リボーン複数主 | ナノ


▼ 標的109

医務室のドアを開けたくるみは、視界に入った光景に一瞬部屋に入るのを躊躇する。それでもベッドに横たわる山本の安否をしっかり確認したいという思いを胸に、一度グッと唇を噛み締めると足を一歩踏み出した。
近づく度、よりはっきりと細かな部分まで見えてくる山本の怪我は想像していたよりも酷く、胸が締め付けられるような苦しさを覚え息を呑んだ。
気を抜けば力が抜けてしまいそうになるのを踏ん張って留め、ベッド脇の丸椅子に腰掛けた。
辛うじて掛けられた布団の胸辺りが小さく上下する姿に意識が無いだけだと頭では理解しているが、納得がいかず、静かに手を口元に、耳を布団がかけられている胸元に当て、呼吸と心音を確認する。

「生きてる…」

それで漸く安心できたくるみは喉元を込み上げてくるものを必死に抑え込み、息を吐き出した。同時にゆっくり顔を上げ、山本に視線をやったところで固まった。

「くるみ…?」
「た、武…くん…」

ちょうど意識を取り戻したようで、山本がぼんやりとした目でくるみを見ていた。くるみは手を膝の上に置いた状態でつい先程の自分の行動を思い出し、肩を縮こまらせて恥ずかしさから赤面する。くるみの赤くなった顔を見た山本は、ここに来る直前まで一緒にいた過去の彼女を思い出し、こういう所は変わらないんだなあとぼんやり思う。
そしてすぐに自分の体中から激痛を感じ、痛みの原因と自分が今寝ているのかを思い出した。今朝、自分は獄寺と共にヒバードの捜索で並盛神社に向かったところ、ミルフィオーレでAランク以上のリングを有し、くるみやラルが注視していた電光のγと接触、交戦しコテンパンにされたのだ。
更に敵が目の前にいたというのに獄寺と口論してしまい、殴ってしまったこともあり、山本にとって非常に苦い思い出となった。悔しさや獄寺への申し訳なさ、自分の不甲斐なさを痛感し、くるみの前ということも忘れて顔を歪める。
それに山本の心情を察してか、くるみが大丈夫か問いかけると漸く気づいたようで、ひとつ頷いた。くるみは山本の返事にホッと息を吐いて、表情を和らげた。くるみのその表情に山本の心も軽くなり、気づけばポロッと言葉が零れていた。

「俺、思ったよりも、いっぱいいっぱいだったみたいだ…」

山本の言葉に息を呑んだくるみは少し視線を彷徨わせ、何かかけられる言葉を探すも見つけられず無言で続きを促した。言葉にせずともくるみの目から心配そうな気配を察した山本は、安心させるように緩く笑んで言葉を続ける。
ヒバード捜索の為、アジトから出た山本と獄寺はいつものように山本がにこやかに話しかけ、獄寺が素っ気なく返しつつ神社に向かっていた。到着してからミルフィオーレの手の者と一戦交えたこともあったが存外すんなりと倒せ、これならなんとかなるのではと話していた時だった。明らかに今までと違う、言うなれば初めてスクアーロにコテンパンにやられた時と同じ雰囲気のγが現れた。最初は獄寺がいつものように1人でやると言って単独の戦闘を任せていたが、余りにも周りを見ようとしない態度にいつもなら流せていた筈なのに頭に血が上ってしまい、敵が目の前にいたというのに説教のようなものをしてしまい、獄寺が最も傷つくだろう右腕の資格がないとまで言ってしまった。その後はなんとか獄寺と共闘出来、γに対抗できていたはずが相手の方が何枚も上手でこうしてやられてしまった。

「獄寺には、悪いこと、言っちまったな…」
「………………。」

力無く笑って言う山本にくるみはなんと言葉をかけようか迷い、少しして、山本の頭にそっと手を置いた。

「くるみ、さん…?」
「くるみでいいよ。…………ねえ、武くん。私が昔、出会ってすぐの頃に言ったこと、覚えてるかな?」
「ああ。」

くるみが言った昔のこととは、きっと自身が自殺未遂をして周りを騒がせ、冗談だったと思われた時に言われた何かあったら話せというものだ。山本にとってその言葉はくるみを気にするきっかけになった言葉であり、だからこそ今も昔も心の拠り所と同じような存在となっていてこの時代の山本も勿論覚えていた。すぐに分かった過去の山本にとっては約1年前と比較的最近のことでもある為か、怪我をしているとは思わせない程強く頷いた。
それにホッとしたくるみは続けながら、山本の頭を撫でるように手をゆっくり動かす。

「この時代の武は言ってないし、そんな暇もなかったから聞けなかったけど、剛さんのこと、絶対堪えてると思ってた。でも、武は今も昔も変わらないから、不安そうにしているツナくんや、難しく考える獄寺くんを安心させる為に笑顔で振舞って、見せなかった。過去から来た武くんも、私はその場に行けなかったから分からないけど、未来の、この時代のことを知った時、皆がいたから、きっと皆を優先させたんだと思う。」
「……………」

図星だ。
山本が自身の父親について聞いた時、室内には京子やハル、ランボ、イーピンといったツナが守ろうとする友人らが不安そうにしていた。更に再会したツナも非常に切羽詰まっていて、自分が落ち込んだりしていれば余計不安にさせてしまうのではと思い、平気なフリをした。昨日特訓を遅くまでして追い込んだのも、ふとした時に父親の事が頭をチラついてしまったからだ。それでも次第に膨れ上がる父親の事や、未来で起こる出来事が蓄積していき、自分でも制御出来ない程追い詰められていたらしい。だから獄寺に言わなくていい事まで言ってしまったのだろう。

「今も…きっと獄寺くんに当たってしまった時よりは落ち着いているだろうし、気持ちも余裕が出ていると思う。たぶん私が言ってぶり返してしまうかもしれない。でも、自分が大丈夫だと、自分を無理に納得させることだけはしないで。武くんは周りの人のことを大切に考えることが出来る素敵な人だけど、それで自分を蔑ろにしていい訳じゃない。寧ろそんな人だからこそ、誰か1人でもいいから、自分の気持ちを整理する為に、無理に押し込めようとしないで話せる人に話してほしい。それは私でもいいし、リボーンくんでもいい。話せそうな人にだけ、話すだけでも、きっとすっきりするだろうから。」
「………………ありがと、な…」

言った山本は泣きそうになるのをグッと堪えるように痛みを無視して腹に力を込め、声を絞り出した。くるみは山本の顔を見ることなく、それでも山本を撫でる手は止めなかった。

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