リボーン複数主 | ナノ


▼ 標的111

由良は急いで向かった先の医務室のドアを勢いよく開け叫んだ。

「くるみ!」
「!神崎、か…?」
「!山本…?」

しかしそこにいたのはくるみではなく、γとの交戦で負傷し先程意識を取り戻した山本だった。既にアジトに到着していたはずのこの時代の山本ではなく、幼さの見える過去の姿に一瞬驚いた由良だが、この場にくるみが見当たらないと分かると焦り、部屋を出ようとした。それを山本が呼び止め、聞こえた由良は振り返るとギョッとした。

「くるみに、何かあったのか…!?」
「!ちょっ…無理しないでよ…!」

酷い怪我のはずなのに、なんとか起き上がろうとしている山本に駆け寄り止める。しかし山本は自身よりもくるみのことを気にかけ、何があったんだと問い詰める。

「詳しい事は分かんないけど、さっきヒバリに会った時にくるみが医務室にいるって聞いて…」

まさか山本もいると思わなかったけど。
言った由良は怪我人とは思えない程強い力で抵抗する山本を無理やり寝かせ、尚も起き上がろうとする山本を手で制する。

「くるみは無事なのか?」
「見てないからなんとも。今行こうと思ってるけど…」
「俺も行く…!」
「そんな体で何言ってんの。無理しないでよ。」

取り乱している人間が傍にいると冷静になれるというのは本当なんだな。なんて場違いなことを考えた由良はなんとか動こうとする山本を止め、自分が様子を見てくるからと言い聞かせる。しかし山本は聞く耳持たないと言った様子ででも、と声を上げる。その往生際の悪さにイラついた由良はいいから!と語気を荒げた。

「アンタは寝てなさい。第一、今の状態で様子見に行ったりなんかしたら、余計心配させるでしょーが。」
「あ……」

由良の言葉に漸く理解し、悪いと呟いて落ち着いた山本は体の力を抜き、ベッドに倒れ込むようにして戻った。その様子に由良も山本の体を押さえていた力を抜き、息を吐いた。
くるみが死ぬ気の炎を使うとくるみ自身の体に影響が出ると判明した頃の山本とそっくりだ。本人だからそれは当たり前だろうけど。あの時の山本の反応を思い出し少し遠い目になりかけたとろこで山本の視線を感じ、我に返る。

「くるみの様子見たらちゃんと伝えるから、ちょっと待ってて。」
「ああ、分かった。」

頷いた山本を確認し、由良は医務室を出て別部屋に向かった。


ふ、と意識が浮上し目が覚めた。
開けた視界に入ったのは柔らかい照明の光と、薄いミントグリーンのタイル調の天井。
ここ、どこだろう。私は、どうしたんだっけ。疑問を口に出そうとしたところで横から名前を呼ばれ、視線を向け目を見開いた。

「由良ちゃん…」
「…………久しぶり…」

くるみのまだ現状を理解していない様子に由良は言おうとしていた言葉をのみ込んで、ぎこちなく笑った。由良と同じように久しぶりと返したくるみは次第に頭が覚醒していくと共に、段々今の状況が理解出来てくる。
たしか、獄寺のいた医務室から山本がいる医務室に向かっていたところで眩暈がして、きっとそこで意識を失ったのだろう。自分でここに来た記憶がない。
そこまで理解したところでハッとし、飛び起きる。

「ちょっ…くるみ…!?」
「私、武くんの所に戻らなきゃ…!ぅ…」

慌てて体を支えようとする由良の手が触れる前にぐらりと視界が回り、咄嗟に手をついた。それでもまだ視界はぐらぐらと揺れていて、頭も何かに振り回されているように感じる。すかさず由良が無理するなと言葉をかけて、ゆっくりベッドに戻される。それでも尚起きようと動くくるみを手で押えつつ、由良はデジャブを感じていた。

「ホント、アンタら夫婦は似た者同士なんだから…さっき山本も同じように無理して動こうとしてたし…」
「!由良ちゃん、武くんに会ったの?」

山本の名前を出せば、途端にピタリと止まるくるみに呆れにも似た苦笑いを浮かべながらうんと頷いた。

「くるみが医務室にいるって聞いて、アタリつけて行ったら山本がいて、くるみの事言ったら自分も行くとか言い出したから焦ったよ…」
「そ、うだったんだ…」

苦笑しながら話す由良の説明を受けて、じわりと胸の内に温かいものが広がる。
今の山本は動くのもやっとな状態で、絶対安静が必要な具合なのに自分の為に動こうとしてくれた事への隠し切れない嬉しさと、そうさせてしまった申し訳なさ、自分への不甲斐なさを感じ、複雑な気持ちになる。

