リボーン複数主 | ナノ


▼ 標的113

由良とくるみが無事再会した数時間前、夢現の中でヒバリを見送ったなまえは漸く目が覚めた。
新しい畳の匂いを感じて違和感を覚え起き上がったなまえの目には、一人部屋にしては酷く広い和室の真ん中に敷かれた布団で寝ていたようだった。

「……………!?」

まるで時代劇の偉い武家や武将の一室のような広さ、調度品の数々に言葉なく驚き、目を丸くしながら辺りを見回す。
あ、明らかに自分の部屋じゃない…!
一体どういうことかと驚いて目が一気に覚めたなまえは必死に考える。そして昨日何があったのか、何故こうなったのかを次第に思い出していく。
昨日は確か、恐らく10年バズーカに撃たれて、飛ばされたのがよく分からない瓦礫の上で、襲われそうになって、とそこまで思い出したところでパッと助けに来てくれた10年後のヒバリの姿が浮かんでくる。同時に赤くなる頬と緩く上がっていく口角を両手でパァンッと抑える。
何変なこと考えてるんだ私は!見れただけじゃなくて話せてラッキーなんて考えは今すぐ消えろ!
そのまま首を横に振って邪な考えを飛ばす。

「何してるの。」
「っ!ヒバリさっ…!?」

そうしていれば背後から声をかけられ、肩を跳ねさせた。驚いていつものように苗字で呼んでしまったが、それを訂正しようとヒバリが目を鋭くする。しかしなまえはそれに気づいておらず、彼女の視線はヒバリの左腕に向いている。気づいたヒバリが同じように視線を落とせば、先程ヒバリが並盛神社でγと闘った時に仕方なしに負傷した腕をほったらかしにしていたからか、血が流れ、手から指を伝って畳にぽたぽたと落ちていた。

「ど、どうしたんですかその怪我っ…!?」

顔を真っ青にしたなまえは布団を乱雑にまくり、寝間着として着ていた浴衣が乱れるのも気にせずヒバリの元に駆けていく。走る度に肌蹴た隙間から素足が覗き見え、襟元は下着の肩紐もチラチラと見える。なんともある意味目に毒な様相だ。
近くに来たなまえはヒバリの内心など知らずに未だ青い顔のまま、ヒバリの怪我に触れていいものかどうか迷い手を空中で止め、手当て、手当しないと!と繰り返していた。
その様子にはあ、と溜め息を吐けばビクリと震える肩。そして恐る恐る見上げた顔はしまったとでも言いたげなもので、心の中でくつりと笑ったヒバリはしかし表に出すことはせずあくまでも呆れていると見えるよう振舞った。

「手当なら僕がするから君は終わるまでその乱れた服装を何とかしなよ。」
「えっ………あっ…!」

ヒバリの指摘に漸く気づいたのか、顔を赤くして浴衣の合わせ目を直すように腕を組んで胸元を隠すなまえ。それに微笑ましく感じたヒバリはしかしまだ硬い声でそれと、と続けた。

「呼び方、戻ってるよ。」
「呼び方…?」
「名前で呼べって、昨日言ったでしょ。」
「あ………」

不機嫌さを隠しもせず言えば、どうやら忘れていたらしい。今思い出したとでも言うような顔をして、謝られた。しかしヒバリは謝罪ではなく名前で呼んでほしいので黙ったままだ。それに気づけばいいのだが、なまえはオロオロとするだけで気づいた様子はない。分かっていたが、やはり苛立つ。
昔の、というよりもヒバリへの恋心、そしてヒバリと想いが同じだと気づく前のなまえはヒバリが望むことに自分が関わっていると露程も思っていなかった。確かになまえが知る画面越し、紙越しのヒバリはそうだろうが、なまえと関わり、これまで傍にいたヒバリはそうではない。少なくとも彼の心は本人にとって不本意であっても多少なまえの言動に左右されるし、この時代のなまえは知らぬフリが出来ないほどそれを自覚していた。だからこうすればヒバリが望む自分の行動ができるし、恥ずかしいからという理由で出来ない場合でも伝えることが出来た。
しかし目の前にいるなまえはそうではない。彼女は自分をまだ憧れ、彼女の言葉を借りるならば最推しというよく分からない崇拝する存在として見ており、自分とは距離のある存在と思っている。だからこそ、自分がどう行動すべきか分からないし、謝るしか出来ないのだ。
このまま黙っていても平行線を辿るだけだと思ったヒバリは静かに彼女の名前を呼ぶ。ビクビクした様子で見上げたなまえはまるで肉食獣の前に差し出された小動物のように見えるが、彼女がそう易々と食われることを良しとしないことを己はよく知っている。

「謝罪はいいから、名前で呼んで。」
「えっ…と…き、恭弥、さん…?」
「うん。」
「っ…」

ヒバリの表情を見たなまえは、ボッと顔を赤く染め上げ、すぐに俯いた。本人は隠しているつもりだろうが、俯いても隠しきれない耳や、胸元を隠すための手まで赤くなり、手は震えているのでなまえの動揺は全く隠せていなかった。しかしなまえはそれ所ではなく、ヒバリの今まで見たことの無いひどく穏やかな、それでいてまるで何か大切なものを見ているかのような柔らかな瞳を細めて微笑んだ表情が頭から離れない。そしてヒバリの顔を見ることも出来ない。
震える手に自分の心臓がバクバクと凄い音を立てて主張しているのが伝わってくる。手に力が入りすぎているのか、喉も胸も圧迫されて、息がしづらい。

