞬間酷く体が軽くなったように感じながら自身に向かってくるトンファーにそれぞれの武器で応じた。その武器にはヒバリのトンファーと同じように、ヒバリとは色の違う炎が2人の覚悟を示すように揺らめいていた。

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