「あの、武くんは…」
「さっき寝てもらった。私がここに来た時、まだくるみ寝てたから、それ伝えてひとまず寝ろって言っておいた。」

またあとで様子見に行くついでに起きてたら意識戻ったって伝えとく。
そう言った由良にありがとうと返し、そういえばと思い返し、由良に声をかける。

「あの、私まだ結婚してないから、夫婦っていうのはちょっと…」

違うかなって…
恥ずかしそうに話すくるみの言葉に目をぱちくりと瞬かせた由良はしばし呆気に取られた後、ああ、と声を零した。

「そういえば、まだ籍入れてなかったんだっけ?あれだけ一緒にいるから、もう入籍したもんだと思ってた。」

心の底から思っているような口振りの由良に困ったように笑って返すくるみはそのまま頷いた。

「全部終わってからやりたいなって思って、待ってもらってたんだ。大丈夫だと思ってたから…」
「………………。」

言葉を濁しつつも、くるみが言わんとしていることが理解出来た由良は押し黙る。
くるみとなまえはほぼ同時期に相手と付き合い出した。(なまえに関しては入籍が先だったが)それから数年して、本格的にツナがボンゴレを継ぐからと守護者に選ばれた由良達も心構えであったり、引き継ぎをしたりと忙しない日々を送っていた。その中で、自由なヒバリや骸の他にも、まともに引き継ぐものがなく自由に動けるのが雪の守護者となった由良とくるみだった為、それならばとくるみは山本と行動を共にすることが多かった。当然2人の仲は知れ渡っていたのでそろそろ結婚か、と思われていたがくるみが先延ばしにしていた。
その理由を、由良となまえは知っていた。
それは、原作の未来編が終わるまで、山本の重荷になりたくないからというものだった。原作を知っているとはいえ、3人のうち誰もこの先どうなるか分からない。もし誰か死ぬ事があって、それがもしくるみだった場合、自惚れでもなんでもなく、山本が最も愛し、気にかけるくるみに何かあれば、山本はどんな行動を取るのか分からない。それこそ、原作と全く違う行動をするかもしれない。もしそれで、この世界が滅んでしまえば元も子もなくなる。流石に飛躍しすぎとは思うが、そうならない保証がない。
現時点で山本とくるみの関係は恋人に留まり、任務の関係で同棲も出来ていないのだ。それが結婚をし、一緒に暮らすことになり、もし最悪な状態で原作を迎えることになれば、未来が変わるだけでなく、その未来も来ないかもしれない。その不安がいつまでもくるみにつきまとい、くるみの思考に蓋をする。その為山本から幾度かプロポーズをされても、直ぐに頷けず、先延ばしにしていたのだ。
理由を知っているなまえと由良、特になまえは既に籍を入れてしまっていることもあり考え過ぎだと伝えはしたが、こと原作の流れに関してはくるみの不安を払拭することは容易ではなかった。さしものなまえもこればかりは対応出来ず、また結局のところ2人の問題でもある為くるみの判断を重んじた。
それは由良も同様で、こうした話題の時は常に難儀だなぁとぼんやり考えていた。

「由良ちゃん…」

いつの間にか思考の海に浸っていた由良は弱々しく己の名前を呼ぶくるみの声に我に返った。見ればくるみは何かを堪えるように顔をぐしゃりと歪めていた。その顔に、何を言おうとしているのか察して口を開くがくるみの方が早かった。

「ごめんね…」
「っ………」
「私なら、助けられたかもしれないのに…!」

詰まらせながら話すくるみは耐えきれないとばかりにポロポロと涙を流し、上手く手が動かせないからか涙はそのままこめかみを伝って枕に流れ落ちる。
くるみは悪くない。
そう言って、くるみの涙を拭ってやりたかったが、視界がぼやけて上手く焦点が定まらない。何故、と思う前に鼻の奥がツンとして、喉に何かせり上がってくるような詰まりを感じ、短く息を吐き出した。途端ポロリと目から何かがこぼれ落ちる。

「由良ちゃ…」
「くるみはっ…悪く、ないよっ…私、だってっ…間に、あわなかった、からっ…」

仕方ないよ。
由良に言おうとしたが、その前に由良が崩れるように座り込み、くるみがいるベッドに顔を押し付ける。その肩は小さく小刻みに震え、途中鼻を啜る音がこもっていながらも聞こえる。
それだけで、くるみはもう自分を抑えることが出来なかった。

「っ…………なまえ、ちゃんっ…」
「なまえっ…」

止めどなく溢れる涙はボロボロと頬を、こめかみを伝ってベッドシーツや枕に吸い込まれる。子供のように泣きじゃくるのではなく、ただ2人とも流れ落ちる涙を止めることが出来ず、時折しゃくりあげ、嗚咽を漏らしながら暫く泣き続けていた。

「………………。」

2人がいる医務室の扉の向こうには、小さな影が1人今はないボルサリーノの鍔を掴もうとして宙を切った手で拳を作り、強く握りしめていた。

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