「手当てのついでに僕も着替えてくるから、なまえも着替えておいて。」
「っ…は、はいっ…」
「着替えたら朝食にしよう。哲が用意しているはずだから。」
「わ、分かり、ましたっ…」

終始俯いたまま、なまえはヒバリが部屋から出ていき、襖が閉まる音を聞いて漸く動くことが出来た。といっても、全身の力が抜けたようにその場に座り込んだだけだったが。
なまえはそのまま、直せと言われた浴衣を直さず、未だバクバクとうるさく脈打つ胸元に手をやる。顔の赤みも引いておらず、今までと同じようで、でもどこか違う自分の体に戸惑っていた。

「何、これ…」

意味分かんない。
ポツリと小さく呟いたなまえは、暫くそうしてからのそのそと立ち上がり、布団をたたんで、教えてもらった箪笥から自身の服を取りだした。
寝間着が浴衣だったのでもしかしたら着物かもしれないと不安になったが、入っていたのは自身が好む系統の洋服で安堵した。着ようとした際入らなかったらどうしようと危惧したが、寧ろピッタリという程収まりが良く、自分の成長していなさに悲しくなった。

「お、お待たせしました…」
「座って。」
「あ、はぃ…」

促され、なまえが座したのはヒバリの真正面。先程の事もありソワソワと少し落ち着きなく身じろいだなまえだが、ふとヒバリの怪我が気になり、そろりと目を上げる。ヒバリは昨日も見た黒い和服を着ていたが、袖同士を繋げており、怪我のあった腕は隠されていた。しかし畳には血が付いていないことから、きっと適切に処置されたのだろう。なまえはそう判断し、そっと安堵の息を零した。そんな彼女をヒバリが呼ぶ。

「冷める前に食べよう。」
「っ!あ、はい!いただきます!」

じっと見ていたことに気づき、気恥ずかしくなったなまえは慌てて手を合わせ、箸を取る。用意されていた食事を一口食べ、そのあまりの美味しさに一瞬固まり、飲み込んだ。次いで二口、三口と黙々と食べ進める。
そうしているとあっという間に食べ終わり、空になった器を少し寂しい思いで見、すぐにがっつき過ぎてしまったかもとヒバリを盗み見る。ヒバリは既に食べ終わっていたようで、食器は全て下げられ、お茶を啜っていた。なまえは慌ててご馳走様でした!と手を合わせ、食器を片付けようとするが、その前に草壁から自分がやるからと声がかかり、同時にヒバリと同じようにお茶が渡され、受け取ってしまう。

「なまえ。」
「っ…はいっ。」

仕方無しに熱いお茶を冷ましながら飲んでいると、ヒバリから呼ばれ、顔を上げた。ヒバリは湯呑みを置くと1冊のノートをなまえに渡してくる。
なまえもそれに倣って湯呑みを置いて受け取ったノートを見て、驚いたようにこれって、と声を零す。それに対し、ヒバリはうんと一つ頷いた。

「この時代のなまえが書いたものだよ。」

黒のマーカーでハンバーグのレシピと書かれたそれは、開いてみれば確かに自分の字だった。所々自分にしか分からないだろう擬音語(“ちょん“や“ぱぱーっ“等)が書かれてあり、完全に自分の書いたものだと分かる。ここでも成長してないのか自分は、とまたもや悲しくなった。
そんななまえにヒバリは頼みがあると声をかける。自然と背筋を伸ばし、姿勢よく聞く体勢に入る。

「昨日も言った通り、僕は暫くここに居るつもりで、君にもここに居てもらうつもりだ。ただ、きっと君の心情としては、何もせずに居るのは嫌だとか申し訳ないとか考えるだろうし、僕としても、時間があるからと沢田綱吉の所に向かわれるのは計画が狂うから困る。だから、君には未来の君が書いたそれを使って、僕に料理を作ってほしい。」
「…………………えっ?」
「朝は哲が作るから、昼と夜だけで構わないよ。材料は哲に聞けば用意してくれるはずだから、後で聞くといい。」
「えっ…あのっ…えっ!?」

戸惑うなまえを余所に淡々と進めていくヒバリに、ただ言葉にならない声を発するが、ヒバリは止まってくれない。
確かにここに置かせてもらう以上何かしなければとは思っていたし、頃合いを見てツナと接触しようとも思っていたが、計画と言われてしまえば無闇にツナ達に会いに行くことはしないし、頼まれた手前やろうとは思う。思うのだけれども!
あのっ!と漸く少し強めに待ってくれと言外に込めて声をかければ、言葉を止めて何と聞いてくるヒバリ。その際再びあの柔らかななんとも言えない眼差しで見られ、咄嗟に俯いた。

「あ、の、えっと…料理、はその…あんまり、してなくて…お口に合うか、分から、ないんですけど…」
「その心配は必要ないよ。暮らし始めの時から君の料理が不味いと思ったことは1度もないから。」
「あっ…そ、うですか…」

素直に喜びそうになって必死に抑えた。しかし気持ちで抑えても体は正直で口角がゆるゆると上がっていくのが分かり、今下を向いていて良かったと心底思ったなまえはそのまま頑張ります…!と答えたのだった。

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